【研究】日本においてHPVワクチン接種開始以降の子宮頸がん発生数の減少を確認
■本研究では,①国立がん研究センターが集計した人口動態統計に基づく全国推計癌罹患データと全国癌登録データ,②日本産科婦人科学会の婦人科主要委員会による病院ベースの婦人科がん登録データ,③MINT研究における子宮頸がん検体のHPVタイピングデータ,の3つのデータを使用して,子宮頸癌の発生動向を年齢層別に解析している.個々のHPVワクチン接種有無を特定しての解析ではないが,初期のHPVワクチン接種世代(接種当時10代~20代前半)が20~29歳に達した現在でワクチンの効果が検討できるものとしての解析である.がん登録データではHPVワクチン導入前後の子宮頸癌罹患率の推移を,MINT研究データではHPVタイプの推移を解析することでワクチンの影響を多角的に評価している.
■がん登録データを分析した結果,HPVワクチン接種世代である20~29歳の女性の子宮頸癌発生率がHPVワクチン導入後に有意に低下しており,この低下は子宮頸癌健診など他の要因とは無関係であった.一方で20-29歳以外の年齢層では類似の低下は見られず,ワクチンのターゲットは接種当時10代から20代前半の女性(現在20代)であり,この結果はワクチンの効果を反映している.産婦人科学会のデータでも20-29歳の新規癌症例数が減少しており,異なるデータソースで同様の結果が得られた.
■MINT研究では,20-29歳の子宮頸がん検体から検出されるHPV16/18(初期のワクチンのターゲットとなったタイプ)の陽性率が低下傾向にある.これはワクチンによるHPV16/18への感染予防効果を反映した結果と考えられる.このように接種情報がリンクしていないものの,がん登録データとHPVタイプ別解析は互いに補強し合う結果となっている.日本では初期に接種した当時の10代から20代前半のHPVワクチン接種率は50-70%と高く,その世代が20-29歳に達した現在,ワクチンの効果が現れ始めていると考えられる.
日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの浸潤性子宮頸癌への影響: がん統計およびMINT研究による予備的結果
Onuki M, Takahashi F, Iwata T, et al; MINT Study Group. Human papillomavirus vaccine impact on invasive cervical cancer in Japan: Preliminary results from cancer statistics and the MINT study. Cancer Sci. 2023 Sep 8[Online ahead of print]
PMID: 37688310
https://doi.org/10.1111/cas.15943
Abstract
【背景】ヒトパピローマウイルス(HPV)16およびHPV18に対する最初の予防ワクチンが2009年に日本で認可された.高悪性度子宮頸部病変に対するHPVワクチンの有効性は,日本人若年女性において証明されているが,浸潤性子宮頸癌(ICC)に対する効果についてのエビデンスは不足している.
【方法】2つの異なるがん登録のデータを用いて,ポアソン回帰分析を用いて年齢層別の新規ICC症例の最近の傾向を比較した.また,過去10年間に新たにICCと診断された40歳未満の日本人女性1414人を対象に,HPV16/18有病率の時間的推移を分析した.
【結果】人口ベースのがん登録に基づくと,20~29歳の若年女性におけるICCの罹患率は,2016~2019年の間に10万女性年当たり3.6人から2.8人へと有意な減少を示したが,それ以上の(ワクチンターゲットでなかった世代の)年齢層では同様の減少は認められなかった(p<0.01).同様に,日本産科婦人科学会の婦人科がん登録のデータを用いたところ,20~29歳女性のICCの年間発生数も2011~2020年の間に256例から135例に減少した(p<0.0001).さらに,ICCにおけるHPV16/18有病率の減少傾向は,2017~2022年の間に20~29歳の女性でのみ観察された(90.5%~64.7%、p=0.05;コクラン・アーミテージ傾向検定).
【結論】これは,日本におけるHPVワクチン接種のICCに対する集団レベルの効果を示唆する初めての報告である.ICCを発症した若年女性におけるHPV16/18有病率の低下傾向は,ワクチン接種とがんの結果との因果関係を支持するものであるが,HPVワクチン接種とがんの結果との因果関係を支持するものではない.