【GL】独神経リハ学会によるPICSに対する集学的リハビリテーションガイドライン
■ドイツ神経リハビリテーション学会からPICSに対する集学的リハビリテーションのガイドラインがCritial Care誌にpublishされたので紹介する.ICU日記など,一部エビデンスと推奨度の乖離が大きいところは気になるが,PICSに対する介入について非常によくまとまっているので参考にはなるだろう.
集中治療後症候群の患者に対する集学的リハビリテーションに関するガイドライン
Renner C, Jeitziner MM, Albert M, et al. Guideline on multimodal rehabilitation for patients with post-intensive care syndrome. Crit Care 2023; 27: 301
PMID: 37525219
https://doi.org/10.1186/s13054-023-04569-5
Abstract
【背景】集中治療室(ICU)生存者は,身体的,認知的,心理的な,健康状態にいくつかの障害を経験することが多く,これらは集中治療後症候群(PICS)と呼ばれている.本作業の目的は,PICSのリハビリテーション治療に関する学際的かつ専門的なガイドラインを作成することである.
【方法】15名の医療専門家からなる学際的・専門的タスクフォースが,構造化されたエビデンスに基づくアプローチを適用し,10の科学的疑問に取り組んだ.各PICO問題(集団,介入,比較,結果)について,入手可能な最善のエビデンスを特定した.推奨は,Grading of Recommendations,Assessment,Development,Evaluationの原則(GRADE)に基づき,「強い推奨」,「推奨」,「治療選択肢」として評価された.さらに,エビデンスのギャップが特定された.
【結果】エビデンスの結果,PICSの予防または治療について12の推奨,4つの治療法,および1つの声明が得られた.
【推奨】早期の動員,運動訓練,栄養/嚥下障害管理を行うべきである.せん妄予防は行動介入に重点を置く.ICU日記は,不安や心的外傷後ストレス障害などの心理的健康問題を予防/治療することができる.早期のリハビリテーションアプローチと専門的なリハビリテーションセンターへの長期的なアクセスが推奨される.治療の選択肢には,身体的リハビリテーションの追加介入が含まれる.
【声明】PICSの治療の前提条件は,PICSのリスクがある,またはPICSを発症している患者の身体的,認知的,心理的健康状態を定期的に繰り返し評価することである.
【結論】PICSは変化しやすく複雑な症候群であり,学際的かつ多職種による個別のアプローチが必要である.PICSのリハビリテーションには,運動障害,認知障害,心理的健康障害の評価と治療が含まれるべきである.
PICSを発症した重症患者に対するリハビリテーションのための声明,12の推奨,4つの治療選択肢のまとめ
声明
ICU在室期間が48時間以上の重症患者は,ICU在室中,退院後,リハビリテーション中と終了時,通院時にPICSを発症するリスク要因とPICSの症状のスクリーニングを行うことが重要である.最適な評価の選択は,疾患の段階,設定,患者の症状とリスク要因,その他の診断の利用可能性など,さまざまな要因に依存する.
PICSリハビリテーションのための推奨と治療選択肢
推奨度
(0):治療選択肢,考慮できる.
(B)/(B-):推奨,行うべき/行うべきではない.
(A)/(A-):行わねばらない/行ってはならない.
エビデンスレベル
1:RCTのシステマティックレビュー
2:RCTまたは劇的効果のある観察研究
3:非無作為化対照コホート研究
4:症例集積検討,症例対象研究,歴史的対照研究
5:病態生理学的機序論
身体機能のリハビリテーション
1.早期離床は,患者の回復力と全身状態に応じて,ICU入室後数日以内に開始するべきである.(A)
2.早期離床に追加して,ベッドサイクリングの使用を考慮できる.(0)
3.標準的な理学療法に追加して、車いすサイクルエルゴメーター訓練を筋力と心血管系のフィットネスの改善に用いることができる.(0)
4.歩行速度を向上させるために,標準的な理学療法に追加して筋力トレーニングを行うことができる.(0)
5.腹側大腿筋への電気刺激を筋力強化に用いることができる.(0)
6.吸入トレーナーを用いた吸入筋のトレーニングは,短期的に吸入筋の強化と生活の質の向上のために,標準的な理学療法に追加して行うべきである.(B)
7.嚥下障害は気管切開患者に頻発するため,経口栄養を開始する前に標準的な嚥下機能評価を行うべきである.(B)
認知機能のリハビリテーション
8.注意機能のコンピュータベース学習や認知の改善を目指した治療は,重症患者および継続的リハビリテーションにおいて実施するべきである.(B)
9.譫妄予防の介入には,多感覚・認知・情動刺激(離床,目的志向刺激と参加,方向確認の支援,家族との接触)を含めるべきである.(A)
10.ストレス緩和(疼痛,不安,睡眠,騒音)の介入,コミュニケーションの改善,家族ケアを適用するべきである.(B)
11.人工呼吸患者に対するハロペリドールの予防投与は,譫妄の発症,重症度,期間,転帰にプラセボと比較して効果がないため,行うべきではない.(B-)
心理機能のリハビリテーション
12.不安やうつなどの適応障害を有する重症患者は,心理的介入から利益を得る.これらはICUおよび/または早期リハビリテーションで可能な限り患者の家族にも提供するべきである.(B)
13.外傷後ストレス反応は,心理教育や心理療法などの介入により治療するべきである.(B)
14.精神的安定を目指して,退院後12ヶ月以内に専門的支援と継続ケアへのアクセスを提供するべきである.(B)
15.ICUダイアリーは,ICU退室後の重症患者の不安,うつ,PTSDのリスクを軽減するために行うべきである.(A)
16.ICU退室後のケアにおいて,ICUダイアリーは医療専門家とともに活用するべきである.(A)