【RCT+miniRev】敗血症へのメロペネム持続投与に有益性を認めず(MERCY RCT)
■敗血症患者に対する抗菌薬については,SSCG 2021では「敗血症または敗血症性ショックの成人に対して維持(最初のボーラス投与後)のために従来のボーラス注入よりもβ ラクタムの長期注入を用いることを提案する.(弱い推奨,中等度の質のエビデンス)とされており,日本版敗血症診療ガイドライン2020においても「敗血症に対するβラクタム系抗菌薬の治療において,抗菌薬の持続投与もしくは投与期間の延長を行うことを弱く推奨する.(GPADE 2B,エビデンスの確実性=中)」とされていて,いずれのガイドラインも持続投与/投与時間延長を推奨する内容となっている.
■しかし,敗血症に対する抗菌薬持続投与のRCTは,メタ解析では有益性が示されているものの,どれもサンプル数の少ない小規模研究であり,バイアスリスクも高い.最もN数が多いのはPaulらのRCTであり(432例),それ以外のRCTはどれも数十〜百例ちょっと程度である.そして,Paulらの432例RCTでは有意差がついていないどころか傾向も全くなく,RR 1.00(95%CI 0.72-1.38)であった.
■そして今回,過去最大規模の患者数607れいを登録した,敗血症への抗菌薬持続投与を検討したRCTであるMERCYがJAMAにpublishされたので紹介する.本研究では主要評価項目として「全死亡+耐性菌(PDRまたはXDR)の検出」の複合アうとカムを評価して,有意差は見られず,副次評価項目の死亡率や抗菌薬非投与日数,ICU非在室日数にも有意差はつかなかった.N数を考えると本研究が今後の推奨に影響を与える可能性はある.
■なお,抗菌薬の投与時間延長や持続投与といった投与戦略であっても,すべての患者が十分な抗菌薬のうどを達成するわけではない(PMID: 30172963,PMID: 30986758).2022年3月にpublishされたHagelらの249例RCT(PMID: 35106617)では,敗血症患者に対するTAZ/PIPCの持続投与をTDM管理下で行うか否かで比較し,28日死亡率(21.6% vs 25.8%)や臨床的治癒率,微生物学的治癒率で有意差はないもののTDM管理を行なった方が低い傾向が見られている.
敗血症患者におけるメロペネムの持続投与と間欠投与の比較:MERCY無作為化臨床試験
Monti G, Bradic N, Marzaroli M, et al. Continuous vs Intermittent Meropenem Administration in Critically Ill Patients With Sepsis: The MERCY Randomized Clinical Trial. JAMA 2023 Jun.16
PMID: 37326473
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2806400
Abstract
【背景】メロペネムはβ-ラクタム系抗生物質として広く処方されている.メロペネムは,最小発育阻止濃度以上の薬物濃度を一定に保つため,持続点滴で投与すると薬力学的に最大の効果を発揮する.メロペネムの持続投与は,間欠投与と比較して,臨床転帰を改善する可能性がある.
【目的】敗血症を有する重症患者において,メロペネムの持続投与が,間欠投与と比較して,死亡率および全薬剤耐性菌または超薬剤耐性菌の出現の複合を減少させるかどうかを判定する.
【デザイン,設定,患者】4カ国(クロアチア,イタリア,カザフスタン,ロシア)の26病院の31の集中治療室で,担当臨床医からメロペネムを処方された敗血症または敗血症性ショックの重症患者を登録する二重盲検ランダム化臨床試験.患者は2018年6月5日から2022年8月9日の間に登録され,最終的な90日間のフォローアップは2022年11月に完了した.
【介入】患者を持続投与群(n=303)または間欠投与群(n=304)のいずれかに同量の抗菌薬メロペネムを投与することに無作為に割り付けた.
【評価項目】主要評価項目は,全死亡と28日目の全薬剤耐性菌または超薬剤耐性菌の出現の複合であった.副次評価項目は,28日目の生存と抗菌薬非投与日数,28日目の生存と集中治療室の非在室日数,90日目の全死因死亡の4つであった.有害事象として痙攣,アレルギー反応,死亡が記録された.
【結果】607例の患者(平均年齢64[標準偏差 15]歳,203例が女性[33%])は,28日目の主要評価項目の評価がなされ,90日目の死亡のフォローアップを完了した.大多数(369例,61%)は敗血症性ショックであった.入院から無作為化までの期間中央値は9日(IQR 3~17日),メロペネム治療期間中央値は11日(IQR 6~17日)であった.クロスオーバーイベントは1件のみ記録された.主要評価項目は,持続投与群では142例(47%),間欠投与群では149例(49%)で発生した(RR 0.96 [95%CI 0.81-1.13], P=0.60).4つの副次評価項目のうち,統計的に有意なものはなかった.試験薬に関連する発作やアレルギー反応の有害事象は報告されなかった.90日後の死亡率は,持続投与群(303例中127例),間欠投与群(304例中127例)とも42%であった.
【結論】敗血症の重症患者において,メロペネムの持続投与は,間欠投与と比較して,28日目の死亡率および全薬剤耐性菌または超薬剤耐性菌の出現という複合アウトカムを改善することはなかった.