【RCT】COVID-19へのメトホルミンはlong-COVIDリスクを41%減少させた(COVID-OUT)
■メトホルミンのCOVID-19に対する機序であるが,SARS-CoV-2のウイルスタンパク質の翻訳がウイルス複製の抑制の特に敏感な標的であることが言われており,メトホルミンがmTOR阻害を通じてタンパク質翻訳を抑制することができることが示されている.実際,メトホルミンは,細胞培養と人間の肺組織の両方で生理学的に関連した投与量でSARS-CoV-2に対する体外活性を示していた.また,SARS-CoV-2で感染した人の気管支および肺胞上皮細胞では,メトホルミンはオートファジーの流れを回復し,NSP6によるカテプシンBに対する阻害を軽減した.また,NRF2を介した細胞抗酸化反応を増強して酸化ストレスを軽減することも報告されている.
■COVID-OUTでのメトホルミン投与の対象は過体重または肥満(BMI≧25,アジア人またはラテン系はBMI≧23)としており,参加者のBMI中央値は29.8 (IQR 27.0-34.2)であった.また,糖尿病のない患者も対象に含まれる.メトホルミン投与量は,1日目に500mg,2〜5日目に500mgを1日2回,6〜14日目は午前に500mgと午後に1000mgとしている.非糖尿病患者を含み,かつ比較的高用量であるが,安全性に問題は見られていない.
■long-COVID発生率に特に影響を与えうる因子としてワクチンと変異株がある.参加者のうち新型コロナワクチン接種者は55.0%,ブースター接種者(従来株ワクチン)5.1%であった.また,変異株についてはデルタ株流行期の患者が多かった.ただし,サブグループ解析においてはこれらの因子を考慮しても,メトホルミンの効果は一貫していた.
COVID-19の外来治療と10ヶ月以上のCOVID-19罹患後症状の発生率(COVID-OUT):多施設共同無作為化四重盲検並行群間第Ⅲ相試験
Bramante CT, Buse JB, Liebovitz DM, et al. Outpatient treatment of COVID-19 and incidence of post-COVID-19 condition over 10 months (COVID-OUT): a multicentre, randomised, quadruple-blind, parallel-group, phase 3 trial. Lancet Infect Dis 2023 Jun.8[Online ahead of print]
https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00299-2
Abstract
【背景】COVID-19罹患後遷延症状(別名:long-COVID/新型コロナウイルス後遺症)は何百万人もの人々に影響を及ぼす可能性のある新たな慢性疾患として浮上している.我々は,SARS-CoV-2感染後すぐにメトホルミン,イベルメクチン,またはフルボキサミンを用いた外来でのCOVID-19治療が、long-COVIDのリスクを減らすかどうかを評価することを目的とした.
【方法】我々は,米国6箇所で分散型、無作為化四重盲検並行群間第Ⅲ相試験(COVID-OUT)を実施した.30~85歳の成人で,過体重または肥満で,COVID-19の症状が7日未満かつ登録前3日以内にSARS-CoV-2 PCR陽性または抗原検査陽性が確認された患者を対象とした.参加者は,メトホルミンとイベルメクチン,メトホルミンとフルボキサミン,メトホルミンとプラセボ,イベルメクチンとプラセボ,フルボキサミンとプラセボ,またはプラセボとプラセボを受ける2×3並列機能的無作為化(1:1:1:1:1:1)で無作為に割り付けられた.参加者,研究者,ケアプロバイダー,および結果評価者は,研究群の割り付けについて盲検化された.主な結果は14日目の重症COVID-19で,これらのデータは以前に公開されている.試験は全国的にリモートで提供されたため,予め定められた主要なサンプルはmITT(modified intention-to-treat)で,試験治療を一切受けていない参加者は除外された.医療提供者によるlong-COVID診断は,事前規定されていた長期的な二次評価項目であった.この試験は完了し,ClinicalTrials.gov(NCT04510194)に登録されている.
【結果】2020年12月30日から2022年1月28日までの間に6602人が適格性を評価され,1431人が登録されて無作為に割り付けられた.試験薬の投与を受け,mITT集団に含まれた1323人の参加者のうち,1126人が長期的な追跡を承諾し,long-COVIDの評価後の180日目で少なくとも一度は調査を完了した(564人がメトホルミンを投与され,562人が対応するプラセボを受け取った.メトホルミンvsプラセボ試験の一部の参加者は,イベルメクチンまたはフルボキサミンを受けるよう無作為に割り付けらた).1126人の参加者のうち1074人(95%)が少なくとも9ヶ月の追跡を完了した.1126人の参加者のうち、632人(56.1%)が女性,494人(43.9%)が男性で,632人の女性のうち44人(7.0%)が妊娠していた.年齢の中央値は45歳(IQR 37-54)で,BMIの中央値は29.8 kg/m2(IQR 27.0-34.2)であった.全体として、1126人の参加者のうち93人(8.3%)が300日目までにlong-COVIDの診断を受けたと報告した.メトホルミンを受けた参加者では,300日目までの長期COVIDの累積発生率は6.3%(95% CI 4.2-8.2),同等のメトホルミンプラセボを受けた者では10.4%(7.8-12.9)であった(HR 0.59, 95%CI 0.39-0.89;p=0.012).メトホルミンの有益な効果は事前規定されていたサブグループ全体で一貫していた.症状発現から4日未満にメトホルミンを開始した場合(4日以上と比較して),HRは0.37(95%CI 0.15-0.95)であった.イベルメクチン(HR 0.99, 95% CI 0.59-1.64)またはフルボキサミン(HR 1.36, 0.78-2.34)はlong-COVIDの累積発生率には影響を与えなかった.
【結論】メトホルミンを用いた外来治療は,プラセボと比較してlong-COVIDの発生率を約41%,絶対的には4.1%減少させた.メトホルミンはCOVID-19の外来治療として使用する際に臨床的な利点があり,世界中で利用可能で,低コストで安全である.