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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:抗菌薬( 16 )

2012年3月19日作成
2014年6月17日改訂


原則⑧:PK/PD理論を考慮する

■PKはPharmacokinetics(薬物動態),すなわち,薬剤の吸収・分布・代謝・排泄などに関係するCmax,AUCなどのことを表す.PDはPharmacodynamics(薬力学),すなわち,体内に入った薬が細菌に対してどのような作用があるかなどに関係するMICなどのことを表す.この基本的考え方を知っておくだけでも抗菌薬の適切な投与方法を行うことができる.

■抗菌薬を投与すると,吸収されて血中濃度が上昇ピークに達し,そこから漸減されていく.濃度曲線で表すと,立ち上がりは比較的直線的であるが,最高濃度に達した後は下に凸の減少曲線パターンとなる(実際には指数関数曲線).

■MIC(minimal inhibitory concentration:最小発育濃度)より高い薬剤濃度であれば,菌の発育は阻止されるはずで,薬剤濃度がMICよりも高い時間(Time above MIC;TAM,T>MIC)が長ければ長いほど効果が得られる.このようなTAMに殺菌効果が平行するものを時間依存性抗菌薬という.このような薬剤は1日の投与総量が同じならば,小分けにして投与することでTAMを長くすることができる.一般的にはGPCがTAM≧40%,GNRではTAM≧60%であれば効果が期待できるとされている.時間依存性抗菌薬にはβラクタム系,CLDM,EM,CAM,VCM,LZDがある.
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■一方で,薬剤濃度がMICを下回っても菌の再増殖を抑える作用をpostantibiotic effect(PAE)と呼ぶ.このような薬剤は濃度のピーク値(Cmax)や濃度曲線の下の面積(area under curve:AUC)とMICとの関連で抗菌薬の作用が決まるので,濃度依存性抗菌薬といい,Cmax/MICやAUC/MICが治療効果に平行すると言われている.AUCは1回の投与総量で決まり,Cmaxは1日の投与総量が同じならば,分割回数を少なくすることで高くなる.濃度依存性の薬剤ではGPCではAUC/MIC≧30%,GNRではAUC/MIC≧100あるいはCmax/MIC≧8-10であれば最大の効果が得られるとされている.AUCを手で計算するのは大変なので,血中濃度用のソフトを使って推測することが多い.しかし,全部の薬でできるわけではないので,インタビューフォームの値などを参考にすることもある.濃度依存性抗菌薬のうち,Cmax/MICに依存する薬剤はキノロン系,アミノグリコシド系,DPT,MNZ,QPR/DPR.AUC/MICに依存する代表的な薬剤はAZM,キノロン系,テトラサイクリン系,VCM,LZD(VCM,LZDは時間・濃度両方)などがある.
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■抗菌薬がMICを超えると,菌の発育は阻止される.しかしながら,感染の原因となっている菌はモノクロナールではなく,その中には低感受性の変異株が混じっている可能性があり,MICを超える濃度で,他のsensitiveな株が死滅した後も生存し,antibiotics selective pressureの減少により耐性株として増殖する.一般に1010個の菌を完全に死滅させることができれば,その中に薬剤耐性をもつ変異株が含まれている可能性はほぼ0と考えられるので,1010個の菌を完全に死滅させることができる濃度をMPC(mutant prevention concentration)と呼ぶ.MICとMPCの間の部分をMSW(mutant selection window)と呼ぶ.抗菌薬濃度がこのMSW内で推移すると薬剤耐性株の増殖を許す可能性が高くなると予想されている.このMPCに関しては今後の研究課題であるが,抗菌薬の濃度がMPCを超えるように,あるいはMSWにある時間を短縮するような抗菌薬の投与設計が望ましいと考えられる.

■時間依存性の抗菌薬はPK/PD理論から,時間依存性抗菌薬の投与時間を延ばし,TAMを増やせば治療効果が増すのではないか,という仮説が生まれた.ここからさらに派生して,バッグに1日分の抗菌薬を詰めて,24時間持続点滴をする方がPK/PD的には理にかなっている,という発想も生まれた.抗菌薬の持続投与は,間欠的な投与に比べて少ない投与量で同等の血中濃度とTAMを獲得するため,理論上では持続点滴の方が間欠的投与に比べると有利である.

■ただし,抗菌薬のクリアランスには個人差があり,必ずしも個々の患者で期待されるような薬物動態を示すという保証はない.また,24時間容器に入れた抗菌薬の安全性も問題である.実際,PCGに関しては,特に高温環境下では失活しやすい特徴をもっており,通常よりも長時間点滴バッグの中に入れたままの抗菌薬が失活するおそれもある.

■臨床効果に関する研究では,近年βラクタム系抗菌薬を中心に多数の研究が報告されている[14].特に重症患者において有効性が示されており[15,16],臨床的奏功率,生存率を改善させている.なお,米国循環器科学会・米国心臓学会による最新のガイドラインでは感染性心内膜炎の治療にPCGの24時間持続点滴療法が推奨治療法として取り入れられている.

■なお,注射用抗菌薬をオーダーした際,点滴時間の指示を入れないことが多く,看護師判断で点滴を30分で終わらせてしまうことがあるが,これは抗菌効果を減弱させてしまう.少なくともどの抗菌薬も1時間以上は投与時間が必要である.また,投与回数が多いことに関してクレームを述べる患者や看護師もいるが,PK/PD理論を考慮すれば時間依存性抗菌薬は4回投与,ときには6回投与も必要なケースは多々ある.患者治療のためでもあり,重症患者では特に必要なため,理解をしてもらう必要がある.

■「今日の治療薬®」に掲載されている投与方法は半数近くが不適切な投与方法であり,奏功しなかったり,耐性菌を増やしてしまうだけである.PK/PD理論を正しく理解し,時間依存性・濃度依存性の概念に基づいた抗菌薬投与を行う必要がある.添付文書や「今日の治療薬」の用量設定は,治験のデザインがそのまま反映されていて,薬理学的に必ずしも正しくない(少なすぎるケースがほとんど).腎機能をみて投与量を減らすのは重要だが,かといって腎機能障害を恐れて用量や投与回数を必要以上に減らすと本来その抗生剤が有効な症例でも効果を示さなくなってしまう.例えば,ペニシリン系抗菌薬はGFR<10でない限りはほとんど用量調節が不要である.また,重症感染症や抗菌薬の移行が悪い部位(髄液,骨髄など)の感染症では高い薬物濃度が要求され,通常より多い投与量が必要となる.参考になるのは『Sunford Guide®』が便利である.

■PK/PD理論には問題点もあることが指摘されている[17].①血中濃度は蛋白に結合したものも含む全濃度を使用するのか遊離した薬剤濃度を使用するのか,②PKのパラメータは血中でのパラメータでよいのか,③PDパラメータとしてMICを用いているが,MBCやMPCとの関係はどうなのか,である.また,PK/PD理論に基づく投与法と有効性についての報告がされるようになっているが,副作用,耐性菌の出現との関連性についてはほとんどない.

■PK/PDに影響を与える因子を以下に挙げる.
(1) 分布容積Vd
 重症患者における感染症の病態は非常に複雑である.細菌や真菌が産生するエンドトキシンは様々な内因性メディエーターの産生を刺激する.メディエーターは血管内皮に作用し,血管が収縮または拡張する.すると,血流の分布異常,血管内皮障害,血管透過性亢進などの影響があらわれる.こうして毛細血管から水分が漏出する状態が生まれ,血管内水分が間質へと移動する.その結果,水溶性薬物の分布容積が増大し,血漿中の薬物濃度は低下する.人工呼吸,低アルブミン血症(毛細血管からの血漿漏出),体外循環(例;血漿交換,人工心肺),手術で留置されたドレーン,重症熱傷などでも分布容積が増加する.脂溶性薬物は脂肪組織に広がるので分泌容積が大きい.したがって,サードスペースが増えても脂溶性薬物の分布容積はさして増大しない.
 水溶性抗菌薬はβラクタム系,アミノグリコシド系,DPT,LZD,colistinなどがある.通常の薬物動態は,①分布容積が小さい,②主に腎クリアランス,③細胞透過性が低い,であり,重症患者では,①分布容積増大,②腎機能の変化によってクリアランスが変化する,が特徴である.
 脂溶性抗菌薬はキノロン系,マクロライド系などがある.通常の薬物動態は,①分布容積が大きい,②主に肝クリアランス,③細胞透過性が高い,であり,重症患者では,①分布容積はほとんど変化しない,②肝機能の変化によってクリアランスが変化する,が特徴である.

