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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【実験】敗血症性DICに対するrTMについて人工知能のChatGPTは学習しているか?

■DIC(播種性血管内凝固)は日本では研究は盛んだが,海外では治療対象とみなされていなことも多く,それゆえDICの知名度自体が海外では低い.また,その治療薬であるrTM(遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリン)も日本でしか承認されていない薬剤である.では,DICに対するrTMの有効性をAIはどう認識しているのであろうか?対話型AIで最も利用されているChatGPTは英語圏ベースでの機械学習による訓練データから回答を生成する.ChatGPTはすべての科学論文を網羅しているわけではないことから,英語圏ではマイナー扱いのDICやrTMに関する知識を有していない可能性もある.

■まずは,ウェブアクセスできない状態,すなわち機械学習による訓練データからのみの回答生成を試みてみると,DICやrTMが何なのかに関しては基礎研究ベースの知識については正確な回答が生成された.では,「DICにrTMが有効な臨床研究」はどこまで学習しているのか?

1.GPT-3.5での実験

■ChatGPTの使い方は様々だが,ここでは,プロンプトテクニックは用いず,一般的によく行われるであろう質問文でChatGPT(現在は無料ユーザーがほとんどのためGPT-3.5を選択)に質問を行った.普通に「敗血症性DICにrTMは有効か?」という質問のやり方では基礎研究結果で回答してくるため,臨床研究に絞る質問にしている.
プロンプト(質問や要求)
敗血症による播種性血管内凝固に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンが有用かについて、これまでの臨床研究結果から述べてください。

Chat-GPT(GPT-3.5)の回答
残念ながら、私の知識は2021年までのものであり、最新の臨床研究結果にはアクセスできません。したがって、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンに関する最新の臨床研究結果については提供することができません。ただし、一般的な情報として、トロンボモデュリンは血管内凝固や炎症反応に関与するタンパク質であり、敗血症による播種性血管内凝固の治療に関して一部の研究が行われています。

遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンの臨床研究に関する具体的な情報を提供するためには、最新の医学文献や臨床試験データを参照する必要があります。私はそれらの情報にアクセスできませんが、敗血症や播種性血管内凝固の治療における新たな治療法やバイオテクノロジーの応用について、医療専門家や研究者に相談することをお勧めします。彼らは最新の研究結果や進歩について詳細な情報を提供できるでしょう。

プロンプト(質問や要求)
具体的にどのような臨床研究があるのかについては回答を生成できませんか?

Chat-GPT(GPT-3.5)の回答
申し訳ありませんが、私は具体的な研究や試験結果についての情報を持っていません。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンに関する最新の臨床研究については、医学文献や臨床試験データベースを参照することをお勧めします。それらの情報源では、特定の研究や試験の詳細な結果や進捗状況について報告されています。医療専門家や研究者が行っている最新の研究を追跡することで、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンが敗血症による播種性血管内凝固の治療において有用であるかどうかについての情報を入手できるでしょう。
GPT-3.5は敗血症性DICに対するrTMの臨床研究の内容そのものは学習していない(学習している時は医学論文のタイトル等を教えてくれる).このため,ChatGPTの無料ユーザーでは敗血症性DICに対するrTMの臨床エビデンスを知ることはできない.実際,GPT-3.5はNPO団体CommonCrawlが集めたWebクロールデータとWikipediaのテキストを使って学習しており,少なくともrTMに関するWikipediaページは存在せず,ThrombomodulinのWikipediaページにもrTMの情報はない.CommonCrawlのデータセットにもrTMの臨床研究データはなかったということだろう.rTMが日本でしか承認されていないマイナーな薬剤であり欧米では知名度がほぼないことがここで響いてくる.

2.GPT-4での実験

■では,まだ利用者数がかなり限られるが,月$20の有料会員(ChatGPT Plus会員)しか利用できないGPT-4(GPT-3.5のアップグレード版)ではどうだろうか?
プロンプト(質問や要求)
敗血症による播種性血管内凝固に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンが有用かについて、これまでの臨床研究結果から述べてください。

Chat-GPT(GPT-4)の回答
私の知識は2021年9月までのものであり、その時点では、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリン (ART-123 または Recomodulin) が敗血症による播種性血管内凝固 (DIC) に有用である可能性が示されています。

この治療法は、血液の凝固と抗凝固のバランスを調整し、DICの進行を阻止または遅らせることを目的としています。トロンボモデュリンは、抗凝固活性をもつため、血液の過剰な凝固を抑制することができます。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンは、このトロンボモデュリンの機能を利用してDICの治療を試みます。

いくつかの臨床試験が行われ、その結果遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンは敗血症性DIC患者のアウトカムを改善する可能性があることが示唆されています。しかし、結果はまだ確定的ではなく、さらなる大規模なランダム化比較試験が必要とされています。

プロンプト(質問や要求)

具体的にどのような臨床研究があるのかについては回答を生成できませんか?

