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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【AI】頭蓋内出血のCT画像のAIによるトリアージは死亡リスクと神経学的予後を大きく改善する

■画像検査におけるAI診断システムはかなり進んでいて,臨床導入もされているが,これまでの研究の多くはその精度を評価するもので,患者の予後まで検討した研究はほとんどない.最近の研究では,AIトリアージソフトウェアを放射線技師のワークフローに導入することで,頭蓋内出血と肺塞栓症と診断された患者の在院日数が有意に減少することが示された[Radiol Res Pract 2022;2022:1–7]

■今回,救急部門で頭蓋内出血患者への放射線画像検査ワークフローにAIによるトリアージシステムを導入することで,絶対全死亡率を1/2~2/3に減少させ,神経学的予後も改善したという前後比較研究がInternationarl Journal of Emergency Medicineに報告されたので紹介する.

■本研究で導入されたAIトリアージシステムは次のように作動する.すべての関連CT検査は,手動トリガーなしでAI解析のために自動的にAIに送信される.頭蓋内出血所見が検出されると,AIは放射線科医のワークステーションに直接通知を配信する(フラグ).フラグが立てられたCT画像については放射線科医が優先的に読影を行う.
【AI】頭蓋内出血のCT画像のAIによるトリアージは死亡リスクと神経学的予後を大きく改善する_e0255123_09555500.png
■頭蓋内出血データセットには,初回の救急外来受診時にCTスキャンを受けた頭蓋内出血患者587例が含まれ,AI導入前群289例,AI導入後群298例であった.患者背景はほとんどの項目に有意差はみられなかったが,抗血栓薬使用率は41.8% vs 28.8%(p=0.001)でAI導入前の方が有意に多かった.

■AI導入後群では,AI導入前群に比べて30日死亡率(AI前27.7% vs AI後17.5%,OR 0.48,95%CI odds 0.29-0.79,p=0.004)。および120日死亡率(AI前31.8% vs AI後21.7%,OR 0.58,95%CI odds 0.37-0.91,p=0.017)の有意な減少がみられた.抗血栓薬使用患者に限定したサブ解析においても,AI導入後の方が有意な死亡率改善を示した.なお,この研究では対照として,虚血性脳卒中,心筋梗塞の患者でも前後比較が行われたが,これらの患者では有意差はみられなかった.

■入院時の修正Rankin Scaleに有意差はなく,退院時の修正Rankin Scaleは,AI導入後群で減少し(3.17 vs 2.84,p=0.044),期間間に有意差が認められた.退院時と入院時の修正Rankin Scaleの差は,AI導入前群とAI導入後群で有意差がみられた(2.37 vs 2.03,p=0.041).これらのことからAI導入による神経学的予後の改善の可能性も示唆された.
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■死亡率の低下がみられた理由として,頭蓋内出血の可能性があるCT画像にフラグを立てることで,放射線科医がワークリストを優先し,一刻を争う症例を最初に評価するようになり,さらには微妙な所見や境界的な所見において疑い指数が高まることにも起因すると考察されている.これらの症例を優先的に評価することで早期治療介入が可能となる.今後,RCT等質の高い研究での評価が望まれる.
脳出血の検出における人工知能ソリューションの導入による1年後の臨床転帰への影響
Kotovich D, Twig G, Itsekson-Hayosh Zeev, et al. The impact on clinical outcomes after 1 year of implementation of an artificial intelligence solution for the detection of intracranial hemorrhage. Int J Emerg Med 2023; 16: 50
PMID: 37568103
https://doi.org/10.1186/s12245-023-00523-y

Abstract

【背景】救急部門における市販の人工知能(AI)ソリューションの導入が,レベル1外傷センターの臨床転帰に及ぼす影響を評価すること.

【方法】レベル1外傷センターにおいて,AI導入前(2017.1.1~2018.1.1)とAI導入後(2019.1.1~2020.1.1)の2つの期間の後ろ向きコホート研究を実施した.救急部入院時に頭部CTで頭蓋内出血(ICH)と確定診断された連続患者587例にICHアルゴリズムを適用した.研究変数は,人口統計,患者の転帰,画像データなどであった.同時期に他の急性疾患(虚血性脳卒中(IS),心筋梗塞(MI))で救急部に入院した患者を対照群とした.主要評価項目は30日および120日全死因死亡率であった.副次評価項目は退院時のmRS(modified Rankin Scale for Neurologic Disability)に基づく有病率であった.

【結果】ICHを有する587人(AI前の年齢71±1歳の289人,男性169人,AI後の年齢69±1歳の298人,男性187人)が解析対象となった.人口統計,併存疾患,救急重症度スコア,ICHの種類,入院期間は2つの期間間で有意差はなかった.30日および120日の全死因死亡率は,AI前群と比較してAI後群で有意に減少した(それぞれ27.7% vs 17.5%;p=0.004,31.8%対21.7%;p=0.017).退院時のmRS(modified Rankin Scale)はAI施行後に有意に低下した(3.2 vs 2.8;p=0.044).

【結論】本研究の付加価値は,頭蓋内出血(ICH)と診断された患者の30日および120日間の全死因死亡率および罹患率の有意な減少を実証した,救急医療環境における人工知能(AI)コンピュータ支援トリアージおよび優先順位決定ソフトウェアの導入を強調するものである.AIソフトは,死亡率だけでなくmRSの有意な減少にも関連していた.

by DrMagicianEARL | 2023-08-14 09:57 | 医学・医療とAI

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