(2) 血清アルブミン値
 多くの抗菌薬では,分布容積およびクリアランスはタンパク結合率に影響される.低アルブミン血症では遊離抗菌薬濃度が上昇し,クリアランスは100%増,分布容積は90%増を示す.低アルブミン血症により薬物動態が変化する可能性のあるタンパク結合率の特に高い抗菌薬(>90%)にはCTRX,TEIC,GRNX,CLDM,DAP,ITCZ,キャンディン系抗菌薬がある[18].このように,低アルブミン血症患者では抗菌薬の効率が落ちることを知っておく必要がある.

原則⑨:抗菌薬奏功度を評価する

■たとえ有効な抗菌薬でも投与した翌日に状態が改善するわけではなく,悪化することもある.効果判定を行うのは抗菌薬投与開始後72時間後以降(3-4日後)に行う.その際の評価項目としては臓器に特異的項目を評価すべきである(膨大な量になるため,各感染症での臓器特異的項目は割愛する).CRP,胸部X線所見,発熱は24時間ほど遅れた病勢を表すことが多く,特異度も低いため,効果判定の第一選択とはならない.培養検体再検での評価もときに有用である.

■感染症のエキスパート中には「CRPや白血球数は参考にすべきではない」と主張されている先生も多い.ただ,CRPや白血球数が奏功度評価にまったく無駄であるわけではなく,抗菌薬奏功度の参考にはなりえる(ただしそれ以上の有用性は乏しい).問題は,CRPや白血球数の評価一辺倒になると抗菌薬奏功度の評価が雑になってしまうことである.これはとりわけ重症患者や骨髄炎などの長期治療を要する患者の治療においてよくみられる.状態が改善してきていても経過の中でCRPや白血球数が多少増加することはしばしば経験され,増加がみられたからと広域抗菌薬に切り替えたりする医師も多い.このようなときにバイタルサインや患者の症状を同時に評価する癖を身につけていればこのような数値変動に惑わされることはない.CRPや白血球数がアテにならない状況を見破る必要がある.

原則⑩:起炎菌が判明したら有効かつ狭域の抗菌薬に変更する(de-escalation)

■原因微生物が同定されたときには原因限定治療(definitive therapy)を行う.具体的には,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,狭域スペクトラムな抗菌薬で治療する.

■培養結果等を見てエンピリック治療での広域抗生剤から原因限定治療の狭域抗生剤に変更することをde-escalationもしくはtop and approach therapyといい,耐性菌を出さない有効かつ安全な治療法でもある[19,20]

■広域抗菌薬を使用し続けることの弊害は,原因菌以外の菌も死滅させることである.これにより耐性菌選択圧が増大し,使用している抗菌薬が無効な菌が増殖し,ある一定の数以上になったときに病原性を発揮するようになる.これを菌交代現象という.こうなると起炎菌が変化し二次感染が生じ,長期絶食時は特にハイリスクとなる(菌交代減少+免疫力低下).こうなると予後が悪化し,検査を行い,抗菌薬の変更を余儀なくされ,医療コスト増大,患者入院日数延長につながる.手を拱いているうちにどこからともなくMRSAやカンジダがやってきて(三次感染),悪循環となってしまう.これを防ぐためにも,de-escalation,probiotics投与,早期経腸栄養などが重要となる.

■de-escalationの目的として,常在細菌叢の撹乱による副作用減少,薬剤耐性菌選択・誘導による耐性菌発生防止,治療コスト減少が挙げられる[21].しかしながら,これらの個人的・集団的・社会的有用性のいずれにおいても,実は支持する明確なエビデンスはないのが現状である.de-escalation療法は,多数のガイドラインで推奨されており,院内感染制御チーム(ICT)や抗菌薬適正使用に慣れている医師はde-escalationのロジックをよく理解して行ってはいるが,実際のde-escalationの有用性・安全性の質の高いエビデンスはまだほとんどないことは注意しておかなければならない.また,薬剤耐性菌を減少させるとする長期的アウトカムに至っては評価した研究がいまだに存在しない[22]

■de-escalationによって死亡率が増加した報告はなく,有意差なしか改善した報告のみである.当然ながら,起因菌が不明,あるいは耐性菌を検出した場合などが背景にあると,de-escalationは困難であり,死亡率が上昇することも予想されることから,RCTでの評価が必要となるが,現時点でRCTはまだ報告がない[23](現在1研究が進行中).

■de-escalationは初期抗菌薬の影響によって有用性が消失してしまう可能性もある.de-escalationを行うならば初期抗菌薬はいくらでも広域カバーしてもよいと考える医師もいるが,決してそうではない.耐性菌をカバーすべく複数の抗菌薬を併用して超広域カバーを行うと,あとでde-escalationを行ったにもかかわらず死亡率が増加することが示されており[24,25],初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,de-escalationは安全の保障とはならないかもしれない.よって,耐性菌リスクが高くかつ重症例では超広域は必要となるかもしれないが,少なくともルーチンで「あとでde-escalationを行うんだから最初はいくらでも広域でよい」というやり方は避けた方がよいだろう.

■de-escalation療法は全ての症例で受け入れ可能というわけではなく,必ず安全に行えることが前提であり,患者の総合的評価なしに一辺倒に行ってはならない.以下の条件を満たす場合に,de-escalationを考慮すべきである.
① 経験的治療開始前に良質な微生物学的検体の採取が行われている.
② 臨床的に臓器障害,重症度などの改善がある.
③ 同定された起炎菌が,より狭域の抗菌薬に感受性である.
④ 他の感染巣が否定できる.
⑤ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.
⑥ 選択する狭域抗菌薬が感染巣に移行しえる.

原則⑪:標準的治療期間も考慮し,抗菌薬を終了する

■患者の免疫状態,罹患臓器や起因菌によって,抗菌薬の投与期間は教科書的にある程度決まっている.しかし,投与期間を検討した無作為化比較試験(RCT)は少なく,多くはexpart opinionである.そのような中で,抗菌薬の標準的な投与期間としてすぐに利用できてよくまとまっているのが「Sanford Guide®」である.ただし,投与期間を検討した研究が少ないので,根拠やエビデンスレベルがあまり高くないものも含まれる.

■様々な因子により感染症の治療効果は異なるため,標準的治療期間はあくまでも参考データに過ぎないかもしれない.それでもこの標準的治療期間を考慮する理由は,それより長期間治療が必要な場合,本当に現在投与している抗菌薬が効果があるのか,ドレナージなどは不十分ではないか,膿瘍を形成しているのではないか,などを考えるきっかけにもなるからである.逆に,標準的治療期間より短く治療が終わることも越したことはないが,再発のリスクに気をつける必要がある.病勢把握をしながら終了することが原則であり,標準的治療期間を考慮する.また,標準的治療期間より短くなるケースもある.

■また,たとえ改善していなくても中止し,再評価することが重要であり,ときには抗菌薬なしで経過をみることもある.抗菌薬の投与失敗の原因を推測できることも重要である.
1.予想菌と抗菌薬選択の誤り
2.耐性菌
3.抗菌薬の移行不良
4.ドレナージ不良の感染巣
5.他部位での感染巣形成
6.抗菌薬の少ない投与回数,少ない投与量
7.疾患の回復パターンを知らないための不必要な抗菌薬投与
8.一般菌以外の起炎微生物
9.感染症以外の疾患

■近年,重症感染症(特に敗血症)においてプロカルシトニンを用いて抗菌薬投与期間を短縮したとする報告が増加しており,メタ解析も多い.これらの結果を見るに,プロカルシトニンガイドによる抗菌薬治療は,死亡率に影響を与えずに抗菌薬投与期間を2-3日間短縮する効果がある,ということが概観として分かる.ただしそのプロトコルは研究によって大きく異なるため,どのように診療に組み込むかについては各文献[26-30]をチェックしておく必要がある.また,これらの研究はプロカルシトニンを毎日測定しており,日常診療では通常行われない手法であることに注意が必要である.これについては測定機会を絞り込むなど何らかの工夫が必要であろう.
※プロカルシトニンガイド下抗菌薬治療についてはこちらhttp://drmagician.exblog.jp/20784711

■プロカルシトニンは重症敗血症・敗血症性ショックにおける抗菌薬奏功度の評価には比較的優れたマーカーである.Surviving Sepsis Campaign Guideline 2012[31]では,「敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)」という推奨となっている.ただし,同時に限界と潜在的有害性の懸念が残るとしている.さらに,この抗菌薬中止戦略が耐性菌リスクやClostridium difficileによる抗菌薬関連下痢症のリスクを減じるとしたエビデンスはない.日本版敗血症診療ガイドラインに[32]おいても「抗菌薬中止にはプロカルシトニンを考慮してもよい(2A).」という推奨となっている.

