【文献】福島県内の小児甲状腺癌症例に地域的偏りはみられない
■今回紹介する論文は,福島県内での初回甲状腺スクリーニング検査データを用いた甲状腺癌症例の地域差を調べたものです.福島第一原発事故によって甲状腺癌が増加するのであれば,原発に近い地域ほど多くなるはずですが,この空間分析を用いた研究結果ではそのような地域差はみられなかったとしています.
福島県における初回甲状腺超音波検査からの甲状腺癌症例の地理的分布の空間分析Nakaya T, Takahashi K, Takahashi H, et al. Spatial analysis of the geographical distribution of thyroid cancer cases from the first-round thyroid ultrasound examination in Fukushima Prefecture. Sci Rep 2018; 8: 17661PMID: 30518765Abstract【背 景】2011年3月11日の福島第一原発事故以降,空間的に不均一な次の放射能環境汚染の健康への影響に関する懸念があった.【目 的】本研究の目的は福島県の小児および青年における甲状腺癌罹患率の地理的変動を評価することである.【方 法】福島県健康管理調査の下,2011年から2015年にかけての59市町村からの初回超音波検査で,約300,000人の被検者のうち,115例の診断または疑いのある甲状腺癌症例を用いて性別および年齢別罹患率を算出した.我々は,局所的に異常な高罹患地域を検出するために,フレキシブル空間スキャン統計と最大化された過剰事象テストをデータセットに適用した.特定の地域指標を用いたPoisson回帰も行った.さらに,約200例の被験者が陽性の超音波検査結果を示したが,確認検査を受けなかった.したがって,我々は統計分析においてそのような診断されていないケースの起こりうる影響を評価するためにシミュレーションに基づく感度解析を行った.【結 果】結論として,本研究では,超音波検査を受けた被験者の間で甲状腺癌の有病率の有意な空間的異常/クラスターまたは地理的傾向は認められず,検出された甲状腺癌の症例は福島第一原発事故による放射線被曝を含む地域要因によるものではないと思われる.