Chat-GPT(GPT-4)の回答
私の知識の範囲内で、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンに関する具体的な臨床試験をいくつかご紹介します。

SCARLET試験(Phase 3): 遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリン(ART-123)を敗血症性DIC患者に対して投与し、プラセボと比較して28日間の全死亡率にどの程度影響するかを評価した多国籍、二重盲検、ランダム化比較試験です。2019年の結果は、ART-123群とプラセボ群との間で統計学的に有意な差は見られませんでしたが、一部のサブグループでは利益が観察されました。
※筆者より注釈:SCARLET試験の対象はDICではなく凝固障害である.

日本で行われたフェーズ3試験:2010年に行われたこの試験では、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリン(ART-123)がDICの治療に有効であることが示されました。投与群の死亡率が低下し、DICの解消率が向上しました。
※筆者より注釈:死亡率は低い傾向はあったが統計学的有意差はない

フェーズ2試験:敗血症性DIC患者に対してART-123を使用することで、6日目のDICスコアの改善や28日死亡率の低下が観察されました。
※筆者より注釈:死亡率は低い傾向があったが統計学的有意差はない
■GPT-4は死亡率についてやや不正確な部分はあるが,主要なRCTを学習できていた.GPT-3.5からGPT-4へのアップグレードの際,学習範囲がどう変化したかについてはモデルのトレーニングに用いられた具体的なデータセットの詳細がOpenAI社から公開されていないが,GPT-3.5の学習範囲に加えて,マルチモーダルなデータを使って学習しているとされ,おそらくこの中にrTMの臨床研究データが含まれたのだと思われる(学習データの推定値はGPT-3.5が少なくとも570GB以上,GPT-4が30~160TBであり,数百倍になっている).

3.ウェブアクセス機能を搭載したGPT-4での実験

■ChatGPTは拡張ツールもリリースされており,ウェブアクセス機能を搭載したものとして,BingAI,PerplexityAI,GPT-4 browse with Bingがある(webchatGPTは現在使用できなくなっている).ウェブアクセスが可能なら理論上は学習をしていなくても論文情報を取得できることになる.これら3種のツールについても検証した.

(1)BingAI
■BingAIはGPT-4とMicrosoft社の検索エンジンBingがコラボレーションしたものであり,無料で全ユーザーが使用可能である.ChatGPTに比べて回答は短く簡潔になる.
プロンプト(質問や要求)
敗血症による播種性血管内凝固に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンが有用かについて、これまでの臨床研究結果から述べてください。

BingAIの回答
遺伝子組み換え型ヒト可溶性トロンボモジュリン(rhTM)は播種性血管内凝固症候群(DIC)治療のkey drugとして注目されていますが、現時点では死亡率の改善を示すエビデンスは存在しません。敗血症性DIC症例を、rhTM投与36例(rhTM群)と非投与34例(non―rhTM群)で後方視的に比較検討した結果、DIC離脱日数はrhTM群で有意に短期間であったが、離脱率と生存率には有意差は認められませんでした。rhTMは敗血症性DIC治療において、DIC罹患期間の短縮に寄与することが示唆されました。
※筆者による注釈:J-SEPTIC DIC studyやメタ解析で死亡率を改善したとするエビデンスは存在する.
■Bingは学術論文に特化した検索エンジンではないため,論文情報取得方法が一般的なやり方ではなく主要エビデンスを拾えていはおらず,時系列的な最新レビューを示したものでもない.また,提示されたのは国内の特定の施設での前後比較研究結果である.ソースも4つ中臨床研究論文が1つ,特定の臨床研究論文の解説が2つ,レビューが1つであった.エビデンスを質問した結果としてはかなり不正確といえる.

(2)PerplexityAI
■PerplexityAIも全ユーザーは無料で利用可能である.OpenAI社が開発した自然言語処理プラットフォームであり,様々なソースからの情報を要約して質問文に回答する(エビデンス要約機能).検索範囲を学術分野に限定するフィルタリング機能が搭載されている他,GPT-4によるcopilot機能も有している.
プロンプト(質問や要求)
敗血症による播種性血管内凝固に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンが有用かについて、これまでの臨床研究結果から述べてください。

PerplexityAI(Academic filtering,GPT-4 copilot)の回答
遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンの有用性について、いくつかの臨床研究が行われています。ある研究では、敗血症による播種性血管内凝固を合併した123人の患者を対象に、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンを投与した場合、血小板数、プロトロンビン国際標準化比(PT-INR)、および線溶産物が生存者では有意に改善したことが報告されています。また、別の研究では、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンの投与がDICの改善と生存率の向上につながることが示されています。ただし、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンの投与には、出血のリスクが伴うことがあります。また、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンの有用性については、さらなる研究が必要であるとされています。

以上のように、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンは、敗血症による播種性血管内凝固の治療に有用であることが示されていますが、出血のリスクがあるため、投与には注意が必要です。また、遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンの有用性については、さらなる研究が必要であるとされています。
■詳細が提示された論文は1つのみで,なぜか海外Ⅱb治験であった.エビデンス要約は概ね正確であるが,引用する情報の優先順位付けが不適切と言える.ソースは9つが提示され,うち8つが臨床研究でPubMed/PMCから引用している.精度としてはBingAIよりはるかに上であろう.

