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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【資料まとめ】福島第一原発のALPS処理水放出の安全性について(9/8情報追加)

※2023/8/24:作成
※2023/9/8:更新

■2023年8月24日午後1時から福島第一原発の処理水の海洋放出が開始となった.東日本大震災直後に原発関連のデマがネットや報道にまであふれていたが,それの再来ともいえる状況になっている.もっとも,SNSで声高に反対を訴えているアカウントの主張は非科学的である以前にそもそも政府の公開資料等を全く見ていないものばかりである.定量評価もしないどころかデータも見ずに感情論のみで風評をまき散らすなど言語道断である.

■以下に,今回の処理水放出に関連する資料を以下にまとめた.この通り,処理水は安全性がきっちりと確認されたものであり,福島第一原発廃炉にむけた重要な施策である.この資料は新しい情報が入り次第随時更新していく.

1.ALPS処理水の海洋放出開始以降の情報

■(1)2023年8月24日処理水放出当日にトリチウム濃度の最終的な測定を実施し,放出基準の1リットル当たり1500Bqを大きく下回る最大63bqベクレル.沖合約1キロ先まで海底トンネルを通って放出.今後1日あたりおよそ460tずつ,17日間程をかけて7,800tのALPS処理水を海洋放出する予定.モニタリングを行い,異常値が出た場合は放出を中止する予定.
https://www.sankei.com/article/20230824-WPQSFEVKO5OAHAWRKGE7M7FARU/
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/oceanrelease/#process

■(2)国際原子力機関IAEA の独立したオンサイト分析により、福島第一原発から排出される希釈水(ALPS処理水)のトリチウム濃度は、1リットルあたり1,500ベクレルの運用限界をはるかに下回っていることを確認
https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-general-statement-on-discharge-of-fukushima-daiichi-alps-treated-water-0

■(3)東京電力ホールディングス処理水ポータルサイト(ALPS処理水等の状況,測定・確認用設備の状況,希釈・放水設備等の状況,海域モニタリングの結果)
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

■(4)IAEAが処理水の排出に関する日本からのライブデータを提供するウェブページを立ち上げ.提供されるデータには,水流量,放射線モニタリングデータ,希釈後のトリチウムの濃度が含まれる.
https://www.iaea.org/topics/response/fukushima-daiichi-nuclear-accident/fukushima-daiichi-alps-treated-water-discharge/tepco-data
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■(5)福島第一原発港湾口放射線モニター(10分ごと更新).セシウム以外の各種については速報値のため全βでモニタリング
http://www.tepco.co.jp/decommission/data/monitoring/seawater/index-j.html

■(6)環境省によるALPS処理水海域モニタリング速報値.トリチウム以外の核種については速報値のためγ線モニタリング
https://www.env.go.jp/content/000155509.pdf

【9/8追加】(7)水産庁による福島第一原発沖合の水産物トリチウムモニタリング
https://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html2.ALPS処理水についての情報

■(1)海洋放出されるのは,汚染水ではなく安全性の確認されたALPS処理水である.ALPS処理水はトリチウム以外の放射性物質も環境放出の際の規制基準を満たすまで繰り返し処理している.トリチウムは自然界でも生成されており,発する放射線は紙1枚で防げる程度である.また,生物濃縮も確認されていない(有機トリチウムについては本ブログ記事2-(13)参照).
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r3kisoshiryo/r3kiso-06-03-05.html
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alpsqa.html
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■(2)WHOのトリチウムの飲料水基準は2L/日を一年間飲み続けて0.1mSv/年の線量となるように計算されている
https://shorisui-monitoring.env.go.jp/pdf/tritium-who.pdf
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■(3)ALPS処理水を海洋放出する際はそのさらに1/7未満になるよう海水を加えて調整する
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no1/
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■(4)2mSv/年の放射線被曝で遺伝子が受ける損傷の頻度は日常の紫外線等による損傷の頻度の100万分の1以下.トリチウムから出る放射線は弱く,また体内に取り込んだとしても体外へ排出されるため,体内に蓄積されない
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/osensuitaisaku03.html