抗菌薬投与の基本的考え方(1)はこちら
抗菌薬投与の基本的考え方(3)はこちら(作成中)

[14] MacVane SH, Kuti JL, Nicolau DP. Prolonging β-lactam infusion: a review of the rationale and evidence, and guidance for implementation. Int J Antimicrob Agents. 2014; 43: 105-13
[15] Chant C, Leung A, Friedrich JO. Optimal dosing of antibiotics in critically ill patients by using continuous/extended infusions: a systematic review and meta-analysis. Crit Care 2013; 17: R279
[16] Falagas ME, Tansarli GS, Ikawa K, et al. Clinical Outcomes With Extended or Continuous Versus Short-term Intravenous Infusion of Carbapenems and Piperacillin/Tazobactam: A Systematic Review and Meta-analysis.
[17] 堀 誠治.PK-PD解析からみた効果的かつ安全な抗菌薬適正使用.薬学雑誌 2007; 127: 931-7
[18] Gonzalez D1, Schmidt S, Derendorf H. Importance of relating efficacy measures to unbound drug concentrations for anti-infective agents. Clin Microbiol Rev. 2013; 26: 274-88
[19] Dellit TH, Owens RC, McGowan JE Jr, et al; Infectious Diseases Society of America; Society for Healthcare Epidemiology of America. Infectious Diseases Society of America and the Society for Healthcare Epidemiology of America guidelines for developing an institutional program to enhance antimicrobial stewardship. Clin Infect Dis 2007; 44: 159-77
[20] Kollef MH, Morrow LE, Niederman MS, et al. Clinical characteristics and treatment patterns among patients with ventilator-associated pneumonia. Chest 2006; 129: 1210-8
[21] Camargo LF. The "de-escalation concept" and antibiotic de-escalation: a missed opportunity? Shock 2013; 39 Suppl 1: 29-31
[22] Masterton RG. Antibiotic de-escalation. Crit Care Clin 2011; 27: 149-62
[23] Silva BN, Andriolo RB, Atallah AN, et al. De-escalation of antimicrobial treatment for adults with sepsis, severe sepsis or septic shock. Cochrane Database Syst Rev 2013; 3: CD007934
[24] Kett DH, Cano E, Quartin AA, et al; Improving Medicine through Pathway Assessment of Critical Therapy of Hospital-Acquired Pneumonia (IMPACT-HAP) Investigators. Implementation of guidelines for management of possible multidrug-resistant pneumonia in intensive care: an observational, multicentre cohort study. Lancet Infect Dis 2011; 11: 181-9
[25] Kim JW, Chung J, Choi SH, et al. Early use of imipenem/cilastatin and vancomycin followed by de-escalation versus conventional antimicrobials without de-escalation for patients with hospital-acquired pneumonia in a medical ICU: a randomized clinical trial. Crit Care 2012; 16: R28
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[27] Stolz D, Smyrnios N, Eggimann P, et al. Procalcitonin for reduced antibiotic exposure in ventilator-associated pneumonia: a randomised study. Eur Respir J 2009; 34: 1364-75
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[30] Nobre V, Harbarth S, Graf JD, et al. Use of procalcitonin to shorten antibiotic treatment duration in septic patients: a randomized trial. Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 498-505
[31] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637
[32] 織田成人,相引眞幸,池田寿昭,他;日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日集中医誌 2013; 20: 124-73
by DrMagicianEARL | 2014-06-17 11:49 | 抗菌薬
■マクロライド系抗菌薬と心血管副作用については以前から指摘されており,AZM(アジスロマイシン)は最もその副作用リスクが少ないとされていますが,心血管死が増加するという報告と増加しないという報告が交互にでている状態です.今回,2013年の米国胸部疾患学会でMortensenらが中間報告を行った研究の最終報告がJAMA誌にでたので紹介します.
肺炎で入院した高齢患者における死亡および心血管イベントとアジスロマイシンの関連性
Mortensen EM, Halm EA, Pugh MJ, et al. Association of azithromycin with mortality and cardiovascular events among older patients hospitalized with pneumonia. JAMA 2014; 311: 2199-208
PMID:24893087

Abstract
【背 景】
臨床ガイドラインではAZM(アジスロマイシン)を含むマクロライド系の併用療法が肺炎で入院した患者において第一選択で推奨されているが,近年の報告ではAZMが心血管イベントの増加に関連している可能性が示唆されている.

【目 的】
肺炎で入院した患者において全死亡および心血管イベントとAZM使用との関連性について検討した.

【方 法】
本研究は2002年度から2012年度までAZM投与を受けた肺炎で入院した高齢患者とその他のガイドラインに準拠した抗菌薬治療を受けた患者を比較した後ろ向きコホート研究である.本研究はすべての退役軍人急性期病院に入院した患者の米国退役軍人局の入院データを用いて行った.患者は65歳以上で,肺炎で入院し,米国臨床ガイドラインに準拠した抗菌薬治療を受けた患者を登録した.評価項目は30日および90日の全死亡率と90日不整脈,心不全,心筋梗塞,およびすべての心血管イベントとした.標準的なロジスティック回帰により影響を与えうる交絡因子で調整するため傾向スコアマッチングを用いた.

【結 果】
118病院から73960例の患者が抽出され,傾向スコアマッチング集団ではAZM曝露が31863例,非曝露例が31863例であった.マッチング後は両群間に潜在的交絡因子について有意差はみられなかった.90日死亡率はAZM曝露群が有意に低かった(曝露群17.4% vs 非曝露群22.3%; OR 0.73; 95%CI 0.70-0.76).しかし,心筋梗塞のオッズは有意に増加した(5.1% vs 4.4%; OR 1.17; 95%CI 1.08-1.25).ただし, 全心血管イベント(43.0% vs 42.7%; OR 1.01; 95%CI 0.98-1.05),不整脈(25.8% vs 26.0%; OR 0.99; 95%CI 0.95-1.02),心不全(26.3% vs 26.2%; OR 1.01; 95%CI 0.97-1.04)では有意差はみられなかった.

【結 論】
肺炎で入院した高齢患者において,AZMによる治療は他の抗菌薬治療と比較して低い90日死亡とわずかな心筋梗塞の増加と関連していた.この知見はAZM使用がリスクを差し引いた有益性と関連していることを示している.
■本研究は大規模コホート研究であるが,多変量ロジスティック回帰と傾向スコアマッチングを用いた,変数を定めた解析であり,RCTに比して恣意的バイアスがあることは注意しておかなければならない.もっともこれは近年複数でているマクロライド系抗菌薬と心血管イベントを検討したコホート研究すべてに言えることではあるが.

1.マクロライド系抗菌薬とQT延長

■マクロライド系抗菌薬と心血管イベントについてはQT延長が機序からすでに解明されている.ただしこれが他の心血管イベントとどのように関与しているかは定かではない.

■マクロライド系抗菌薬によるQT延長の機序としては6遺伝子(LQT1-3)の変異により心筋K/Naチャネルの異常が生じ,QT延長が生じることが知られている[1].QT延長をきたせばTorsades de Points等の致死的不整脈が生じ,突然死の原因となる.QT延長リスクは,女性でQTc(補整QT時間)>0.5秒だと増大し,他の薬剤との併用でさらにリスクが増大する[2].同時にQT延長は心伝導障害も意味し,これが心筋梗塞等につながっているのかもしれないが,因果関係を証明した検討はなされていない.

