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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

※このブログでは通常は薬剤名を一般名で記載していますが,今回は分かりやすくするため,一般名より商品名を優先しています.

■昨年まで主要な抗インフルエンザ薬は4剤で,いずれもノイラミニダーゼ阻害薬であったが,今年3月に,新しい機序であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれる新規クラスの抗インフルエンザ薬ゾフルーザ®(バロキサビル)が発売開始となった.ただし,その時はまだ臨床第Ⅲ相試験であるCAPSTONE-1 trialの結果が論文としてpublishされておらず,メーカーからのプレスリリースのみで,詳細データを把握することはできず,そのような中で使用すべきなのかは医師の間で意見が分かれていた.

■2017-2018年シーズンでの抗インフルエンザ薬の売り上げ[1]は,1位がイナビル®(ラニナミビル)の253億円,2位がタミフル®(オセルタミビル)の169億円であった.ではインフルエンザ流行シーズン終盤である3月から発売開始となったゾフルーザ®の売り上げはというと,わずか2週間で24億円もの売り上げがあったことから,相当数の医師がゾフルーザ®を処方したことがうかがえる.2018-2019年シーズンは,既にゾフルーザ®が独走状態とのことである[2]

■一方で,SNSを見ると,12歳未満や高齢者,肺炎合併例に処方しているケースも多く(確かに添付文書上は適用範囲内だが,CAPSTONE-1 trialから除外されている患者層でありエビデンスがほぼない),ひどいものでは予防投与されているケースもあり(適用外),不適切使用が早くも横行している印象であった.また,後述するが,タミフル®より早く症状がよくなる薬であるというデマも多数流れている.塩野義製薬が「速いウイルス減少効果」を前面に押し出して宣伝し,その一方で(主要評価項目であるにもかかわらず)有症状期間や耐性についてはあまり触れていないためそのような勘違いが生じているものと思われる.塩野義製薬は2013/2014年シーズンにも自社製品であるラピアクタ®を推すかのようなインフルエンザ啓蒙CMを流して医療従事者から猛批判を浴びた経緯があり[3],どうもプロモーションに問題があると感じざるを得ない.

■ゾフルーザ®は確かに1日1回製剤であり,インフルエンザウイルス検出をタミフルRより早く抑えられるという2点はメリットとなる.しかし,9月にNEJM誌に(ようやく)publishされたCAPSTONE-1 trial[4]の結果を見るに,そう楽観的に見られるような薬剤ではないことが分かる.以下では,CAPSTONE-1 trialを元にゾフルーザ®について日常臨床で使えるかどうかについて考察した.

※COI開示:本ブログ管理人は過去3年以内に,抗インフルエンザ薬販売メーカーでは塩野義製薬(ゾフルーザ®,ラピアクタ®を販売)とグラクソ・スミスクライン(リレンザ®を販売)から1回ずつ講演料(ただしいずれもインフルエンザとは無関係の講演)を受けている.

1.論文詳細

■CAPSTONE-1 trial[4]は,日本および米国で2016年12月から2017年3月までにインフルエンザ様症状を呈した12-64歳を対象とし,ゾフルーザ®,タミフル®,プラセボに2:2:1で割り付けた二重盲検RCTである.ただし,タミフル®群だけは異常行動との関連の問題が指摘されていた関係で10歳代への処方制限がある時期の研究のため20-64歳が対象となっている(2018年8月21日より10歳代への処方再開が認められた[5]).

■導入基準は腋窩温38.0℃以上の発熱,1つ以上の全身症状,中等度以上の呼吸器症状を有し,発症から48時間以内の患者である(intention-to-treat population; ITT集団).また,迅速診断キットではなくPCR法でインフルエンザと診断された患者をITTI集団(intention-to-treat infected population)としている.

■入院を要する重症例や肺炎等合併例や以下に示すハイリスク集団は除外されている.
ハイリスク集団
妊婦,医療介護施設等利用者,気管支喘息を含む慢性呼吸器疾患患者,神経疾患患者,心臓疾患患者,血液疾患患者,内分泌疾患患者(糖尿病を含む),腎不全患者,肝不全患者,免疫不全患者,肥満指数≧40
■結果であるが,1436例がランダムに割り付けされ(8割弱が日本から登録),ITTI集団は1064例であった.主要評価項目である「症状緩和までの期間」はITTI集団でゾフルーザ®群がプラセボ群より有意に短いという結果であった(中央値53.7時間 vs 80.2時間).よって,ざっくり言えば有症状期間を約1日短縮するということになる.しかし,ゾフルーザ®群とタミフル®群との比較については有意差がなく(中央値絶対差は0.3時間),supplementary appendixにあるKaplan-Meier曲線を見ても治療開始から60時間まではほぼ重なっていた.60時間以降はタミフル®群の方が症状改善を得た患者の割合が一貫して数%ほど少ないようにも見える.
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■ウイルス検出期間中央値はゾフルーザ®群が24時間であり,タミフル®群(72時間),プラセボ群(96時間)よりも有意に短縮していた.有害事象はゾフルーザ®群4.4%,タミフル®群8.4%,プラセボ群3.9%であった.

■なお,ゾフルーザ®投与患者のインフルエンザウイルスにおいて,低感受性に関与するとされるPA(ポリメラーゼ酸性蛋白領域)の遺伝子変異(I38T/M/F)が9.7%に生じており,それらはすべてA/H3N2株であった.ゾフルーザ®群のPA遺伝子変異がない患者,変異があった患者,プラセボ群の患者でのウイルス検出率は,5日目でそれぞれ7%,91%,31%,9日目でそれぞれ2%,17%,6%であり,ゾフルーザ®低感受性に関連する遺伝子変異があるとプラセボよりもウイルス検出期間が長引くという結果で,有症状期間も遺伝子変異があると63.1時間に長引いていた.

■低感受性株に関するグラフの提示は本論文にはないが,ゾフルーザ®添付文書[6]には掲示されている.これを見ると,ゾフルーザ群のウイルス力価は遺伝子変異の有無にかかわらず1日で大きく減少しているが,その後遺伝子変異ありの群ではむしろウイルスが増殖に転じ,3日目以降はプラセボ群をも上回っている.米国CDCのUyekiも本論文のperspectiveでこのエスケープ変異の出現に懸念を示している[7]
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2.ゾフルーザ®による懸念

 以上,CAPSTONE-1試験の結果をまとめると、ゾフルーザ®は12-64歳の健常者のインフルエンザにおいて以下の3つの特徴が挙げられる.
(1)ゾフルーザ®は有症状期間を1日ほど短縮させる効果があるが,タミフル®とは差がほぼないに等しい.
(2)ゾフルーザ®はウイルス検出期間をタミフル®やプラセボよりも2~3日短縮する.
(3)ゾフルーザ®投与成人患者の約1割(小児では2割以上)でウイルスに遺伝子変異が生じ,ウイルス検出期間がむしろ延長し,有症状期間も長引く
■患者さん本人にとっては「症状をなんとかしてほしい」ことが第一で、そういう意味ではゾフルーザ®はタミフル®より症状改善効果が大きく上回っているわけではなく,しかも1割の患者ではタミフル®投与の場合に比べ症状が長引く可能性がある,ということになる.

■CAPSTONE-1での第Ⅲ相試験での変異株(9.7%に検出)はすべてA/H3N2株であったのに対し,第II相試験では変異株は2.2%で,すべてA/H1N1pdm2009株であったことから、どのウイルス株に感染したか,流行シーズン内でどのウイルス株が特に多いかの影響を強く受けるものと思われる.ちなみに小児でのシングルアームの国内第Ⅲ相試験では変異株は23.3%に検出している.

