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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【速報】敗血症性凝固障害に対するヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン海外PhaseⅢの結果

■海外で行われていたDIC治療薬のヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン(リコモジュリン®)のPhaseⅢであるSCARLET trialの結果が8月2日に旭化成ファーマ株式会社からプレスリリースされた.結果はネガティブ.軽症例を多数登録してしまうとハードアウトカムに有意差はつきそうにもないので,ある意味予想通りではあったが,日本発の薬剤がこういう研究デザインの問題でネガティブな結果になってしまうのはなんとも複雑な気分ではある.内容を見るにプロトコル違反もあって,どうもPer-Protocol解析なら有意差つきそうな印象はあるが,そこはpublishデータを見ないとなんとも分からない.

■以下ではこの研究のデザインとプレスリリースデータを見ていく.
研究名:SCARLET trial
試験登録:ClinivalTrialGov. NCT01598831(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01598831?term=ART-123&rank=5

デザイン:国際多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験(PhaseⅢ)
参加国・地域:北米、南米、欧州、アジア・オセアニア(日本を除く)

P(対象):18歳以上の重症敗血症(Sepsis-3ではない)かつ凝固障害(DICとは異なる)
・ICUまたは急性期ケア(ERなど)で治療を受ける
・細菌感染と感染巣の根拠が臨床的に観察されている
・敗血症による心血管障害または呼吸不全を有する
・他に要因がないPT-INR>1.4かつ,血小板数が30,000/mm3より多く150,000/mm3より少ない,若しくは24時間以内に30%を超える減少の凝固障害

I(介入):ART-123(ヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン)0.06 mg/kg/day(=380単位/kg/day)で最大用量6 mg/dayまでを6日間

C(対照):プラセボ

O(アウトカム):主要評価項目:28日全死亡率,28日以内の有害事象,28日以内の重篤な有害事象として収集された主要な出血)副次評価項目:頭蓋内出血,生命を脅かす出血,研究者によって重篤に分類された出血事象,連続する2日間にわたって1440mL(6単位)の赤血球輸血を要する出血
■まず,本RCTの対象は敗血症性DICではなく,PT-INR>1.40と血小板減少のみで規定された敗血症性凝固障害である.基本的に欧米ではDICはあまり浸透しておらず,PhaseⅡb[1]のpost hoc解析でPT-INR>1.40において特に有益性が認められたため,このようなデザインになっている.

■この時点で「あ,これは有意差つかないんじゃないか?コケるんじゃない?」と予想はしていた.研究デザイン的にかなり軽症例を含むことになるため,おそらく対照群の死亡率は30%は切るだろうし,死亡率に有意差はかなりつきにくい(これでなぜ対照群の予測死亡率を35%という高いものに見積もったのかは不明).私自身,敗血症性DICに関して遺伝子組換えトロンボモデュリンは使用するが,軽症例に対しては使用していない.

■またDICではない敗血症患者に対するDIC治療薬投与が予後を改善しないことは以前から指摘されていて,これはJSEPTIC-DIC studyでも示されている[2].PT-INR>1.40の延長がimmunothrombosis[3]の範疇に入る生体に保護的な生理的範囲の凝固(coagulation)なのか生体に有害な凝固障害(coagulopathy)なのかは分からないため,前者に対して遺伝子組換えトロンボモデュリンを投与している(=理論的には逆効果の)可能性も十分にある.実際,マウスモデル研究ではDIC非合併状態だとトロンボモデュリンのレクチン様ドメインの存在がむしろ有害な可能性を示しているものもある[4].血小板減少もあわせて見ているものの,やはり登録基準に凝固線溶系マーカーは入っていてほしかったところである.さらに,PhaseⅡb[1]のサブ解析をもとにRCTを組み直してるわけだが,集中治療領域でサブ解析で有意差がついたことを根拠にRCTをやってポジティブになるケースは極めて稀である.このあたりは旭化成ファーマが海外承認を得ることを目的としているためFDA等の監視のもと進めるので,PhaseⅢからいきなりDIC基準に切り替える,なんてことも難しかったのであろう.

■なお,PT-INR>1.4かつ血小板数<15万の患者ならば急性期DIC診断基準も満たすのではないか?との疑問もあるかもしれない.参考までに日本救急医学会Sepsis Registry解析データ[5]を見ると,急性期DIC診断基準を満たさない重症敗血症患者でもPT-INRの平均値は1.4±0.56,血小板数21.5万±11.1万であり,非DIC症例も相当な数が混ざってくる可能性が分かる.

