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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【RCT+レビュー】ICUの消化管出血ハイリスク患者にPPIは必要か?(SUP-ICU trial)

■ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)によるストレス潰瘍予防が行われるようになって40年近くがたち,ICU患者においてルーチンで使用している施設も多いでしょう.その一方で,近年は早期経腸栄養が行われるようになったこともあって,最近のRCTでは薬剤によるストレス潰瘍予防の効果はほぼなくなり,むしろ肺炎が増加するという報告も出てきていて,ストレス潰瘍予防を見直す必要性が出てきています.少なくとも,出血リスクがないのであればICU患者でもストレス潰瘍予防は不要でしょう.では出血リスクを有する患者ではどうか?

■今回紹介する論文は,これまでのRCTと違い,1つ以上の消化管出血リスク因子(ショック,抗凝固薬使用,腎代替療法,人工呼吸器装着,肝疾患既往,凝固障害)を有するICU患者でのPPIの効果を検討した大規模RCTであるSUP-ICU trialです.主要評価項目を消化管出血ではなく死亡率に設定しているのは少し驚きましたが(差がつくわけないのは分かりきってたはずですが),有意差なしでした.SOFAスコア中央値9点で90日死亡率が30%程度は妥当なレベルと思います.

■では,死亡率に差がなくネガティブだったのでPPIはやめましょう,となるかというと,これがまた悩ましいデータがでています.消化管出血については2.5% vs 4.2%(RR 0.58; 95%CI 0.40-0.86)で統計学的に有意な42%の相対リスク減少を認めています.絶対差は1.7%でNNT 59であり,これを臨床的に有意な差と見るかは微妙な数値です.ただ,ここでの消化管出血は,単に黒色便を認めただけの軽い胃潰瘍出血のようなものではなく,血圧低下や輸血必要性などが生じるほどの「臨床的に意義のある出血」ですので,それなりの医療介入が必要になる以上,無視はしにくいと思います.

■その一方で,PPIによって理論上増えると予想された肺炎やCDIなどの感染は16.8% vs 16.9%で全くと言っていいほど差がありません(CALORIES trialのときもそうでしたが,VAP予防がさかんに行われるようになって肺炎が起こりにくくなってるのかもしれません).これらをふまえて考えれば,「消化管出血ハイリスクのICU患者ではPPI投与の益が害を上回るため,PPI投与は行う方がよい,となるのではないでしょうか?少なくとも私はこのようなハイリスク患者集団では今後も薬物学的ストレス潰瘍予防を行うと思います.今回は下にレビューもつけました.
ICUで消化管出血リスクを有する患者におけるパントプラゾール(SUP-ICU trial)
Krag M, Marker S, Perner A, et al; for the SUP-ICU trial group. Pantoprazole in Patients at Risk for Gastrointestinal Bleeding in the ICU. N Engl J Med 2018 Oct.24[Epub ahead-to-print]

Abstract
【背 景】
消化管ストレス潰瘍予防はICU患者において頻回に行われているが,その害と益は不明確である.

【方 法】
この欧州の多施設共同並行群間盲検化試験において,我々は急性疾患(予期せぬ入院など)でICUに入室し,消化管出血リスクを有する成人患者を,ICU在室中毎日パントプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)40mg静脈内投与する群とプラセボ群に無作為に割り付けた.主要評価項目は無作為化から90日以内の死亡率とした.

【結 果】
3298例の患者が登録され,1645例がパントプラゾール群に,1653例がプラセボ群に無作為に割り付けられた.主要評価項目データは3282例(99.5%)で収集できた.90日時点でパントプラゾール群で510例(31.1%),プラセボ群で499例(30.4%)が死亡した(RR 1.02; 95%CI 0.91 to 1.13; p=0.76).ICU在室中,少なくとも1回の臨床的に意義のある事象(臨床的に意義のある消化管出血,肺炎,Clostridium difficile感染,心筋梗塞の複合アウトカム)はパントプラゾール群で21.9%,プラセボ群で22.6%(RR 0.96; 95%CI 0.83 to 1.11)であった.パントプラゾール群では,臨床的に意義のある消化管出血が2.5%,プラセボ群では4.2%であった.90日以内の感染や重篤な有害反応を生じた患者数,生命維持装置非装着生存日数の割合は両群間で同等であった.

