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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:文献( 78 )

■ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)によるストレス潰瘍予防が行われるようになって40年近くがたち,ICU患者においてルーチンで使用している施設も多いでしょう.その一方で,近年は早期経腸栄養が行われるようになったこともあって,最近のRCTでは薬剤によるストレス潰瘍予防の効果はほぼなくなり,むしろ肺炎が増加するという報告も出てきていて,ストレス潰瘍予防を見直す必要性が出てきています.少なくとも,出血リスクがないのであればICU患者でもストレス潰瘍予防は不要でしょう.では出血リスクを有する患者ではどうか?

■今回紹介する論文は,これまでのRCTと違い,1つ以上の消化管出血リスク因子(ショック,抗凝固薬使用,腎代替療法,人工呼吸器装着,肝疾患既往,凝固障害)を有するICU患者でのPPIの効果を検討した大規模RCTであるSUP-ICU trialです.主要評価項目を消化管出血ではなく死亡率に設定しているのは少し驚きましたが(差がつくわけないのは分かりきってたはずですが),有意差なしでした.SOFAスコア中央値9点で90日死亡率が30%程度は妥当なレベルと思います.

■では,死亡率に差がなくネガティブだったのでPPIはやめましょう,となるかというと,これがまた悩ましいデータがでています.消化管出血については2.5% vs 4.2%(RR 0.58; 95%CI 0.40-0.86)で統計学的に有意な42%の相対リスク減少を認めています.絶対差は1.7%でNNT 59であり,これを臨床的に有意な差と見るかは微妙な数値です.ただ,ここでの消化管出血は,単に黒色便を認めただけの軽い胃潰瘍出血のようなものではなく,血圧低下や輸血必要性などが生じるほどの「臨床的に意義のある出血」ですので,それなりの医療介入が必要になる以上,無視はしにくいと思います.

■その一方で,PPIによって理論上増えると予想された肺炎やCDIなどの感染は16.8% vs 16.9%で全くと言っていいほど差がありません(CALORIES trialのときもそうでしたが,VAP予防がさかんに行われるようになって肺炎が起こりにくくなってるのかもしれません).これらをふまえて考えれば,「消化管出血ハイリスクのICU患者ではPPI投与の益が害を上回るため,PPI投与は行う方がよい,となるのではないでしょうか?少なくとも私はこのようなハイリスク患者集団では今後も薬物学的ストレス潰瘍予防を行うと思います.今回は下にレビューもつけました.
ICUで消化管出血リスクを有する患者におけるパントプラゾール(SUP-ICU trial)
Krag M, Marker S, Perner A, et al; for the SUP-ICU trial group. Pantoprazole in Patients at Risk for Gastrointestinal Bleeding in the ICU. N Engl J Med 2018 Oct.24[Epub ahead-to-print]

Abstract
【背 景】
消化管ストレス潰瘍予防はICU患者において頻回に行われているが,その害と益は不明確である.

【方 法】
この欧州の多施設共同並行群間盲検化試験において,我々は急性疾患(予期せぬ入院など)でICUに入室し,消化管出血リスクを有する成人患者を,ICU在室中毎日パントプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)40mg静脈内投与する群とプラセボ群に無作為に割り付けた.主要評価項目は無作為化から90日以内の死亡率とした.

【結 果】
3298例の患者が登録され,1645例がパントプラゾール群に,1653例がプラセボ群に無作為に割り付けられた.主要評価項目データは3282例(99.5%)で収集できた.90日時点でパントプラゾール群で510例(31.1%),プラセボ群で499例(30.4%)が死亡した(RR 1.02; 95%CI 0.91 to 1.13; p=0.76).ICU在室中,少なくとも1回の臨床的に意義のある事象(臨床的に意義のある消化管出血,肺炎,Clostridium difficile感染,心筋梗塞の複合アウトカム)はパントプラゾール群で21.9%,プラセボ群で22.6%(RR 0.96; 95%CI 0.83 to 1.11)であった.パントプラゾール群では,臨床的に意義のある消化管出血が2.5%,プラセボ群では4.2%であった.90日以内の感染や重篤な有害反応を生じた患者数,生命維持装置非装着生存日数の割合は両群間で同等であった.

【結 論】
消化管出血リスクを有する成人ICU患者において,90日死亡や臨床的に意義のある事象数は,パントプラゾール群とプラセボ群とで同等であった.
1.ストレス潰瘍と胃酸分泌抑制薬の登場

■ICU患者は疾患そのものによる高度な侵襲性ストレスを受けているが,これに対する救命治療もまた医原性の侵襲性ストレスとして患者が受けることになる.この侵襲性ストレスにより胃・十二指腸をはじめとする消化管にストレス潰瘍が生じることが知られている.この重症患者における消化性潰瘍の重要性が注目され始めたのは,緊急内視鏡検査の必要性がPalmerら[1]によって説かれた1950年代まで遡り,1970年にSkillmanら[2]が,呼吸不全,低血圧,敗血症でICUに入室した患者に生じた消化性潰瘍をストレス潰瘍としてGastroenterology誌に報告を行ってから,この名前が広く認識されるようになった

■ストレス潰瘍の頻度は,内視鏡検査が行われるようになってからの報告では急速に増加し,ICU患者においては入室後24時間以内に75-100%の患者で粘膜病変が形成され[3],予防手段を受けていなければ5-25%で出血が生じていると報告されていた[3,4]

■ストレスの要因としては,①心理的・精神的ストレス,②身体的ストレスがあり,ICU患者のストレス潰瘍ではこの両者が関与しうる.また,ICUで使用されるNSAIDsやステロイドも薬剤性の消化性潰瘍の原因となる.さらに,多臓器不全の病態そのものが消化性潰瘍を引き起こしうることも知られる.臨床的に意義のある消化管出血(循環動態が悪化した,輸血が必要,あるいは手術が必要なケース)は予後を悪化させることが知られていたため,高度侵襲病態におけるストレス潰瘍の予防が必要であることが広く周知されてきた.

■有効なストレス潰瘍予防方法は1972年にH2RAのmetiamideが発見され[5],1976年にこのmetiamideでストレス潰瘍の予防と治療の臨床での有効性が報告され[6],1977年にシメチジンが使用可能となってからはその報告が急激に増加し,ストレス潰瘍の予防や治療は大きな転機を迎えた.さらに1980年代には強力な胃酸分泌抑制薬であるPPIが登場し[7],集中治療領域におけるストレス潰瘍予防はPPIとH2RAの一騎打ちの時代に突入していった.

2.ストレス潰瘍予防のエビデンス

■PPIとH2RAの2種類の薬剤によるICU患者でのストレス潰瘍予防効果についてはRCTやメタ解析が多数報告されており,2018年6月の最新のコクランメタ解析でも消化管出血の有意な予防効果が示されている[8]

■しかしながら,ストレス潰瘍予防のRCTの多くは2000年以前のものであり,当時の消化管出血頻度は前述の通り5~25%とされており,H2RAやPPIの投与を受けていてもこの程度の頻度があった.一方,2000年以降の観察研究をみると,その頻度はおおむね1%以下である[9-13].すなわち,これまでストレス潰瘍予防の支持の根拠となるメタ解析では2000年以前の古いRCTにかなり引っ張られた結果である.実際にここ2~3年の間にでてきたRCTを見てみると,ストレス潰瘍予防を行っても消化管出血リスクの有意な減少はみられていない.