■マクロライド系抗菌薬とQT延長の関連性についてはGuoらが48報のシステマティックレビューを行っており[3],QT延長やTorsades de Pointsのリスク因子として,高齢,高用量のマクロライド,急速投与,心疾患が挙げられている.薬剤別ではラットモデルによるQT時間への影響の比較が行われており,不整脈リスクはEM(エリスロマイシン)>CAM(クラリスロマイシン)>RXM(ロキスロマイシン)>AZMであった[4].AZMは薬物相互作用が少なく比較的安全であると言われている.

■しかし,稀ではあるが,AZMでもQT延長から致死的不整脈であるTorsades de Pointsが生じうることがこれまでに症例報告レベルで見られている.本邦でもアジスロマイシン注射製剤が2011年より発売となったが,小生の施設においてAZMIV投与中にTorsades de Points発生を経験しているspan style="color:rgb(0,204,255);">[5].本症例はその後緊急冠動脈造影検査において左前下行枝において有意狭窄が見つかったことから,心筋伝導障害をAZMが悪化させた可能性があった.この経験は,上記MortensenらのJAMA誌の報告と合致するものであると思われる.現時点で本邦でのAZMIVによるTorsades de Pointsの報告はこの1例のみである.その他にも本邦ではQT延長が1例,因果関係は不明であるが心停止やVfが10例ほど報告されている.症例報告レベルでもAZMによる不整脈出現報告は散見されており,近年のものでは,オピオイド系鎮痛剤methadone内服中の47歳男性患者が上気道炎となり,アジスロマイシンを3日間内服したところ,QT延長から致死的不整脈をきたし,心停止に陥った報告[6]がある.

■QT延長はあまり意識されていないが,潜在的リスクは大きく注意が必要である.Tayら[7]の報告では,1995-2009年の米国救命救急部におけるQT延長の副作用を有する薬剤の占める割合は10.4%→22.2%まで増加しており,抗菌薬ではAZMが最多であった.しかしながら,心電図スクリーニングは20.9%にしか行われていなかった.また,Zhangら[8]は,心電図におけるQT時間の延長は,参照範囲内であっても一般住民レベルでも死亡率と相関すると報告している.加えて,心臓突然死の60%がQT延長と関連しているとの報告もある[9]

■高齢者では肺炎と心不全を合併することはしばしば経験する.このときの不整脈は頻脈になりやすく,Kチャネル遮断作用は発揮しにくい.効果が弱いからとさらに薬剤を追加すると,心不全治療が奏功して頻脈が徐拍化されると急にQT時間が延長し,フロセミドによるK低下でさらにQT延長が増強,心不全が落ち着いた頃にTorsades de Pointが出現する危険性がある.このような症例でのマクロライド系抗菌薬の使用は特に注意を要する.

■もっとも,QT延長はマクロライド系抗菌薬に限ったことではない.抗菌薬関連QT延長についてはOwensらの総説[2]を参考にするとよい.マクロライド系の代替として用いられやすいフルオロキノロンにおいても同様で,すべてのフルオロキノロンでQT延長(QTc>0.5秒またはベースラインから>0.06秒)は起こりうるとされており,女性,低K,低Mg,徐脈ではTorsades de PointsやVfのリスクが増大する.その他QT時間を延長させる抗菌薬としては,アゾール系抗真菌薬,テリスロマイシン,ペンタミジンなどがある.

2.過去のコホート研究にみるアジスロマイシンと心血管イベントリスク

■まずAZMと同じマクロライド系のCAM(クラリスロマイシン)については触れておく.CAMは総死亡リスク・心血管リスクが増大したとする6施設共同RCTであるCLARICOR Trialが2006年に報告されている[10].このRCTは,18歳から85歳の心筋梗塞や狭心症と診断され退院した患者4373例を対象としており,CAM500mg/日群とプラセボ投与群の2週間投与により3年後の死亡率,心血管イベントを比較している.結果は,全死亡リスクは1.27倍(95%CI 1.03-1.54, p=0.03),心血管死亡リスクは1.45倍(95%CI 1.09-1.92, P=0.01)であった.

■さらに2013年にはSchembriら[11]がコホートデータベースのCOPD急性増悪による入院患者1343例,市中肺炎による入院患者1631例を解析している.心血管イベントはCOPD急性増悪で268例,市中肺炎で171例発生した.多変量での調整後,COPD急性増悪へのCAM使用は心血管イベントリスクを1.50倍(95%CI 1.13-1.97),急性冠症候群リスクを1.67倍(95%CI 1.04-2.68)有意に増加させた.市中肺炎では心血管イベントリスクは1.68倍(95%CI 1.18-2.38)有意に増加した一方,急性冠症候群リスクは増加傾向が見られるも統計学的には有意ではなかった(HR 1.65; 95%CI 0.97-2.80).CAM使用と心血管イベントの関連性は傾向スコアマッチングを行っても同様の結果であった.二次評価項目では,COPD急性増悪におけるCAM使用は心血管死リスクを1.52倍(95%CI 1.02-2.26)有意に増加させた一方,全死亡リスクでは有意な増加はみられなかった(HR 1.16; 95%CI 0.90-1.51).市中肺炎においてはCAM使用と全死亡・心血管死に関連性はみられなかった.COPD急性増悪患者においてβラクタム系またはドキシサイクリンの使用は心血管イベントとの関連性は認められず,CAMに特異的な作用であることが示唆された.

■AZMにおいては2012年にRayら[12]がNEJM誌に後ろ向きコホート研究の報告を行っている.米国保険会社Medicadeのコホートデータベースから抽出した30-74歳のAZM服用患者347795例と,傾向スコアでマッチングした抗菌薬非服用患者,および他の抗菌薬服用患者を比較しており,最初の5日間の治療期間中で,AZM服用患者は抗菌薬非服用患者と比較して心血管死亡リスクは2.88倍(95%CI 1.79-4.63, p<0.001),全死亡リスクは1.85倍(95%CI 1.25-2.75, p=0.002)有意に増加した.アモキシシリン服用患者の死亡リスク増加はみられなかった.アモキシシリンと比較して,AZMは心血管死亡リスクを2.49倍(95%CI 1.38-4.50, p=0.002),全死亡リスクを2.02倍(95%CI 1.24-3.30, p=0.005)有意に増加しており,100万治療あたり推定心血管系死亡数が47例増加,心血管リスクの高い患者においては245例増加するとしている.AZMの心血管死亡リスクはシプロフロキサシンよりも有意に高いが,レボフロキサシンとは有意差がみられなかった.結論として,AZMは心血管死と関連ありとしている.

■しかし,このRayらの報告から1年後にこれを否定するSvanströmらの後ろ向きコホート研究の報告[13]が同じNEJM誌に掲載された.本報告では,デンマークの人口集団ベースのコホートデータから抽出した18-64歳のAZM服用患者1102050例と,傾向スコアでマッチングした抗菌薬非投与患者およびペニシリンV投与患者を比較しており,AZM投与群は心血管死リスクが抗菌薬非投与群の2.85倍(RR 2.85; 95%CI 1.13-7.24)であった.一方,AZM曝露による心血管死の粗死亡率は1.1/1000患者-年,ペニシリンV曝露では1.5/1000患者-年であり,傾向スコアで調整すると,ペニシリンVと比較してAZM使用は心血管死増加リスクとは関連していなかった(RR 0.93; 95%CI 0.56-1.55).以上からAZM使用は心血管死と関連しないと結論づけている.

■しかし2014年に入って,Raoら[14]がAZMの心血管イベントリスクとの関連性を報告した.この報告では,米国退役軍人局の入院データから抽出した30-74歳のAZM投与患者94792例と,アモキシシリン投与患者,レボフロキサシン投与患者を比較しており,5日間の治療期間中でアモキシシリンと比較してAZMは死亡リスク1.48倍(HR 1.48; 95%CI 1.05-2.09),重篤な不整脈リスクが1.77倍(HR 1.77; 95%CI 1.20-2.62)に増加していた.結論として,AZMは死亡および不整脈と関連ありとしている(なお,レボフロキサシンも死亡および不整脈リスクを増加させる).