■ゾフルーザ®が2018-2019年シーズンに多数処方された場合,低感受性株でウイルス検出期間が長引くとそのぶん周囲への感染リスクがむしろ増加してしまい,ゾフルーザ®低感受性株だけが拡散されていく可能性を想定しなければならず,ゾフルーザ®処方が逆効果になりかねない.これが現実化してしまうと,ゾフルーザ®は早々と使えない薬になってしまうだろう.といっても,臨床現場では低感受性株かどうかをすぐに確認する術がなく,非常に憂慮すべき問題である.

■日本感染症学会では,ゾフルーザ®について,低感受性株の頻度が高いことから公衆衛生上の懸念が大きいとして,現時点では本薬剤についての治療での位置づけを見送っている[8].日本小児科学会の「2018/2019シーズンのインフルエンザ治療指針」[9]でも,小児におけるゾフルーザ®はシングルアームの小規模研究しかないことから「同薬の使用については当委員会では十分なデータを持たず,現時点では検討中である」として推奨は出していない.

3.外来でのインフルエンザ治療

■既にマスコミ報道は加熱しすぎな印象がある.様々なメディアが新薬ゾフルーザ®を過剰な表現で絶賛している記事ばかりであり,その共通点として,ウイルス消失速度が速いには必ず触れるが,症状改善速度がタミフル®と変わらないことについては一切触れていないのである.低感受性株出現に触れている記事も非常に少ない.このようなメディアによる過剰宣伝はイレッサ®発売間もない頃の記事や近年のオプジーボ®報道記事に似るところがある.それに歯止めをかけなければならないのは他ならぬ医師ではあるが,SNSや医師によるネット記事を見るに,どうもあまり期待はできなさそうである.

■さて,外来で季節性インフルエンザ患者を診察した上で,重症でなければどうするか?ゾフルーザ®発売に際して多数の記事がでているが,気になるのは,タミフル®と比較してばかりで,「抗インフルエンザ薬を処方することが大前提」となってしまっている記事が多いことである.まずは抗インフルエンザ薬がその患者さんに必要かをアセスメントする必要がある.

(1) そもそも抗インフルエンザ薬が必要か否か

■季節性インフルエンザは基本的には自然軽快する疾患であり,発症から48時間以降では抗インフルエンザ薬投与に意味はなく,また,48時間以内であってもハイリスク患者でない限りは有症状期間をせいぜい半日-1日程度短縮する効果しかなく[10],これはゾフルーザ®でも同様の結果であることから,副作用リスクや耐性化リスクもあるので,このあたりのメリット・デメリットを患者ごとに説明した上で「処方しない」という選択肢も当然ながらある.少なくとも海外では対症療法のみが一般的であり,WHOや米国CDCも健常者では抗インフルエンザ薬を投与するなとは言っていないが,治療する必要はないとしている.日本小児科学会のインフルエンザ治療指針も基本的にはWHOの方針に順じて「抗インフルエンザ薬は必須でない」としている.一方の感染症学会の指針ではどういうわけかそのような記載は見られない.

■もちろん,ハイリスク患者でないという理由で一律に処方しない,とはならない.ハイリスク患者でなくとも重症化徴候がみられる場合は処方した方がbetterなケースもあるだろう.また,有症状期間短縮効果が「たった半日~1日」なのか,「半日~1日も」なのかは個々の患者でとらえ方が異なる(例えば入試を直前に控えた受験生にとってはその短縮期間は大きな意味をもちうる).益と害のバランスをアセスメントしつつ,個々の患者の事情も踏まえた細かい判断をするのが医師の役割であろう.

(2) 対象患者

■処方する場合,抗インフルエンザ薬は5種類あるが,そのうちラピアクタ®(ペラミビル)だけは点滴製剤であるため,患者を長く院内に留め置くことになり,基本的には外来での使用は感染対策上おすすめできない(使うとすれば肺炎等の合併症に進展した重症例か,内服も吸入も困難な患者くらいであろう).

■ゾフルーザ®のCAPSTONE-1 trialの対象は12-64歳のリスク因子のない患者,かつ非合併症例・非重症例であり,それ以外の患者集団では現時点でRCTがないことから,現時点では処方対象はこのRCTの対象患者に限定すべきである.高齢者やハイリスク群での検討はCAPSTONE-2 trialで検討されており,既に有効とのプレスリリースはされてはいるが[11],論文はまだpublishされていないため詳細不明であり,現状はゾフルーザ®を使用するにしてもCAPSTONE-1の対象患者に限定すべきである.また,12歳未満の小児においてもシングルアーム試験しかない状況である.

■よって,ハイリスク患者であればリレンザ®,タミフル®,(感染対策がとれるなら)ラピアクタ®がbetterと思われる.

(3) 効果

■各種抗インフルエンザ薬間で有症状期間短縮効果はほぼ差はみられない.ただし,2017/2018年シーズンまで最も人気のあったイナビル®については本当に効果があるのか疑問である.イナビル®とプラセボを比較したRCTは海外第Ⅱ相試験である639例二重盲検RCTのIGLOO trialしかなく,本研究では,有症状期間がプラセボと比べて統計学的有意差は得られておらず,その期間中央値を見ても全くと言っていいほど差はない(プラセボ群104時間に対してイナビル®群は102時間).このため,イナビル®は欧州には進出できていない.本研究はpublishもなされることもなく,試験を行ったBiota社のサイトからも結果は既に削除されてしまっている.

■一方,日本,台湾,韓国,香港で行われた国際共同RCTであるMARVEL study[12]ではイナビル®とタミフル®で有症状期間は73.0時間 vs 73.6時間で確かに非劣性であり,これをもとに承認されてはいる.しかし,このRCTでのインフルエンザ患者の約2/3はソ連型A/H1N1株(2009年以降は消滅状態)であり,これらはタミフル®に対してほぼ100%耐性である.すなわち,タミフル®がほとんど効かない時期での比較で差が全くでていないわけであり,これはプラセボと差がなかった欧米でのIGLOO trialの結果と矛盾しない.以上からイナビル®の有効性には疑問を持たざるを得ず,筆者は使用しない方針としている.

■ゾフルーザ®のウイルス検出期間短縮効果は感染拡大を防ぐ上でのメリットとなりうる.このため,院内/施設内感染事例においてはいい使いどころとなるかもしれない.しかし,入院患者や施設患者の多くは高齢者やハイリスク群に該当する患者であり,現時点のエビデンスでは適用がない.また,そのウイルス株が低感受性の変異株によるアウトブレイクであった場合,ゾフルーザ®投与は逆効果となりうる.以上を熟慮した上で使用するか否かを決定すべきであろう.

(4) 副作用

■副作用としては,ゾフルーザ®もタミフル®も下痢などの消化器症状が特徴だが,ゾフルーザ®の方が副作用リスクが少ないことが分かっており,その点はゾフルーザ®に利点がある.ただし,新薬は市販後に新たな副作用が判明することもしばしばあり,単回投与だけでいい半減期の長い薬剤なだけに副作用も長引く可能性がある.

■イナビル®とリレンザ®は乳糖を使用しており,乳糖中の乳タンパクが問題となることから,牛乳アレルギー患者では禁忌であることをふまえておく必要がある.

