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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【論文】交通事故リスクが高い高齢ドライバーは免許更新時の認知機能検査では拾いきれない可能性

■高齢ドライバーの交通事故対策は急務の課題である.加齢により,安全運転に関連する視覚,聴覚,振動検知,注意力,処理・反応速度に関する知覚・認知機能が低下することが知られている[PMID:239890445].最近の研究では,加齢に伴い自動車衝突事故の重大性が増加することが報告されている[PMID:32563407,PMID:36554977]

■運転能力は認知機能,特に実行機能,注意力,処理速度に影響されることが知られている.日本を含むいくつかの国では,高齢ドライバーの運転免許更新時に認知機能障害を評価する検査が義務付けられている.主観的記憶障害(SMC)と歩行緩慢によって特定される運動認知リスク症候群(MCR)[PMID:22987797]は,処理速度と実行機能の低下,および認知症や障害の発症リスクの増加と関連している.もしMCRと自動車衝突事故リスクとの間に関連性があるのであれば,MCR評価を行うことで,早期にリスク上昇に気づくことができるかもしれない.

■今回紹介する論文は,JAMA Network Openにpublishされた,MCR評価と自動車衝突事故との関連を検討した日本の研究である.結果は,SMCとMCRは,客観的認知障害とは無関係に,自動車衝突事故リスクの1.48~1.73倍と,ヒヤリハット事故が2倍以上の増加と関連していたというものであった.MCRは様々な側面からの評価であるため,MCRと自動車衝突事故との関連性のメカニズムは,認知機能以外の要因によって説明される可能性がある.すなわち,従来の認知機能検査では拾いきれない層でも自動車衝突事故を起こすリスクが高い集団がいるということになる.
日本における高齢ドライバーの運動認知リスク症候群と交通事故
Kurita S, Doi T, Harada K, et al. Motoric Cognitive Risk Syndrome and Traffic Incidents in Older Drivers in Japan. JAMA Netw Open 2023; 6: e2330475
PMID: 37624598
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.30475

Abstract

【背景】高齢ドライバーによる自動車衝突事故を防ぐには,衝突リスクの増大を早期に考慮すべきである.認知機能の低下は自動車衝突のリスクを高める.運動認知リスク症候群(MCR:Motoric Cognitive Risk Syndrome)は,認知機能への懸念と遅い歩行の存在を特徴とし,簡便に評価することができ,認知症のリスクを評価するのに有用である.

【目的】日本における高齢ドライバーのMCR評価所見と自動車衝突事故との関連を検討すること

【方法】本研究は,2015年から2018年にかけて日本で実施された地域ベースのコホート研究「国立長寿医療研究センター-老年症候群研究」のデータを用いた横断研究である.参加者は65歳以上の地域在住高齢者であった.データは2023年2月~3月に解析された.MCRは,主観的記憶障害(SMC)と遅い歩行を有すると定義された.参加者は4群に分類された:SMCも歩行遅延もなし,SMCのみ,歩行が遅いのみ,MCR.対象は,過去2年間の自動車衝突事故および過去1年間の交通事故ヒヤリハットの経験について,対面面接により質問された.衝突事故またはヒヤリハットした交通事故の経験のオッズをロジスティック回帰を用いて評価した.

【結果】計12,475人の参加者の平均(SD)年齢は72.6(5.2)歳で,7093人(56.9%)が男性であった.SMCのみ群とMCR群では,自動車衝突事故とヒヤリハット事故の両方の割合が他の群よりも高かった(調整標準化残差>1.96; P<0.001).ロジスティック回帰分析によると,SMCのみ群とMCR群では自動車衝突事故のオッズが増加していた(SMCのみ群:OR 1.48; 95%CI 1.27-1.72/MCR群:OR 1.73; 95%CI 1.39-2.16),ヒヤリハットの交通事故(SMCのみ群: OR 2.07; 95%CI 1.91-2.25/MCR群:交絡因子の調整後:OR 2.13; 95%CI 1.85-2.45).MCR評価を客観的認知機能障害で層別化した後も有意な関連が観察された.歩行が遅いのみ群においては,客観的認知機能障害は自動車衝突事故のオッズ増加と関連していた(OR 1.96; 95%CI 1.17-3.28).

【結論】日本の地域在住高齢ドライバーを対象としたこの横断研究では,SMCとMCRは,客観的認知障害とは無関係に,自動車衝突事故やヒヤリハット事故と関連していた.今後の研究では,これらの関連性のメカニズムをより詳細に検討すべきである.

by DrMagicianEARL | 2023-08-30 13:38 | 文献

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