■傾向スコアに組み込んだ変数の違いもあるが,Rayら,Raoらの報告とSvanströmらの報告の最大の違いは年齢層にある.AZMは高齢患者を含む30-74歳の集団では心血管死リスクが増加させ,18-64歳の非高齢集団では増加させなかったということになる.そして今回のMortensenらの報告は65歳以上の高齢者を対象としたものであるが,心血管イベント発生リスクは増加せず,心筋梗塞のみがわずかに増加したが90日全死亡リスクはむしろ低下した.RayらとRaoらの報告では逆に全死亡リスクが増加しているが,Mortensenらの報告はガイドラインに準拠した抗菌薬治療を受けた患者を抽出している点が異なるようである.

■これらの報告はマクロライド系抗菌薬の安易な投与は心血管イベントや心血管死につながりうる危険性を注意喚起する必要があり,AZMでもFDAからも勧告が出ている[15].しかしながら,マクロライド系抗菌薬投与において得られる有益性も存在することは確かであり,その有益性が有害リスクを上回るという結果もでたことから,マクロライド系抗菌薬を使わないとする短絡的な選択はすべきではないと思われる.

■肺炎におけるβラクタム系とマクロライドの併用療法が死亡率をはじめとするアウトカムを改善した報告は多数存在しており[16],質のよいRCTに限定したメタ解析で改善効果がみられていないというlimitationは存在するが,IDSAガイドラインやSurviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[17]でも推奨されている.また,慢性呼吸器疾患におけるマクロライドの長期投与による有効性の報告もでており,これらのベネフィットも考慮すべきであろう.ただし,抗菌作用のみならず免疫修飾作用,抗バイオフィルム効果などでマクロライド神話ともいえる過剰投与の風潮がでてきていることも確かであり,盲目的なマクロライド投与は行うべきではない.

■以上より,現時点でのAZMは以下の点を留意しておく必要があると思われる.
①ガイドラインに準拠して使用しなければAZMの有益性は損なわれ,心血管イベントリスクを患者にさらすことになりかねない.
②少なくとも心血管リスクを有する患者においては心血管イベント発生リスクが高まりうるためAZMの使用は慎重投与とすべきである.
③心血管イベント発生リスク,心血管死リスクの絶対増加率自体は非常に小さく,(特に肺炎球菌肺炎で)死亡率改善の有益性がリスクを上回ることも示唆されているため,これらの有害事象を過大評価してAZM投与の恩恵を受けるであろう患者集団への投与を控えるべきではない.
※当院では70歳以上の高齢者肺炎におけるAZM投与患者の解析を継続的に行っており,中間解析[18]では,AZM投与群(50例)はAZM非投与群(241例)と比較して重症度が高かったが(A-DROP 2.8 vs 2.1, p<0.0001; PSI 146.2 vs 114.6, p<0.0001; p<0.0001; 重症敗血症・敗血症性ショック 50.0% vs 10.8%, p<0.0001),院内死亡率に有意差はなかった(10.0% vs 10.4%, p=1).

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[4] Ohtani H, Taninaka C, Hanada E, et al. Comparative pharmacodynamic analysis of Q-T interval prolongation induced by the macrolides clarithromycin, roxithromycin, and azithromycin in rats. Antimicrob Agents Chemother 2000; 44: 2630-7
[5] DrMagicianEARL. 当院における市中肺炎入院患者に対するAzithromycin注射製剤の使用経験とその位置付け.第53回日本呼吸器学会学術集会PP579 2013年4月20日
[6] Winton JC, Twilla JD. Sudden cardiac arrest in a patient on chronic methadone after the addition of azithromycin. Am J Med Sci 2013; 345: 160-2
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[18] DrMagicianEARL. アジスロマイシン注射製剤の高齢者医療における有用性の検討.ジスロマック®点滴静注用Webシンポジウム演題1 2013年3月5日
by DrMagicianEARL | 2014-06-11 18:42 | 抗菌薬
2012年3月18日作成
2014年6月9日改訂


■感染症の治療において抗菌薬は根本治療の中心的役割を果たす手段であるが,実際はそう単純ではない.感染症の多くの成書において,患者,病原菌,抗菌薬の三角関係を考えて治療すべきとの理論が記されている.しかし,実際には抗菌薬以外の医療介入も多く,抗菌薬の部分を医師とした上で,お互いがどのような関係であるかを下に表した.
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病原菌が毒素などにより患者を攻撃し,ときには敗血症を引き起こす.この根本治療として抗菌薬を医師が用いる.しかし,患者側も病原菌に対して何も対処しないわけではない.免疫力によって病原体を排除し,正常細菌叢によっても病原菌の増殖は防ぎえる.また,人体最大の免疫形成システム(人体の免疫機能の約50-70%を有する)である腸管において正常細菌叢が保たれることでCross talkにより免疫力も賦活される.抗菌薬はこの正常細菌叢をも破壊しうるため,諸刃の剣であることを認識する必要がある.この正常細菌叢や免疫力を補助・維持するのが経腸栄養やprobiotics投与である.また,病原菌もただ抗菌薬にやられているわけではない.バイオフィルム形成や膿瘍形成,さらには抗菌薬曝露による適応耐性を獲得することで抗菌薬から身を守る.これに対し,外科的処置やデバイス除去などを講ずることでバイオフィルム形成や膿瘍を治療することが可能であるし,耐性化の有無にかかわらず免疫力や正常細菌叢維持は病原菌を排除することができる.これらを理解した上で抗菌薬がどのように作用しているかを考えて使用する必要がある.

■抗菌薬を選択する場合は以下のことを考慮すべきである.
① 推定あるいは同定された病原体の種類
② 薬剤感受性
③ 生体内利用率・臓器移行性
④ 細胞内移行性(細胞内増殖菌)
⑤ 患者重症度(感染症,基礎疾患)
⑥ 患者臓器障害
⑦ 既往歴(過去の培養での菌検出歴も含む),アレルギー歴
⑧ 副作用頻度
⑨ local factor,antibiogram
⑩ コスト

■以下に抗菌薬投与の基本原則をまとめる.

原則①:細菌培養は必ず抗菌薬投与前に行う

■抗菌薬投与後では培養しても菌が生えてこないことが多い.喀痰塗抹培養を抗菌薬投与後に行うと,投与後6時間未満でも感度が約20%低下,1日たってしまうと約65%低下することが知られている[1].血液培養においても血液中の菌は抗菌薬投与で速やかに死滅してしまうため,感染病巣部位からの検体が採取できないケースなどの場合は起炎菌特定が困難となり,治療が難渋した際に抗菌薬の選択が困難となる.こうなると検出菌がどれだか分からなくなり,MRSAの保菌状態を起因菌と勘違いして抗MRSA薬を投与してしまう,といったことも生じてくる.

■前医で抗菌薬を投与されていた場合の血液培養は抗菌薬吸着用の容器を使用する必要があるので,必ず抗菌薬投与の有無は確認する(点滴を施行されていることもあるので,紹介状の経口薬を見て抗菌薬なしと判断するのは要注意).

■例外的に抗菌薬が感染巣からの培養より先に投与されるケースがある.例えば,細菌性髄膜炎は直ちにempiricalな抗菌薬迅速投与が必要であり,腰椎穿刺に時間がかかるため培養を提出してからでは遅い.抗菌薬の髄液移行は時間がかかるため,髄膜炎では先に抗菌薬点滴を開始してから腰椎穿刺・髄液培養提出を行ってもよい.また,この他にも胆嚢炎や腸腰菌膿瘍など,感染巣からの検体採取までに時間を要するケースがあるが,敗血症状態であれば早期治療が優先されうるため,抗菌薬投与が遅れるようなことがあってはならず,先行投与がやむをえないこともある.

原則②:本当に細菌感染症か,本当に抗菌薬が必要かを考える

熱や白血球数,CRPだけで細菌感染症と判断しないことである.感染があるなら必ず感染部位があり,そこに臓器特異性の症状があるはずである.それを確認せずに安易に抗菌薬を投与するのは無駄となる可能性が高くなるばかりか副作用や耐性化を生み出すだけである.

