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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【論文】スペクトラムバイアスに注意!検査の感度・特異度は有病率の影響を受けることがある

■感度・特異度と有病率(検査前確率・事前確率)は理論上は独立しており,有病率が変わっても感度・特異度が変わることは通常ない.しかし,実際には有病率が変化することで感度・特異度も変化することがある,という研究が複数でてきている.今回紹介する研究は,CMAJにpublishされた,検査の感度が疾患の有病率と正の相関を,特異度が有病率と負の相関を示すことを,6909報の診断検査精度研究のメタエピデミオロジー解析を通じて明らかにしたものである.この結果,有病率が疾患のスペクトラムを示す代理変数であり,診断テスト精度の評価を解釈する際に考慮すべきだと結論付けている.

■なぜこのようなことが起こるのかについては,「スペクトラムバイアス(あるいはスペクトラム効果)」として説明している.スペクトラムバイアス(PMID:12353947)は,患者の疾患の範囲(すなわち疾患スペクトラム)が研究の選択基準によって偏っている場合に起こる.これは特に診断検査の感度と特異度を評価する際に重要で,そのテストの評価が特定の患者集団(例えば,症状が重い患者や病気が進行している患者)に偏っている場合,テストの精度を過大評価する可能性がある.

■具体的には,例えば,重症度の高い疾患の患者に対して検査を行った場合,その検査は疾患が軽度であるかまたは症状があまり顕著でない患者に対して行った場合よりもより良い結果を示す可能性がある.つまり,患者集団の特性(疾患のスペクトラム)が異なる場合、診断テストの感度や特異度も変動する.

■これは,特にリアルワールドでの有病率とはかけはなれた高い検査前確率の集団での検査の感度・特異度を検証したデータを見るとき(よく癌の検査で見かけるが)は特に注意が必要だろう.検査の正確性を評価する際や,それを実際の医療現場で使用する際には、検査対象の患者集団がどのような特性を持つか(例えば,疾患の重症度,疾患のステージ,年齢層,性別など)を考慮に入れる必要がある.これを怠ると,診断テストの結果にスペクトラムバイアスが生じ,正確な診断や評価が難しくなる可能性がある(COVID-19のPCR検査で基礎研究者と臨床現場の人間とで検査精度の認識が異なっていたのもこのスペクトラムバイアスが関連していたと思われる).

■また,このスペクトラムバイアスと対をなすものとして,Will Rogers現象も感度・特異度解釈の際は知っておくべきだろう.スペクトラムバイアスは検査を受ける患者特性の変化の影響であるのに対し,Will Rogers現象は診断(検査を含む)の基準の変化の影響を示す.この現象は,コメディアンであるWill Rogersの「もしオクラホマ州の出稼ぎ労働者がカリフォルニア州に移動したら、両方の州の知的レベルが上がるだろう」という発言に基づいており,1985年のNEJMに登場した(PMID:4000199).例えば,集団A{1, 2, 3, 4, 5}の平均は3,集団B{6, 7, 8, 9, 10}の平均は8であるが,Bの6をAに移すと集団A{1, 2, 3, 4, 5, 6}の平均は3.5に,集団B{7, 8, 9, 10}の平均は8.5であり,どちらの集団の平均値も増加しているという原理に基づく.すなわち,Will Rogers現象は,診断基準等が変化することで全体の疾患の有病率が増加し,疾患の感度も増加する.研究ごとに基準が異なる場合には解釈に要注意である.
感受性と特異性の疾患有病率との関連性:診断テスト精度の6909件の研究分析
Murad MH, Lin L, Chu H, et al. The association of sensitivity and specificity with disease prevalence: analysis of 6909 studies of diagnostic test accuracy. CMAJ 2023; 195: E925-E931
PMID: 37460126
https://doi.org/10.1503/cmaj.221802

Abstract

【背景】感度と特異度は診断検査の特性であり,対象疾患の有病率が変化しても変わらないと予想される.我々は有病率と感度,特異度の変化との関連性を評価した.

【方法】我々は,コクランデータベースのシステマティックレビュー(2003-2020年)で公開された診断検査精度のメタ解析からデータを取得した.我々は,有病率とロジット変換された感度および特異度との関連性を評価するために,混合効果ランダムインターセプト線形回帰モデルを使用した.モデルはすべてのメタ解析を各システマティックレビュー内に組み込まれたものとして評価した.

【結果】我々は,92のシステマティックレビューに含まれていた552のメタ解析から,6909件の診断検査精度研究を解析した.感度については,最低四分位数の有病率と比較して,二番目,三番目,四番目の四分位数は真の陽性例を識別する確率が有意に高かった(それぞれOR 1.17, 95%CI 1.09-1.26; OR 1.32, 95%CI 1.23-1.41; OR 1.47, 95%CI 1.37-1.58).特異度については,最低四分位数の有病率と比較して,二番目,三番目,四番目の四分位数は,真の陰性例を識別する確率が有意に低かった(それぞれOR 0.74, 95%CI 0.69-0.80; OR 0.65, 95%CI 0.60-0.70; OR 0.47, 95%CI 0.44-0.51).各メタ解析内で行われた二変量モデルからのプールされた回帰係数は,有病率が感受性と正の関連性,特異性と負の関連性を持つことを示していた.結果はサブグループ間で一貫していた.

【結論】この大規模な診断研究のサンプルでは,高い有病率は高い推定感度と低い推定特異度と関連していた.臨床医は,診断検査精度の研究結果を解釈する際に,疾患の有病率とスペクトルの意義を考慮するべきある.

by DrMagicianEARL | 2023-07-20 00:25 | 論文読み方,統計

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