人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【研究】ESBL産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対するセフメタゾールはメロペネムと有意差なし

■基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)は大腸菌や肺炎桿菌などでよくみられるβラクタマーゼであり,多くのペニシリン系抗菌薬,セファロスポリン系抗菌薬,モノバクタム系抗菌薬は無効である.また,近年はキノロン系抗菌薬も8割程度が無効となっており,ESBL産生菌に対してキノロン系抗菌薬は原則使用できないと考えるべきである.ESBL産生菌は,細胞分裂による増殖に加えて,プラスミド伝達により,耐性化していない他の菌をESBL産生菌に容易に変えてしまうため,その耐性化は非常に厄介である.加えてこのプラスミド伝達は異なる菌種にまで拡散しうる.

■ESBL産生菌にはカルバペネム系抗菌薬以外でもTAZ/PIPC,セファマイシン系抗菌薬(セフメタゾール:CMZ),オキサセフェム系抗菌薬(フロモキセフ:FMOX),ホスホマイシン(FOM)などが有効であるとして実臨床では用いられている.実際に私も敗血症や菌血症の超急性期でない限りはESBL産生菌(Enterobacter を除く)に対してはCMZで対応しており,今のところ奏功しなかった経験はない.

■ESBL産生菌におけるCMZの有効性を検討した研究はPubMedでは48報ヒットし,多くが日本からのものである.Kusumotoら[PMID:37150609]は,本邦のESBL産生菌218株を解析し,ESBL産生のみ(AmpCなし)の肺炎桿菌,P. mirabilis に対するCMZの感性率は95.5%,82.7%と良好であった.一方で,本邦のYamashiroらによる基礎研究[PMID:37610203]がpublishされており,MIC 4-16µg/mLのESBL産生大腸菌において,CMZのヒト血中濃度を模倣した条件下でも菌の再増殖がみられ,24時間で耐性獲得が発生し,この再増殖した菌ではFMOXやMEPMのMICも上昇していた.これらのことから,CMZではCLSIのブレイクポイントはESBL菌に対する効果を過大評価している可能性が示唆されていた.

■臨床研究では,Hamadaら[PMID:34348852]は39例の解析を行い,正常腎機能において,CMZ 1 gを8時間ごとに1時間以上点滴静注することは,MIC≦4mg/LのESBL産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対して有効と報告している.Kuwanaら[PMID:33336036]は,25例の症例集積検討で,ESBL産生菌による尿路感染症が原因の敗血症患者ではバイタルサインが安定している場合には,広域抗菌薬からCMZへのde-escaltion戦略が潜在的な治療選択肢であると報告している.

■今回紹介する論文は,ESBL産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対するCMZ vs MEPMの有効性を検討した本邦10施設共同127例観察研究である.死亡率,再発率,微生物学的有効性には有意差はみられておらず,CMZ使用によりカルバペネム系抗菌薬を温存できる可能性が示唆されている.
基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対するセフメタゾールvsメロペネムの有効性
Hayakawa K, Matsumura Y, Uemura K, et al. Effectiveness of cefmetazole versus meropenem for invasive urinary tract infections caused by extended-spectrum β-lactamase-producing Escherichia coli. Antimicrob Agents Chemother 2023 Sep 13[Online ahead of print]
PMID: 37702483
https://doi.org/10.1128/aac.00510-23

Abstract

【背景】セフメタゾールは,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生性大腸菌(ESBLEC)に対して活性を示し,カルバペネム温存療法の候補となりうる.

【方法】この多施設共同観察研究では,2020年3月~2021年11月に日本国内の10施設でESBLECによる侵襲性尿路感染症で入院した患者を対象とし,培養採取後96時間以内にセフメタゾールまたはメロペネムのいずれかを確定療法として開始し,少なくとも3日間継続した.転帰は,臨床的および微生物学的有効性,28日以内の再発,全死亡(14日,30日,院内)とした.転帰は,セフメタゾールまたはメロペネムの投与を受けた傾向スコアの逆確率で調整した.

【結果】セフメタゾール群には81例が,メロペネム群には46例が組み入れられた.菌血症の割合はセフメタゾール群で43%,メロペネム群で59%であった.セフメタゾール群とメロペネム群の患者における粗臨床効果,14日後,30日後,および院内死亡率は、それぞれ96.1% vs 90.9%,0% vs 2.3%,0% vs 12.5%,および2.6% vs 13.3%であった.傾向スコア調整後,臨床的有効性,院内死亡リスク,再発リスクは両群間で同等であった(それぞれP=0.54,P=0.10,P=0.79).データが得られた全症例(セフメタゾール:n=61,メロペネム:n=22)において,両薬剤は微生物学的に有効であった.すべての分離株で,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子としてblaCTX-Mが検出された.CTX-MサブタイプはCTX-M-27(47.6%)が優勢であった.

【結論】セフメタゾールは,ESBLECによる侵襲性尿路感染症に対して,メロペネムに匹敵する臨床的・細菌学的有効性を示した.

by DrMagicianEARL | 2023-09-14 10:53 | 抗菌薬

by DrMagicianEARL