ほとんどの風邪症候群(感冒,咽頭炎,副鼻腔炎,気管支炎)はウイルス性であると考えられている.また,実際に細菌感染による風邪症候群(肺炎でない急性呼吸器感染症)であったとしても抗菌薬投与なしに軽快することがほとんどで,抗菌薬投与有無で罹患期間に有意差はないとする報告がほとんどである.最近行われた急性呼吸器感染症1531019例のコホート研究[2]では,肺炎入院は抗菌薬投与群で18例/100000回受診,非投与群で22例/100000回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果であった.なお,A群溶連菌による咽頭炎においてはリウマチ熱,急性糸球体腎炎を続発することがあるため,抗菌薬投与を検討すべきである(AMPCが第一選択).

細菌感染症だからといって抗菌薬が必要であるわけではない.これは多くの医師が忘れている事実である.急性副鼻腔炎,風邪症候群,マイコプラズマ気管支炎,単純性膀胱炎,感染性胃腸炎などは必ずしも抗菌薬が必要となるわけではなく,むしろ抗菌薬投与により再発率が高まることもある.感染性胃腸炎においては出血性病原性大腸菌においてはまだ議論されてはいるが,基本的には多くの感染性胃腸炎では細菌性も含めて抗菌薬は不要である.ただし,海外渡航者の下痢では抗菌薬投与を検討する必要がある.

不明熱の鑑別を考える.膠原病,悪性腫瘍,感染性心内膜炎,骨髄炎などが挙げられる.感染部位・起炎菌が不明で,感染症でない可能性すらあるのであれば,敗血症でない限り抗菌薬投与は待機すべきである.あまり認識されていないことであるが,抗菌薬によって感染症が引き起こされることもしばしば経験される.

複数の抗菌薬を投与され,主要な菌はほぼカバーされているのに奏功していないケース.抗菌薬変更の前になぜ奏功していないかをまず考えるべきである.投与回数不足,用量不足,膿瘍形成,バイオフィルム形成,外科的処置の必要性,デバイスの除去,重複感染の可能性,適応耐性化など,抗菌薬が奏功しない,もしくは奏功していたのに途中から奏功しなくなるケースはしばしば経験される.その際に抗菌薬を何の考えもなしに変更したり継続したりするのは全くの無駄である.

感染臓器もはっきりしないが抗菌薬治療を開始しなければならないケース.敗血症は言わずもがなであるが,それ以外に,粟粒結核,リケッチア症,ヒストプラズマ,カラアザール,バルトネラ症,エールリキア症(アナプラズマ症),熱帯熱マラリアなどの播種性感染症では診断が困難であるが,治療可能でかつ治療を急ぐ必要がある[3]

プロカルシトニンの活用.プロカルシトニンは細菌感染症に特異的なマーカーであり,ステロイド投与下でも上昇するため有用とされる.しかしながら,その扱いには注意が必要である.精度はCRPと比較してそこまで優れているわけではなく,偽陽性,偽陰性も存在する.また,局所の感染においては上昇しにくい.このため,敗血症を初めとする重症感染症でなければ信頼性は乏しいと考えるべきである
プロカルシトニンの詳細についてはこちら

原則③:感染部位を特定する

■当然のことではあるが,感染部位の特定は必須である.とりわけ,重症敗血症病態では遅くとも6時間以内に感染巣を特定する必要があり,場合によっては手術やドレナージなどの外科的処置が早急に必要となる場合がある.単純X線,エコーだけではなく,状態が悪く急変の恐れがあってもCTを撮影するなど画像検査をフルに活用して原因特定することが優先され,場合によってはMRIを施行することも辞さない心構えが必要となる.

■黄色ブドウ球菌やカンジダなどは播種性病変を形成することがしばしばある.この場合は初期感染巣とは別の部位にも感染巣を形成するため注意が必要である.特に心内膜炎,骨髄炎,関節炎は発見が遅れやすい.カンジダ菌血症では2-40%の頻度で眼内炎をきたし,場合によっては失明に陥るため,眼科コンサルトは必須となる.また,CTでは写らないほどの微小膿瘍を形成することもあるため,考慮が必要である.

原則④:初期は適切な(広域)抗菌薬を投与する(empiric therapy)

■抗菌薬投与治療の原則は大きくわけて4つあり,経験的治療(empiric therapy),原因限定治療(definitive therapy),予防的抗菌薬投与(prophylactic therapy),先制攻撃的投与(preemptive therapy)である.経験的治療は,感染症の初期治療に用いられる概念で,診断の時点で起炎菌が判明していない場合,起炎菌の可能性がある微生物全てに対して効果が期待できる広域抗菌薬を用いる.この治療の目的は原因微生物を同定するまでの間に,いち早く効果的な抗菌薬投与を行うことにある.患者の症状,既往,グラム染色結果などを総合して抗菌薬を選択する必要がある.

■経験的治療ではどこまで広域にするかであるが,例えば,腎盂腎炎による重症敗血症を例にとると,カルバペネム系を投与する医師が非常に多いが,はたしてカルバペネム系が必要か?耐性菌をカバーする必要性があるか?この患者が80歳代女性,糖尿病,抗癌剤治療中,最近の抗生剤使用歴あり,といった既往であればカルバペネム系はよい適応かもしれない.しかし,何ら既往のない20歳代女性であれば,第2-3世代セファロスポリン系でも十分なことがある(もっとも,重症敗血症ほどの重症病態では耐性菌リスクが低いからと狭域にするような“冒険”はすべきではないという意見もある).

■「初期は広域」といっても,ある程度重症度を見てどこまで広域にするかを判断すべきである.初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,原因菌判明後に狭域抗菌薬に変更するde-escalationは安全の保障とはならない可能性が示唆されている(理由は後述).あとで狭域に変更するのだから最初はどれだけ広域でもかまわない,という考え方は逆に予後を悪化させる可能性が指摘されているので注意が必要である.

■グラム染色を見るだけでもエンピリックに用いる抗菌薬はより狭域に絞りこめるはずである.肺炎球菌(S. pneumoniae),インフルエンザ菌(H. influenzae),モラキセラ菌(M. catarrhalis),腸球菌(E. faecalisE. faecium),ブドウ球菌(S. aureus),アシネトバクター(Acinetobacter spp.)はグラム染色を見て分かるようになっておきたいところである.

■このように,ただ広域を選べばよいわけでもなく,耐性菌予防のためにも感染巣や起炎菌を推定し,また,疾患で考えるだけでなく個々の患者に合わせた経験的治療を心がけるべきであり,
広域ではあるがある程度狭域の抗菌薬を選ぶ必要がある.「SANFORD GUIDE(熱病)®」は感染症治療を行う多くの医師に使用されており,米国ではほとんどのレジデントがポケットに本書を携帯しているが,グラム染色が考慮されないなど,初期からこういった狭域抗菌薬を選択する努力をしなくなってしまう弊害がある.

■おおまかな目安としてグラム染色でグラム陽性球菌が見えたら,原則ペニシリン系でのエンピリック治療が第一選択であり,ブドウ球菌の印象があるのであればCEZや抗MRSA薬を選択する.グラム陰性桿菌であれば第2-3世代セファロスポリン系が第一選択となり,緑膿菌リスクを加味した上で,抗緑膿菌活性抗菌薬を使用もしくは併用することも考える.

■抗嫌気性菌活性をもつ抗菌薬にはβラクタマーゼ阻害薬配合剤(SBTPC,SBT/ABPC,SBT/CPZ,CVA/AMPC,TAZ/PIPC),カルバペネム系,オキサセフェム系(FMOX),セファマイシン系(CMZ),CLDM,MNZ,AZM,第4世代キノロン(GRNX,MFLX,STFX)などがある.腸管内の嫌気性菌は大腸菌の1000倍,腸球菌の10000倍存在することを考慮すれば,抗嫌気性菌活性のある抗菌薬を使用すると腸内細菌叢がいかに破壊されやすいかがよく分かる(特にTAZ/PIPC,CLDM,SBTPCで顕著である).これらの抗菌薬を使用する際はできる限りprobiotics製剤の併用が望ましい.なお,よく勘違いされるが,セファロスポリン系抗菌薬は原則として抗嫌気性菌活性はほとんど持たない.

