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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】PD-1阻害薬使用中の患者におけるインフルエンザワクチン接種によるirAE

■本庶佑先生がPD-1発見でノーベル医学生理学賞を受賞され話題になっています.現在オプジーボ®やキイトルーダ®が各種の癌に適用を取得して多数の患者に使用されるようになりました.このPD-1阻害薬投与中の患者に対するインフルエンザワクチン接種はどこまで安全かですが,それを検討した報告がでています.N数が23例と少ないため,この発生率をそのまま鵜呑みにはできないですが,ワクチン接種後に半数で免疫関連有害事象irAEが生じ,そのうちの半数は重症グレード3以上,ワクチン接種から発症までの期間は3.2ヶ月でした.これは既知のirAE発生頻度よりかなり高く,また研究対象ではないですが,同じ施設のワクチン非接種集団のirAEsの頻度と比較すると約2倍になります.発生したirAEsはグレード1/2が皮疹(ワクチン接種部位以外),関節炎,甲状腺機能低下症,グレード3/4が腸炎,脳炎,間質性肺炎,ニューロパチーでした.

■PD-1阻害薬ではインフルエンザワクチン接種は禁忌ではなく,要注意程度となっていますが,irAEリスク上昇が起こるかもしれないことを患者に説明する必要はありそうです.加えてirAEが生じてしまうと癌治療手段としてのPD-1阻害薬を中止せざるを得ません.もちろん,irAEがコントロール可能で回復した場合はPD-1阻害薬の再開が検討されることは多いですが,MSKCCレポート(Cancer Immunol Res 2018 ; 6: 1093-9)によると,irAEにより治療中断した後の免疫療法再開では,同じirAEまたは別のirAEが52%(20/38)に発症しており,再開後発症したirAEの多くはコントロール可能であったが,再開群の38例中2例が死亡しており,注意が必要です.

■一方で,癌患者はインフルエンザハイリスク集団ですので基本的にはワクチン接種は必要となります.実際にコクランのシステマティックレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2013; 10: CD008983)でも,癌患者に対するインフルエンザワクチン接種は死亡リスクを減少させるとしています.免疫チェックポイント阻害薬とワクチンの相乗効果もin vitroの研究ですが示されてはいます(Curr Opin Immunol 2013; 25: 381–8/Cancer Res 2014; 74: 2974–85/J Exp Med 2008; 205: 543–55).非常に悩ましいですが,これらを総合的にふまえてワクチン接種するかどうか患者に説明しインフォームドコンセントを得る必要があります.
PD-1阻害薬使用中の癌患者のインフルエンザワクチンは血清学的保護効果を有するが,免疫関連有害事象リスクを増加させる
Läubli H, Balmelli C, Kaufmann L, et al. Influenza vaccination of cancer patients during PD-1 blockade induces serological protection but may raise the risk for immune-related adverse events. J Immunother Cancer 2018; 6: 40
PMID: 29789020
https://jitc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40425-018-0353-7

Abstract
【背 景】
免疫チェックポイント阻害薬は癌患者の日常的な臨床診療に導入されている.免疫チェックポイント阻害薬は一部の患者で寛解が得られるが,免疫学的有害事象(irAEs)も引き起こす可能性がある.肺癌患者はインフルエンザウイルス感染時の合併症リスクが高まることが示されている.このため,ワクチン接種が推奨されている.しかしながら,免疫チェックポイント阻害薬使用中のインフルエンザワクチン接種の効果と安全性や,irAEsへの影響は不明確である.同様に,PD-1阻害薬投与中の患者におけるT細胞による免疫反応へのワクチン接種の影響も依然として不明確なままである.

【方 法】
免疫チェックポイント阻害薬投与中のワクチンによる免疫反応と安全性を検討するため,23例の肺癌患者と11例の年齢でマッチした健常コントロールに三価インフルエンザワクチン接種を行った.

【結 果】
全3つのウイルス抗原に対するワクチンによる抗体価は,患者と健常コントロールとで有意差はみられなかった.インフルエンザワクチン接種は患者および健常コントロールの60%以上で保護的抗体価に達していた.癌患者においては,ワクチン接種後のirAEsの頻度は52.2%であり,ワクチン接種後から発生までの期間中央値は3.2ヶ月であった.23例中6例(26.1%)は重症グレード3/4のirAEsであった.このirAEsの頻度は,既知の文献での発生率,および本研究機関の非研究集団(ワクチン非接種)で観察された割合よりも高い可能性がある(全グレードで25.5%,グレード3/4で9.8%).

【結 論】
限られた数の患者による非無作為化試験であるが,免疫学的毒性の増加と関連している.本知見はより大きい患者集団で研究されるべきである.

by DrMagicianEARL | 2018-10-26 15:44 | 感染対策

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