■次にプレスリリースで公表された結果である.
旭化成ファーマプレスリリース内容:http://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2018/me180802.html
主要評価項目:28日死亡率 遺伝子組換えトロンボモデュリン群26.8%(106/395例),対照群29.4%(119/405症例),絶対差2.6%
検定(本ブログ管理人算出):p=0.433(Fisher検定),RR 0.913, 95%CI 0.73-1.14

1.血液凝固マーカーであるD-ダイマー,トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT),プロトロンビンフラグメントF1+2濃度,並びに血小板数の推移は,PhaseⅡbと同様に対照群と比較して改善が見られた.

2.本剤投与直前までPT-INR並びに血小板数のクライテリアを満たしていた患者(約600例)では,本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は4.5%以上であった.なおこの中で,治験薬を4回以上投与できた患者(約450例)に限ると,本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は約7%であった.

新たに懸念すべき有害事象は見られなかった
■予想通り対照群の死亡率は30%を下回っており,絶対差も2.6%と小さい.相対死亡リスク減少は8.7%.原疾患治療がうまくいって,試験薬を投与する頃には凝固障害が解除されていた症例が1/4以上あったようで,治験薬を4階以上投与した患者も半数しかいないことを考えれば,本RCT全体での重症度はやはり高くなかったのであろう.遺伝子組換えトロンボモデュリン(や他のDIC治療薬)は重症度が高いほど死亡リスク減少効果がでることが知られており,代表的なものとして,Yamakawaらのメタ解析[6]やJSEPTIC-DIC studyの解析[2]が挙げられる.

■非DIC,非重症例が多い集団でのRCT結果であるので,本研究結果を本邦の臨床現場に適用させるのは難しいが(少なくとも軽症例ではやはりDIC治療は不要とは言えるかもしれない),はたしてこの結果を米国FDAがどう判断するかである.まだpublishはされていないものの,既に欧州集中治療医学会で結果が公表されたPMX-DHPの大規模RCTであるEUPHRATES trialについては,ITT解析としては予後の改善はみられなかったが,PP解析やサブ解析により予後改善がみられていることもあってのせいか,FDAは追加試験を承認している.そして,ClinicalTrialGov.で検索してみると,既にSCARLET2 trialが登録されていた.登録予定患者数は800例で,登録基準を見ると,SCARLET trialとかなり似てはいるが,臓器障害が敗血症性ショックまたはPaO2/FiO2<250と具体的表記がある.ただ,凝固障害についてはDICではなく引き続きPT-INRと血小板のみで規定している.詳しくはこちらのリンクを参照していただきたい.
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03517501?cond=ART-123&rank=3

■最後に,これまでの遺伝子組換えトロンボモデュリンのRCTについて私の方でRを用いてメタ解析を行ってみた.対象は各RCTごとに異なるため,網羅的表現としては敗血症性DICではなく感染性凝固障害となるが,死亡率のメタ解析結果は以下の通りである.OR 0.84, 95%CI 0.67-1.05で,統計学的有意差はついていない.ただし効果量は0.84,95%信頼区間上限も1.05であり,出血リスクと勘案しても益が害を上回るとはいえる.また不精確性はあるもののI2=0であり,一貫した有益性が示唆される.あとはコストやその施設における敗血症患者集団の重症度,治療成績との兼ね合いであろう.
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[1] Vincent JL, Ramesh MK, Ernest D, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled, Phase 2b study to evaluate the safety and efficacy of recombinant human soluble thrombomodulin, ART-123, in patients with sepsis and suspected disseminated intravascular coagulation. Crit Care Med 2013; 41: 2069-79, PMID: 23979365
[2] Yamakawa K, Umemura Y, Hayakawa M, et al; Japan Septic Disseminated Intravascular Coagulation (J-Septic DIC) study group. Benefit profile of anticoagulant therapy in sepsis: a nationwide multicentre registry in Japan. Crit Care 2016; 20: 229, PMID: 27472991
[3] Engelmann B, Massberg S. Thrombosis as an intravascular effector of innate immunity. Nat Rev Immunol 2013; 13: 34-45, PMID: 23222502
[4] Schouten M, de Boer JD, van 't Veer C, et al. The lectin-like domain of thrombomodulin hampers host defence in pneumococcal pneumonia. Eur Respir J 2013; 41: 935-42, PMID: 22936703
[5] Gando S, Saitoh D, Ogura H, et al; Japanese Association for Acute Medicine Sepsis Registry Study Group. A multicenter, prospective validation study of the Japanese Association for Acute Medicine disseminated intravascular coagulation scoring system in patients with severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R111, PMID: 23787004
[6] Yamakawa K, Aihara M, Ogura H, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin in severe sepsis: a systematic review and meta-analysis. J Thromb Haemost 2015; 13: 508-19, PMID: 25581687

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by DrMagicianEARL | 2018-08-03 14:19 | 敗血症性DIC | Comments(0)

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