【SR】ARTを受けているHIVのウイルス量<1000コピー/mLの患者からの性的伝播リスクはほぼゼロ
■HIVのウイルス量が200コピー/mL未満の場合,性的伝播のリスクはゼロと考えられており,この閾値は多くの高所得環境でU=U(無検出=非伝播)メッセージングに使用されているが,ウイルス量が1mLあたり200コピーを超える場合のリスクは議論の対象となっている.今回,1000コピー以下なら性的伝播リスクはほぼゼロであるというシステマティックレビューがLancetにpublishされたので紹介する.なお,1000コピー以下でも2件の事例のみ感染伝播が発生したが,この2件の患者に関しての研究では研究参加日から数えて6ヶ月ごとに採血されており,ART(抗レトロウイルス療法)開始の日付ではないため,感染が発生した時点でのHIVキャリアのウイルス量にはかなりの不確定性がある.
低レベルのHIV血症におけるHIVの性的伝播リスク:システマティックレビュー
Broyles LN, Luo R, Boeras D, et al. The risk of sexual transmission of HIV in individuals with low-level HIV viraemia: a systematic review. Lancet 2023 Jul.21[Online ahead of print]
PMID: 37490935
https://doi.org/10.1016/s0140-6736(23)00877-2
Abstract
【背景】低レベルのHIV血症を有する抗レトロウイルス療法(ART)を受けている人々からのHIVの性的伝播のリスクは,血漿ベースのウイルス量テストの代替手段を使用する資源に限りのある設定において重要な公衆衛生の意義を有している.本論文は,HIV陽性者,そのパートナー,その医療提供者,および一般大衆にメッセージを伝えるために,HIVウイルス量の異なるレベルでのHIVの性的伝播に関連する証拠をまとめている.
【方法】我々は,2010年1月1日から2022年11月17日までに公開された研究について,PubMed,MEDLINE,Cochrane Central Register of Controlled Trials,Embase,Conference Proceedings Citation Index-Science,およびWHO Global Index Medicusを検索し,系統的なレビューを行った.ウイルス血症の異なるレベルでの性的伝播に関連する研究,無検出=非伝播についての科学,または低レベルウイルス血症の公衆衛生への影響について述べている研究が対象とされた.ウイルス量の閾値または低レベルウイルス血症の定義を特定しない研究,または伝播結果に関する定量的なウイルス量の情報を提供しない研究は除外された.レビュー,研究外のレター,解説,および社説も除外された.バイアスのリスクはROBINS-Iフレームワークを使用して評価された.データは抽出され,異なるHIVウイルス量でのHIVの性的伝播に焦点を当てて要約された.
【結果】244の研究が特定され,そのうち8つが分析に含まれ,25カ国で7762のHIV陽性と陰性のカップルを対象にした.証拠の確証度は中程度であり,バイアスのリスクは低かった.HIV陽性のパートナーがウイルス量が1mLあたり200コピー未満だった場合,3つの研究でHIVの伝播は見られなかった.残りの4つの前向き研究では323件の伝播イベントがあったが,安定して抑制されていると考えられる患者では伝播はなかった.全ての研究で,最近のウイルス量が1mLあたり1000コピー未満だった患者(つまり,以前にHIV感染が診断された患者)での伝播は2件でった.しかし,両方のケースの解釈は,伝播の日付と最近のウイルス量の結果との間の長い間隔(すなわち,50日および53日)によって複雑化された.
【結論】ウイルス量が1mLあたり1000コピー未満の場合,HIVの性的伝播のリスクはほぼゼロである.これらのデータは,この肯定的な公衆衛生メッセージを普及させることにより,HIVを解決し,ARTへの遵守を促進する強力な機会を提供する.これらの発見はまた,代替的なサンプルタイプと技術の導入を促進することで,資源に限りのある設定での全てのHIV陽性者に対するウイルス量テストへのアクセスを促進することができる.