【レビュー】敗血症性ショックに対するステロイドは有効か?
■敗血症性ショック病態に対するステロイドの有効性についてはいまだに確立していない.2018年にthe New England Juornal of Medicineに同時に2つの大規模RCTであるAPROCCHSS[1]とADRENAL[2]が報告され,90日死亡率は前者で有意差あり,後者で有意差なしという結果であった.その後の複数メタ解析でも死亡率に関しては異なる結果が出ている.
■今回紹介する論文は,敗血症性ショックに対するステロイドの有効性を検討したメタ解析であるが,論文に記載されているデータからアウトカムを抽出して統合解析を行うこれまでのステロイドのメタ解析とは異なり,各RCTのデータセットを用いた患者レベルでの解析である.このため,詳細なデータ解析が可能となる.以下に,アブストラクトの要約とともに私のレビューを記した.
敗血症性ショックの成人における低用量ヒドロコルチゾンの患者レベルメタ解析1.敗血症性ショックに対するステロイドの変遷
Pirracchio R, Annane D, Waschka KA, et al. Patient-Level Meta-Analysis of Low-Dose Hydrocortisone in Adults with Septic Shock. NEJM Evid 2023 May 22
https://evidence.nejm.org/doi/full/10.1056/EVIDoa2300034
【背景】試験および研究レベルのメタ解析では,コルチコステロイドの敗血症性ショック患者の管理における役割は解決されていない.患者レベルのメタ解析では,特にサブグループの効果についてより正確な治療効果の推定が得られる可能性がある.
【方法】ヒドロコルチゾン静脈内投与の併用使用を調査した敗血症性ショック試験から個々の患者データをまとめた.主要評価項目は90日全死亡率であり,あらかじめ定義された亜集団間でも分析された.副次評価項目には集中治療室および入院時の死亡率,28日および180日時点での死亡率,および血管収縮薬,換気,臓器不全に関する無病日数が含まれていた.有害事象には,二次感染,筋力低下,高血糖,高ナトリウム血症,および胃十二指腸出血が含まれていた.
【結果】適格な24の試験(n=8528)のうち,17の試験(n=7882)が個々の患者データを提供し,7つの試験(n=5929)が90日死亡率を提供した.プラセボに対するヒドロコルチゾンの90日死亡率の周辺的相対リスク(RR)は0.93(95%CI, 0.82-1.04; P=0.22; 中程度の確実性)であった.フルドロコルチゾンを併用した場合のRRは0.86(95%CI, 0.79-0.92)であり,フルドロコルチゾンを併用しない場合は0.96(95%CI,0.82-1.12)であった.サブグループ間の治療効果に有意な差は見られなかった.ヒドロコルチゾンは,血管収縮薬無投与日数(平均差1.24日; 95%CI 0.74-1.73; 高い確実性)以外のいずれの副次評価項目でもほとんど差がない関連性がみられた.ヒドロコルチゾンは,二次感染のリスク増加(RR 1.04; 95%CI 0.95-1.15; 低い確実性),高血糖(RR 1.05; 95%CI 0.98-1.12; 低い確実性),または胃十二指腸出血(RR 1.11; 95%CI 0.83-1.48; 低い確実性)とは関連していない可能性がある.ヒドロコルチゾンは,高ナトリウム血症のリスク増加(RR 2.01; 95%CI 1.56-2.60; 低い確実性)および筋力低下のリスク増加(n=2647; RR 1.73; 95%CI 1.49-1.99; 低い確実性)と関連している可能性がある.
【結論】本患者レベルのメタ解析では,敗血症性ショック患者においてプラセボと比較してヒドロコルチゾンは死亡率の減少とは関連していなかった(フランス国立健康医療研究院,オーストラリア国立健康医療研究評議会のリーダーシップフェローシップ,およびオーストラリア国立健康医療研究評議会の新進リーダーシップフェローシップなどからの「未来への投資プログラム」により資金提供された; PROSPERO登録番号CRD42017062198).