■TFLX以外のキノロン系抗菌薬は結核菌に対する抗菌活性を有し,肺結核ではキノロン投与により3日前後で65.8-83%[4,5]で臨床症状が軽快してしまい,その後耐性化して再増悪する.結核診断前のキノロン暴露では上記一時的症状改善のみならず喀痰中結核検査の陽性率が73%低下する[6]などで診断が遅れ,最終的に結核治療開始は入院から21-34日後[4,7]まで遅れる(キノロン非曝露群では入院から平均で5日後に治療が開始される).結核菌の分裂増殖は遅く,最適環境下でも10-15時間に1回程度である.しかし,この速度で増殖しても19日後には10^9個という致死的菌量に達しうる.治療開始がもし21-34日間遅れればどうなるかは想像するにたやすく,実際に結核診断前のキノロン曝露により死亡リスクは1.8-6.9倍に増加すると報告されている[4,8].結核は胸部X線,ときにはCT撮影であっても除外できない.「上肺野の空洞陰影を伴う肺炎像」という教科書的な典型的像をとらないこともしばしばあるからであり,呼吸器内科医といえども画像だけでは判断に迷うことも多い.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[9].また,抗MRSA薬であるLZD(ザイボックス®)も抗結核菌活性を有することが分かっており,注意が必要である[10]

■キノロン系薬剤の経口投与は,カルシウム,アルミニウム,マグネシウム(下剤に注意),鉄剤の併用で著しく吸収が低下してしまうため,同時摂取を避けるなど工夫が必要である.

原則⑤:抗菌薬の移行性を考慮する

■各種の抗菌薬が特に得意とする臓器は決まっている.日本感染症学会抗菌薬使用ガイドライン2005では以下の表が掲載されている.各臓器で記載されていない抗菌薬がその臓器に移行しないわけではないが,抗菌薬が奏功しにくい場合や重症病態では特に考慮して選択する必要が出てくる.

肺:マクロライド,ケトライド,ニューキノロン,リンコマイシン,オキサゾリジノン
胆道:PIPC,CPZ,CTRX,CBPZ,マクロライド,ケトライド,ニューキノロン,リンコマイシン,テトラサイクリン
腎・尿路:ペニシリン,セファロスポリン,モノバクタム,カルバペネム,アミノグリコシド,ニューキノロン,グリコペプチド
髄液:ペニシリン,CTRX,CTX,CAZ,LMOX,カルバペネム,ニューキノロン

■マクロライド,ニューキノロン,テトラサイクリン,CLDM,RFP,CPは細胞内や組織内の濃度が血中濃度より高濃度になる.また,マクロライド系は炎症部位や貪食細胞内への移行性がよいことが知られている.

■敗血症性ショックにおいては臓器移行性が損なわれていることが多く,通常の10-20%程度にまで移行性が低下することもある.

■菌がバイオフィルムを形成すると抗菌薬が効きにくくなる.ときにはバイオフィルムごと菌が播種されることもある.バイオフィルム形成を阻害もしくは透過性を亢進させるものにはマクロライド系,テトラサイクリン系,TGC,DAP,RFP,キャンディン系,L-AMPなどがある.

原則⑥:殺菌性か静菌性かの考慮

■一般的に抗菌薬の殺菌性bacteriocidalと静菌性bacteriostaticの違いは多くの場合考慮する必要がないとされる.これは,免疫力が著しく低下していないのであれば,静菌薬であっても免疫力によって病原菌が排除されるからである.

■菌発育の最小阻止濃度MIC(minimum inhibitory concentration)は静菌作用を見ている.殺菌作用をみるためには最小殺菌濃度MBC(minimum bactericidal concentration)が用いられ,99.9%以上の菌を18-24時間以内に殺菌できる抗菌薬濃度と定義されている.つまり,MBCを越えるか越えないかで殺菌・静菌作用は異なってくる.

■実際にはMICとMBCはそれほど大きな差はないとも言われており,静菌性抗菌薬と言われているCLDMやマクロライド系は実はMIC≒MBCだと主張する専門家もいる.このMBCは細菌検査室ではルーティンで行われることはない.これは先述の通り,臨床上あまり意味をなさないことが多いからである.

■MICとMBCが大きく乖離するケースがあり,MICに対してMBCが32倍以上の値を示すときはtolerance(寛性)と呼ばれる状態にある[11].黄色ブドウ球菌などに対してβラクタム系抗菌薬を投与した場合に特に認められる.MICだけを参考にして治療した場合,特に感染性心内膜炎などの疾患では,治療失敗や再発を起こす例がある.これはtoleranceによる可能性があり,この場合,SBT(serum bactericidal titer)を用いてMBCを測定する必要がある.

■免疫力が重度に低下している患者や,敗血症,菌血症,髄膜炎,感染性心内膜炎,重症ブドウ球菌感染症,重症グラム陰性桿菌感染症,好中球減少症においては殺菌性抗菌薬が必要である.一般的に殺菌性と言われている抗菌薬はペニシリン系,セファロスポリン系,カルバペネム系,VCM,アミノグリコシド系,キノロン系,DPTである.
※MRSA菌血症では静菌性のLZDは用いるべきではないと思われる.VCMよりも治療成績が劣るという報告が散見されており,実際に私もLZDが奏功せずTEICが奏功した症例を複数経験している.LZDの使用は菌血症が解除されてからとすべきであろう.

■ただし,殺菌性と静菌性はあくまでも便宜上の分類であり,はっきりと区別できるわけではない.たとえばABPCは一般的に殺菌性であるが,腸球菌には静菌的である(このためアミノグリコシド系の併用が必要となる).AZMは静菌性であるが,肺炎球菌に対しては殺菌作用を発揮する.CPは静菌性であるが,肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ桿菌には殺菌作用を発揮する.このように,ターゲットとする菌によっては殺菌性や静菌性は異なることもある.

原則⑦:local factorとantibiogramを考慮する

■感染症の成書を読んで抗菌薬を投与する際に考慮されないことが多いのがlocal factor/antibiogramである.同じ感染症であっても,起炎菌の頻度や薬剤感受性は施設ごとに異なる.また,地域特有の感染症を考慮しなければならない場合もある.この「各施設間での差」のことをlocal factorと呼ぶ.そのため,ある施設では第一選択として使用される抗菌薬が,他の施設では使用できないこともある.事前に感受性パターンを知ることで,経験的治療を適切に行うことができる.実際には,抗菌薬の感受性率は,時と場所(国,地域,施設,病棟)によって変化することが報告されている[12,13]

■antibiogramとは,検出される微生物の薬剤感受性を各施設ごとにまとめたものである.これは院内サーベイランスの一環としての役割と,エンピリックな抗菌薬使用の判断材料としての役割をもつ.antibiogramを使用することにより,その施設の耐性菌の頻度や効果の期待できる抗菌薬を知ることができる.また,そういった資料の充実は,耐性菌の発生や感染管理においても,重要な役割をもつ.

■antibiogramを正しく解釈するには,感染症診療の知識が必要である.ESBL産生菌のように,検査データ上は感受性があるようにみえる細菌が,実際の臨床現場では効果がないことがしばしばある.複数の抗菌薬の感受性がよいことが期待される場合,どの抗菌薬を使用するかは悩ましい.そのような場合には,同様の状況で効果が確認されている抗菌薬を優先する.

抗菌薬投与の基本的考え方(2)はこちら

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by DrMagicianEARL | 2014-06-09 00:00 | 抗菌薬
Summary
・キノロン系抗菌薬は結核菌に抗菌活性を有する.
・肺結核にキノロン系抗菌薬を投与すると7-8割の症例で症状が改善し,その後耐性化して再増悪をきたし,結核の発見が3週間程度遅れる.
・肺結核にキノロン系抗菌薬を投与すると,喀痰の結核検査陽性率が7割低下する.
・結核診断前のキノロン系抗菌薬曝露により死亡リスクが1.8-6.9倍増加する.
・過去の報告では,肺結核患者の3割が診断前にキノロン系抗菌薬を投与されている.
・肺結核は胸部レントゲンでは除外診断できず,3割が非典型的画像所見となり,免疫不全患者では7割まで増加する.
・LZD(ザイボックス®)も抗結核活性を有するため注意が必要である.


