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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】重症インフルエンザは侵襲性肺アスペルギルス症合併の独立危険因子

■重症の純インフルエンザ肺炎(あるいはそれによるARDS)では肺炎球菌や黄色ブドウ球菌による細菌感染合併で死亡率が高まることはよく知られていますが,侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)も合併しやすいことが経験的に知られており,これまでも小規模データながら報告が散見されていました.私自身,重症インフルエンザ肺炎でICUで治療中にIPAを合併して痛い目にあったことがあります(当時はステロイドを使用していました).

■IPAは敗血症や呼吸不全を呈しうるだけでなく,仮性動脈瘤破裂による大喀血も致死的要因となります.アスペルギルスはエラスターゼを産生し,血管壁の防御機構破綻させて血管炎を惹起し,その血管炎は血管の全層において広範囲に及ぶため,血管内腔が拡張して紡錘形の瘤となり,動脈瘤を形成することが知られています.

■今回紹介する論文は,ICUに入室した重症インフルエンザでのIPA合併率,死亡率を検討した多施設での大規模な貴重な疫学データです.IPA合併率は19%(免疫不全なしで14%,免疫不全ありで32%)であり,免疫不全なしかつ非インフルエンザの重症市中肺炎で5%であることから,インフルエンザ患者でかなり多いことが分かります.90日死亡率もIPA合併例51% vs 非合併例28%でかなりの差があります.多変量解析でもインフルエンザがIPA合併の独立危険因子であることが示されています.

■結論にある通り,いかに予防・早期診断治療するかが鍵になってきます.IPAによる仮性動脈瘤はわずか2日で形成されるという報告もあるくらいで,思った以上に進行は早いです.

■本研究の多変量解析にある通り,ステロイドもリスク因子になります.ARDSでのステロイドは意見が分かれていますが,ことインフルエンザ肺炎でのARDSではステロイドは死亡リスクを高める可能性があり(Moreno G, et al. Intensive Care Med 2018 Aug 3)投与すべきではないと考えます.

■診断については,重症インフルエンザのICU患者ですので,人工呼吸器やECMOがついていてはそう簡単にCTは撮れないでしょうし,CTでIPAの特徴的とされるhalo signも初期にしか見られず,時間がたてば非特異的になり(J Clin Oncol 2001; 19: 253-9),多発結節影があればある程度判断しやすくはなるものの,鑑別は難しくなります.β-Dグルカン,アスペルギルスGM抗原なども用いて総合的に判断する必要があります.

■IPAを疑ったら第一選択薬ボリコナゾールを1回4mg/kg(初日のみローディングで6mg/kg)で1日2回投与し,TDMモニタリングも行います(5-7日で定常状態となるため,トラフ値はそれ以降に計測し,≧1~2µg/mLを目標).ただし,GFR<30mL/minの腎機能低下患者では禁忌ですので,アンホテリシンBかキャンディン系を使用します.

重症インフルエンザでICUに入室した患者における侵襲性肺アスペルギルス:後ろ向きコホート研究
Schauwvlieghe AFAD, Rijnders BJA, Philips N, et al; Dutch-Belgian Mycosis study group. Invasive aspergillosis in patients admitted to the intensive care unit with severe influenza: a retrospective cohort study. Lancet Respir Med 2018 Jul 31[Epub ahead of print]
PMID: 30076119

Abstract
【背 景】
侵襲性肺アスペルギルス症は典型的には免疫不全宿主に生じる.ほぼ一世紀の間,インフルエンザは細菌の重複感染を発生させることが知られていたが,最近では,重症インフルエンザ患者にも侵襲性肺アスペルギルス症が発生することが報告されている.

【目 的】
本研究の目的は,集中治療室(ICU)におけるインフルエンザ肺炎患者の数シーズンにわたる侵襲性肺アスペルギルス症の発生率を計測し,インフルエンザが侵襲性肺アスペルギルス症の独立した危険因子であるかどうかを評価することである.

【方 法】
我々は多施設共同後ろ向きコホート研究を行った.データは,7つのインフルエンザシーズンの間にベルギーとオランダの7つのICUに入室した重症インフルエンザの成人患者から収集した.患者は18歳以上で,画像検査で肺の浸潤陰影を有する急性呼吸不全でICUに24時間以上入室し,気道検体のPCR検査が陽性のインフルエンザ感染が確認された者とした(インフルエンザコホート).非免疫不全(欧州癌研究機関/真菌症研究グループ[EORTC/MSG]の宿主因子がない)のインフルエンザ陽性患者(インフルエンザ群)と気道インフルエンザPCR試験陰性の重症市中肺炎を呈した非免疫不全の患者(対照群)の比較において,インフルエンザが侵襲性アスペルギルス症に独立して関連しているかを調べるためにロジスティック回帰解析を用いた.

【結 果】
データは2009年1月1日から2016年6月30日までにICUに入室した患者から収集した.インフルエンザでICUに入室した患者432例(インフルエンザコホート)のうち,83例(19%)がICU入室後中央値3日目で侵襲性肺アスペルギルス症と診断された.インフルエンザA型とB型で発生率は同等であった.侵襲性肺アスペルギルス症の発生率は,非免疫不全のインフルエンザ症例群が14%(315例中45例)に対して,免疫不全を有するインフルエンザ患者では32%(117例中38例)と高かった.一方で,対照群では侵襲性肺アスペルギルス症発生は315例中16例(5%)のみであった.90日死亡率は侵襲性肺アスペルギルス症を合併したインフルエンザコホートで51%,侵襲性肺アスペルギルス症非合併のインフルエンザコホートで28%であった(p=0.0001).本研究において,インフルエンザは,高いAPACHEⅡスコア,男性,ステロイド使用と同様に,侵襲性肺アスペルギルス症に独立して関連していた(調整OR 5.19; 95%CI 2.63-10.26; p<0.0001).

【結 論】
インフルエンザは侵襲性肺アスペルギルス症の独立した危険因子であり,高い死亡率を伴うことを示した.さらなる研究で,より早い診断または真菌感染予防がインフルエンザ関連アスペルギルス症の予後を改善するかについて評価すべきである.

by DrMagicianEARL | 2018-08-13 14:35 | 文献

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