(3)GPT-4 browse with Bing
■GPT-4 browse with Bingは,現時点では月$20の有料会員(ChatGPT Plus会員)しか使用できない.BingAIと同じく,GPT-4とBingのコラボレーションではあるが,BingAiがウェブ検索重視なのに対し,GPT-4 browse with Bingは訓練データ重視という違いがある.出力できる回答もGPT-4 browse with Bingの方が長い.
プロンプト(質問や要求)
敗血症による播種性血管内凝固に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデュリンが有用かについて、これまでの臨床研究結果から述べてください。

GPT-4 browse with Bingの回答
遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモデリュリン(rhTM)による敗血症性凝固異常症の治療効果については、まだ一致した見解が得られていませんが、一部の研究では有望な効果が示されています。メタ分析によれば、rhTMは敗血症による播種性血管内凝固(DIC)の治療において、死亡率を有意に低下させ(オッズ比0.54、95%信頼区間0.42-0.71)、DICの解消を改善しました(オッズ比2.88、95%信頼区間1.83-4.52)。また、rhTM群と対照群との間で出血合併症の発生率に有意な差はありませんでした(オッズ比0.92、95%信頼区間0.66-1.28)。これらの結果から、rhTMは敗血症によるDICの治療において比較的効果的かつ安全な抗凝固剤であるとの結論が導かれました。

しかし、別のメタ分析では、rhTM群での死亡率のリスクは約13%低下しましたが、この差は統計的に有意ではありませんでした(相対リスク0.87、95%信頼区間0.74-1.03、p=0.10)。重篤な出血合併症のリスクはrhTM投与で増加しないと報告されましたが、死亡率についてのエビデンスの確実性は中等度、出血についてのエビデンスの確実性は低いと判断されました。また、全死因死亡率の予想効果を検討する低リスクバイアス試験を受け入れるか否定するための必要な情報量の42.0%しか現時点では利用可能ではないとの結果が示されました。この更新されたレビュー(最新のSCARLET試験を含む)では、現時点ではrhTMの敗血症性凝固異常症に対する有益な効果について確定的な判断を下すことはできませんが、一部の有利な効果が示唆されました.

SCARLETというランダム化比較試験では、rhTMとプラセボの間で28日全死因死亡率に有意な差はなかったと報告されています(26.8%対29.4%、p = 0.32)。しかし、SCARLET試験の事後解析では、rhTMの初回投与時に敗血症関連凝固異常(SAC)の特徴を持つ患者や、ヘパリンを受けていない患者はrhTMから利益を得る可能性があると示唆されています。また、基線時のトロンビン生成バイオマーカー濃度が高い患者で絶対リスク減少が大きかったという結果もあります。

さらに、3つの多施設観察研究の分析では、D-ダイマー(Me 51900 (IQR 35200–113000) ng/mL)とフィブリン分解産物(Me 120200 (IQR 79200–266000) ng/mL)の濃度が高い敗血症患者において、rhTMは28日死亡率(調整リスク差RD -17.8% (95%CI -28.7 to -6.9%))および入院死亡率(調整RD -17.7% (95%CI -27.6 to -7.8%))を低下させると関連していました。
■一般的なレビュー論文には及ばないが,システマティックレビューを中心に述べ,SCARLETにも触れており,内容も正確であり,最も優れた回答である.

4.まとめ

■以上の結果をまとめると以下の通りである.
「敗血症性DICに対するrTMの臨床研究のエビデンス」についての回答精度
1位.GPT-4 browse with Bing(有料)
2位.PerplexityAI(無料。代表的研究の選択はイマイチ)
3位.GPT-4(有料。主要RCTを網羅。一部情報不正確)
4位.BingAI(無料。情報ソース選択精度が悪く,情報不正確)
5位.GPT-3.5(無料。学習データに情報なく提示不可)
■この通り,現時点ではChatGPTに敗血症性DICのrTMの有効性を質問するにはまだまだ課題がある.今回のClinical Quetionに限った話ではないが,特定のエビデンスを質問する際は,その内容が日本のみの独自のものだったりとローカルすぎると学習データに含まれていない可能性があること,ウェブアクセスが可能なAIでも入手できる各情報ソースの順位付けができないこと,情報がまだまだ不正確な部分が多いことに留意しておく必要がある.
by DrMagicianEARL | 2023-06-07 12:32 | 敗血症性DIC

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