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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【RCT】脳梗塞亜急性期のMuse細胞投与は神経学的予後を改善する

■東北大学の出澤真理教授が発見した幹細胞であるMuse細胞を用いて,亜急性期の脳梗塞患者への治療を検討した第Ⅱ相治験RCTがpublishされたので紹介する.本研究はMuse細胞ベースの同種製品CL2020を脳梗塞発症後2~4週目に単回静脈内投与したところ,プラセボと比較して有意に高い奏効率を示した(40.0% vs 10.0%).
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■ただし,小規模RCTであるがゆえのベースラインの偏りもあり(ベースラインのNIHSSスコアは,CL2020群が9.8±3.5,プラセボ群が14.1±6.2点で,有意差はないがプラセボ群の方が高い),また,リハビリ効果と非麻痺側からの補償もあり,あらゆる評価項目が一律に改善したわけではない.サンプルサイズの問題もあることから,今後計画されている第Ⅲ相治験に期待したい.Abstractの下にはMuse細胞についての短い解説もつけた.
亜急性虚血性脳卒中を対象とした同種Muse細胞由来製品CL2020の無作為化プラセボ対照比較試験
Randomized placebo-controlled trial of CL2020, an allogenic muse cell-based product, in subacute ischemic stroke. J Cereb Blood Flow Metab 2023 Sep.27[Online ahead of print]
PMID: 37756573
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37756573/

Abstract

【背景】急性期以降の脳卒中に対する有効な治療法はいまだに見つかっていない.Muse細胞は,内因性の多能性幹細胞であり,静脈注射後,損傷した組織に選択的にホーミングし,分化によって損傷/消失した細胞を置換することができる,免疫に特化した幹細胞である.

【目的】この無作為二重盲検プラセボ対照試験は,修正ランキンスケール(mRS)3以上の脳梗塞患者を登録した.無作為に割り付けられた患者は,脳卒中発症後14~28日目に,免疫抑制剤を使用せずにMuse細胞ベースの同種製品CL2020(n=25)またはプラセボ(n=10)を単回静脈内注射された.安全性(主要評価項目:12週目)と有効性(mRS,その他の脳卒中特異的指標)は52週目まで評価された.有効性の主要評価項目は奏効率(12週目にmRS≦2となった患者の割合)であった.

【結果】12週目までの有害事象発生率は,プラセボ群ではそれぞれ100%,10%であったのに対し,CL2020群では96%,28%に副作用(グレード4のてんかん重積状態1例を含む)が認められた.奏効率はCL2020群で40.0%(95%CI 21.1-61.3),プラセボ群で10.0%(0.3-44.5)であり,CL2020群のCIが低いほど,あらかじめ設定された有効性の閾値(レジストリデータから8.7%)を超えていた.

【結論】このプラセボ対照無作為化試験により,CL2020は亜急性虚血性脳卒中に対する有効な治療薬である可能性が示された: JAPIC臨床試験情報サイト(JapicCTI-184103, URL: https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/ShowDirect.jsp?japicId=JapicCTI-184103/a>)
1.Muse細胞の発見

■Muse細胞の発見はミスと偶然の産物であった.発見者の東北大学の出澤真理教授は,2010年に骨髄間葉系幹細胞から骨格筋誘導の実験を行っていた時に,他のスタッフから「早く呑み会に来い」と言われ,実験が杜撰になってしまった.そして翌日に実験室に行くと,分化培地の骨格筋細胞がほぼいなくなっていた.実は呑み会に急ぐあまり,分化培地と間違えて消化酵素トリプシンを入れていたため,ほとんどの細胞は死滅していた.しかし,わずかながら浮遊していた生き残りの細胞があった.この浮遊していた細胞は消化酵素に耐えていた細胞であり,これがMuse細胞の発見であった[1]

2.Muse細胞とは?

■Muse細胞のMuseはMultilineage-differentiating stress enduringの略であり,骨髄,皮膚,脂肪といった間葉系組織だけではなく,種々の臓器の結合組織中や末梢血にも存在する自然の多能性幹細胞であり[1],以下のような特徴を持つ.
1.生体内にもとからある細胞のため,iPS細胞のような腫瘍性の心配がない.
2.ストレス耐性,DNA損傷の修復が迅速.他の幹細胞よりも修復能が強い.
3.傷害組織からS1Pシグナルを検知し,傷害部位に自動的に遊走・生着し,組織修復できる.このため静脈内投与が可能である.
4.他の幹細胞のような遺伝子導入を必要とせず,生着後「場の理論」に従った分化をする.
5.血管に分化して組織修復を強化する.
6.胎児が母体から免疫攻撃を回避する機構の一部を有するため,HLAマッチング等なしにドナーからの他家移植が可能
■Muse細胞は結合組織中や接着培養などの接着性環境では間葉系幹細胞として振る舞うが,血中や浮遊培養などの懸濁状態とすると多能性を発現するという二重性を有する.細胞懸濁液においてMuse細胞は増殖を開始し,懸濁状態でES細胞が形成する胚様体に酷似した集塊を単独の細胞から形成できる.Muse細胞は胚葉を超えて分化することができるため,神経細胞にも分化可能である[2].脊髄損傷モデルマウスへのMuse細胞の静脈内投与で,Muse細胞が脊髄損傷部位に集積し,自発的に神経細胞に分化したことが確認されている[3]

[1] Kuroda Y, Kitada M, Wakao S, et al. Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations. Proc Natl Acad Sci U S A 2010; 107: 8639-43(PMID: 20421459)
[2] Wakao S, Kitada M, Kuroda Y, et al. Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. Proc Natl Acad Sci U S A 2011; 108: 9875-80(PMID: 21628574)
[3] Wakao S, Kuroda Y, Ogura F, et al. Regenerative Effects of Mesenchymal Stem Cells: Contribution of Muse Cells, a Novel Pluripotent Stem Cell Type that Resides in Mesenchymal Cells. Cells 2012; 1: 1045-60
by DrMagicianEARL | 2023-11-15 11:28 | 文献

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