■一方,Huangら[14]は,「経腸栄養を受けている」ICU患者に対するPPIやH2RAのRCTのメタ解析を行い,消化管出血リスクは減少せず(RR 0.80; 95%CI 0.49 to 1.31, p=0.37),院内肺炎は有意に増加する(RR 1.53; 95%CI, 1.04 to 2.27; p=0.03)という結果であった.各RCTの効果量を見てもリスク減少があるようには到底見えない.2000年以前は早期経腸栄養がそこまで積極的に行われていなかった時代であるため,ここがコクランのメタ解析結果との大きな違いになっている.

■実際に,経腸栄養によってプロスタグランジン分泌と消化管血流が改善する[15,16],ストレス起因性の迷走神経刺激伝達系を経腸栄養が抑制する[17,18],胃内pHが経腸栄養によって希釈されて上昇する[19],ということが知られており,経腸栄養そのものがストレス潰瘍予防としての役割を果たしているため,薬物学的ストレス潰瘍予防が意味をなさなくなっていると考えられる.

■なお,過去の報告では,胃に留置すれば胃内は栄養剤投与による希釈によりアルカリ化されるが,十二指腸/空腸に留置すれば希釈されることなく胃酸分泌刺激が生じ,胃内pHが胃に留置した場合より低くなるかもしれないとする報告[20]もあるが,Alhazzaniら[21]の19報RCT,1394例のメタ解析では,消化管出血リスクに有意差はなかった(RR 0.89; 95%CI 0.46-1.42; p=0.64).

3.ストレス潰瘍予防の適用とガイドライン

■少なくとも、ICUの全患者にルーチンで薬物学的ストレス潰瘍予防を行う時代はそろそろ終わりということであろう.もっともこれは早期経腸栄養がちゃんと行われていることが前提である.既に早期経腸栄養の有効性が知られており,どのガイドラインでも推奨されていることから,もしその施設で早期経腸栄養が行われていないのであればまずはそこから見直す必要がある.

■では逆に,どのような潰瘍出血リスク患者を選んで薬物学的ストレス潰瘍予防を行うかだが,ストレス潰瘍予防そのものをメインに扱ったガイドラインはAmerican Society of health-System Pharmacistsによる1998年の古いものしかない[22].しかし、この古いガイドラインでもICU全患者に一律にストレス潰瘍予防を推奨しているわけではなく,ハイリスク患者に限定した使用を推奨している.参考までにこのガイドラインでの適用基準を以下に示す.経腸栄養を行っているなら、この適用基準のハードルはさらに上げてもいいと思うが,まずはこの基準をもとに薬物学的ストレス潰瘍予防の適用患者を絞っていくことをお勧めしたい.
ASHPガイドラインにおけるICU患者でのストレス潰瘍予防適用

(1)絶対適用(1つでもあてはまれば適用)
凝固障害(血小板<50000 /mm3,PT-INR>1.5,APTTが正常時の2倍以上)(B)
48時間以上の人工呼吸器管理(B)
1年以内の上部消化管潰瘍または出血(D)
Glascow Coma Scale(GCS)≦10(または簡単な指示に従えない)(B)
体表面積≧35%の熱傷(B)
肝部分切除後(C)
多発外傷(Injury Severity Score≧16など),移植患者周術期,肝不全,脊椎外傷に該当(D)

(2)相対適用(2つ以上あてはまれば適用)
敗血症(D)
1週間以上のICU在室(D)
6日間以上の潜血(D)
高用量コルチコステロイド治療(ヒドロコルチゾン250mg/日相当量以上)
■この基準にあてはまる患者は消化管出血ハイリスク患者である.今回のSUP-ICU trialもこの消化管出血ハイリスク患者を対象としてRCTを行っており,プラセボ群の方が有意に消化管出血が多いという結果であったことから,やはり早期経腸栄養を行っていても,ハイリスク患者では薬物学的ストレス潰瘍予防を考慮すべきだろう.

■もし薬物学的ストレス潰瘍予防を行う場合,PPIとH2RAのどちらがいいかであるが,これまでのPPIとH2RAを比較したメタ解析結果ではPPIの方が支持されている.ただし,前述の通り,これは2000年以前の古いRCTが多く含まれた解析結果である.48時間以内の早期経腸栄養が広く行われるようになった現在であれば,私はH2RAでいいと考えている.理由として,①早期経腸栄養が始まるまでの超早期が最もハイリスクとなるため,胃酸抑制が必要なのであれば立ち上がりが早いH2RAの方が有利(ただし、近年発売されたPPIであるボノプラザンも立ち上がりは早い),②H2RAの方が胃内pHを下げすぎない,があげられる.実際に,近年行われた2つの大規模コホート研究では,PPIの方がH2RAより臨床的に意義のある出血が多かったと報告している[23,24].ただし、高齢で腎機能障害を有する場合はH2RAはせん妄をはじめとする中枢神経症状がでることがあるので,その場合はPPIの方がいいだろう.

■投与するならいつまで投与するかだが,残念ながらICUにおけるストレス潰瘍予防でのPPIやH2RAの適切な投与期間は現時点ではエビデンスがないが,少なくともICU退室後は特に大きなリスクがないのであれば投与は中止すべきであろう.

※最後に私のやり方であるが,基本的に早期経腸栄養をICU入室当日から開始するため,ストレス潰瘍出血リスクが高くなければ薬物学的ストレス潰瘍予防は行わない.リスクが高ければH2RAまたはボノプラザンを1~3日間程度投与し,その後はICU退室までは胃酸分泌抑制作用のない胃粘膜防御因子増強薬であるイルソグラジンを経管投与している.