【結 論】
消化管出血リスクを有する成人ICU患者において,90日死亡や臨床的に意義のある事象数は,パントプラゾール群とプラセボ群とで同等であった.
1.ストレス潰瘍と胃酸分泌抑制薬の登場

■ICU患者は疾患そのものによる高度な侵襲性ストレスを受けているが,これに対する救命治療もまた医原性の侵襲性ストレスとして患者が受けることになる.この侵襲性ストレスにより胃・十二指腸をはじめとする消化管にストレス潰瘍が生じることが知られている.この重症患者における消化性潰瘍の重要性が注目され始めたのは,緊急内視鏡検査の必要性がPalmerら[1]によって説かれた1950年代まで遡り,1970年にSkillmanら[2]が,呼吸不全,低血圧,敗血症でICUに入室した患者に生じた消化性潰瘍をストレス潰瘍としてGastroenterology誌に報告を行ってから,この名前が広く認識されるようになった

■ストレス潰瘍の頻度は,内視鏡検査が行われるようになってからの報告では急速に増加し,ICU患者においては入室後24時間以内に75-100%の患者で粘膜病変が形成され[3],予防手段を受けていなければ5-25%で出血が生じていると報告されていた[3,4]

■ストレスの要因としては,①心理的・精神的ストレス,②身体的ストレスがあり,ICU患者のストレス潰瘍ではこの両者が関与しうる.また,ICUで使用されるNSAIDsやステロイドも薬剤性の消化性潰瘍の原因となる.さらに,多臓器不全の病態そのものが消化性潰瘍を引き起こしうることも知られる.臨床的に意義のある消化管出血(循環動態が悪化した,輸血が必要,あるいは手術が必要なケース)は予後を悪化させることが知られていたため,高度侵襲病態におけるストレス潰瘍の予防が必要であることが広く周知されてきた.

■有効なストレス潰瘍予防方法は1972年にH2RAのmetiamideが発見され[5],1976年にこのmetiamideでストレス潰瘍の予防と治療の臨床での有効性が報告され[6],1977年にシメチジンが使用可能となってからはその報告が急激に増加し,ストレス潰瘍の予防や治療は大きな転機を迎えた.さらに1980年代には強力な胃酸分泌抑制薬であるPPIが登場し[7],集中治療領域におけるストレス潰瘍予防はPPIとH2RAの一騎打ちの時代に突入していった.

2.ストレス潰瘍予防のエビデンス

■PPIとH2RAの2種類の薬剤によるICU患者でのストレス潰瘍予防効果についてはRCTやメタ解析が多数報告されており,2018年6月の最新のコクランメタ解析でも消化管出血の有意な予防効果が示されている[8]

■しかしながら,ストレス潰瘍予防のRCTの多くは2000年以前のものであり,当時の消化管出血頻度は前述の通り5~25%とされており,H2RAやPPIの投与を受けていてもこの程度の頻度があった.一方,2000年以降の観察研究をみると,その頻度はおおむね1%以下である[9-13].すなわち,これまでストレス潰瘍予防の支持の根拠となるメタ解析では2000年以前の古いRCTにかなり引っ張られた結果である.実際にここ2~3年の間にでてきたRCTを見てみると,ストレス潰瘍予防を行っても消化管出血リスクの有意な減少はみられていない.

■一方,Huangら[14]は,「経腸栄養を受けている」ICU患者に対するPPIやH2RAのRCTのメタ解析を行い,消化管出血リスクは減少せず(RR 0.80; 95%CI 0.49 to 1.31, p=0.37),院内肺炎は有意に増加する(RR 1.53; 95%CI, 1.04 to 2.27; p=0.03)という結果であった.各RCTの効果量を見てもリスク減少があるようには到底見えない.2000年以前は早期経腸栄養がそこまで積極的に行われていなかった時代であるため,ここがコクランのメタ解析結果との大きな違いになっている.

■実際に,経腸栄養によってプロスタグランジン分泌と消化管血流が改善する[15,16],ストレス起因性の迷走神経刺激伝達系を経腸栄養が抑制する[17,18],胃内pHが経腸栄養によって希釈されて上昇する[19],ということが知られており,経腸栄養そのものがストレス潰瘍予防としての役割を果たしているため,薬物学的ストレス潰瘍予防が意味をなさなくなっていると考えられる.

■なお,過去の報告では,胃に留置すれば胃内は栄養剤投与による希釈によりアルカリ化されるが,十二指腸/空腸に留置すれば希釈されることなく胃酸分泌刺激が生じ,胃内pHが胃に留置した場合より低くなるかもしれないとする報告[20]もあるが,Alhazzaniら[21]の19報RCT,1394例のメタ解析では,消化管出血リスクに有意差はなかった(RR 0.89; 95%CI 0.46-1.42; p=0.64).