■(5)スクリーニングされた69核種の内訳は以下のとおり
・トリチウム
・半減期から事故後約12 年経っても存在しうる核種のうち、水への溶け方等も考慮して選定され、告示濃度比総和1未満の対象であるもの:29核種
※ この測定対象核種の選定については、原子力規制委員会から認可を得るとともに、 IAEA から国際安全基準に適合したものとの評価を得ている.これら以外の核種については,放射線の減少期間の短いことから測定する必要がない.
・汚染水中にも有意に存在する可能性は無いが自主的に測定し,検出限界未満であることを確認するもの:39核種
なお,最初に放出予定のタンクの水の放射線影響は0.28であり規制基準値の1を大幅に下回っており,これが放出時にはさらに大幅に希釈される
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/574280.pdf
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■(6)トリチウム以外の放射性物質も基準以下になるまで浄化処理が行われており,2020年の試験でトリチウムを除く核種の告示濃度比総和が1未満に低減できることが確認されている(除去対象核種(62種)+炭素14の告示濃度比総和:処理前2,406→処理後0.35)
https://fukushima-updates.reconstruction.go.jp/faq/fk_270.html
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■(7)ALPS処理水中にCs(セシウム)-137やSr(ストロンチウム)-90が含まれているが,これについても考慮されている.原子力発電所からの排水を人が毎日経口摂取したと仮定した場合の内部被ばく線量(mSv)を告示濃度限度比で評価し,複数の核種が存在する場合はその和で評価する.告示濃度限度は,人が通常1日に飲む量の水を1年間飲み続けた場合に1mSvとなる当該核種の放射性物質の濃度である.
なお,核種ごとの排水の運用目標として,Cs-134,Cs-137は周辺河川の汚染状況も参考とし,1Bq/L未満,Sr-90は分析に時間を要するため,基準を全βで5Bq/L未満とし,10日に1回の頻度で1Bq/L未満としている.例えばCs-137,Sr-90のそれぞれの測定濃度は0.47Bq/L,0.41Bq/Lであり,ここから100倍以上の希釈を受ける.食品基準が100Bq/kgであることから,生態系での濃縮は無視できるレベルになる.また,「半減期の関係で汚染水中にも有意に存在する可能性は無いが自主的に測定し,検出限界未満であることを確認するもの」として39核種も計測しているがすべて検出限界値未満であった.
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/002_05_00.pdf?ssp=1&setlang=ja-JP&safesearch=off
https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2023/2q/measurement_confirmation_230622-j.pdf

■(8)ALPS処理水の放出に関するIAEA事務局長の声明では,処理水放出に対するアプローチと活動は関連する国際安全基準と一致しており,人々と環境への放射線影響は無視できる程度であると結論付けている.
https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-general-statement-on-discharge-of-fukushima-daiichi-alps-treated-water

■(9)福島第一原発のタンク内に保管されている水のうち,7割を占める「処理途上水」についても,ALPSで二次処理を行うことで安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化してから海洋放出される.
※処理途上水:浄化処理した水のうち、安全に関する規制基準を満たしていない水(トリチウムを除く告示濃度比総和1以上のもの)
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/alps01/

■(10)福島第一原発の汚染水は雨水や地下水が混ざると増え続ける.このため,汚染源の手前で地下水を抜き,地下を全長1.5kmの壁で囲い込み,雨水が入らないよう表面を覆う対策を施すことで,かつて1日550トンペースで増加していた汚染水は1日90トンペースまで減少した.
https://www.yomiuri.co.jp/science/20230704-OYT1T50189/

■(11)中国・ロシアが主張する水蒸気放出に関しては,ALPS処理水に含まれるいくつかの核種が固まって残るため放射性廃棄物が生じる.また水蒸気放出ではモニタリングが難しくなること,費用が高いこと,処分完了までの期間が長くなることから見送られた.
http://www.tepco.co.jp/decommission/data/monitoring/seawater/index-j.html
https://www.sankei.com/article/20230820-O554B5N5INPK3FHYVFKVOJBBM4/
https://www.sankei.com/article/20230824-5EIR4UP6GBME7M24NXMXOXSCCU/

■(12)海洋生物において濃縮が起きないことは飼育試験により科学的に立証済み
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/breedingtest/

【9/8更新】(13)カナダの核廃棄物管理エリアからの長期にわたる流出があったパーチ湖の観測において,生物への有機トリチウム濃縮は起きていない.非有機トリチウムは化学反応性が低く,生体内で有機トリチウムに変換されにくく,湖水中の非有機トリチウム濃度が高くても生体内有機トリチウム濃度はむしろ低下していたことが確認されている.有機トリチウムの蓄積に関しては世界中で使用されている放射線医薬品(トリチウムが放射性同位体でラベルとして使用される)に伴うもので環境中で分解されにくい高分子化合物でもあり,蓄積が生じる可能性があるとされているが,これはALPS処理水にあてはまるものではない.
福島県沖で捕獲された魚介からも有機結合型トリチウムは検出されておらず,食物連鎖による生物濃縮の根拠はない.https://www-ns.iaea.org/downloads/rw/projects/emras/2nd-combined-meeting/scenario-twg-perch-lake-final.pdf
http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2018/08/FUKUSHIMA-tritiated-water-releases-final.pdf
https://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2018/images2/fish03_180618-j.pdf
https://link.springer.com/article/10.1007/s10872-023-00697-2

■(14)トリチウムを取り除く技術自体は既に複数開発されているが,実用化ベースにはまだ至っていない(実際に東京電力ホールディングスでは,実用化レベルのトリチウム除去技術を現在進行形で募集中である).
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/tritium/?ssp=1&setlang=ja-JP&safesearch=off