[1] Palmer ED. Observations on the vigorous diagnostic approach to severe upper gastrointestinal hemorrhage. Ann Intern Med 1952; 36: 1484-91
[2] Skillman JJ, Silen W. Acute gastroduodenal "stress" ulceration: barrier disruption of varied pathogenesis? Gastroenterology 1970; 59: 478-82
[3] Shuman RB, Schuster DP, Zuckerman GR. Prophylactic therapy for stress ulcer bleeding: a reappraisal. Ann Intern Med 1987; 106: 562-7
[4] Mutlu GM, Mutlu EA, Factor P. GI complications in patients receiving mechanical ventilation. Chest 2001; 119: 1222-41
[5] Black JW, Durant GJ, Emmett JC, et al. Sulphur-methylene isosterism in the development of metiamide, a new histamine H2-receptor antagonist. Nature 1974; 248: 65-7
[6] MacDonald AS, Steele BJ, Bottomley MG. Treatment of stress-induced upper gastrointestinal/hemorrhage with metiamide. Lancet 1976; 1: 68-70
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[15] Ephgrave KS, Kleiman-Wexler RL, Adair CG. Enteral nutrients prevent stress ulceration and increase intragastric volume. Crit Care Med 1990; 18: 621-4
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[22] ASHP Therapeutic Guidelines on Stress Ulcer Prophylaxis. ASHP Commission on Therapeutics and approved by the ASHP Board of Directors on November 14, 1998. Am J Health Syst Pharm 1999; 56: 347-79
[23] MacLaren R, Reynolds PM, Allen RR. Histamine-2 receptor antagonists vs proton pump inhibitors on gastrointestinal tract hemorrhage and infectious complications in the intensive care unit. JAMA Intern Med 2014; 174: 564-74
[24] Lilly CM, Aljawadi M, Badawi O, et al. Comparative Effectiveness of Proton Pump Inhibitors vs Histamine Type 2 Receptor Blockers for Preventing Clinically Important Gastrointestinal Bleeding During Intensive Care: A Population-Based Study. Chest 2018; 154: 557-66
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by DrMagicianEARL | 2018-10-25 17:40 | 文献 | Comments(0)
■重症の純インフルエンザ肺炎(あるいはそれによるARDS)では肺炎球菌や黄色ブドウ球菌による細菌感染合併で死亡率が高まることはよく知られていますが,侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)も合併しやすいことが経験的に知られており,これまでも小規模データながら報告が散見されていました.私自身,重症インフルエンザ肺炎でICUで治療中にIPAを合併して痛い目にあったことがあります(当時はステロイドを使用していました).

■IPAは敗血症や呼吸不全を呈しうるだけでなく,仮性動脈瘤破裂による大喀血も致死的要因となります.アスペルギルスはエラスターゼを産生し,血管壁の防御機構破綻させて血管炎を惹起し,その血管炎は血管の全層において広範囲に及ぶため,血管内腔が拡張して紡錘形の瘤となり,動脈瘤を形成することが知られています.

■今回紹介する論文は,ICUに入室した重症インフルエンザでのIPA合併率,死亡率を検討した多施設での大規模な貴重な疫学データです.IPA合併率は19%(免疫不全なしで14%,免疫不全ありで32%)であり,免疫不全なしかつ非インフルエンザの重症市中肺炎で5%であることから,インフルエンザ患者でかなり多いことが分かります.90日死亡率もIPA合併例51% vs 非合併例28%でかなりの差があります.多変量解析でもインフルエンザがIPA合併の独立危険因子であることが示されています.

■結論にある通り,いかに予防・早期診断治療するかが鍵になってきます.IPAによる仮性動脈瘤はわずか2日で形成されるという報告もあるくらいで,思った以上に進行は早いです.

■本研究の多変量解析にある通り,ステロイドもリスク因子になります.ARDSでのステロイドは意見が分かれていますが,ことインフルエンザ肺炎でのARDSではステロイドは死亡リスクを高める可能性があり(Moreno G, et al. Intensive Care Med 2018 Aug 3)投与すべきではないと考えます.

■診断については,重症インフルエンザのICU患者ですので,人工呼吸器やECMOがついていてはそう簡単にCTは撮れないでしょうし,CTでIPAの特徴的とされるhalo signも初期にしか見られず,時間がたてば非特異的になり(J Clin Oncol 2001; 19: 253-9),多発結節影があればある程度判断しやすくはなるものの,鑑別は難しくなります.β-Dグルカン,アスペルギルスGM抗原なども用いて総合的に判断する必要があります.

■IPAを疑ったら第一選択薬ボリコナゾールを1回4mg/kg(初日のみローディングで6mg/kg)で1日2回投与し,TDMモニタリングも行います(5-7日で定常状態となるため,トラフ値はそれ以降に計測し,≧1~2µg/mLを目標).ただし,GFR<30mL/minの腎機能低下患者では禁忌ですので,アンホテリシンBかキャンディン系を使用します.

重症インフルエンザでICUに入室した患者における侵襲性肺アスペルギルス:後ろ向きコホート研究
Schauwvlieghe AFAD, Rijnders BJA, Philips N, et al; Dutch-Belgian Mycosis study group. Invasive aspergillosis in patients admitted to the intensive care unit with severe influenza: a retrospective cohort study. Lancet Respir Med 2018 Jul 31[Epub ahead of print]
PMID: 30076119

Abstract
【背 景】
侵襲性肺アスペルギルス症は典型的には免疫不全宿主に生じる.ほぼ一世紀の間,インフルエンザは細菌の重複感染を発生させることが知られていたが,最近では,重症インフルエンザ患者にも侵襲性肺アスペルギルス症が発生することが報告されている.

【目 的】
本研究の目的は,集中治療室(ICU)におけるインフルエンザ肺炎患者の数シーズンにわたる侵襲性肺アスペルギルス症の発生率を計測し,インフルエンザが侵襲性肺アスペルギルス症の独立した危険因子であるかどうかを評価することである.

【方 法】
我々は多施設共同後ろ向きコホート研究を行った.データは,7つのインフルエンザシーズンの間にベルギーとオランダの7つのICUに入室した重症インフルエンザの成人患者から収集した.患者は18歳以上で,画像検査で肺の浸潤陰影を有する急性呼吸不全でICUに24時間以上入室し,気道検体のPCR検査が陽性のインフルエンザ感染が確認された者とした(インフルエンザコホート).非免疫不全(欧州癌研究機関/真菌症研究グループ[EORTC/MSG]の宿主因子がない)のインフルエンザ陽性患者(インフルエンザ群)と気道インフルエンザPCR試験陰性の重症市中肺炎を呈した非免疫不全の患者(対照群)の比較において,インフルエンザが侵襲性アスペルギルス症に独立して関連しているかを調べるためにロジスティック回帰解析を用いた.

【結 果】
データは2009年1月1日から2016年6月30日までにICUに入室した患者から収集した.インフルエンザでICUに入室した患者432例(インフルエンザコホート)のうち,83例(19%)がICU入室後中央値3日目で侵襲性肺アスペルギルス症と診断された.インフルエンザA型とB型で発生率は同等であった.侵襲性肺アスペルギルス症の発生率は,非免疫不全のインフルエンザ症例群が14%(315例中45例)に対して,免疫不全を有するインフルエンザ患者では32%(117例中38例)と高かった.一方で,対照群では侵襲性肺アスペルギルス症発生は315例中16例(5%)のみであった.90日死亡率は侵襲性肺アスペルギルス症を合併したインフルエンザコホートで51%,侵襲性肺アスペルギルス症非合併のインフルエンザコホートで28%であった(p=0.0001).本研究において,インフルエンザは,高いAPACHEⅡスコア,男性,ステロイド使用と同様に,侵襲性肺アスペルギルス症に独立して関連していた(調整OR 5.19; 95%CI 2.63-10.26; p<0.0001).

【結 論】
インフルエンザは侵襲性肺アスペルギルス症の独立した危険因子であり,高い死亡率を伴うことを示した.さらなる研究で,より早い診断または真菌感染予防がインフルエンザ関連アスペルギルス症の予後を改善するかについて評価すべきである.