■タミフル®とラピアクタ®は腎障害を有する患者では投与量減量が必要となる.ゾフルーザ®は主に胆汁排泄の薬剤であり,腎障害患者でも用量調節不要とはなっているが,前述の通り,腎障害患者を含むハイリスク患者での有効性・安全性を検討したRCTであるCAPSTONE-2 trialはまだpublishされておらず,本剤の使用は待つべきである.

■タミフル®で一時問題に挙がった(特に10歳代の)異常行動については,厚労省の調査では因果関係は明確ではないとの判断となり,2018年8月21日より処方制限が解除されている[5].過去の厚労省研究班の調査結果では,異常行動発生率はタミフル服用群で10%,非服用群で22%であった.もっとも臨床医ならばよく経験されるが,抗インフルエンザ薬内服有無にかかわらずインフルエンザでは異常行動が生じうる.このため,インフルエンザと診断したら「発熱から少なくとも2日間は家の外に飛び出さないよう玄関や窓を施錠し,目を離さない」ようにすることを家族に伝えておく必要がある.

(5) 用法・デバイス

■イナビル®とゾフルーザ®は1日使用するだけでOKなため,患者としても扱いやすく,アドヒアランス上はメリットとなる.ただし,イナビル®のデバイスは操作が煩雑である.

■製剤形状の違いとして,イナビル®とリレンザ®は吸入薬であり,これらの吸入デバイスは患者の吸入力を考慮した設計となっていないため,COPD/喘息治療薬の吸入デバイスに比して数倍の吸入力を必要とする.よって吸入力の衰えた高齢者や4歳以下では使用困難である.

(6) 値段

■値段に関しては,抗インフルエンザ薬は不要と判断して処方しなければもちろん0円であるが,最も安いタミフル®は2720円に対し,バロキサビルは4789円である.加えて,2018年9月から後発品であるオセルタミビルカプセル®「サワイ」も販売開始となり,先発品の半額の1360円に設定されているため,3割負担でもゾフルーザ®と1000円ほどの差が出てくる.

(7) 麻黄湯

■漢方薬の麻黄湯がインフルエンザに有効とされてはいる.非常に少ないサンプル数ではあるが,本邦からRCTが2報でており[12,13],いずれもタミフル®より有症状期間を有意に短縮したという結果となっている.

■以上をふまえた上で,ゾフルーザ®を使用するか否かを検討すべきであり,一律にゾフルーザ®ばかり処方する,ということにはならないはずであるし,むしろ処方機会は限定的になるであろう(バンバン処方されてしまってはいるが).

[1] AnswersNews. インフルエンザ 変わる治療薬の市場―ゾフルーザがシェア拡大 タミフルには後発品登場. 2018年9月18日. https://answers.ten-navi.com/pharmanews/14802/
[2] SankeiBiz. インフル薬「ゾフルーザ」シェア1位に 負担軽く人気. 2018年11月6日. http://www.sankeibiz.jp/business/news/181106/bsc1811061619010-n1.htm
[3] EARLの医学ノート. 塩野義製薬のインフルエンザの啓蒙CM・サイトについて. 2014年1月12日 https://drmagician.exblog.jp/21562162/
[4] Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, et al. Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med 2018; 379: 913-23
[5] 日本経済新聞. タミフル10代投与再開 厚労省、異常行動に注意喚起. 2018年8月21日. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34408200R20C18A8CR8000/
[6] 塩野義製薬株式会社. ゾフルーザ添付文書第3版. http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/340018_6250047F1022_1_04.pdf
[7] Uyeki TM. A Step Forward in the Treatment of Influenza. N Engl J Med 2018; 379: 975-7
[8] 日本感染症学会インフルエンザ委員会. キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ®)について. 2018年10月1日. http://www.kansensho.or.jp/guidelines/pdf/1810_endonuclease.pdf
[9] 日本小児科学会 新興・再興感染症対策小委員会/予防接種・感染症対策委員会. 2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018_2019_influenza_all.pdf
[10] Jefferson T, Jones MA, Doshi P, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev 2014; 4: CD008965
[11] 塩野義製薬株式会社. 抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシルの良好な第 III 相臨床試験(CAPSTONE-2)結果について(速報). 2018年7月17日 http://www.shionogi.co.jp/company/news/qdv9fu000001dgz1-att/180717.pdf
[12] Nabeshima S, Kashiwagi K, Ajisaka K, et al. A randomized, controlled trial comparing traditional herbal medicine and neuraminidase inhibitors in the treatment of seasonal influenza. J Infect Chemother 2012; 18: 534-43
[13] Kubo T, Nishimura H. Antipyretic effect of Mao-to, a Japanese herbal medicine, for treatment of type A influenza infection in children. Phytomedicine 2007; 14: 96
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# by DrMagicianEARL | 2018-11-08 17:39 | 感染症 | Comments(0)
■本庶佑先生がPD-1発見でノーベル医学生理学賞を受賞され話題になっています.現在オプジーボ®やキイトルーダ®が各種の癌に適用を取得して多数の患者に使用されるようになりました.このPD-1阻害薬投与中の患者に対するインフルエンザワクチン接種はどこまで安全かですが,それを検討した報告がでています.N数が23例と少ないため,この発生率をそのまま鵜呑みにはできないですが,ワクチン接種後に半数で免疫関連有害事象irAEが生じ,そのうちの半数は重症グレード3以上,ワクチン接種から発症までの期間は3.2ヶ月でした.これは既知のirAE発生頻度よりかなり高く,また研究対象ではないですが,同じ施設のワクチン非接種集団のirAEsの頻度と比較すると約2倍になります.発生したirAEsはグレード1/2が皮疹(ワクチン接種部位以外),関節炎,甲状腺機能低下症,グレード3/4が腸炎,脳炎,間質性肺炎,ニューロパチーでした.

■PD-1阻害薬ではインフルエンザワクチン接種は禁忌ではなく,要注意程度となっていますが,irAEリスク上昇が起こるかもしれないことを患者に説明する必要はありそうです.加えてirAEが生じてしまうと癌治療手段としてのPD-1阻害薬を中止せざるを得ません.もちろん,irAEがコントロール可能で回復した場合はPD-1阻害薬の再開が検討されることは多いですが,MSKCCレポート(Cancer Immunol Res 2018 ; 6: 1093-9)によると,irAEにより治療中断した後の免疫療法再開では,同じirAEまたは別のirAEが52%(20/38)に発症しており,再開後発症したirAEの多くはコントロール可能であったが,再開群の38例中2例が死亡しており,注意が必要です.

■一方で,癌患者はインフルエンザハイリスク集団ですので基本的にはワクチン接種は必要となります.実際にコクランのシステマティックレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2013; 10: CD008983)でも,癌患者に対するインフルエンザワクチン接種は死亡リスクを減少させるとしています.免疫チェックポイント阻害薬とワクチンの相乗効果もin vitroの研究ですが示されてはいます(Curr Opin Immunol 2013; 25: 381–8/Cancer Res 2014; 74: 2974–85/J Exp Med 2008; 205: 543–55).非常に悩ましいですが,これらを総合的にふまえてワクチン接種するかどうか患者に説明しインフォームドコンセントを得る必要があります.
PD-1阻害薬使用中の癌患者のインフルエンザワクチンは血清学的保護効果を有するが,免疫関連有害事象リスクを増加させる
Läubli H, Balmelli C, Kaufmann L, et al. Influenza vaccination of cancer patients during PD-1 blockade induces serological protection but may raise the risk for immune-related adverse events. J Immunother Cancer 2018; 6: 40
PMID: 29789020
https://jitc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40425-018-0353-7

Abstract
【背 景】
免疫チェックポイント阻害薬は癌患者の日常的な臨床診療に導入されている.免疫チェックポイント阻害薬は一部の患者で寛解が得られるが,免疫学的有害事象(irAEs)も引き起こす可能性がある.肺癌患者はインフルエンザウイルス感染時の合併症リスクが高まることが示されている.このため,ワクチン接種が推奨されている.しかしながら,免疫チェックポイント阻害薬使用中のインフルエンザワクチン接種の効果と安全性や,irAEsへの影響は不明確である.同様に,PD-1阻害薬投与中の患者におけるT細胞による免疫反応へのワクチン接種の影響も依然として不明確なままである.

