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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【研究】ICU患者の5大症状の有病率,強度,苦痛の評価

■ここ20年のPICSの研究により,ICU患者においては様々なストレスに伴う症状がみられることが知られており,浅鎮静が主流となった現在では,よりいっそうこれらの症状を訴える頻度は増加してきており,PICS予防や質の高いEnd-of-Lifeを考える上でこれらの症状を知っておくことは重要である.

■2010年にPuntilloら[PMID: 20711069]は米国の三次施設において171例のICU患者の10の症状について調査したところ,疲労(74.7%),口渇(70.8%),不安(57.9%)が最も一般的な症状であった(その他では落ち着かない49.0%,空腹44.8%,息切れ43.9%,疼痛40.4%,悲しみ33.9%,恐怖32.8%,混乱26.6%).症状の軽度を1点,中等度を2点,重度を3点とした平均値では,口渇は最も強度が高く(2.16),息切れ(1.89),空腹(1.89)も高かった.症状の苦痛の度合いについても軽度を1点,中等度を2点,重度を3点とした平均値を評価したところ,息切れが最も高く(2.34),恐怖(2.15),混乱(2.10),疼痛(2.08)も高かった.また,34.2%にせん妄がみられ,せん妄時と非せん妄時の比較では,混乱(44% vs 22%)と悲しみ(46% vs 31%)はせん妄時が有意に多く,疲労(57% vs 77%)は非せん妄時が有意に多かった.

■このPuntilloらの研究は,苦痛のある症状がICU患者の大多数に存在することを示唆しており,ICU患者のより広範な症状の有病率,強度,苦痛を評価する調査の基礎を築いた.今回紹介する論文はノルウェーにおいて2018年10月から2020年6月まで2施設のICUにおいて,患者が経験した症状の有病率,強度,苦痛を評価した前向き観察研究である.症状は,Chanquesらの推奨[PMID: 25758669]に従って,データ収集の実現可能性を高めるために,前述のPuntilloらが用いた元のPSSから5つの症状(疼痛,口渇,不安,疲労感,息切れ)に限定して評価している.

■結果は,有病率については以下の通りであった.
・口渇や疲労が6~7割
・疼痛や息切れが3~4割
・不安が2~3割程度
強度についても口渇が最も強く,次いで疲労であった.苦痛については不安や疼痛が強かった.ICU入室7日間での多変量解析による症状の有意な予測因子は以下の通りであった(「負の関連」は症状軽減に関連している).
・口渇:敗血症,鎮痛薬投与
・疼痛:若年,人工呼吸器装着(負の関連),鎮痛薬投与(負の関連)
・不安:面会(負の関連)
・疲労:有意な予測因子なし
・息切れ:女性

■口渇症状が最も多いことは既知の研究(有病率はおおむね7割台)と一致しており,口腔ケアは口渇症状を軽減するものの,その効果は1時間程度しかもたないことも報告されており[PMID: 34059413],より頻回なケアが必要となる.Tsaiら[PMID: 36535871]は11報のシステマティックレビューを行い,術後患者への氷などによる冷たい口腔刺激が有効であることを報告した.Puntilloら[PMID: 36535871]は,術後患者において,口腔綿棒ワイプ,滅菌氷冷水スプレー,口唇保湿剤などの「口渇バンドル」を導入することで口渇症状が大幅に軽減できたと報告している.VonSteinら[PMID: 30600225]は,氷水の口腔綿棒とメントール配合の口唇保湿剤により口渇の強度を有意に軽減したと報告している.口渇以外の症状についても同様のことがいえるが,特に頻度が高い症状についてはより頻回に拾い上げて介入に入るだけでなく,介入頻度にも注意が必要である.
集中治療室の患者が経験した自己報告による症状:多施設共同前向き観察研究
Saltnes-Lillegård C, Rustøen T, Beitland S, et al. Self-reported symptoms experienced by intensive care unit patients: a prospective observational multicenter study. Intensive Care Med 2023 Oct 9[Online ahead of print]
PMID: 37812229
https://doi.org/10.1007/s00134-023-07219-0

Abstract

【目的】本研究の目的は,集中治療室(ICU)患者における5つの症状の有病率,強度,苦痛を記述し,症状強度に関連する可能性のある予測因子を調査することである.

【方法】本研究はICU患者の前向きコホート研究である.症状質問票(すなわち,患者症状調査)を用いて,ICU7日間の疼痛,口渇,不安,疲労感,息切れの有病率,強度,苦痛を記述した.一般推定式(GEE)モデルを用いて,症状強度と予測因子との関連を評価した.

【結果】対象患者603人のうち,353人(サンプル2)が本研究に組み入れられた.ICU初日,195人の患者(サンプル1)は,口渇が最も多い症状(66%)であり,平均強度スコアは最も高かった(6.13, 95%CI [5.7-6.56]).口渇は,ICUでの7日間の入院中,最も有病率が高く(64%),最も強い症状(平均スコア6.05, 95%CI [5.81-6.3])であった.不安は,初日と7日間(平均スコア5.46, 95%CI [4.95-5.98])で最も苦痛な症状(平均スコア5.24, 95%CI [4.32-6.15])であった.7日間では,鎮痛薬投与と敗血症診断が口渇強度の増加と関連していた.高齢と機械的人工呼吸は疼痛強度の低下と関連し,鎮痛薬投与は疼痛強度の増加と関連した.家族の面会と女性の性別は,それぞれ不安の強さと息切れの強さの増加と関連していた.

【結論】自己申告によるICU患者は,7日間にわたって一貫した高い症状負担を経験していた.特定の変数が症状強度の程度と関連していたが,これらの関連をよりよく理解するためにはさらなる研究が必要である.

by DrMagicianEARL | 2023-10-10 11:53 | 敗血症

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