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by DrMagicianEARL | 2018-08-13 14:35 | 文献 | Comments(0)
■ICUにおける早期リハビリテーションの重要性はかなり浸透してきており,本邦では診療報酬改定により早期離床加算も登場しています.ではエビデンスの方はどうか?というと,必ずしも確たる有益性を示しきれているわけではありません.もちろん益があるからこそ推奨はされているのですが,そのeffect sizeはそこまで大きくなく,有意差がついているアウトカムも限られているのが現状です(BMJ Open 2018; 8: e019998)

■今回紹介する論文は,標準的な早期リハビリテーションにベッド上サイクリングと四肢の電気筋刺激を追加すると筋力が改善するかどうかについて検討したRCTです.結果はネガティブで,筋力(MRC score)も有意差がついていません.ICUAWは評価されていませんが,MRC scoreを見るにおそらくはICUAWの予防にはなっていないと思われます.同様に6ヶ月後の健康関連QOLであるSF-36も有意差なしです.

■気になるのはICU死亡率です.統計学的有意差はついていませんが,介入群20.9% vs 標準ケア群15.6%で,絶対差にして5.4%の差がついていて,臨床的には無視できない差だと思います(考察では一切触れられていません).SAPSⅡやSOFAスコアは介入群の方がほんのわずかながら高いですが,こんなわずかな重症度の差で死亡率にここまでの開きが出るとは考えにくいです.そしてこの差は退院時,28日,6ヶ月時点でも維持されています(つまりICUで差がついている).

■私自身,ICU早期リハのシステマティックレビューを行った時に気が付いたことがあります.これまでのICU早期リハのRCTで介入群で死亡リスクが増加傾向を示した研究は複数あり,また,今回の研究を含むICU死亡率を評価した3つのRCTはすべて死亡リスクが増加傾向です.いずれも統計学的有意差はついていないものの,今回のRCTを含めて共通点がみられます.その共通点は,リハビリテーションの強度がかなり強めということです.非ICU患者のRCTでも,超早期から強度の強いリハビリテーションを行うと死亡率や神経学的予後が悪化した研究が2つあります.現時点でこれらの原因は明らかになってはいませんが,高度侵襲期にある患者への強度の強いリハビリテーションが何らかの悪影響を及ぼしている可能性があるのかもしれません.Too much is not always better,ということでしょうか.「ICUではリハビリは早期から,でも強度は強すぎず」が一番いいのかもしれません.
重症成人患者におけるベッド上サイクリングと四肢の電気筋刺激の筋力への影響
Fossat G, Baudin F, Courtes L, et al. Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2018; 320: 368-78
PMID: 30043066

Abstract
【背 景】
早期のベッド上サイクリングと電気筋刺激はICU患者におけるリハビリテーションの有益性を改善させる可能性がある.

【目 的】
標準的な早期リハビリテーションに早期のベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加えることでICU退室時の筋力がより強化されるかどうかを検討する.

【方 法】
本研究はフランスの1100床の病院のICUにおける重症成人患者を登録した単施設無作為化臨床試験である.2014年7月から2016年6月まで登録を行い,2016年11月24日まで6ヶ月の追跡を行った.患者は標準的早期リハビリテーションに早期のベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加える群(n=159)または標準的早期リハビリテーションのみの群(n=155)に無作為に割り付けられた.主要評価項目は盲検化された理学療法士のMedical Research Councilグレードシステム(点数幅0-60点;高い点数ほど良好な筋力を反映;最小の臨床的に重要な差は4点)を用いた評価によるICU退室時の筋力とした.副次評価項目はICU退室時の人工呼吸器非装着日数とICU Mobility Scaleスコア(点数幅0-10点;高い点数ほど良好な歩行能を反映)とした.機能的自立と健康関連QOLは6ヶ月時点で評価した.

【結 果】
無作為化された患者314例のうち,312例(平均年齢66歳,女性36%;研究登録時の人工呼吸器装着78%)が研究を完遂し,解析に組み込まれた.ICU退室時の国際的なMedical Research Councilスコア中央値は介入群で48点(四分位範囲 29 to 58),標準ケア群で51点(四分位範囲37 to 58)であった(中央値差-3.0[95%CI -7.0 to 2.8]; p=0.28).ICU退室時のICU Mobility Scaleスコアは両群とも6点(四分位範囲3 to 9)であった(平均差0[95%CI -1 to 2]; p=0.52).28日時点での人工呼吸器非装着日数は介入群で21日(四分位範囲6 to 25),標準ケア群で22日(四分位範囲10 to 25)であった(中央値差1[95%CI -2 to 3]; p=0.24).運動セッションの間の臨床的に意義のある有害事象は,介入群で7例(4.4%),標準ケア群で9例(5.8%)であった.6ヶ月時点で評価されたアウトカムについては両群間で有意差はみられなかった.

【結 論】
ICUに入室した患者を登録した本単施設無作為化臨床試験において,標準的早期リハビリテーションプログラムにベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加えることは,ICU退室時の筋力を改善させなかった.

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by DrMagicianEARL | 2018-08-07 12:01 | 文献 | Comments(0)
■今回紹介する論文は,いわゆる「明日から臨床現場で使える小技」的なRCTです.局所麻酔でリドカイン注射をする際,その注射自体の疼痛はどうしても発生してしまうため,患者さんに我慢してもらうしかないのですが,リドカイン注射をする前にリドカイン1-2mLほどを皮膚の上に滴下することで注射の際の疼痛を有意に減じることができたとのことです.

■キシロカインゼリーを皮膚に塗った場合,5分程度で鎮痛効果が出るとされてますが,この研究の場合は注射前にどれくらいの時間をおけばいいんだろう?と見てみると,「immediately prior to subcutaneous injection of the 1% lidocaine」と書いてありますので,ほんと直前でいいということなんでしょう.ですので,1%リドカイン注射器から皮膚上に滴下してそのまま刺せばいい,という非常にお手軽な手技になります.
ベッドサイド手技で生じる疼痛における2つのリドカイン投与方法の比較:無作為化臨床試験
Patel BK, Wendlandt BN, Wolfe KS, et al. Comparison of Two Lidocaine Administration Techniques on Perceived Pain From Bedside Procedures: A Randomized Clinical Trial. Chest. 2018 Apr 24[Epub ahead of print]
PMID: 29698720

Abstract
【背 景】
リドカインは手技を行う上での疼痛を減じるために使用されるが,リドカイン注射中は逆に疼痛が増してしまう.疼痛の知覚は疼痛ゲート制御理論に基づいて,温度や接触のような非有害な刺激によって制御することができる.我々は,注射前に皮膚に滴下したリドカインが皮膚表面を冷やすあるいは皮膚表面に触れることで,注射による疼痛を軽減すると仮説を立てた.

【方 法】
手技を受けた患者の無作為化臨床試験を2011年2月から2015年3月まで行った.全患者が1%リドカインの皮下注射を受けた.介入群に無作為割り付けされた患者は,リドカイン皮下注射の前に1-2mLのリドカインを皮膚表面に滴下した.患者は介入の詳細については盲検化されており,視覚的アナログスケールを用いて主要な結果(手技による疼痛の程度)を記録するため,盲検化された研究者によって調査された.