【方 法】
免疫チェックポイント阻害薬投与中のワクチンによる免疫反応と安全性を検討するため,23例の肺癌患者と11例の年齢でマッチした健常コントロールに三価インフルエンザワクチン接種を行った.

【結 果】
全3つのウイルス抗原に対するワクチンによる抗体価は,患者と健常コントロールとで有意差はみられなかった.インフルエンザワクチン接種は患者および健常コントロールの60%以上で保護的抗体価に達していた.癌患者においては,ワクチン接種後のirAEsの頻度は52.2%であり,ワクチン接種後から発生までの期間中央値は3.2ヶ月であった.23例中6例(26.1%)は重症グレード3/4のirAEsであった.このirAEsの頻度は,既知の文献での発生率,および本研究機関の非研究集団(ワクチン非接種)で観察された割合よりも高い可能性がある(全グレードで25.5%,グレード3/4で9.8%).

【結 論】
限られた数の患者による非無作為化試験であるが,免疫学的毒性の増加と関連している.本知見はより大きい患者集団で研究されるべきである.

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# by DrMagicianEARL | 2018-10-26 15:44 | 感染対策 | Comments(0)
■ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)によるストレス潰瘍予防が行われるようになって40年近くがたち,ICU患者においてルーチンで使用している施設も多いでしょう.その一方で,近年は早期経腸栄養が行われるようになったこともあって,最近のRCTでは薬剤によるストレス潰瘍予防の効果はほぼなくなり,むしろ肺炎が増加するという報告も出てきていて,ストレス潰瘍予防を見直す必要性が出てきています.少なくとも,出血リスクがないのであればICU患者でもストレス潰瘍予防は不要でしょう.では出血リスクを有する患者ではどうか?

■今回紹介する論文は,これまでのRCTと違い,1つ以上の消化管出血リスク因子(ショック,抗凝固薬使用,腎代替療法,人工呼吸器装着,肝疾患既往,凝固障害)を有するICU患者でのPPIの効果を検討した大規模RCTであるSUP-ICU trialです.主要評価項目を消化管出血ではなく死亡率に設定しているのは少し驚きましたが(差がつくわけないのは分かりきってたはずですが),有意差なしでした.SOFAスコア中央値9点で90日死亡率が30%程度は妥当なレベルと思います.

■では,死亡率に差がなくネガティブだったのでPPIはやめましょう,となるかというと,これがまた悩ましいデータがでています.消化管出血については2.5% vs 4.2%(RR 0.58; 95%CI 0.40-0.86)で統計学的に有意な42%の相対リスク減少を認めています.絶対差は1.7%でNNT 59であり,これを臨床的に有意な差と見るかは微妙な数値です.ただ,ここでの消化管出血は,単に黒色便を認めただけの軽い胃潰瘍出血のようなものではなく,血圧低下や輸血必要性などが生じるほどの「臨床的に意義のある出血」ですので,それなりの医療介入が必要になる以上,無視はしにくいと思います.

■その一方で,PPIによって理論上増えると予想された肺炎やCDIなどの感染は16.8% vs 16.9%で全くと言っていいほど差がありません(CALORIES trialのときもそうでしたが,VAP予防がさかんに行われるようになって肺炎が起こりにくくなってるのかもしれません).これらをふまえて考えれば,「消化管出血ハイリスクのICU患者ではPPI投与の益が害を上回るため,PPI投与は行う方がよい,となるのではないでしょうか?少なくとも私はこのようなハイリスク患者集団では今後も薬物学的ストレス潰瘍予防を行うと思います.今回は下にレビューもつけました.
ICUで消化管出血リスクを有する患者におけるパントプラゾール(SUP-ICU trial)
Krag M, Marker S, Perner A, et al; for the SUP-ICU trial group. Pantoprazole in Patients at Risk for Gastrointestinal Bleeding in the ICU. N Engl J Med 2018 Oct.24[Epub ahead-to-print]

Abstract
【背 景】
消化管ストレス潰瘍予防はICU患者において頻回に行われているが,その害と益は不明確である.

【方 法】
この欧州の多施設共同並行群間盲検化試験において,我々は急性疾患(予期せぬ入院など)でICUに入室し,消化管出血リスクを有する成人患者を,ICU在室中毎日パントプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)40mg静脈内投与する群とプラセボ群に無作為に割り付けた.主要評価項目は無作為化から90日以内の死亡率とした.

【結 果】
3298例の患者が登録され,1645例がパントプラゾール群に,1653例がプラセボ群に無作為に割り付けられた.主要評価項目データは3282例(99.5%)で収集できた.90日時点でパントプラゾール群で510例(31.1%),プラセボ群で499例(30.4%)が死亡した(RR 1.02; 95%CI 0.91 to 1.13; p=0.76).ICU在室中,少なくとも1回の臨床的に意義のある事象(臨床的に意義のある消化管出血,肺炎,Clostridium difficile感染,心筋梗塞の複合アウトカム)はパントプラゾール群で21.9%,プラセボ群で22.6%(RR 0.96; 95%CI 0.83 to 1.11)であった.パントプラゾール群では,臨床的に意義のある消化管出血が2.5%,プラセボ群では4.2%であった.90日以内の感染や重篤な有害反応を生じた患者数,生命維持装置非装着生存日数の割合は両群間で同等であった.

【結 論】
消化管出血リスクを有する成人ICU患者において,90日死亡や臨床的に意義のある事象数は,パントプラゾール群とプラセボ群とで同等であった.
1.ストレス潰瘍と胃酸分泌抑制薬の登場

■ICU患者は疾患そのものによる高度な侵襲性ストレスを受けているが,これに対する救命治療もまた医原性の侵襲性ストレスとして患者が受けることになる.この侵襲性ストレスにより胃・十二指腸をはじめとする消化管にストレス潰瘍が生じることが知られている.この重症患者における消化性潰瘍の重要性が注目され始めたのは,緊急内視鏡検査の必要性がPalmerら[1]によって説かれた1950年代まで遡り,1970年にSkillmanら[2]が,呼吸不全,低血圧,敗血症でICUに入室した患者に生じた消化性潰瘍をストレス潰瘍としてGastroenterology誌に報告を行ってから,この名前が広く認識されるようになった

■ストレス潰瘍の頻度は,内視鏡検査が行われるようになってからの報告では急速に増加し,ICU患者においては入室後24時間以内に75-100%の患者で粘膜病変が形成され[3],予防手段を受けていなければ5-25%で出血が生じていると報告されていた[3,4]

■ストレスの要因としては,①心理的・精神的ストレス,②身体的ストレスがあり,ICU患者のストレス潰瘍ではこの両者が関与しうる.また,ICUで使用されるNSAIDsやステロイドも薬剤性の消化性潰瘍の原因となる.さらに,多臓器不全の病態そのものが消化性潰瘍を引き起こしうることも知られる.臨床的に意義のある消化管出血(循環動態が悪化した,輸血が必要,あるいは手術が必要なケース)は予後を悪化させることが知られていたため,高度侵襲病態におけるストレス潰瘍の予防が必要であることが広く周知されてきた.