■(15)福島第一原発敷地内にはALPS処理水を貯蔵している巨大なタンクが増え続けており,タンクの数は既に1000を超えている.老朽化の問題やスペースの問題もある他,これから本格化する廃炉作業に伴い,敷地内スペースがさらに必要となるため,長期的な貯蔵は困難である.
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no3/

3.処理水放出前の海産生物について

【9/8追加】(1)2023年2月に福島県沖で水揚げされたスズキが検査基準を上回った報道を今になって処理水放出反対派があたかも処理水放出後に発生したかのようなデマを流しているが,当然ながら放出の半年前であり処理水とは無関係である.もっともこのスズキは自主検査の50Bq/kgを上回った85.5Bq/kgであり,国の基準の100Bq/kgを下回っているため問題ない.なお,欧米の基準値はこの数倍~10倍の高さであり,いかに日本の安全基準が厳しいかが分かる.
https://www.huffingtonpost.jp/entry/factcheck-fukushimasuzuki_jp_64f7b3dae4b039d8665217d2

【9/8追加】(2)2023年5月に捕獲されたクロソイから18000Bq/kgの放射性セシウムが検出された.このクロソイは沖合ではなく,東京電力福島第1原発の港湾内(1~4号機に近い波除堤の内側エリア)で捕獲された.
廃炉作業中の第1原発に雨が降ると,雨水が放射性物質に汚染された地表やがれきをつたって「K排水路」に集められ,このエリアに放出される.東電は,放出される雨水について,国の基準値(セシウム134は60Bq/L,セシウム137は90Bq/L)を下回っていることを確認しているが,他の排水路に比べると放射性物質濃度の高い水が内側エリアに放出されている.そのため,このエリアの海底の土も高いところでは,2023年1月末時点でセシウム137は13万Bq/kg超,セシウム134は3400Bq/kg超となっている.基準値超のクロソイが捕獲された理由について,K排水路からの排水やこのエリアの海底の土が要因の一つとされる.実際,4月にも同じ場所で捕獲したアイナメから1200Bqのセシウムが検出されている.
なお,このエリアについては,金網が設置されており,このエリアの魚が外洋に逃げないよう隔離されている.また,このクロソイの研究では魚の頭部にある「耳石」と呼ばれる器官に含まれる元素が代謝されずに残ることに注目しており,食品として耳石を口にすることはない.
https://mainichi.jp/articles/20230628/k00/00m/040/162000c
https://mainichi.jp/articles/20220429/k00/00m/040/060000c
https://nordot.app/1038408973057541014

【9/8追加】福島大学の研究で,東日本北太平洋沿岸海域において,海水中のトリチウム濃度は福島第一原発事故の影響は見られなかった.また,海産生物に福島第一原発事故後の有機トリチウムの蓄積はみられなかった
https://link.springer.com/article/10.1007/s10872-023-00697-2

4.その他

■(1)全漁連会長の浜本氏も科学的・技術的な安全性については理解が得られている.
https://www.zengyoren.or.jp/news/press_20230714/

■(2)各社の世論調査では放出賛成が多数派となっている.
日経:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA284690Y3A720C2000000/
テレビ朝日:https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000312350.html
産経:https://www.sankei.com/article/20230717-ZK64NHATWVO35KG32CITTBOHQE/
dサーベイ:https://mainichi.jp/articles/20230904/k00/00m/040/140000c
■(3)以前に,フリーライターが当時の内閣府の園田康博政務官に会見で「第一原発に立ち入れないので東電の情報を信じるしかない。飲んでも大丈夫なら実際にコップに出してみなさんに飲んでもらうのは無理か」「菅さん(菅直人元首相)もカイワレダイコンを食べた前例がある.東電が飲んでも大丈夫といっているのだから,一杯どうですか.飲んでみませんか」というフリーライターの発言に応える形で,福島第一原発にたまっている低濃度の放射能汚染水を浄化処理した水を飲んだ.その後も園田康博氏はご健在である.
https://www.asahi.com/special/10005/TKY201110310428.html
https://mainichi.jp/articles/20230902/k00/00m/030/194000c

■(4)世界各国の原発からのトリチウム排出量は福島第一原発からの処理水放出によるものに比してはるかに多い.
https://www.sankei.com/life/news/210509/lif2105090039-n1.html
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■(5)X(旧Twitter)のクラスタリング解析では,各クラスタのアカウント数は処理水放出反対クラスタが42,021,処理水に問題がなく放出すべきであるというクラスタが30,842,処理水の放出に反対するアカウントを批判するクラスタが48,854あり,放出賛成派の方が多い.放出反対派では立憲民主党,共産党,れいわ新選組を支持するアカウントがほとんどであった.処理水放出反対派が拡散した投稿うち,風評被害に関する言及は4.6%しかなく,X(旧Twitter)上での反対派は,風評被害を気にしているからではなく,イデオロギーベースであることが推察された.https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b06a69badc65ea0451abdaa6e184b8b1ffef7bc8
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by DrMagicianEARL | 2023-09-08 11:20 | 文献

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