【結 果】
481例の患者で同意が得られ,治療を無作為化された.視覚的アナログスケールを用いた結果,介入群で手技による疼痛の主要評価項目は有意に改善した(対照群16.6±24.8mm vs 介入群12.2±19.4mm; p=0.03).サブ解析では,末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)において疼痛スコアが改善していた(対照群18.8±25.6mm vs 介入群12.2±18.2mm; p=0.02).

【結 論】
ベッドサイド手技は非常に一般的に行われている.手技による疼痛の程度に関するデータとそれを軽減するための方法はインフォームドコンセントのプロセスや患者満足度において重要である.全体として,一般的なベッドサイド処置から報告される痛みは弱いが,リドカインを皮膚表面に滴下して疼痛知覚を制御することにより疼痛をさらに減じることができる.

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by DrMagicianEARL | 2018-08-06 11:21 | 文献 | Comments(0)
■日本版敗血症診療ガイドライン2016において,世界で初めてPICS(post-intensive care syndrome)がガイドラインに明記されましたが,私を含むこのPICSの項目を担当したワーキンググループメンバー6名でPICSに対する早期リハビリテーションのシステマティックレビューを行い,publishされたので紹介いたします.ワーキンググループメンバー以外では,本ガイドライン委員長である西田修先生,メタ解析経験のある山川一馬先生にご協力いただいております.PICSについてよく講演してきたこともあってか私が筆頭執筆者に指名されてはいますが,システマティックレビューにおける膨大な作業量をみんなで分担しつつ執筆しております.

■今回のシステマティックレビューは,PRISMAプロトコルを遵守し,PROSPERO登録とプロトコル論文投稿した上でGRADEシステムを用いて行っております.5000以上の論文から20報以下にまで絞りこみましたが,その後の組み入れ基準をめぐり,メンバー内でもいろいろ議論があり,査読に際してもこの研究をなぜいれないのか?この研究はなぜ入っているのか?などのコメントをいただいており,最終的に6報に確定するまで紆余曲折がありました.また,ICU早期リハのメタ解析論文はこれまでも複数publishされておりますが,どの論文も待機手術患者のRCTが多く含まれており,急性期疾患によるICU患者での評価においてはそれらの患者集団を含めることは妥当でないとして,我々はそれらを極力除外した論文抽出を行っております.これらの統合解析結果として,ICU-AW発生率や筋力を示すMRCスコアといった短期指標での改善は認めたものの,認知機能障害,精神障害,長期の健康関連QOLの改善はみられませんでした.もっとも,見て分かる通り小規模の研究が多く,各アウトカムごとの研究数も少ないため,多施設大規模RCTの蓄積が望まれることは言うまでもありません.

■今回,5000もの論文を仕分けましたが,日本からの論文はほぼゼロに近いです.今回診療報酬改定により早期離床が加算として認められました.これを機に本邦での早期リハ研究が進むことを期待します(私の施設でもようやく早期リハチームが立ち上がりましたので評価はこれからです).
重症疾患患者におけるpostintneive care syndrome予防のための早期リハビリテーション:システマティックレビューおよびメタ解析
Fuke R, Hifumi T, Kondo Y, et al. Early rehabilitation to prevent postintensive care syndrome in patients with critical illness: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open 2018; 0: e019998

Abstract
【背 景】
我々は,重症疾患生存患者における身体機能,認知機能,精神の障害であるpostintensive care syndrome(PICS)の予防において,早期リハビリテーションの有効性を検討した.

【方 法】
PICS予防における早期リハビリテーションvs早期リハビリテーションなしまたは標準ケアの効果を比較した無作為化比較試験(RCT)を抽出するため,各データベース(Medline,Embase,Cochrane Central Register of Controlled Trials)で系統的文献検索と手動検索を行った.主要評価項目は入院期間中の短期での身体関連,認知関連,精神関連のアウトカムとした.副次評価項目は標準化された長期の健康関連QOL(EuroQol 5 Dimension (EQ5D)とMedical Outcomes Study 36-Item Short Form Health Survey Physical Function Scale (SF-36 PF))とした.エビデンスの質の評価はGrading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)を用いた.

【結 果】
5105報のアブストラクトをスクリーニングし,6報のRCTを登録した.標準ケアまたは早期リハビリテーションなしと比較して,早期リハビリテーションは,Medical Research Councilスケール増加(SMD 0.38, 95%CI 0.10 to 0.66. p=0.009,エビデンスの質:低い)と,ICU-AW発生率の減少(OR 0.42, 95%CI 0.22 to 0.82, p=0.01, エビデンスの質:低い)により短期身体関連アウトカムの有意な改善を示した.しかし,認知機能関連項目である無せん妄日数(SMD -0.02, 95%CI -0.23 to 0.20, エビデンスの質:低い),精神関連のHospital Anxiety and Depression Scaleスコア(OR 0.79, 95%CI 0.29 to 2.12, エビデンスの質:低い)は両群間で差はみられなかった.早期リハビリテーションはEQ5DとSF-36 PFによるPICSの長期アウトカムを改善させなかった.

【結 論】
早期リハビリテーションは重症疾患患者における短期の身体関連アウトカムのみ改善させた.さらなる大規模RCTが必要である.

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by DrMagicianEARL | 2018-05-10 13:23 | 文献 | Comments(0)
■睡眠薬として用いられるメラトニン受容体作動薬であるラメルテオン(ロゼレム®)がICU患者のせん妄を予防し,ICU在室期間を短縮させる傾向がみられたという報告が名古屋大学からCritical Care Medicineにpublishされましたので紹介します.

■2014年と2017年に順天堂大学などのDERILIA-J groupがラメルテオン(JAMA Psychiatry 2014; 71: 397-403)やスボレキサント(J Clin Psychiatry 2017; 78: e970-9)がせん妄を予防したというRCTを報告しています.しかし,この2つのRCTの対象は急性期病院に救急入院となった65-89歳の薬剤経口摂取可能な患者です.高齢者以外でも有効か,(経口摂取ができない)より重症なICU挿管患者ではどうかということは分かっていません.今回の名古屋大学の研究はICU患者が対象ですので,よりICU関連せん妄に対する効果を見る上では妥当なものかと思います.サンプル数が88例と検出不足感はありますが,より大規模なRCT検討のtriggerとなるかもしれません.
ICU在室期間におけるメラトニン受容体作動薬ラメルテオンの投与効果:単施設無作為化プラセボ対照試験
Effect of Administration of Ramelteon, a Melatonin Receptor Agonist, on the Duration of Stay in the ICU: A Single-Center Randomized Placebo-Controlled Trial. Crit Care Med. 2018 Mar 27.[Epub ahead of print]
PMID: 29595562

【目 的】
ICUでのせん妄の発生はICU在室の長期化に関連している.メラトニン受容体作動薬であるラメルテオンの使用が重症疾患患者において,せん妄を予防し,ICU在室期間を短縮するかについて検討した.