■有効なストレス潰瘍予防方法は1972年にH2RAのmetiamideが発見され[5],1976年にこのmetiamideでストレス潰瘍の予防と治療の臨床での有効性が報告され[6],1977年にシメチジンが使用可能となってからはその報告が急激に増加し,ストレス潰瘍の予防や治療は大きな転機を迎えた.さらに1980年代には強力な胃酸分泌抑制薬であるPPIが登場し[7],集中治療領域におけるストレス潰瘍予防はPPIとH2RAの一騎打ちの時代に突入していった.

2.ストレス潰瘍予防のエビデンス

■PPIとH2RAの2種類の薬剤によるICU患者でのストレス潰瘍予防効果についてはRCTやメタ解析が多数報告されており,2018年6月の最新のコクランメタ解析でも消化管出血の有意な予防効果が示されている[8]

■しかしながら,ストレス潰瘍予防のRCTの多くは2000年以前のものであり,当時の消化管出血頻度は前述の通り5~25%とされており,H2RAやPPIの投与を受けていてもこの程度の頻度があった.一方,2000年以降の観察研究をみると,その頻度はおおむね1%以下である[9-13].すなわち,これまでストレス潰瘍予防の支持の根拠となるメタ解析では2000年以前の古いRCTにかなり引っ張られた結果である.実際にここ2~3年の間にでてきたRCTを見てみると,ストレス潰瘍予防を行っても消化管出血リスクの有意な減少はみられていない.

■一方,Huangら[14]は,「経腸栄養を受けている」ICU患者に対するPPIやH2RAのRCTのメタ解析を行い,消化管出血リスクは減少せず(RR 0.80; 95%CI 0.49 to 1.31, p=0.37),院内肺炎は有意に増加する(RR 1.53; 95%CI, 1.04 to 2.27; p=0.03)という結果であった.各RCTの効果量を見てもリスク減少があるようには到底見えない.2000年以前は早期経腸栄養がそこまで積極的に行われていなかった時代であるため,ここがコクランのメタ解析結果との大きな違いになっている.

■実際に,経腸栄養によってプロスタグランジン分泌と消化管血流が改善する[15,16],ストレス起因性の迷走神経刺激伝達系を経腸栄養が抑制する[17,18],胃内pHが経腸栄養によって希釈されて上昇する[19],ということが知られており,経腸栄養そのものがストレス潰瘍予防としての役割を果たしているため,薬物学的ストレス潰瘍予防が意味をなさなくなっていると考えられる.

■なお,過去の報告では,胃に留置すれば胃内は栄養剤投与による希釈によりアルカリ化されるが,十二指腸/空腸に留置すれば希釈されることなく胃酸分泌刺激が生じ,胃内pHが胃に留置した場合より低くなるかもしれないとする報告[20]もあるが,Alhazzaniら[21]の19報RCT,1394例のメタ解析では,消化管出血リスクに有意差はなかった(RR 0.89; 95%CI 0.46-1.42; p=0.64).

3.ストレス潰瘍予防の適用とガイドライン

■少なくとも、ICUの全患者にルーチンで薬物学的ストレス潰瘍予防を行う時代はそろそろ終わりということであろう.もっともこれは早期経腸栄養がちゃんと行われていることが前提である.既に早期経腸栄養の有効性が知られており,どのガイドラインでも推奨されていることから,もしその施設で早期経腸栄養が行われていないのであればまずはそこから見直す必要がある.

■では逆に,どのような潰瘍出血リスク患者を選んで薬物学的ストレス潰瘍予防を行うかだが,ストレス潰瘍予防そのものをメインに扱ったガイドラインはAmerican Society of health-System Pharmacistsによる1998年の古いものしかない[22].しかし、この古いガイドラインでもICU全患者に一律にストレス潰瘍予防を推奨しているわけではなく,ハイリスク患者に限定した使用を推奨している.参考までにこのガイドラインでの適用基準を以下に示す.経腸栄養を行っているなら、この適用基準のハードルはさらに上げてもいいと思うが,まずはこの基準をもとに薬物学的ストレス潰瘍予防の適用患者を絞っていくことをお勧めしたい.
ASHPガイドラインにおけるICU患者でのストレス潰瘍予防適用

(1)絶対適用(1つでもあてはまれば適用)
凝固障害(血小板<50000 /mm3,PT-INR>1.5,APTTが正常時の2倍以上)(B)
48時間以上の人工呼吸器管理(B)
1年以内の上部消化管潰瘍または出血(D)
Glascow Coma Scale(GCS)≦10(または簡単な指示に従えない)(B)
体表面積≧35%の熱傷(B)
肝部分切除後(C)
多発外傷(Injury Severity Score≧16など),移植患者周術期,肝不全,脊椎外傷に該当(D)

(2)相対適用(2つ以上あてはまれば適用)
敗血症(D)
1週間以上のICU在室(D)
6日間以上の潜血(D)
高用量コルチコステロイド治療(ヒドロコルチゾン250mg/日相当量以上)
■この基準にあてはまる患者は消化管出血ハイリスク患者である.今回のSUP-ICU trialもこの消化管出血ハイリスク患者を対象としてRCTを行っており,プラセボ群の方が有意に消化管出血が多いという結果であったことから,やはり早期経腸栄養を行っていても,ハイリスク患者では薬物学的ストレス潰瘍予防を考慮すべきだろう.

■もし薬物学的ストレス潰瘍予防を行う場合,PPIとH2RAのどちらがいいかであるが,これまでのPPIとH2RAを比較したメタ解析結果ではPPIの方が支持されている.ただし,前述の通り,これは2000年以前の古いRCTが多く含まれた解析結果である.48時間以内の早期経腸栄養が広く行われるようになった現在であれば,私はH2RAでいいと考えている.理由として,①早期経腸栄養が始まるまでの超早期が最もハイリスクとなるため,胃酸抑制が必要なのであれば立ち上がりが早いH2RAの方が有利(ただし、近年発売されたPPIであるボノプラザンも立ち上がりは早い),②H2RAの方が胃内pHを下げすぎない,があげられる.実際に,近年行われた2つの大規模コホート研究では,PPIの方がH2RAより臨床的に意義のある出血が多かったと報告している[23,24].ただし、高齢で腎機能障害を有する場合はH2RAはせん妄をはじめとする中枢神経症状がでることがあるので,その場合はPPIの方がいいだろう.

■投与するならいつまで投与するかだが,残念ながらICUにおけるストレス潰瘍予防でのPPIやH2RAの適切な投与期間は現時点ではエビデンスがないが,少なくともICU退室後は特に大きなリスクがないのであれば投与は中止すべきであろう.

※最後に私のやり方であるが,基本的に早期経腸栄養をICU入室当日から開始するため,ストレス潰瘍出血リスクが高くなければ薬物学的ストレス潰瘍予防は行わない.リスクが高ければH2RAまたはボノプラザンを1~3日間程度投与し,その後はICU退室までは胃酸分泌抑制作用のない胃粘膜防御因子増強薬であるイルソグラジンを経管投与している.

