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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【SR】心不全既往のある敗血症性ショック患者への制限輸液戦略は死亡リスクを増加させた

■敗血症性ショックの初期蘇生においては,30mg/kg以上の急速輸液負荷が長年推奨されている.この30mL/kg以上という輸液量は,敗血症治療の蘇生バンドルの順守率と予後を検討した大規模観察研究結果[PMID:20069275]が根拠となっており,以降,この輸液量が慣習化し,その後の無作為化比較試験のプロトコルでも最低30mL/kgの輸液投与が行われている.

■少なくとも組織低灌流が臓器虚血を引き起こし,多臓器不全の要因となる以上,過小輸液は推奨されない.一方で過剰輸液も予後を悪化させることが報告されており[PMID:30199843],ある程度の制限輸液戦略が有効なのではないかという仮説がたてられた.しかし,2022年にNEJMにpublishされた1554例のRCT[PMID:35709019]では,主要評価項目の90日死亡率は42.3% vs 42.1%で有意差はみられず,その他副次評価項目の短期予後,1年後死亡率やPICS[PMID:37330928]も有意差はみられなかった.2023年にNEJMにpublishされた1563例のRCT[PMID:36688507]でも90日死亡率に有意差はみられていない(14.0% vs 14.9%).また,最も長いフォローアップが行われたバイアスリスクの低い8つの試験でのメタ解析[PMID:37142091]でも90日全死亡リスクに差はみられていない(RR 0.99; 97%CI 0.89–1.1).

■今回の紹介する研究は,ベースに心不全既往を有する敗血症患者において制限輸液戦略が有効かを検討したシステマティックレビューである.結果は,4研究571例が抽出され,制限輸液群の方が1.81倍死亡リスクが高かった(OR=1.81,95%CI=1.13-2.89,p=0.01).異質性解析の結果,I2は0%であり,選択された研究の結果とプールされたデータの間に異質性はみられなかった.
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■このシステマティックレビューに組み込まれた4研究は全て後ろ向き観察研究であり,交絡因子は免れない.しかしながら,敗血症病態を考慮すれば,過小輸液はたとえ心不全病態であっても避けるべきであるという仮説を支持するものであり,より質の高い研究での評価が待たれる.なお,ベースに心不全や腎不全があると輸液を躊躇する医師は多い.私は敗血症性ショックの場合はベースに心不全/腎不全があっても最低30mL/kgの初期急速輸液負荷は躊躇するなと研修医には伝えてきた.個々のモニタリング指標があるにはあるが確定的なものはなく,迷うなら輸液を入れる(あとで水引きはどうになかなるので)という,まずは血管内充填を最優先に考えるClinical Pearlであった.

■熟練の集中治療医なみの循環管理ができる自信があるなら3時間以内に30mL/kgという固定された輸液量にこだわる必要もないが,そうでないなら少なくともこれまでのRCTレベルの知見によって,循環管理に長けた集中治療医による管理とほぼ同等の死亡率であったプロトコル(いわゆるEGDT:Early-Goal Directed Therapy)を行った方がマシである.EGDTは否定されたといってもそれは死亡率が高かったという結果ではない以上,ガイドラインの推奨から消えてもEGDTは敗血症治療に不慣れな医師にとっては迷走せずに施行しやすく患者を救命しうる手段と思われる.
心不全を合併した敗血症患者に対するガイドラインベースと制限輸液の蘇生戦略:システマティックレビューおよびメタ解析
Zadeh AV, Wong A, Crawford AC, et al. Guideline-based and restricted fluid resuscitation strategy in sepsis patients with heart failure: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med 2023; 73: 34-9
PMID: 37597449
https://doi.org/10.1016/j.ajem.2023.08.006

Abstract

【目的】敗血症および心不全(HF)の既往を有する患者において,ガイドラインに基づく輸液蘇生戦略(30mL/kg以上の晶質液を静脈内投与)と,3時間以内に30mL/kg未満に制限した輸液アプローチとが,院内死亡率に影響を及ぼすかどうかを検討する.

【データソース】Embase,PubMed,Scopusにおいて,PRISMAガイドラインを用いて査読のある論文と抄録を検索した.

【研究選択】言語は英語に限定した.2016年以降に発表された研究で,HFの既往を有する敗血症患者,またはHFを有する患者のサブグループ,およびこれらの患者に関する院内死亡率データがあり,3時間以内に30mL/kg(30×3)の目標を達成した,または達成しなかったものを対象とした.重複研究,敗血症の診断から3時間よりも長い期間に焦点を当てた研究,HF患者の死亡率の内訳がない研究,タイトル/抄録が無関係な研究,倫理委員会の承認がない研究は除外した.
※この論文では「3時間以内に30mL/kgの輸液」を「30×3」と表記している.

【データ抽出】院内死亡率データは,30×3の目標を達成した敗血症を有するHF患者,または達成しなかったHF患者に関する最終研究から抽出した.

【データの統合】メタアナリシスは,効果指標としてORを用い,Review Manager 5.4プログラムを用いて行った.出版バイアスの評価にはProMetaプログラムバージョン3.0を用いた.出版バイアスの評価には,Eggerの線形回帰とBerg and Mazumdarの順位相関を用いた.結果はファネルプロットで視覚的に表した.異質性に起因する分散の割合を推定するために,I2統計量を算出した.

【結果】検索により26,069件の研究が得られ,4件の研究が抽出された.30×3の目標を達成した群と比較して,<30×3群では院内死亡リスクが有意に高かった(OR=1.81,95%CI=1.13-2.89,P=0.01).

【結論】制限的な輸液蘇生法は,敗血症を有するHF患者の院内死亡リスクを増加させた.この集団に対する最適な輸液蘇生戦略を決定するためにはより厳密な研究が必要である.

by DrMagicianEARL | 2023-08-21 11:27 | 敗血症

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