【方 法】
本研究は大学病院ICUで行われた単施設三重盲検無作為化プラセボ対象試験である.患者は入室から48時間以内に薬剤の経口摂取または経鼻胃管投与が可能なICU患者とした.介入群はラメルテオン(8mg/日),対照群はプラセボ(ラクトースパウダー1g/日)をICU退室まで毎日20時に投与を受けた.

【結 果】
計88例がラメルテオン群(45例)またはプラセボ群(43例)に無作為化された.主要評価項目では,プラセボ群(5.86日)に比してラメルテオン群(4.56日)でICU在室期間の短縮傾向がみられた(調整前p=0.082,調整後p=0.028).副次評価項目では,せん妄の発生率(24.4% vs 46.5%; p=0.044)とせん妄期間(0.78日 vs 1.40日; p=0.048)がラメルテオン群で統計学的有意に低かった.ラメルテオン群の非挿管患者では,夜間の覚醒が有意に少なく,覚醒していない夜の比率が有意に高かった.

【結 論】
ラメルテオンはICU在室期間を短縮させる傾向があり,また,せん妄の発生率およびせん妄期間を統計的に有意に減少させた.

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by DrMagicianEARL | 2018-04-02 18:10 | 文献 | Comments(0)
■2015年に名古屋で行われたHPVワクチンと接種後の症状との関連性を調べるための大規模アンケート調査結果がpublishされました(オープンアクセスです).もともとこのアンケートは名古屋市長である河村たかし氏が全例調査を目的して行うよう指示したものです.2015年12月14日に結果が発表され,副反応症状とワクチンに関連性は認められないという解析結果でした(その時の河村市長の発言は「驚いた」というもので,どうやら薬害ありきでこのアンケート調査を指示したともとれる発言です).今回紹介する論文はそのデータ解析結果を学術論文としてpublishしたものです.これほどの大規模データはワクチン接種率が著しく落ちてしまった今となってはとることは難しいでしょう.本研究結果がHPVワクチン積極推奨に繋がればと思います.

■さて,本研究の24の症状有無についてのアンケートでは,ワクチン接種群の方が有意に多い症状はないという結果でした.一方で,24の症状で「病院を受診した」リスクに関しては,接種群の方が月経血量異常や不規則な月経,ひどい頭痛が有意に多く,接種前からあった症状の影響を除いても受診リスクは有意に高いという結果でした.

■これは,症状頻度は増加していないが病院受診で有意差がでているということで,考察として,他の症状が増加していないことから接種群の方が重症だったとは考えにくく,副反応かもしれないという心理的要因が関係しているのではないかとしています(サブ解析を見ると,後に接種するほどORが上昇している傾向がみられていることもそれを示唆していると思われます).加えて,HPVワクチン接種後の日本のメディアや何人かの医師によって報告された複数の同時症状の発生を示唆する結果も得られていません.以上から,接種後症状とHPVワクチンとの間に因果関係はないであろうと結論づけています.

■執筆者らはlimitationとして,①回答率が100%ではないため選択バイアスが結果に影響を与えている可能性があること(これは大規模アンケート研究ではほぼ避けられない潜在的リスク),②本研究デザインでは極めて稀な症状を拾い上げることができない(ただし,本研究は子宮頸がん予防ワクチン被害者連絡会愛知支部の協力を得てHPVワクチンと関連した症状を反映する方法をとっている),③アンケートであるため,医師によって診断された症状とは限らない自己報告であること,④ワクチン接種者のみが予防接種日を有しており,ワクチン接種前に起こった症状を除外してしまうと比較の妥当性が損なわれるため,完全に除外を行っていない,を挙げています.

日本の若年女性において,HPVワクチンと,報告されたワクチン接種後の症状に関連性はない:Nagoya study
Suzuki S, Hosono A. No Association between HPV Vaccine and Reported Post-Vaccination Symptoms in Japanese Young Women: Results of the Nagoya Study. Papillomavirus Res. 2018 Feb 23. [Epub ahead of print]
PMID: 29481964

Abstract
【背 景】
名古屋市は2010年に無料のHPV予防接種を導入し,2013年4月に厚生労働省はHPVワクチンを全国予防接種プログラムに組み入れた.しかし、2013年6月に未確認の有害事象の報告後,ワクチン接種の推奨を中止した.

【方 法】
名古屋市では,ワクチンと症状の関連性を調査するため,アンケート調査を実施した.参加者は1994年4月2日から2001年4月1日までの間に生まれた名古屋市の女性71177例であった.匿名化された郵便アンケートでは,24の症状(主要評価項目)の発症,関連する病院の受診,頻度,および学校出席への影響を調査した.

【結 果】
計29846例の参加者から回答が得られた.24のHPVワクチン接種後の症状のいずれも発生率の有意な増加は見られなかった.ワクチンは「異常な月経出血量」(OR 1.43; 95%CI 1.13-1.82),「不規則な月経」(OR 1.29; 95%CI 1.12-1.49),「ひどい頭痛」(OR 1.19; 95%CI 1.02-1.39),慢性的に遷延する「異常な月経出血量」(OR 1.41; 95%CI 1.11-1.79)において,年齢で調整されたオッズの増加と関連していた.学校への出席に有意に影響を与えた症状はなく,症状の蓄積も認められなかった.

【結 論】
本結果はHPVワクチンと報告された症状の間に因果関係がないことを示唆する.

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by DrMagicianEARL | 2018-03-02 18:39 | 文献 | Comments(0)
■ICU患者での急速輸液では晶質液(いわゆるリンゲル液系)と生食のいずれがいいのか?というClinical Questionに関しては,「理論上は晶質液の方がいいけどエビデンスがない」という状態が続いていて,(海外では特に)コストの関係から安い生理食塩水を用いているところもあるようです.SSCG 2016も蘇生輸液は生食でもいいよというスタンスでした.

■生理食塩水などのクロライド(Cl)を多く含む輸液製剤は,クロライドにより糸球体細動脈を収縮させるためGFRが落ちることが知られており,これまで複数の観察研究でクロライド負荷が死亡リスクを増加させるとの結果がでていました.比較的最近の研究をみてみると,敗血症性ショック患者において,晶質液群より生理食塩水群の方が死亡率が有意に高い(19.6% vs 22.8%)という53448例傾向スコアマッチング解析(Crit Care Med 2014; 42: 1585-91)があります.

■一方,ANZICSは2278例でのRCT/pilot studyであるSPLIT study(JAMA 2015; 314: 1701-10)を行っており,AKI発症率(9.6% vs 9.2%, p=0.77),新規腎代替療法導入(3.3% vs 3.4%, p=0.91),院内死亡(7.6% vs 8.6%, p=0.4)に有意差なしという結果でした.よりハイリスク集団で検討すべく,8300例を登録するPLUS studyが進行中です.

