■日本版敗血症診療ガイドライン2016において,世界で初めてPICS(post-intensive care syndrome)がガイドラインに明記されましたが,私を含むこのPICSの項目を担当したワーキンググループメンバー6名でPICSに対する早期リハビリテーションのシステマティックレビューを行い,publishされたので紹介いたします.ワーキンググループメンバー以外では,本ガイドライン委員長である西田修先生,メタ解析経験のある山川一馬先生にご協力いただいております.PICSについてよく講演してきたこともあってか私が筆頭執筆者に指名されてはいますが,システマティックレビューにおける膨大な作業量をみんなで分担しつつ執筆しております.
■今回のシステマティックレビューは,PRISMAプロトコルを遵守し,PROSPERO登録とプロトコル論文投稿した上でGRADEシステムを用いて行っております.5000以上の論文から20報以下にまで絞りこみましたが,その後の組み入れ基準をめぐり,メンバー内でもいろいろ議論があり,査読に際してもこの研究をなぜいれないのか?この研究はなぜ入っているのか?などのコメントをいただいており,最終的に6報に確定するまで紆余曲折がありました.また,ICU早期リハのメタ解析論文はこれまでも複数publishされておりますが,どの論文も待機手術患者のRCTが多く含まれており,急性期疾患によるICU患者での評価においてはそれらの患者集団を含めることは妥当でないとして,我々はそれらを極力除外した論文抽出を行っております.これらの統合解析結果として,ICU-AW発生率や筋力を示すMRCスコアといった短期指標での改善は認めたものの,認知機能障害,精神障害,長期の健康関連QOLの改善はみられませんでした.もっとも,見て分かる通り小規模の研究が多く,各アウトカムごとの研究数も少ないため,多施設大規模RCTの蓄積が望まれることは言うまでもありません.
■今回,5000もの論文を仕分けましたが,日本からの論文はほぼゼロに近いです.今回診療報酬改定により早期離床が加算として認められました.これを機に本邦での早期リハ研究が進むことを期待します(私の施設でもようやく早期リハチームが立ち上がりましたので評価はこれからです).
重症疾患患者におけるpostintneive care syndrome予防のための早期リハビリテーション:システマティックレビューおよびメタ解析
Fuke R, Hifumi T, Kondo Y, et al. Early rehabilitation to prevent postintensive care syndrome in patients with critical illness: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open 2018; 0: e019998
Abstract
【背 景】
我々は,重症疾患生存患者における身体機能,認知機能,精神の障害であるpostintensive care syndrome(PICS)の予防において,早期リハビリテーションの有効性を検討した.
【方 法】
PICS予防における早期リハビリテーションvs早期リハビリテーションなしまたは標準ケアの効果を比較した無作為化比較試験(RCT)を抽出するため,各データベース(Medline,Embase,Cochrane Central Register of Controlled Trials)で系統的文献検索と手動検索を行った.主要評価項目は入院期間中の短期での身体関連,認知関連,精神関連のアウトカムとした.副次評価項目は標準化された長期の健康関連QOL(EuroQol 5 Dimension (EQ5D)とMedical Outcomes Study 36-Item Short Form Health Survey Physical Function Scale (SF-36 PF))とした.エビデンスの質の評価はGrading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)を用いた.
【結 果】
5105報のアブストラクトをスクリーニングし,6報のRCTを登録した.標準ケアまたは早期リハビリテーションなしと比較して,早期リハビリテーションは,Medical Research Councilスケール増加(SMD 0.38, 95%CI 0.10 to 0.66. p=0.009,エビデンスの質:低い)と,ICU-AW発生率の減少(OR 0.42, 95%CI 0.22 to 0.82, p=0.01, エビデンスの質:低い)により短期身体関連アウトカムの有意な改善を示した.しかし,認知機能関連項目である無せん妄日数(SMD -0.02, 95%CI -0.23 to 0.20, エビデンスの質:低い),精神関連のHospital Anxiety and Depression Scaleスコア(OR 0.79, 95%CI 0.29 to 2.12, エビデンスの質:低い)は両群間で差はみられなかった.早期リハビリテーションはEQ5DとSF-36 PFによるPICSの長期アウトカムを改善させなかった.
【結 論】
早期リハビリテーションは重症疾患患者における短期の身体関連アウトカムのみ改善させた.さらなる大規模RCTが必要である.