■敗血症におけるステロイドはいまだに議論のさなかにあり,エビデンスも二転三転しているが,特定の集団には有効に作用するであろうというのが近年の流れである.加えて血糖変動が敗血症の予後に想像以上に関連しているのではないかということも分かってきており,ステロイドの益と害のバランスを見極める必要がある.ただし,少なくともショックに陥っていない段階での敗血症へのステロイド投与はショックへの進展率や死亡率を改善させず,高血糖を有意に増加させ,二次感染,ICUAWも増加傾向であったとするHYPRESS trialが2016年に報告されている[3]ことも考慮すると,ショックでない限りはステロイドの投与は行うべきではないだろう.
■ステロイドは抗炎症作用を有するが,あくまでもグルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されるにもかかわらず敗血症が進行すると受容体は減少し,細胞選択性もなく,悪影響の懸念がある.さらには血糖値が上昇し,高血糖による害や外因性インスリン投与にただし,真に副腎機能低下を有するのかの判断は極めて難しい.1987年にBoneら[4]は,敗血症に対するステロイドパルス(メチルプレドニゾロン30mg/kg)を検討した382例RCTを行い,ステロイドパルス療法は予後を悪化させることを報告していることから,抗炎症を期待して大量投与することは現在では禁忌に等しい.
■血中のコルチゾルを測定する方法も考えられるが,血中コルチゾルの9割は蛋白結合型の不活性型であり,活性を有するフリーコルチゾルは1割である.ところが,敗血症ではフリーコルチゾルの割合が50%程度にまで増加する.その一方で,アルブミン低下が著明となると,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されることになる.以上からコルチゾル値を計測しても副腎機能低下の判断は困難である.1つの方法として高度炎症状態では上昇するはずの血糖値がむしろ低い場合に副腎機能不全を疑うことはできるが,菌血症や糖尿病治療薬によって生じている可能性もあるため,確実な判定とはならない.
※ただし,低血糖を合併した敗血症は予後が非常に悪いことから,私は低血糖を見た時点で躊躇せずステロイド投与を行っている.敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり,ステロイドカバーの役割を担う可能性は残されている.
■2004年のメタ解析[5]では,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告され,これを根拠としてSSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨された経緯がある.
■2008年に報告された二重盲検多施設共同RCTであるCORTICUS study[6]は症例数が500例と大規模であり,28日死亡率はステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析では,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには,ベースの患者の重症度が低い,ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.
■2009年のメタ解析[7]では,少量ステロイド長期投与による死亡率の改善効果がみられ,さらに低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを報告している.これらから,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要がある可能性が示唆され,比較的軽症の敗血症性ショックで使用すると害が益を上回る可能性があることを考慮すべきであるとされた.
2.APROCCHSSとADRENAL
■2018年になり,the New England Juornal of Medicineに同時に2つの大規模RCTであるAPROCCHSS[1]とADRENAL[2]が報告された.以下にその結果の概要を示す.
■SOFAスコアとAPACHEⅡスコアでの重症度の直接比較はできないものの,実際に対照群の90日死亡率を見るとAPPROACCHSSの方が明らかに高い.重症度が高いという見方もとれるかもしれないが,近年の敗血症性ショックの死亡率で40%台というのは先進国にしては高い.ベースラインの治療成績自体に差がある可能性はある.一方で,ショック離脱や人工呼吸器離脱に関してはいずれの試験も有意に改善もしくは改善傾向がみられている.
■この2試験を含んだメタ解析が2報[8,9]ある.Annaneらによる61報RCT,12192例のコクランメタ解析[8]では,ステロイドは28日死亡リスクをぎりぎりではあるが減少させたという結果であった(RR 0.91, 95%CI 0.84-0.99).長期の死亡リスクは有意ではなかったが(RR 0.97, 95%CI 0.91-1.03)が,院内死亡リスクを有意に減少させた(RR 0.90, 95%CI 0.82-0.99).他のアウトカムでは,ICU滞在時間を減少させ(平均差-1.07日, 95%CI -1.95to-0.19),在院日数を減少させた(MD -1.63日, 95%CI -2.93to-0.33).有害事象では,ステロイドは筋力低下のリスクを増加させるが(RR 1.21, 95%CI 1.01-1.44),細菌感染リスクを増加させなかった(RR 1.06, 95%CI 0.95-1.19).その他,高Na血症リスクと高血糖リスクが増加した.胃十二指腸潰瘍,脳卒中,心臓イベント,神経精神症状には有意差はみらなかった.