■このPLUS studyを待っている間に米国の方から大規模RCTがNEJM誌に報告されたので紹介します.結果は,全死亡+腎機能障害遷延+腎代替療法の複合アウトカムが晶質液群の方が生食群よりもよかったということで,今後は積極的に晶質液が推奨されていくと思われます.ただ,データを見るにSPLIT studyと似たような印象で,個々のアウトカムに関しては有意差はついていませんし,主要評価項目である複合アウトカムについてもその絶対差はわずか1.1%です.さてこれは統計学的に有意な差であっても臨床的に有意な差だろうかという疑問はあります.NNT 91ですし,救急集中治療領域でこのNNTの数値は意味があるのかと.なんせサンプル数15802例であり,数で押し切ってる感がありますね.全死亡率は10.3% vs 11.1%,p=0.06で,p値だけ見れば「ギリギリ有意差ついてないけど晶質液の方がよさそう」となりそうですが,これも絶対差0.8%,NNT 125です.NNT 30以下だけどサンプル数を集めるのが困難で統計学的有意差がつけられなかった介入が「有効性なし」とされることがこの領域ではゴロゴロあるわけで悩ましいところです.少なくとも,コストがシビアな発展途上国でこのエビデンスをもって生食よりも晶質液を使えという推奨は現実的ではないとは思います.個人的にはもともとリンゲル液使用してますし,一種の補強材料といえないこともないですけどね(生食でガンガン輸液するとあとで電解質補正が大変・・・).

重症疾患の成人患者における調整晶質液vs生理食塩水(SMART trial)
Semler MW, Self WH, Wanderer JP, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in Critically Ill Adults. N Engl J Med. 2018 Feb 27 [Epub ahead of print]
PMID: 29485925

Abstract
【背 景】
調整された晶質液と生理食塩水は成人重症疾患における輸液で使用されるが,臨床アウトカムにおいていずれがよりよいのかについては知られていない.

【方 法】
大学病院の5つのICUで行われた本実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験において,我々は15802例の成人患者をICU入室時に,生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)投与群または調整された晶質液(乳酸リンゲル液またはPlasma Lyte A)投与群に無作為に割り付けた.主要評価項目は30日以内の主要な腎有害事象(退院時または30日のいずれか早い時点で生じた全死亡,新規の腎代替療法導入,クレアチニンがベースの200%以上の上昇で定義された腎機能障害遷延の複合アウトカム)とした.

【結 果】
主要な腎有害事象は,調整晶質液群で7942例中1139例(14.3%),生理食塩水群で7860例中1211例(15.4%)に生じた(marginal OR 0.91; 95%CI 0.84-0.99,conditional OR 0.90; 95%CI 0.82-0.99; p=0.04).30日時点での院内死亡率は調整晶質液群で10.3%,生理食塩水群で11.1%であった(p=0.06).新規の腎代替療法の導入率はそれぞれ2.5%と2.9%であり(p=0.08),腎機能障害の遷延はそれぞれ6.4%vs6.6%であった(p=0.06).

【結 論】
重症疾患の成人患者では,輸液投与における調整晶質液の使用は生理食塩水の使用と比較して,全死亡,新規の腎代替療法導入,腎機能障害遷延の複合アウトカムの発生率が低かった.

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by DrMagicianEARL | 2018-02-28 18:27 | 文献 | Comments(0)
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■今回は宣伝です.INTENSIVIST最新号「PICS」が発刊となりました.私は2014年末頃からPICSについて興味を持ちはじめ,2015年の学会主催の敗血症セミナーin大阪でPICSについてショートレクチャーで講演させていただきましたが,当時はまだ概念が全然浸透しておらず,集中治療医学会でもシンポジウムや教育講演でPICSを見かけることはほとんどありませんでした.それが気が付けば日本版敗血症診療ガイドライン2016の一項目となり,学会,さらには地方の研究会レベルでもPICSの演題が増えてきました(ただし,残念ながら日本から原著論文はまだほぼ出ていません).JSEPTICセミナーに参加した時はアンケートの「今後取り上げてほしいトピックス」で私は毎回PICSと書き続けてきたので,実際にこうしてINTENSIVIST誌で特集が組まれ,自分も執筆陣の一員となれたことは非常に感慨深いものがあります(ただやっぱりINTENSIVISTの執筆は他の執筆よりもはるかに大変です.3回目ですがまだ慣れないというか毎回ヒットポイントゼロになります).

■実はINTENSIVISTからの執筆依頼が来たとき,他の書籍等も同時に依頼がきたため,夏から秋にかけてPICSの原稿を4つ平行して抱える状態にありました.PICSに関する講演依頼も増えて,日本でもだいぶhot topicsになったなと思っています.なお,今回もそうなんですが,PICSに対して「集中治療後症候群」という日本語訳をあてているケースがだいぶ増えてきましたが,学会等が公式に認定している日本語名ではありませんのでご注意ください(別に執筆した書籍でそのことを書きました).ちなみにネットで調べてみると,集中治療後症候群という言葉で一番古いソースはどうもこの私のブログのようです(汗).私のブログが見られていたからかどうかは分かりませんが,つい先日のGoogle検索仕様が変更されるまではPICSのネット検索では最上位にこのブログが来ていたので,それなりにこの言葉が露出していたようです.単に「直訳すれば」で書いただけなのですが・・・

■さて,今回の特集,日本版敗血症診療ガイドライン2016のPICS/ICUAWワーキンググループメンバーとJSEPTICの豪華メンバーによる執筆陣の力作で,PICSの初の日本語教科書を目指すべく250ページにわたり解説をしております.私は敗血症とPICSについて解説させていただきましたが,PICSの原因の代表格である敗血症は死亡率こそ大きく改善はしたものの,完全な社会復帰をとげられる患者は入院前にADLが自立していた患者に限定してもたったの1/3に過ぎません.それだけPICS患者が増加しているということです.ぜひ,PICSを知り,その予防とケアを臨床現場に活かすべく本書を手に取っていただければと思います.
INTENSIVIST 2018 Vol.10 No.1「PICS」

内容紹介
ICUにおける補助循環・呼吸装置の技術革新やガイドラインによる診療レベルの向上と標準化などにより,この20年で集中治療医学は劇的な進化を遂げ,ICU死亡率や28日生存率などICU患者の短期的なアウトカムは飛躍的に改善しました。しかし,ICU患者の長期予後やQOLはいまだ改善していません。ICU患者の多くは身体的および精神的な障害を抱え,それらが社会復帰や長期予後の障壁となり,集中治療後症候群Post−Intensive Care Syndrome(PICS)は世界中で進行する超高齢社会とICU患者の高齢化を背景に浮かび上がった,21世紀の集中治療医学の新たな問題点であるといえます。近年,このPICSやICU−AWなどの亜急性期から慢性期の病態がICUにおける重症敗血症患者にも密接に関与しているという報告がなされました。本邦でも世界的にも注目されつつあるPICSですが,いまだ最新知見がまとまった書籍がなく,医療従事者の多くがその最新知見を手に入れることが困難な状況です。本特集では,PICSおよびICU−AWの新しい病態の概要・診断・予防に関する最新の知見について,エキスパートが解説します。

Part 1 PICSとは何か

1. なぜ今PICSなのか:高齢社会のなかで重症患者救命後の長期予後改善を目指して
井上 茂亮(東海大学医学部付属八王子病院 救命救急医学)

Part 2 PICSの危険因子

2. PICSの疫学:発症率,予後と予防法
一二三 亨(香川大学医学部附属病院 救命救急センター)

3. 敗血症とPICS:生存率は改善した,次の目標は?
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