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[2] Skillman JJ, Silen W. Acute gastroduodenal "stress" ulceration: barrier disruption of varied pathogenesis? Gastroenterology 1970; 59: 478-82
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# by DrMagicianEARL | 2018-10-25 17:40 | 文献 | Comments(0)
■AKI(急性腎傷害)に対するRRT(腎代替療法)の大雑把な導入基準としてはABCDE(Acidosis アシドーシス,Blood urea 尿毒症,Congestion 溢水,Drug 薬物除去,Electrolyte abnormalities 高K血症)が挙げられていますが,その具体的指標でどのように導入するかについては多数の研究があります.既知の観察研究では,早期導入の方がよさそうという流れがありましたが(Crit Care 2011; 15: R72),2年前にNEJMにpublishされたフランスの620例(内科患者80%,敗血症80%)での多施設共同RCTであるAKIKI trial(N Engl J Med 2016; 375: 122-33)では,KDIGO stage3のAKIに対するRRT早期導入は遅くに導入する待機群と比較して60日死亡率に有意差はなく(48.5% vs 49.7%, p=0.79),カテーテル血流感染症を有意に増加させ(10% vs 5%, p=0.03)ています.さらに,待機群の患者の半数がRRTを回避でき,腎機能改善も早かったと報告されています.60日後のRRT依存は2% vs 5%で有意差なしでした.

■今回紹介する論文は同じくフランスからの大規模RCTであるIDEAL-ICU trialです.無益性のため488例登録時点で早期中止となりました.結果は90日死亡率に有意差なし,待機群では腎代替療法を38%が回避できた,90日時点での透析依存割合は2% vs 3%という結果で,概ねAKIKI trialと同じ結果でした.以上から,少なくとも内科,特に敗血症患者では,AKIだからといって緊急導入基準を満たさないならすぐにRRT導入はせずともよさそう,とはなりますが,待機群の17%で緊急導入が必要になってますので,患者のモニタリングで遅れすぎないようにする必要はあります.また,AKIKIもIDEALもフランスからの研究なので,本邦や他国でのRCTがもう少し欲しいところです.ただ,これは完全に個人的考えですが,フランスで有意差がつかなかったものが他国でやって有意差つくとはあまり思えないですね.フランスでのRCTは有意差つきやすい傾向があるので.
急性腎傷害と敗血症を合併した患者における腎代替療法のタイミング(IDEAL-ICU trial)
Barbar SD, Clere-Jehl R, Bourredjem A, et al; for the IDEAL-ICU Trial Investigators and the CRICS TRIGGERSEP Network. Timing of Renal-Replacement Therapy in Patients with Acute Kidney Injury and Sepsis. N Engl J Med 2018; 379: 1431-42
Abstract
【背 景】
AKI(急性腎傷害)は,敗血症性ショック患者においてもっとも頻度が高い合併症であり,死亡の独立危険因子である.腎代替療法は重症AKIの標準治療であるが,理想的な導入時期に関しては議論が続いている.

【方 法】
本多施設共同無作為化比較試験において,リスク・障害・不全・喪失・末期腎不全(RIFLE)分類で不全の段階にある重症AKIを起こしているが,AKI 関連する生命を脅かす合併症は生じていない早期の敗血症性ショック患者を,AKIが不全の段階であることを確認してから12時間以内に腎代替療法を行う早期戦略群と,腎機能が回復しない場合48時間遅らせて腎代替療法を行う待期戦略群のいずれかに割り付けた.RIFLE分類における不全の段階は,血清クレアチニン値がベースライン値の3倍(または4mg/dL以上で0.5 mg/dL以上の急激な上昇を伴う),24 時間以上にわたって尿量が0.3mL/kg/hr未満,または12時間以上の無尿と定義した.主要評価項目は90日死亡率とした.

【結 果】
事前に規定された2回の中間解析後に,試験は無益性のため早期に中止された.488例を無作為化し,患者背景は両群間で有意な差はみられなかった.90日の追跡調査データを入手しえた477例のうち,早期戦略群の58%(138/239)と待期戦略群の54%(128/238)が死亡した(p=0.38).待期戦略群の38%(93例)は腎代替療法を受けなかった.待期戦略群の17%(41例)が緊急での腎代替療法導入基準を満たしていた.

【結 論】
重症AKIを起こした敗血症性ショック患者において,腎代替療法導入に関して早期戦略に割り付けられた患者と待期戦略に割り付けられた患者とのあいだで90日全死亡率に有意差は認められなかった.

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# by DrMagicianEARL | 2018-10-12 17:05 | 敗血症性AKI | Comments(0)
■EAA≧6の敗血症性ショックに対するPMX-DHPの有効性を検討した大規模RCTであるEUPHRATES trialは2016年10月の欧州集中治療医学会で発表されましたが,そこから待つこと2年,ようやくpublishされました.ABDO-MIX trialがIntensive Care Medicine誌で,それよりは対象患者が広いEUPHRATESだと,北米の研究ということもあって出てくるならJAMAだろうと予想してたらその通りJAMAにpublishされました.2年前の学会発表時とはN数もデータもずいぶんと違うようでもう一度整理し直しです.EUPHRATESのアブストラクトだけでなく,敗血症性ショックに対するPMX-DHPのレビューもその下につけました.

■本研究は,PMX-DHPという,デバイスと大きな装置を用いますが,試験方法を工夫してシャム(≒プラセボ)群を設定して二重盲検化に成功している研究です.当初は絶対差15%の死亡率改善を予測して(強気すぎじゃないですか・・・?)360例登録予定でしたが,中間解析でモニタリングボードからより重症例に絞るべきとの提言を受け,対象患者を多臓器障害の指標であるMODS≧9にプトロコル変更して450例まで集積しています.結果はネガティブ,というよりIntent-to-Treat解析ではPMX-DHP群の方が好ましくなさそうなデータです.28日死亡率は有意差がなく,長期追跡では1年死亡率が全患者集団で52.2% vs 42.2%(p=0.10)とPMX-DHP群の方が10%高くなっています.重篤な有害事象は約8%ほどPMX-DHP群の方が高いです.PMX-DHPを2回完遂したper-protocol解析でも死亡率に統計学的有意差はなく,絶対リスク差も5%未満.また,患者背景の違いとしては,PMX-DHP群の方がグラム陰性桿菌が10%ほど多く,これはどちらかというと機序的にはPMX-DHP群に有利な差ですが,それでも死亡率に差はつかなかったということです.この結果から次の改訂のSSCG 2020や日本版敗血症診療ガイドライン2020では「使用しないことを推奨or提案する」になることは必至でしょう.

■それにしてもずいぶんとあっさりとした論文です.患者背景と主要評価項目と有害事象のデータを載せただけです.学会発表から2年も待ったんだしもう少し詳細なデータがあってもいいのにと思ったんですが,supplementary appendixを見てもサブ解析の結果が一切載っていません.感染巣別の死亡率とか見たかったのですが・・・.プレスリリースにあったEAA 0.6-0.9なら死亡率が大きく改善,というデータも載っていません.学会発表時は重篤な有害事象として,PMX-DHP群の方が消化管障害が5%も多かったので気になっていたのですが,論文にもsupplementary appendixにもデータなし.考察も1ページに満たない短さ.いろいろ後から別にpublishするんでしょうか?
敗血症性ショックとエンドトキシン濃度上昇を伴う患者における28日死亡に対するPMX-DHPの効果:EUPHRATES trial
Dellinger RP, Bagshaw SM, Antonelli M, et al. Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level: The EUPHRATES Randomized Clinical Trial. JAMA 2018; 320: 1455-63

Abstract
【背 景】
ポリミキシンBによる血液灌流(PMX-DHP:polymyxin B-immobilized fiber column-Direct HemoPerfusion)は敗血症における血中エンドトキシンレベルを減少させる.エンドトキシン活性は迅速アッセイで血液から計測可能である.敗血症性ショックでエンドトキシン活性が上昇した患者に対するPMX-DHPを使用した治療が臨床アウトカムを改善させる可能性がある.

