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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【RCT】複雑性虫垂炎に対する術後2日間の抗菌薬投与は5日間に非劣性

■複雑性虫垂炎に対する術後抗菌薬の投与期間を2日にするか5日にするかに関する非劣性RCTが報告されたので紹介する.複雑性虫垂炎に対する抗菌薬投与期間を検討したRCTは今回の報告が出るまで1報のみであった.Basoliら[1]は,軽症~中等症の局所性腹膜炎を呈した111例(うち複雑性虫垂炎患者は45例)におけるエルタペネムの3日間投与vs5日間以上投与を比較したところ,治癒率・除菌率に有意差なしという結果であった.van den Boomら[2]は,観察研究も含めた複雑性虫垂炎に対する抗菌薬投与期間のメタ解析を行い,抗菌薬投与期間5日間以下と5日間超の比較では,術後腹腔内膿瘍発生リスクは5日間以下の方が低く(OR 0.36, 95%CI 0.23-0.57, p<0.0001),3日間以下と3日間超の比較では有意差がみられなかった(OR 0.81, 95%CI 0.38–1.74, p=0.59).その他アウトカムでは,抗菌薬投与期間が短いほど入院期間が短かった.

■今回は1000例を超える大規模なRCTであり,結果は,90日以内の感染合併症+死亡の複合評価項目は10%vs8%であるのに対し,抗菌薬副作用は9%vs22%,再入院率は12%vs6%であった.この結果をどのように解釈するかは難しいところである.主要評価項目が最重要であることから,感染合併症や死亡というアウトカムでは抗菌薬の使用を制限するという目的に対して有利な結果であり,抗菌薬副作用リスクも少なく済んでいる.一方で,再入院率の増加は,副次評価項目とはいえ,患者のQOLやヘルスケアシステムに対する影響を考慮すると問題となる可能性がある.
複雑性虫垂炎に対する術後2日間vs5日間の抗菌薬:実用的非盲検多施設共同非劣性無作為化比較試験
2 days versus 5 days of postoperative antibiotics for complex appendicitis: a pragmatic, open-label, multicentre, non-inferiority randomised trial. Lancet 2023; 401: 366-76
PMID: 36669519
https://doi.org/10.1016/s0140-6736(22)02588-0

Abstract

【背景】複雑性虫垂炎の術後抗菌薬投与の適切な期間は明確ではない.抗菌薬耐性が増加する世界的な脅威は抗菌薬の制限的な使用を必要としている.これは副作用の減少,入院期間の短縮,及びコストの削減にもつながる.

【方法】オランダの15の病院で行われたこの実用的非盲検非劣性試験では,複雑性虫垂炎の患者(年齢≧8歳)が無作為に割り付けられ(1:1),虫垂切除術後に2日間または5日間の抗菌薬の静脈内投与をされた.無作為化は施設ごとに層別され,治療医師と患者は治療割り当てについて知らされてた.主要評価項目は,90日以内の感染合併症と死亡の複合アウトカムとした.主な結果は,主要評価項目における絶対リスク差(95%CI)で,年齢と虫垂炎の重症度に対して調整され,非劣性マージンは7.5%とした.結果の評価は電子病歴と虫垂切除術後90日の電話相談に基づいて行われた.効果は意図した治療群とプロトコルに従った治療群(5日間投与)で分析され,安全性の結果は意図した治療群で分析された.この試験は,オランダ試験登録に登録された(NL5946).

【結果】2017年4月12日から2021年6月3日までに13,267人の患者がスクリーニングされ,1,066人が無作為に割り付けられ,各グループに533人ずつが割り当てられた.募集または同意に関するエラーのため,2日間群からは31人,5日間群からは30人が意図した治療分析から除外された.1005人の患者のうち955人(95%)に腹腔鏡下虫垂切除術が行われた.電話フォローアップは664人(1005人中66%)で完了した.主要評価項目は,2日間群で分析された502人の患者のうち51人(10%)と,5日間群で分析された503人の患者のうち41人(8%)で発生した(調整後の絶対リスク差2.0%,95%CI -1.6 to 5.6).合併症と再介入の発生率は試験群間で同等であった.2日間群で抗菌薬の副作用が少なかった(502人の患者のうち45人[9%])のに対し,5日間群では112人(503人の患者のうち22%)が副作用を示した(オッズ比[OR] 0.344、95% CI 0.237~0.498).2日間群の再入院が多かった(502人の患者のうち58人[12%])のに対し,5日間群では29人(503人の患者のうち6%)が再入院した(OR 2.135、1.342~3.396).治療関連の死亡はみられなかった.

【結論】複雑性虫垂炎に対する手術後の抗菌薬2日間投与は,90日以内の感染合併症と死亡率において,非劣性マージン7.5%を基にした5日間投与と非劣性であることが示された.これらの結果は,十分なリソースを有する医療環境で行われた腹腔鏡下虫垂切除術に適用可能である.この戦略を採用することで,抗菌薬の副作用と入院期間が短縮されるだろう.
[1] Basoli A, Chirletti P, Cirino E, et al. A prospective, double-blind, multicenter, randomized trial comparing ertapenem 3 vs >or=5 days in community-acquired intraabdominal infection. J Gastrointest Surg 2008; 12: 592-600(PMID: 17846853)https://doi.org/10.1007/s11605-007-0277-x[2] van den Boom AL, de Wijkerslooth MLE, Wijnhoven PLB. Systematic Review and Meta-Analysis of Postoperative Antibiotics for Patients with a Complex Appendicitis. Dig Surg 2020; 37: 101-10(PMID: 31163433)https://doi.org/10.1159/000497482
by DrMagicianEARL | 2023-05-22 10:05 | 抗菌薬

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