【RCT】敗血症性ショック患者において制限輸液は1年後死亡やPICSに影響を与えず
CLASSIC試験の輸液プロトコル■今回,このCLASSIC試験において,「制限輸液は長期予後を改善する」という仮説をもとに事前に規定されていた[2]評価項目である1年後長期予後の結果がIntensive Care Med誌にpublishされたので紹介する.結果は,制限輸液群と標準的輸液群と1年死亡率や長期の健康関連QOLに差はみられなかった.なお,これまで制限輸液と標準的輸液を比較したRCTが行われるようになったが,Sivapalanら[3]のシステマティックレビューでは,最も長いフォローアップが行われたバイアスリスクの低い8つの試験での90日全因死亡リスクに差はみられていない(RR 0.99; 97%CI 0.89–1.1).
制限輸液群は以下の条件のいずれかに該当するならば輸液可
条件1:重度の灌流不全がある場合(以下のいずれかがある場合)
・血清乳酸値≧4mmol/L (≧36mg/dL)
・血管収縮薬または強心薬投与下で平均動脈圧≦50mmHg
・膝頭の縁を超える網様紅斑
・無作為化後2時間以内で尿量<0.1ml/kg/hr
条件2:体液の喪失(消化管からやドレーンからの流出)がある場合
条件3:脱水または電解質欠乏を補正する場合
条件4:(投薬や栄養を含め)総水分摂取量として必要と考えられる1日1Lに満たない場合
標準輸液群は以下の条件のいずれかに該当する場合に輸液可
条件1:輸液を行うことで,SSCG 2016に記載されている血行動態因子に改善が見られる場合
条件2:予測あるいは観察された体液喪失分を補う,または脱水や電解質異常を補正する場合
条件3:各施設のICUが保有する維持輸液のプロトコールが存在する場合
成人ICU患者における制限輸液の長期効果:敗血症性ショックを有する場合[1] Meyhoff TS, Hjortrup PB, Wetterslev J et al; CLASSIC Trial Group. Restriction of intravenous fluid in ICU patients with septic shock. N Engl J Med 2022; 386: 2459–70(PMID: 35709019)
Kjær M-BN, Meyhoff TS, Sivapalan P, et al. Long-term effects of restriction of intravenous fluid in adult ICU patients with septic shock. Intensive Care Med 2023 Jun.18[Online ahead of print]
PMID: 37330928
https://doi.org/10.1007/s00134-023-07114-8
Abstract
【目的】欧州における敗血症性ショックに対する保守的なアプローチと自由なアプローチを比較した輸液療法(CLASSIC)試験に参加した成人集中治療室(ICU)患者における制限輸液療法と標準的輸液療法の長期アウトカムを評価すること.
【方法】我々は,1年後の死亡率,EQ-5D-5Lインデックス値とEQビジュアルアナログスケール(VAS)を用いた健康関連の生活の質(HRQoL),およびMini Montreal Cognitive Assessment(Mini MoCA)テストを予め計画された解析で行った.HRQoLと認知機能の欠損データには数値的にゼロが割り当てられ,死亡と同等の状態であるとしてHRQoLにはゼロ,認知機能には最悪のスコアであるゼロを使用し,HRQoLと認知機能の欠損データに対しては複数の補完法を使用した.
※筆者注釈:多重比較になるため,有意水準は0.01に設定されている.
【結果】1554人の無作為化患者の中における1年後の死亡率のデータは患者の97.9%,HRQoLのデータは91.3%,認知機能のデータは86.3%で得られた.制限輸液群では1年後の死亡率は746人中385人(51.3%),標準輸液群では767人中383人(49.9%)であり,絶対リスク差は1.5%(99%CI -4.8 to 7.8)であった.EQ-5D-5Lインデックス値に対する平均差は0.00(99%CI -0.06 to 0.05),EQ VASに対する平均差は-0.65(-5.40 to 4.08),Mini MoCAに対する平均差は-0.14(-1.59 to 1.14)であり,制限輸液群と標準輸液群での結果は生存者に限っても類似していた.
【結論】敗血症性ショックを有する成人ICU患者において,制限輸液療法と標準的輸液療法は1年後の生存率,HRQoL,および認知機能において類似した結果をもたらすが,臨床的に重要な違いは除外できなかった.
※筆者注釈:99%CIが-4.8から7.8までの範囲に及ぶため,「臨床的に重要な違いは除外できなかった」としている.
[2] Kjær M-BN, Meyhoff TS, Madsen MB et al. Long-term patient-important outcomes after septic shock: A protocol for 1-year follow-up of the CLASSIC trial. Acta Anaesthesiol Scand 2020; 64: 410–16(PMID: 31828753)
[3] Sivapalan P, Ellekjaer KL, Jessen MK et al. Lower vs higher fluid volumes in adult patients with sepsis—an updated systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis. Chest 2023 May2(PMID: 37142091)