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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【論文】入院時のプロカルシトニン測定は菌血症の診断において精度はあまりよくない

■入院時のプロカルシトニン測定は菌血症の診断において精度はあまりよくないという結果がCCMにPublishされたので紹介する.もっとも,プロカルシトニンは細菌感染症による敗血症や重篤な炎症反応が生じた場合のTNF-αなどの炎症性サイトカインの増加により,肺・肝臓・腎臓・筋肉などの全身の細胞で産生されるものであって,敗血症とは異なり重症度がピンからキリまである菌血症という病態においては精度が悪くなるのは当然の話である.どうもプロカルシトニンは重症例以外でも精度が高いという言説が信じられているが,決してそんなことはない.そもそも敗血症に対してですら感度・特異度はせいぜい7~8割である.

■救急外来で他の血液検査項目と一緒にカジュアルにプロカルシトニンをルーティンオーダーしてしまう研修医には「プロカルシトニンの保険点数知ってる?(CRPの20倍である320点)」「プロカルシトニンを測ることで何を診断したいの?」「この患者で検査前確率は高い?高くない?」「プロカルシトニンの精度は?」「プロカルシトニンの偽陽性,偽陰性知ってる?」と聞いている.これに全て答えられないならルーティンのプロカルシトニンオーダーはやめるべきであろう.

■また,これは明らかに敗血症だと分かるような症例で計測するのは(抗菌薬中止指標にする場合を除けば)無駄であるし,敗血症は否定的な症例で計測するのも事前確率からして無駄である.適正使用しなければ不適切な薬物治療(特に広域抗菌薬)を受けるだろうし,リアルワールドの研究では,プロカルシトニンガイドの不適切使用によりClostridioides difficile 感染が増加したとも報告されている(PMID:28329238).偽陽性や偽陰性を示す疾患も多数ある以上プロカルシトニンに頼ると見逃しも発生する.プロカルシトニンは使わないべきであると言っているわけではなく,検査前確率や検査目的,結果の適切な解釈を意識できないのであればオーダーすべきではない.
敗血症スペクトル全体での菌血症の検出における入院時プロカルシトニン検査の信頼性:実際での利用と性能特性,米国の65病院,2008年-2017年
Lawandi A, Oshiro M, Warner S, et al. Reliability of Admission Procalcitonin Testing for Capturing Bacteremia Across the Sepsis Spectrum: Real-World Utilization and Performance Characteristics, 65 U.S. Hospitals, 2008–2017. Crit Care Med 2023 Jul.3[Online ahead of print]
PMID: 37395622
https://doi.org/10.1097/ccm.0000000000005968

Abstract

【目的】血流感染(BSI)を疑われる患者において,血清プロカルシトニンはしばしば入院時にオーダーされるが,この状況でのその性能特性はい依然として議論の余地がある.この研究の目的は,敗血症有無にかかわらず疑われるBSI患者の入院時のプロカルシトニンの使用パターンと性能特性を評価することであった.

【デザイン】後ろ向きコホート研究

【設定】Cerner HealthFactsデータベース(2008-2017年)

【患者】入院後24時間以内に血液培養とプロカルシトニンの採取が行われた入院患者(18歳以上)

【介入】なし

【測定および主な結果】プロカルシトニンの検査頻度が決定された.病原体別のBSIを検出するための入院時のプロカルシトニンの感度が算出された.発熱/体温低下,ICU入院,および米国疾病予防管理センター(CDC)の基準で定義された敗血症を有する患者におけるBSIのための入院時プロカルシトニンによる判別を評価するために受信者動作特性曲線(ROC)下の面積(AUC)が算出された.AUCはWald検定を用いて比較され,p値は多重比較に対して調整された.プロカルシトニンを報告する65の病院では,入院時の血液培養を行った739,130例のうち,74,958例(10.1%)が入院時にプロカルシトニン検査を受けた.入院日のプロカルシトニン検査を受けた患者の大部分(83%)は,再検査を受けていなかった.プロカルシトニンの中央値は,病原体,BSIの発生源,および急性疾患の重症度によって大幅に異なっていた.0.5ng/mL以上のカットオフ値でのBSI検出の感度は全体で68.2%であり,敗血症のない腸球菌BSIの58.0%から肺炎球菌性敗血症の96.4%まで変動した.入院時のプロカルシトニンは,全体のBSIに対しては最良の場合でも中程度の識別力を示し(AUC 0.73; 95%CI 0.72-0.73),主要なサブグループでは追加の有用性はみられなかった.プロカルシトニンが陽性(39.7%)と陰性(38.4%)であった場合の入院時の血液培養検体を採取した患者間での経験的抗菌薬の使用割合は異ならなかった.

【結論】65の研究病院において,入院時のプロカルシトニンはBSIを否定するための感度が低く,菌血症を伴う敗血症と潜在性BSIの判別能力においては中程度から不良であり,経験的抗菌薬の使用に有意な影響をもたらすことはなかった.入院時のプロカルシトニンによる臨床決定の適切な使用とリスク評価は必要である.

by DrMagicianEARL | 2023-07-19 10:27 | 敗血症

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