【研究】抗菌薬セフトリアキソンとPPIランソプラゾールの併用は致死的アウトカムを増加させる
■そこでLorberbaumら[PMID:27737742]は,安定したhERGチャネル発現細胞を用いてパッチクランプ法による電気生理学実験を行った.hERGチャネルは心臓の興奮性電位再分極相で活性化し,IKr電流を流すチャネルで,この電流は心室筋細胞の活動電位期間を決定する重要な因子である.薬剤によるQT間隔延長の主な機序はこのhERGチャネルの機能阻害によると考えられている.CTRXとLPZを単独および併用でhERGチャネル電流に及ぼす影響を調べたところ,CTRX単独ではhERG電流の有意な阻害は見られなかったが,LPZ存在下ではCTRXによるhERG電流の濃度依存的な阻害が確認された.一方,別の第3世代セファロスポリン系抗菌薬であるセフロキシムとLPZの併用ではこのような効果は見られなかった.以上から,CTRXとLPZの併用によりhERGカリウムチャネルが阻害され,QT延長を引き起こすことが実証された.
■このCTRXとLPZの併用によるQT延長が,臨床アウトカムに影響を与えるのかについてはこれまで知られていなかった.今回紹介する研究は,CTRXとLPZの併用によって心室性不整脈,心停止,死亡が増加するかを検討したものである.内科に入院し,CTRXとPPIが併用された患者31,152例(平均年齢71.7(標準偏差16.0)歳)を解析対象とし,うち3747例(12.0%)がLPZを使用していた.LPZ群と他のPPI群のベースラインの比較では,LPZ群では,高齢,長期療養施設居住,2020年中の入院(コロナパンデミック下の入院),修正Laboratory-Based Acute Physiology Scoreの高値,ICUへの入院,誤嚥またはCOVID-19による入院,心室性不整脈に関連する薬剤の投与が多かった.
■心室性不整脈または心停止を起こした患者は445人で,このうち336人(75.5%)が院内で死亡した.「LPZ群 vs その他PPI群」のアウトカムの比較は以下の通りである.
(1)心室性不整脈または心停止:3.4% vs 1.2%(p<0.001),未調整リスク差は2.2%(95%CI 1.7%-2.8%)
(2)全死因院内死亡:19.9% vs 10.1%に発生し(P<0.001),未調整リスク差は9.8%(95%CI 8.5%-11.2%)
(3)入院期間中央値:12.6日(IQR 6.1-28.4) vs 7.0日(IQR 3.8-13.7)
■前述の通り,LPZ群の方が不利な患者背景であったことから,これだけではLPZ群の方が有害事象が多いとは判断できない.そこで,傾向スコアによるIPTW法を用いた解析を行ったところ,LPZ群は心室性不整脈または心停止のリスクが2.2倍,全死因院内死亡リスクが1.6倍有意に高かった.サブグループ解析および感度分析でも,LPZ群でリスクが高いという同様の結果が得られた.以上から,このCTRXとLPZの併用療法が致命的な有害事象を増加させており,他のPPIではみられなかったことから,CTRXとLPZの併用は避けるべきである可能性があると結論づけている.幸い,他のPPIではこのような致命的有害事象増加はみられていないことから,容易に代替薬が使用できることから,CTRXを使用する際は他のPPIに変更するなど対応をした方がいいだろう.
ランソプラゾールを投与されている患者におけるセフトリアキソンと心室性不整脈,心停止,死亡のリスク
Bai AD, Wilkinson A, Almufleh A, et al. Ceftriaxone and the Risk of Ventricular Arrhythmia, Cardiac Arrest, and Death Among Patients Receiving Lansoprazole. JAMA Netw Open 2023; 6: e2339893
PMID: 37883084
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.39893
Abstract
【背景】セフトリアキソンとランソプラゾールの併用により,心電図上の補正QT間隔が延長することが示されている.しかし,このことが臨床的に重要な患者の転帰につながるかどうかは不明である.
【目的】セフトリアキソン治療中のランソプラゾールと他のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を,心室性不整脈,心停止,院内死亡のリスクという観点から比較する.
【デザイン,設定,参加者】2015年1月1日から2021年12月31日まで,カナダ・オンタリオ州の13病院でランソプラゾールまたは他のPPIとともにセフトリアキソンを投与された成人内科入院患者を含む後ろ向きコホート研究を実施した.
【曝露】セフトリアキソン治療中のランソプラゾール vs. セフトリアキソン治療中の他のPPI
【主要評価項目と評価基準】 主要評価項目は入院後に発生した心室性不整脈または心停止の複合.副次評価項目は全死因院内死亡率とした.傾向スコア重み付けを用いて,病院の部署,人口統計学的特徴,併存疾患,心室性不整脈の危険因子,疾患の重症度,入院時の診断,併用薬などの共変量を調整した.
【結果】内科病棟に入院し,PPIを投与されながらセフトリアキソンを投与された31,152例のうち,16,135例(51.8%)が男性で,平均(SD)年齢は71.7(16.0)歳であった.ランソプラゾール群3747例,その他のPPI群27405例を対象とした.心室性不整脈または心停止はランソプラゾール群で126例(3.4%),その他のPPI群で319例(1.2%)にみられた.院内死亡はランソプラゾール群で746例(19.9%),その他のPPI群で2762例(10.1%)にみられた.傾向スコアを用いて重み付けを行った結果,ランソプラゾール群-その他のPPI群の調整後リスク差は,心室性不整脈または心停止で1.7%(95%CI、1.1%-2.3%),院内死亡で7.4%(95%CI、6.1%-8.8%)であった.
【結論と関連性】このコホート研究の知見から,ランソプラゾールとセフトリアキソンの併用療法は避けるべきであることが示唆される.これらの知見が他の集団や環境でも再現できるかどうかを判断するためにはさらなる研究が必要である.