■一方,Fangらの37報RCT,9564例のメタ解析[9]では,ステロイドの使用は28日死亡リスク(RR 0.90, 95%CI 0.82-0.98, I2=27%),ICU死亡リスク(RR 0.85, 95%CI 0.77-0.94, I2=0%),院内死亡リスク(RR 0.88, 95%CI 0.79-0.99, I2=38%)を有意に低下させた.また,ステロイドは7日目のショック離脱(MD 1.95, 95%CI 0.80-3.11)および血管作動薬非投与日数(MD 1.95, 95% CI 0.80-3.11)とICU在室日数(MD -1.16, 95%CI -2.12to-0.20),7日目のSOFAスコア(MD -1.38, 95%CI -1.87to-0.89)およびショック離脱までの期間(MD -1.35, 95%CI -1.78to-0.91)を有意に改善した.一方で,高血糖および高Na血症のリスク増加がみられた.
■これらのことから,最もハードアウトカムである死亡率に関しては議論の余地があるが,ショック離脱に関しては低用量ステロイド治療は肯定的にみられる.
3.今回の患者レベルでのメタ解析について
■今回の患者レベルでのメタ解析では,1998年から2019年までの17報のRCTにおいて個別の患者が提供された.うち,主要評価項目のデータが提供された7報のうち3報はバイアスリスクが少ないと判定され,その3報が今回の主な解析対象の91.8%を占めた.7報のメタ解析では,90日死亡リスクに有意差はみられなかったが(RR 0.93, 95%CI 0.82-1.04; エビデンスは中等度の確実性),ネットワークメタ解析では,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用療法が最も優れており,90日全死亡リスクを有意に低下させた(RR 0.88, 95%CI 0.81-0.97; エビデンスは中等度の確実性).ステロイド投与は血管作動薬非投与日数(平均差1.24日; 95%CI 0.74-1.73; 高い確実性)を有意に改善させたが,それ以外の副次アウトカムには有意差はみられていない.各種サブ解析でも有意差はみられなかった.
■この結果から,ヒドロコルチゾンによって得られる益はショック離脱に限られる.死亡リスク減少効果まで期待するならヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用なら使えそうだとなるかもしれないが,前述の通り,死亡率が40%台のフランスからのAPROCCHSSにかなり引っ張られている部分があり,ベースの治療成績等までは踏まえられていないことに注意が必要である.外的妥当性を介入する上で,自施設の治療成績も鑑みた上で使用するかを熟慮しないと,害が益を上回る可能性もある.
[1] Annane D, Renault A, Brun-Buisson C, et al. Hydrocortisone plus Fludrocortisone for Adults with Septic Shock. N Engl J Med 2018; 378: 809-18(PMID: 29490185)
[2] Venkatesh B, Finfer S, Cohen J, et al. Adjunctive Glucocorticoid Therapy in Patients with Septic Shock. N Engl J Med 2018; 378: 797-808(PMID: 29347874)
[3] Keh D, Trips E, Marx G, et al. Effect of Hydrocortisone on Development of Shock Among Patients With Severe Sepsis: The HYPRESS Randomized Clinical Trial. JAMA 2016; 316: 1775-85(PMID: 27695824)
[4] Bone RC, Fisher Jr CJ, Clemmer TP, et al. A controlled clinical trial of high-dose methylprednisolone in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 1987; 317: 653-8(PMID: 3306374)
[5] Annane D, Bellissant E, Bollaert PE, et al. Corticosteroids for severe sepsis and septic shock: a systematic review and meta-analysis. BMJ 2004; 329: 480(PMID: 15289273)
[6] Sprung CL, Annane D, Keh D, et al. Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med 2008; 358: 111-24(PMID: 18184957)
[7] Minneci PC, Deans KJ, Eichacker PQ, et al. The effects of steroids during sepsis depend on dose and severity of illness: an updated meta-analysis. Clin Microbiol Infect 2009; 15: 308-18(PMID: 19416302)
[8] Annane D, Bellissant E, Bollaert PE, et al. Corticosteroids for treating sepsis in children and adults. Cochrane Database Syst Rev 2019; 12: CD002243(PMID: 31808551)
[9] Fang F, Zhang Y, Tang J, et al. Association of Corticosteroid Treatment With Outcomes in Adult Patients With Sepsis: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Intern Med 2019; 179: 213-22(PMID: 30575845)