【論文】難治性敗血症性ショックに対するバソプレシン1U初期ローディングは有効かつ安全
■本研究は,日立総合病院救急集中治療センターICUで行われ,18歳以上で,ノルアドレナリン(NA)を0.2γ投与しても改善せず,ステロイド持続投与を行われていない敗血症性ショック患者に対して,バソプレシン(VP)を1U初期ローディングした後1U/hで持続投与を行った.反応性は,初期ローディング後3~5分後の平均動脈圧の最大変化量(ΔMAP)で評価され,既知の研究にならって下位三分位をカットオフとして反応群と非反応群に分けている.
■92例が登録され,VPローディング後のΔMAPの下位三分位数は22mmHgであり,ΔMAPが22mmHgを超える62人の患者を応答者,22mmHg以下の30人を非応答者として分類した.NAの開始からVPの投与までの時間は応答者の方が長く(5 (1.4, 15.7) vs. 1.75 (0.5, 4.9) 時間, p=0.018),24時間24時間以内の血液乳酸濃度は応答者の方が低かった(2.6 (1.6, 4.6) vs. 4.7 (2.9, 8.1) mmol/l, p=0.008).このことから,SOFAスコア(8 vs 8)やAPACHEⅡスコア(19 vs 20)に差はないものの,VP非反応群の方がショックの度合いが重度であることが考えられる.VPの投与時のNAの投与量とカテコラミン指数(CAI)は有意差はないが,これは非反応群が短時間で大量のNAを要したものと思われる.
■主要評価項目では,ΔCAI 6時間は応答者では-10,非応答者では0であり,前者で有意に低かった.ΔCAI 6時間<0を予測するVPローディングによるΔMAPのAUROCは0.843であり,反応のカットオフであるΔMAP>22mmHgはΔCAI 6時間<0に対して感度0.92,特異度0.77であった.院内死亡率に有意差はないが,非反応群の方が高い傾向がみられている(37.7% vs 57.1%, p=0.087).反応群の尿量,輸液量,In/Outバランス,血清乳酸値変化量,血清ACTH,1回心拍出量,時間あたりの最大血圧増加dPmaxも反応群の方が良好であった.ローディング前の1回心拍出量変化,ローディング後dPmx,ACTHに対するΔCAI 6時間<0のAUROCは低く,予測精度はよくなかった.
■有害事象では,末梢虚血は非反応群2例(7.1%),反応群0例(0%)で,前者の方が有意に高かった(p=0.030).腸虚血や心筋虚血では有意な差は見られなかった.
難治性ショックに対するバソプレシンローディング研究(VALOR):前向き観察研究
Nakamura K, Nakano H, Ikechi D, et al. The Vasopressin Loading for Refractory septic shock (VALOR) study: a prospective observational study. Crit Care 2023; 27: 294
PMID: 37480126
https://doi.org/10.1186/s13054-023-04583-7
Abstract
【背景】バソプレシンは難治性敗血症性ショックに対する第二選択の血管作動薬である.バソプレシン負荷は,その効果と安全性に関するエビデンスが乏しいため一般的には行われていない.しかし,われわれのこれまでの知見から,バソプレシン負荷はバソプレシン注入に対する安全な反応性を予測できると考え,本研究では前向きに検討した.
【方法】0.2μg/kg/分以上のノルアドレナリンを投与された敗血症性ショック患者を対象に,バソプレシン負荷を1Uのボーラス静脈内投与後,1U/hで持続注入した.バソプレシン負荷の直前に動脈圧波分析を行い,内分泌学的検査を行った.バソプレシン負荷後の平均動脈圧(MAP)の変化に基づいて,患者を反応者と非反応者に分類した.これまでの知見に基づき、,MAP変化の下位3分位をカットオフ値として選択した.6時間後のカテコールアミン指数(CAI)の変化を主要評価項目とした.入院期間中の末梢虚血,腸間膜虚血,心筋虚血を有害事象として前向きに系統的に記録した.
【結果】試験期間中に92例の患者が登録され,評価された.MAPの変化が22mmHg以上の患者62例を反応者,それ以外を非反応者とした.血中副腎皮質刺激ホルモン濃度は非応答群で有意に高かった.脳卒中量の変動は負荷前の反応群で高く,1回拍出量とdP/dtmaxは負荷後の反応群で高かった.CAI変化の中央値は,反応群で-10,非反応群で0であり,前者で有意に低かった(p<0.0001).持続注入後のCAI変化<0を予測するためのバソプレシン負荷によるMAP変化のAUROCは0.843で,感度は0.92,特異度は0.77であった.虚血イベントは5例(5.4%)に認められた.
【結論】バソプレシン負荷は敗血症性ショックに対して安全に導入できる可能性がある.バソプレシン負荷は,その持続注入に対する反応を予測し,血圧を上昇させる適切な戦略を選択するために使用することができる.