【目 的】
敗血症性ショックで高いエンドトキシン活性の患者において,標準治療と比較して標準治療にPMX-DHPの追加が生存率を改善するかを検討する.

【方 法】
本研究は北米の55の三次施設において2010年9月から2016年6月まで敗血症性ショックでエンドトキシン活性アッセイレベルが0.60以上の成人重症患者450例を登録した多施設共同無作為化臨床試験である.最後の追跡は2017年7月まで行った.患者は,登録から24時間以内に,標準治療に加え2回のPMX-DHPによる治療(90-120分)を完遂する治療群(224例)と標準治療にシャム(≒プラセボ)を加えたシャム群(226例)に割り付けられた.主要評価項目は,全ての無作為化された患者(全患者)と多臓器障害スコア(MODS:multiple organ dysfunction)が9以上の患者での28日死亡率とした.

【結 果】
450例の患者(平均年齢59.8歳,女性177例[39.3%],平均APACHEⅡスコア29.4[範囲0-71])が登録され,449例(99.8%)が研究を完遂した.PMX-DHPは,全患者(治療群84/223例[37.7%] vs シャム群78/226[34.5%]; 絶対リスク差3.2%; 95%CI -5.7% to 12.0%; 相対リスク 1.09; 95%CI 0.85 to 1.39; p=0.49),MODS≧9の集団(治療群65/146例[45.5%] vs シャム群65/148[43.9%]; 絶対リスク差0.6%; 95%CI -10.8% to 11.9%; 相対リスク 1.01; 95%CI 0.78 to 1.31; p=0.92)のいずれにおいても28日死亡率に有意差はみられなかった.全体で264例の重篤な有害事象が報告された(治療群65.1% vs シャム群57.3%).最も多い重篤な有害事象は敗血症の増悪(治療群10.8% vs シャム群9.1%)と敗血症性ショックの悪化(治療群6.6% vs シャム群7.7%)であった.

【結 論】
敗血症性ショックと高いエンドトキシン活性の患者において,標準治療にPMX-DHPを加えた治療は標準治療にシャムを加えた治療と比較して28日死亡率を改善しなかった.
敗血症性ショックに対するPMX-DHPのレビュー

■1994年に日本発のエンドトキシン吸着カラムPMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion)が保険承認され(30万円します),主にグラム陰性菌による腹腔感染での敗血症において使用されている.抗菌薬であるポリミキシンBはエンドトキシンと結合する性質をもっており,PMXを吸着体として直接血液灌流させることによりエンドトキシンを吸着させるものである.以下,臨床アウトカムをメインにレビューを行った.
※COI開示:本ブログ管理人はこれまでPMX-DHP(トレミキシン®)販売メーカーである東レ・メディカル株式会社から同社主催or共催のエンドトキシン血症救命治療研究会,各地域での講演会,社内講演会等において旅費・講演料を受けている.

1.PMX-DHPは敗血症性ショックの死亡率を改善させるか?

■2007年にCruzらがPMX-DHPに対する28報の英語論文によるシステマティックレビューを行い[1],その結果,PMX-DHPの施行で平均血圧の上昇(19mmHg),ドパミン使用量の低下,P/F比の改善および転帰の改善効果(死亡リスク53%低下)が示されている.ただし,このシステマティックレビューはほとんどが本邦での研究であり,また,本邦から報告された8編のRCTのうち7編は同一研究者のもので,同一年に2編のRCTが報告されたことが3回もあり,症例のクロスオーバーやdouble publicationの可能性が否定できないなど問題点がある.2013年にZhouらは,敗血症における血液浄化の16報のメタ解析を報告し[2],これにおいてもPMX-DHPの死亡リスク減少効果が示唆されたが,同様の問題点をかかえている.よって,バイアスを極力除外した大規模なRCTが必要であった.

■PMX-DHPを評価した比較的N数のあるRCTとして,まずEUPHAS(Early Use of Polymixin B Hemoperfusion in Abdominal Septic Shock) studyが行われた[3].本研究はイタリアの10施設で行われた前向き多施設RCTであり,腹腔内感染由来の重症敗血症,敗血症性ショックの64例を対象とし,緊急手術後6時間以内にPMX-DHP施行群と標準治療群に無作為に割付し,臨床的予後の改善に有効であると結論づけている.

■しかしながら,本研究にはさまざまな問題点が指摘されている.本研究は64例の時点で死亡率が有意にPMX-DHP群で低いとの判断で試験が早期終了となっている点である.有用性をもって早期終了した臨床試験の効果は誇張されていることがあり,早期終了した試験は効果のない治療で30%の相対リスクの低下を示し,真に20%の相対リスク低下効果のある治療では40%以上の低下を示すとされている[4].ましてや有意差がでたのは生存期間に関する比例ハザード分析結果によるものであり,あまり前例がない.

■また,EUPHAS studyを掲載したJAMA誌にはこの論文に対して3 編のletter to the editorが掲載されている[5-7].まずVincentはcontrol群とPMX-DHP群が各々34例と30例を集積してあるこの治験でそもそも救命率に統計学的に有意差はないとしている.Amaralらも同様に統計学的手法に懸念を表明している.確かに本研究では死亡関係のアウトカムでは,院内死亡率(41% vs 67%, p値記載ないが計算上は0.049),比例ハザード分析による生存期間は有意に改善しているが,これらは一次・二次評価項目のいずれにも含まれていない.二次評価項目に28日死亡率が含まれているが,32% vs 53%(p=0.13)であり,有意差はない.よって,この報告をもって予後改善が示されたとは言えないであろう.またKidaらは両群間における起炎菌の分布に関しても懸念を示している.加えて,比較的感染巣コントロールがしやすい感染腹部由来敗血症で対照群における救命率が50%以下というのは,SSCG 2004発表後のRCTとしては考えられない低さである.

■次に行われた大規模RCTがABDO-MIX studyである[8].本研究は,フランスの18のICUにおいて,消化管穿孔に関連した腹膜炎に対する緊急手術後12時間以内の敗血症性ショック患者243例を登録している.主要評価項目の28日死亡率は,PMX-DHP群(119例)で27.7%,標準治療群(113例)で19.5%,p=0.14(OR 1.5872, 95%CI 0.8583-2.935),副次評価項目の90日死亡率はPMX-DHP群で33.6%,標準治療群で24%,p=0.10(OR 1.6128, 95%CI 0.9067-2.8685)であった.統計学的有意ではないもののPMX-DHP群の方が死亡率が7-8%大きく,これは臨床的には無視できない差である.この差がなぜ生じたかであるが,PMX-DHP群の32%にあたる38例がPMX-DHPを続行できず,そのうちの23例が凝固が原因であり,そのうち19例が1回目のPMX-DHP施行で凝固が生じていた.この続行不可能であった38例を除外したサブ解析ではPMX-DHP群の死亡率は18.5%となり,標準治療群の19.5%とほぼ同等となる.一方,PMX-DHPが続行できなかった38例の死亡率は47%と異常に高い.なぜこんなに死亡率が高まってしまったのか?