4. ARDSとPICS:PICSを防ぐ急性期治療とは
三反田 拓志・則末 泰博(東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科 集中治療部門)

5. ICUケア・環境とPICS:環境因子と治療介入因子の調整によるPICS予防
和田 剛志(北海道大学病院 先進急性期医療センター 救急科/Department of Surgery, Brigham & Women's Hospital/Harvard Medical School)

6. 鎮痛・鎮静による譫妄予防とPICS:浅い鎮静と譫妄予防の薬物療法
矢田部 智昭(高知大学医学部 麻酔科学・集中治療医学講座)

Part 3 PICS 3要素

7.ICU−AW,運動機能・筋力低下
武居 哲洋 横浜市立みなと赤十字病院 集中治療部

8.認知機能障害
近藤 豊(ハーバード大学 外科)

9.精神障害
竹内 崇(東京医科歯科大学医学部附属病院 精神科)

【コラム】PICS−F(family)とは何か?
新井 正康(北里大学医学部附属新世紀医療開発センター・集中治療医学/北里大学病院 集中治療センター)

Part 4 PICSは予防できるのか?

10.ABCDEFGHバンドル:患者のQOL改善のためにICU在室中から行うべきこと
森川 大樹(聖マリアンナ医科大学 救急医学)
藤谷 茂樹(聖マリアンナ医科大学 救急医学/東京ベイ・浦安市川医療センター)

11.身体リハビリテーション:PICSの予防に有効か?
對東 俊介(広島大学病院 診療支援部 リハビリテーション部門)
志馬 伸朗(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 救急集中治療医学)

12.呼吸リハビリテーション:長期予後の改善を見据えて
原 嘉孝・西田 修(藤田保健衛生大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座)

13.神経筋電気刺激:PICS/ICU−AW予防に有効か
畠山 淳司(横浜市立みなと赤十字病院 集中治療部)

14.栄養管理:ICU患者の長期予後,PICS予防との関係
佐藤 格夫・安念 優・森山 直紀(愛媛大学大学院医学系研究科 救急航空医療学)

15.環境管理:日記,耳栓,メンタルケア,音楽療法
長友 香苗(自治医科大学附属さいたま医療センター 麻酔科・集中治療部)

Part 5 コメディカル・地域におけるPICS

【コラム】PICS予防のための看護ケア実践:東海大学医学部付属八王子病院と自治医科大学附属病院における取り組み
剱持 雄二(東海大学医学部付属八王子病院 看護部)
井上 茂亮(東海大学医学部付属八王子病院 救命救急医学)

16.理学療法士から見たPICS:PICSの評価とリハビリテーションの可能性
神谷 健太郎(北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

【コラム】ICUフォローアップ外来:歴史と現状藤内 まゆ子・林 淑朗(鉄蕉会亀田総合病院 集中治療科)

17.多職種連携とPICS:各職種と患者・家族も含めた連携の重要性
櫻本 秀明(筑波大学附属病院 ICU/ER)

後書き:PICS:全人的そして家族も含めた究極的な予防医療への第一歩
藤谷 茂樹(聖マリアンナ医科大学 救急医学/東京ベイ・浦安市川医療センター)

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by DrMagicianEARL | 2018-02-01 18:21 | 文献 | Comments(0)
■東日本大震災時の福島第一原発事故の関係で,いまだに福島県をはじめとする東北に対する風評がネット等で続いています.現時点では福島県において小児の甲状腺癌は見た目の数字は多くても,それだけでは増えたと結論づけれない状況です.その理由としてスクリーニング効果,過剰診断が挙げられます.以前に津田論文がEpidemiology誌にpublishされてますが,循環論法に陥っている内容で,あの内容では増加したかどうかはまったく分かりません.今回紹介する論文は,実際に甲状腺の腫瘍径を調べたものです.

■もともと成人の甲状腺癌のほとんどは癌と呼ぶには予後がかなりいいことが知られており,小児においてもその傾向が示唆される結果です.甲状腺癌発生初期の小さな結節は成長速度が速いが,一定の大きさになると増殖が止まるため,これからの患者の長いであろう人生を考えれば,過剰診断を防ぐ上で,すぐに細胞学的診断はやりにいくべきではないとしています.
原子力発電所事故後の日本における超音波検査でスクリーニングされた若年患者の甲状腺癌発育パターンの比較解析:福島健康管理調査
Midorikawa S, Ohtsuru A, Murakami M, et al. Comparative Analysis of the Growth Pattern of Thyroid Cancer in Young Patients Screened by Ultrasonography in Japan After a Nuclear Accident: The Fukushima Health Management Survey. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2017 Nov 16 [Epub ahead of print]
PMID: 29145557

Abstract
【背 景】
成人では,甲状腺癌は一般的に非常に遅い速度で成長し,過剰診断が世界的問題となっている.しかしながら,若年患者でのスクリーニングによる早期のステージの甲状腺癌同定に関しては十分には知られていない.過剰診断を防ぐため,若年患者の超音波検査スクリーニングによる甲状腺癌の成長の自然経過を理解することが不可欠である.

【目 的】
若年患者での甲状腺癌の自然進行を評価する.

【方 法】
本観察研究では,悪性または悪性疑いの甲状腺腫瘍の直径の変化を2回評価した.悪性甲状腺腫瘍の直径の変化は,福島県の原子力発電所事故後で,21歳未満の患者の福島健康管理調査の第1回甲状腺超音波検査でのスクリーニングと確認検査の間の観察期間中に,悪性甲状腺腫瘍径の変化を推定した.甲状腺癌またはその疑いと細胞学的に診断された計116例の患者を,10%超の直径減少,-10%~+10%の直径変化,10%超の直径増加の3群に分類した.腫瘍成長率と主要径の関連性について解析を行った.本研究は2016年3月1日から2017年8月6日までの期間に行った.評価項目は,腫瘍径変化,若年患者における甲状腺癌の成長係数,観察期間または腫瘍径とそれらの関連性とした.

【結 果】
116例の患者のうち,77例が女性であり,平均年齢は16.9歳(中央値17.5歳)であった.平均観察期間は0.488年(範囲 0.077-1.632)であった.3群間で年齢,性別,腫瘍径,観察期間,甲状腺刺激ホルモン,サイログロブリンに有意差はみられなかった.腫瘍径変化は観察期間と直線的には相関していなかったが(Pearson R=0.121; 95%CI -0.062 to 0.297),スクリーニング検査では増殖係数は腫瘍径と有意に負の相関がみられており(Spearman ρ=-0.183; 95%CI -0.354 to -0.001),初期増殖後の増殖停止を示唆していた.

【結 論】
超音波検査によるスクリーニングは,多くの若年患者において成長が停止するパターンになっている無症候性の甲状腺癌を同定しうる.患者の予測される長い人生を考慮すると,過剰診断の予防のためには,非浸潤性甲状腺癌疑いをすぐに診断することなく,慎重に長期間観察していくことが必要である.

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by DrMagicianEARL | 2018-01-22 18:14 | 文献 | Comments(0)

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