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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【論文】TAVI後の感染性心内膜炎患者の患者特性・微生物学的特徴・死亡率

■経カテーテル大動脈弁留置術後(TAVI)後の感染性心内膜炎(IE)の発症率に関してはこれまでの報告はバイアス等もあり,死亡率は11.1%から63.6%とかなり幅がある.そして,TAVI後のIE患者は,手術適応の基準を満たす患者が大多数であるにもかかわらず,手術治療はほとんど行われていない.また,患者特性,微生物学,関連死亡率についての疫学データは非常に限られている.このTAVI後のIE患者の特性,微生物学的特徴,および死亡率を調査した研究がClinical Infectious Diseaseに報告されたので紹介する.TAVI手術前の予防的抗菌薬投与が推奨されているものの,微生物学的特徴が決定されていないことから特定の抗菌薬の推奨がなされていないのが現状であり,今回の結果は予防的あるいは経験的抗菌薬治療において有用なデータとなる.

■本観察研究ではデンマークのTAVI後のIE患者273人(年齢中央値82歳),非TAVIの人工弁後のIE患者1022人(年齢中央値76歳),自己弁IE患者5376人(年齢中央値71歳)が登録された.TAVI後のIE患者は年齢が高い集団ということもあり,フレイルと心血管疾患,COPD,糖尿病,癌の合併が最も多かった.

■微生物学的特徴は,TAVI後IEと自己弁IEではかなり異なっていた.背景因子のマッチング解析でも頻度順位は同様であった.
・TAVI後IE:連鎖球菌30.8%,腸球菌27.1%,黄色ブドウ球菌21.2%
・非TAVIの人工弁IE:連鎖球菌22.2%,腸球菌21.2%,黄色ブドウ球菌17.4%
・自己弁IE:黄色ブドウ球菌28.7%,連鎖球菌24.1%,腸球菌11.4%

■TAVI後早期IE(TAVI後≤12ヶ月)とTAVI後遅期IE(TAVI後>12ヶ月)の比較では,微生物学的分布差はなかったが,TAVI後早期IEではStreptococcus spp.が数的により一般的で,Staphylococcus aureus が少なかった.

■手術を受けた割合はTAVI後のIE患者の3.7%,非TAVIの人工弁の17.8%,自己弁IEの19.5%が受けた.3群で90日死亡率に有意差はなかったが(25%前後),5年間の死亡リスクはTAVI後IE患者が最も高かった(約75%,他の2群は50~60%程度).ただし,背景因子のマッチング後では差はなかった.
経カテーテル大動脈弁留置術後の感染性心内膜炎の患者特性,微生物学,および死亡率
Strange JE, Østergaard L, Køber L, et al. Patient characteristics, microbiology, and mortality of infective endocarditis after transcatheter aortic valve implantation. Clin Infect Dis 2023 Jul.20[Online ahead of print]
PMID: 37470442
https://doi.org/10.1093/cid/ciad431

Abstract

【背景】経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)後の感染性心内膜炎(IE)は高死亡率を伴い,手術はほとんど行われない.そこで,予防策と治療戦略を検討するために,TAVI後のIEの患者特性と微生物学を調査した.

【方法】デンマークの全国レジストリを用いて,TAVI後のIE,非TAVI人工弁(nTPV)後のIE,および原生弁IEの患者を特定した.患者特性,全体的な,早期(≤12ヶ月),および遅延IE(>12ヶ月)の微生物学,および調整前と調整後の死亡率を比較した.

【結果】TAVI後のIE,nTPV後のIE,原生弁IEの場合,それぞれ273例,1022例,5376例を特定した.年齢と脆弱性はTAVI IEで最も高かった(4.8%,中央値年齢82歳,61.9%脆弱).エンテロコッカスはTAVI後のIE(27.1%),nTPV後のIE(21.2%)では一般的で,原生弁IE(11.4%)と比較して多かった.血液培養陰性のIEは,TAVI後のIE(5.5%)では珍しく,nTPV後のIE(15.2%)や原生弁IE(13.5%)と比較して少なかった.調整前の90日死亡率は類似していたが,5年死亡率はTAVI後のIEで最も高かった(75.2%vs57.2%vs53.6%).患者特性と細菌病原体による調整を行った1-90日および91-365日のCoxモデルでは,死亡率に有意な差はなかった.

【結論】TAVI後のIE患者は年齢が高く,脆弱で,原因となる細菌はしばしばエンテロコッカスおよびストレプトコッカスで,血液培養陰性は他のIE患者と比較して珍しい.今後の研究では,エンテロコッカスを対象とした抗生物質予防戦略を検討するべきである.

by DrMagicianEARL | 2023-07-25 01:18 | 感染症

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