■考えられる原因としては,①フランス人が凝固が起こりやすい人種である点,②日本やイタリアと違いPMX-DHPに慣れてない施設やスタッフも多かった,③フランスではDICの治療は行われない(このため凝固が起こりやすかった),④使用した抗凝固薬はヘパリンであり,これが敗血症病態において何らかの悪影響を及ぼした可能性も否定できない(本邦ではメシル酸ナファモスタットが一般的である).これらの要因が重なり,PMX-DHPが続行不可能となった症例では死亡率が5割近くまで高まったのかもしれない.だが,いずれにせよ,これらの症例を除外しても,死亡率の改善は示せていないことになる.

■そして今回報告されたのが上記の北米で行われた大規模RCTであるEUPHRATES trialである.またしても主要評価項目である28日死亡率に有意差はみられなかった(詳細の説明は上を参照されたい).

■EUPHRATESも含めた敗血症性ショックを対象としたPMX-DHPの効果を検討した5報の海外RCTのメタ解析をFujiiらが既に2018年2月に報告しており[9],28日死亡に有意差はみられなかった(RR 1.03, 95%CI 0.78-1.36; I2 = 25%; n=797).メタ解析はITT集団で解析されるため,死亡率が悪化傾向を示したABDO-MIXに引っ張られている部分はあるが,仮にABDO-MIXを抜いたとしても死亡率に差はない.

■一方,RCTではないが,最近本邦から大規模観察研究JSEPTIC-DIC studyのデータを用いたpropensity score matching解析結果が報告されている[10].1723例からマッチングにより262組がマッチし,全院内死亡率はPMX-DHP施行群の方が有意に低かった(32.8% vs 41.2%; OR 0.681; 95%CI 0.470-0.987; p=0.042).また,本研究はマッチング前のデータとマッチング後のデータを比較すると興味深いことが分かる.APACHEⅡスコアやSOFAスコアはマッチング前後でほぼ変わっていないにもかかわらず,院内死亡率はPMX-DHP施行群で37.9%→32.8%に減少,非施行群で36.6%→41.1%に増加しているのである.そして患者背景を見ると,腹腔感染症やグラム陰性桿菌の比率がマッチングによって増加している.これはpropensity score matchingの特徴の一つである「N数の少ない方の群の特性にマッチング後の集団が寄る」という現象の産物であろうと推察される.これらのことから,やはりメシル酸ナファモスタットを用い,グラム陰性桿菌による腹腔内感染症による敗血症性ショックを対象とした本邦でのRCT再検証が必要と言えなくもない結果かと思われる.

2.PMX-DHPで血圧は上がるのか?

■PMX-DHPで血圧が上がることは臨床現場でよく経験され,これはABDO-MIX,EUPHRATES,さらにはメタ解析でも示されており,その効果は真であろう.PMX-DHPによって血圧が上昇する機序としては,エンドトキシンが関与しないグラム陽性菌感染症でも血圧が上昇する報告があることから,エンドトキシン吸着ではなく,血管拡張作用をもつ内因性大麻と呼ばれる内因性カンナビノイド(anandamide(ANA)と2-arachidonyl glycerol(2-AG))を吸着する[11]ことによる効果が主体と考えられている.

■しかしながら,血圧が上がるにもかかわらずカテコラミン非使用日数では有意差がついていない.これは,他にも昇圧手段があるのも一因と思われる.カテコラミン不応性の難治性の敗血症性ショックにおいても昇圧手段としてはさまざまなものが報告されている.特にバソプレシンやステロイドは多数のRCTが存在し,死亡率改善効果こそまだcontroversialであるが,昇圧効果は得られる.また,Sawaらは,敗血症性ショック患者の後ろ向き研究において,PMX-DHP群30例とバソプレシン群30例をマッチングさせた解析を行っており[12],90日生存率はバソプレシン群が有意に高かった(83% vs 53%, p=0.008)としている.このように,難治性ショックでの昇圧手段としてはPMX-DHPは有用ではあるが,他の比較的低侵襲な昇圧手段がある以上,必ずしもPMX-DHPでなければならないということはなく,難治性ショックの原因に応じて適切な昇圧手段を選択する上でのひとつのオプションとしてとらえるべきであろう.

3.PMX-DHPで有害事象は増えるのか?

■中心静脈にデバイスを挿入し,抗凝固薬を用いるという特性上,有害事象が増加することは避けられない.問題はPMX-DHPの益をその害が上回るかどうかである.何をもって「重篤な有害事象」と判断するかは研究によって異なる.ABDO-MIXでは重篤な有害事象発生数は6例 vs 3例であり,いずれの群も非常に少ない.一方,今回のEUPHRATES trialでは重篤な有害事象は65.1% vs 57.3%でPMX-DHP群の方が8%高い結果となっている.一方,デバイス関連の有害事象は5.2% vs 2.3%であった.いずれにせよ,死亡リスクのeffect sizeから見ると,RCT結果からは益が害を上回るとは言えにくそうである.

■加えて,PMX-DHPはエンドトキシンだけでなく様々なものを吸着することが知られている[11,13-15].ただし,この吸着は敗血症状態の生体にとって悪いもののみでなくいいものも吸着してしまっている可能性がある.体内の生理活性物質等はそれぞれが生理学的意味があって分泌されるもので,サイトカインストーム等過剰で有害なものもあればそうでないものもある.エンドトキシンだけならまだしも,その他の個々の吸着する物質がその患者にとって益か害かは判断が難しい.

■前述の通り,PMX-DHPは内因性カンナビノイドを吸着することで昇圧効果を示す.これらの内因性カンナビノイドはシナプス後部で生成され,逆行性の抑制性モジュレーターとして働き,興奮性伝達物質グルタミン酸や抑制性伝達物質GABAの遊離を制御している.カンナビノイド1受容体は記憶の中枢である海馬,恐怖・情動行動を司る扁桃体に多く発現しており,その生理的役割として,痛み・不安・うつの軽減や脳内報酬系の賦活,不快な記憶の消去等が知られており[16-18],抗ストレス作用として働いているとされ,生体にとって必ずしも有害とは言えない.現状として,ICUで人工呼吸管理を受けた患者の3人に2人がうつ,不安,PTSDの少なくとも1つの精神障害を有することが知られており[19],敗血症性ショックという高度な生体侵襲ストレスによる悪影響を打ち消すために内因性カンナビノイドが増加するのであれば,これらを吸着することは,特にPICS(post-intensive care syndrome)における精神障害に悪影響を及ぼす可能性が否定できない.現時点でPMX-DHP患者のPICSを評価した研究はないが,その機序からすれば懸念せざるを得ない.

4.今後のPMX-DHPの研究

■PMX-DHP群のRCTは少なくともあと1本は出てくる.現在スイスで今も行われている,ENDoX-study[20]である.の研究はAN69ST(SepXiris®)のカラムの電荷を少し変えてエンドトキシンを効率よく除去できるようにしたoXirisというカラムを用い,このoXiris群,PMX-DHP群,標準治療群を比較した3アームのRCTである.

■また,EUPHRATES studyではEAA 0.6-0.9の範囲の患者集団(194例)では28日死亡率は26.1% vs 36.8%と絶対リスク差にして10.7%の減少効果がみられており,プレスリリースでそのデータが公表されている[21,22].これを受けて米国FDAは追試としてRCTではなくシングルアームの研究を行うよう指示している[23].ちなみに研究名はメソポタミア文明に関連する大河であるユーフラテス川とチグリス川にかけてか,(今回EUPHRATESだったので)TIGRISである.現時点ではClinicalTrialGovには登録されていない.

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[22] http://www.spectraldx.com/assets/spectral-rls-053018.pdf

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# by DrMagicianEARL | 2018-10-10 16:29 | 敗血症 | Comments(0)

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