3.ストレス潰瘍予防の適用とガイドライン

■少なくとも、ICUの全患者にルーチンで薬物学的ストレス潰瘍予防を行う時代はそろそろ終わりということであろう.もっともこれは早期経腸栄養がちゃんと行われていることが前提である.既に早期経腸栄養の有効性が知られており,どのガイドラインでも推奨されていることから,もしその施設で早期経腸栄養が行われていないのであればまずはそこから見直す必要がある.

■では逆に,どのような潰瘍出血リスク患者を選んで薬物学的ストレス潰瘍予防を行うかだが,ストレス潰瘍予防そのものをメインに扱ったガイドラインはAmerican Society of health-System Pharmacistsによる1998年の古いものしかない[22].しかし、この古いガイドラインでもICU全患者に一律にストレス潰瘍予防を推奨しているわけではなく,ハイリスク患者に限定した使用を推奨している.参考までにこのガイドラインでの適用基準を以下に示す.経腸栄養を行っているなら、この適用基準のハードルはさらに上げてもいいと思うが,まずはこの基準をもとに薬物学的ストレス潰瘍予防の適用患者を絞っていくことをお勧めしたい.
ASHPガイドラインにおけるICU患者でのストレス潰瘍予防適用

(1)絶対適用(1つでもあてはまれば適用)
凝固障害(血小板<50000 /mm3,PT-INR>1.5,APTTが正常時の2倍以上)(B)
48時間以上の人工呼吸器管理(B)
1年以内の上部消化管潰瘍または出血(D)
Glascow Coma Scale(GCS)≦10(または簡単な指示に従えない)(B)
体表面積≧35%の熱傷(B)
肝部分切除後(C)
多発外傷(Injury Severity Score≧16など),移植患者周術期,肝不全,脊椎外傷に該当(D)

(2)相対適用(2つ以上あてはまれば適用)
敗血症(D)
1週間以上のICU在室(D)
6日間以上の潜血(D)
高用量コルチコステロイド治療(ヒドロコルチゾン250mg/日相当量以上)
■この基準にあてはまる患者は消化管出血ハイリスク患者である.今回のSUP-ICU trialもこの消化管出血ハイリスク患者を対象としてRCTを行っており,プラセボ群の方が有意に消化管出血が多いという結果であったことから,やはり早期経腸栄養を行っていても,ハイリスク患者では薬物学的ストレス潰瘍予防を考慮すべきだろう.

■もし薬物学的ストレス潰瘍予防を行う場合,PPIとH2RAのどちらがいいかであるが,これまでのPPIとH2RAを比較したメタ解析結果ではPPIの方が支持されている.ただし,前述の通り,これは2000年以前の古いRCTが多く含まれた解析結果である.48時間以内の早期経腸栄養が広く行われるようになった現在であれば,私はH2RAでいいと考えている.理由として,①早期経腸栄養が始まるまでの超早期が最もハイリスクとなるため,胃酸抑制が必要なのであれば立ち上がりが早いH2RAの方が有利(ただし、近年発売されたPPIであるボノプラザンも立ち上がりは早い),②H2RAの方が胃内pHを下げすぎない,があげられる.実際に,近年行われた2つの大規模コホート研究では,PPIの方がH2RAより臨床的に意義のある出血が多かったと報告している[23,24].ただし、高齢で腎機能障害を有する場合はH2RAはせん妄をはじめとする中枢神経症状がでることがあるので,その場合はPPIの方がいいだろう.

■投与するならいつまで投与するかだが,残念ながらICUにおけるストレス潰瘍予防でのPPIやH2RAの適切な投与期間は現時点ではエビデンスがないが,少なくともICU退室後は特に大きなリスクがないのであれば投与は中止すべきであろう.

※最後に私のやり方であるが,基本的に早期経腸栄養をICU入室当日から開始するため,ストレス潰瘍出血リスクが高くなければ薬物学的ストレス潰瘍予防は行わない.リスクが高ければH2RAまたはボノプラザンを1~3日間程度投与し,その後はICU退室までは胃酸分泌抑制作用のない胃粘膜防御因子増強薬であるイルソグラジンを経管投与している.

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by DrMagicianEARL | 2018-10-25 17:40 | 文献