高齢者の既存の介護認定を持つ患者に対する侵襲的機械換気後の1年間の機能的転帰
高齢者の既存の介護認定を持つ患者に対する侵襲的機械換気後の1年間の機能的転帰■ある意味当たり前な結果,しかしながら,実際のデータが,それも本邦で得られたことは極めて意義があり,実臨床でおおいに参考になる知見である.要介護度については,国際的に用いられているBarthel指数スコアとの良好な相関が報告されており,要支援1-2および要介護1はBarthel指数スコア85-95,要介護2-3はBarthel指数スコア65-80,要介護4-5はBarthel指数スコア40未満と比較可能である.
Ohbe H, Ouchi K, Miyamoto Y, et al. One-Year Functional Outcomes After Invasive Mechanical Ventilation for Older Adults With Preexisting Long-Term Care-Needs. Crit Care Med 2023; 51; 584-93
PMID: 3687518
https://doi.org/10.1097/ccm.0000000000005822
Abstract
【目的】既存の長期介護を要する65歳以上の成人に対する侵襲的機械換気後の1年間の機能的転帰を調査する.
【方法】医療および長期介護の管理データベースを使用した.データベースには,本邦標準の要介護認定制度で評価された機能的および認知的障害のデータが含まれており,1日の推定介護時間に基づいて7つの要介護レベルに分類されている.主要なアウトカムは,侵襲的人工呼吸管理後1年の死亡率と要介護度であった.アウトカムは,侵襲的人工呼吸管理の時点での既存の要介護度によって層別された:要介護なし,要支援1-2および要介護1(推定介護時間25-49分),要介護2-3(50-89分),および要介護4-5(≥90分).
【環境】日本の47都道府県のうち,栃木県での人口ベースのコホート研究
【患者】2014年6月から2018年2月までに登録された65歳以上の人々の中から,侵襲的人工呼吸管理を受けた患者が特定された
【介入】なし
【結果】対象となる593,990人のうち,4,198人(0.7%)が侵襲的人工呼吸管理を受けた.平均年齢は81.2歳で,男性が55.5%であった.侵襲的機械換気時に介護ニーズがない患者,要支援1-2および要介護1の患者,要介護2-3の患者,および要介護4-5の患者の侵襲的機械換気後1年の死亡率はそれぞれ43.4%,54.9%,67.8%,74.1%であった.同様に,要介護度が悪化した患者はそれぞれ22.8%,24.2%,11.4%,1.9%であった.
【結論】侵襲的人工呼吸管理を受けた既存の要介護度2-5の患者のうち,76.0-79.2%が1年以内に死亡または要介護度が悪化した.これらの知見は,患者,家族,および医療専門家との共有意思決定に役立ち,基本的な機能および認知状態が悪い人々に対する侵襲的人工呼吸管理の適切性について考慮することができる.
■侵襲的人工呼吸管理に伴う長期予後については,Post-Intensive Care Syndromeで知られる通り,若年者においても悪化することが知られている.しかしながら,高齢者に限定すればその悪化頻度が増すことは容易に想像できる.本研究において,生存率のKaplan-Meiere曲線を見ると,侵襲的人工呼吸管理開始直後にかなりの死亡が発生していることが分かり,30日以内で見ても約半数が死亡している.
■また.考察では,海外のデータと比較しても,日本では身体機能がかなり低下した高齢者に対しても比較的積極的に侵襲的機械換気が行われていることがうかがえ,これは欧米と比較して,日本で人生の最終段階の医療をどのように受けるかについて共有意思決定,さらにはAdvance Care Planningが不十分である可能性がうかがえる.認知機能が低下した高齢者において人工呼吸器を装着するかどうかの判断は本人の意思確認はなされず家族のみでなされることも多い.ここは普段からかかりつけのプライマリケアの医師がどれだけかかわれるかということも言えるだろう.本研究の知見は,患者,家族,医療従事者と共有して侵襲的人工呼吸管理を受ける意思決定の補助となるだろう.