■キノロン系抗菌薬を安易に肺炎患者,もしくは呼吸器症状が主訴の患者に投与すべきでないという意見が感染症医・呼吸器内科医に多い理由の中でも重要なのがキノロン製剤の結核菌に対する抗菌活性である(他には耐性菌誘発率の高さ,過剰スペクトラム,不整脈・アキレス腱断裂・痙攣等副作用などが理由にある).以下のキノロン系抗菌薬で注意が必要である.
NFLX(パグシダール®),ENX(フルマーク®),OFLX(タリビット®),LVFX(クラビット®),CPFX(シプロキサン®),LFLX(ロメバクト®,バレオン®),SPFX(スパラ®),PZFX(パシル®,パズクロス®),PUFX(スオード®),MFLX(アベロックス®),GRNX(ジェニナック®),STFX(グレースビット®)

■TFLX(オゼックス®,トスキサシン®)以外のキノロン系抗菌薬は抗結核作用を有し,肺結核ではキノロン投与により3日前後で65.8-83%[1,2]で臨床症状が軽快してしまい,その後耐性化して再増悪する.

■結核診断前のキノロン暴露では上記一時的症状改善のみならず喀痰中結核検査の陽性率が73%低下する[3]などで診断が遅れ,最終的に結核治療開始は入院から21-34日後[1,4]まで遅れる(キノロン非曝露群では入院から平均で5日後に治療が開始される).結核菌の分裂増殖は遅く,最適環境下でも10-15時間に1回程度である.しかし,この速度で増殖しても19日後には10^9個という致死的菌量に達しうる.治療開始がもし21-34日間遅れればどうなるかは想像するにたやすく,実際に結核診断前のキノロン曝露により死亡リスクは1.8-6.9倍に増加すると報告されている[1,5]

■当然ながらこの治療の遅れの期間の間に周囲に感染するリスクも高まる.よくあるケースは,開業医で咳嗽症状や肺炎等にキノロン系抗菌薬が処方され,一時的に軽快するも再増悪し,総合病院に紹介され,初回喀痰検査でもひっかからず入院に至るというものである.同室患者,職員にまで感染リスクはおよび,患者の予後のみならず多大なコスト増も病院が被ることになる.
※プライマリケアの場においてこれらを考慮しない安易なキノロン系抗菌薬投与は無責任としか言いようがないが,当院でも年間数例のキノロン曝露後結核が開業医から紹介され,死亡例や職員のQFT陽転化例がでている.通常,1つの薬剤において,それが原因となって死亡例がでるというのはそうそうある話ではない.これは重大な副作用に入っても全くおかしくない事象であり,各製薬メーカーはもっと厳重注意を呼びかけてしかるべきである.

※呼吸器感染症に限らず,プライマリケアにおいてキノロン系抗菌薬が第一選択となるケースはほとんど存在しない.

※当院時間外外来・ERには肺炎患者を帰宅させる際にキノロン系抗菌薬を処方しないよう通達する貼り紙を提示している.呼吸器内科以外の医師が結核を否定して投与できる保証がまったくないからである.


■ではどれくらいの患者が結核診断前にキノロン系の曝露を受けているか?これについての報告をPubMedで検索すると8報[1-8]がヒットした.報告ごとにバラツキはあるが,14.4-48.0%が結核診断前にキノロン曝露を受けており,全体の3677例では1067例(29.0%; 95%CI 27.6%-30.5%)であった.

■2000年頃からマクロライドに耐性を示すマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)が出現し始め[9],本邦では2005年に15%程度と報告されていたが,2006年には30.6%にマクロライド耐性を認めていると報告された.そして,2011年にはマクロライド耐性マイコプラズマが全国で大流行することとなった.これに対して,耐性株が多いからという理由で最初からキノロン系抗菌薬が濫用されてしまうこととなった.注意しなければならないのは,非定型肺炎の症状だけでは結核は除外できない点である.マクロライド耐性マイコプラズマを想定してのキノロン系抗菌薬のempiric投与は危険を伴う.
※マクロライド耐性マイコプラズマがアウトブレイクしたとはいえ,成人のマイコプラズマ肺炎に対する第一選択は依然としてマクロライド系である.また,マイコプラズマ気管支炎であれば抗菌薬は不要であることが多い.

■結核は胸部X線,ときにはCT撮影であっても除外できない.「上肺野の空洞陰影を伴う肺炎像」という教科書的な典型的像をとらないこともしばしばあるからであり,呼吸器内科医といえども画像だけでは判断に迷うことも多い.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[10]

■抗結核薬以外で結核菌に抗菌活性を示してしまうのはキノロン系抗菌薬だけではない.in vitroで,MEPM(メロペン®)とCVA(クラブラン酸)の併用が結核菌に対して殺菌作用を示すことが報告されており[11],結核感染マウスモデルにおいてはIPM(チエナム®)またはMEPMとCVAの併用は結核菌増殖を防止できないが生存率が改善したとの報告[12]もある.CVAは結核菌のBlaC βラクタマーゼを不活性化し[13],カルバペネムはペプチド転移呼応祖を不活性化する[14,15]ことが知られており,カルバペネム系抗菌薬やCVA/AMPC(オーグメンチン®,クラバモックス®)は結核菌に何らかの影響を与えてしまう可能性がある.また,抗MRSA薬であるLZD(ザイボックス®)も抗結核菌活性を有することが分かっている[16].これらの抗菌薬使用時は注意が必要である.

■なお,集中治療領域では重症肺炎をみたときに,あらかじめ結核の可能性も考慮して検査を行い,結核と診断された場合はただちに抗結核薬併用療法に切り替えるという条件であれば,最初からキノロン系を使用するのは許容されうる可能性がある(あまりおすすめはしないが).Tsengら[17]は,重症肺炎を模した肺結核を伴う患者において経験的抗菌薬でフルオロキノロンを使用した群と使用しなかった群を比較したところ,100日死亡率は40%vs68%で有意にフルオロキノロン使用群で低い結果となった.ただし,ARDS状態であっても粟粒結核であれば喀痰中には排菌していないことがある.この場合,あらかじめ喀痰検査を行っていても結核がひっかからず,結果的に結核が除外できないリスクが伴うことを考えておく必要がある.

■結核リスク患者は思った以上に多く,そこには免疫不全以外に様々な要因がリスクとなる.スペインでのサーベイランス報告では,喫煙は有意に潜在性結核感染(ツ反で5mm以上と定義)リスクを接触者において1.5倍に上昇させたと報告している[18].また,近年,アドエア®に加えてシムビコート®もCOPDに適応承認となり,健康日本でもCOPDが扱われるようになって他の多数の吸入薬が登場する中,COPD治療薬は戦国時代とも言われ,吸入ステロイドの合剤メーカーがかなりの宣伝を行っている.しかしながら,安易なCOPD患者への吸入ステロイドの使用は避けるべきであり,COPD患者の吸入ステロイド使用は肺結核リスクが9倍,特に胸部画像で陳旧性肺結核を有する患者では25倍に増加することが近年報告されている[19].これらの患者が何かをきっかけに結核を発症した場合,キノロン系抗菌薬が投与されてしまうという懸念はおおいにある.

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by DrMagicianEARL | 2013-08-08 00:00 | 抗菌薬
Summary
・チゲサイクリンはグリシルサイクリンに分類されるテトラサイクリン系抗菌薬である.
・組織移行性が極めて高く,その一方で血中濃度は低い静菌的抗菌薬である.血漿中半減期は36時間,組織内半減期はその数倍に及び,主に肝代謝である.
・副作用は悪心嘔吐が非常に多いが,短期間で消失する.
・MRSA,MDRAB,ESBL産生菌,カルバペネム耐性緑膿菌,その他多くの多剤耐性菌に幅広く有効であり,海外では主に皮膚軟部組織感染症,腹腔感染症,肺炎でエビデンスが蓄積されてきている.
・ただし,本邦での適応は,『他の抗菌薬に耐性を示した,大腸菌,シトロバクター,クレブシエラ,エンテロバクター,アシネトバクター』に限られる.
・RCTはPhaseⅢがほとんどであり,従来治療群と非劣勢が示されている一方,メタ解析では奏功率・死亡率ともにTGCの成績は不良な傾向があり,重症感染症での有効性は不明確である.
・AdeABC排出ポンプシステムをはじめとする各種耐性機序が発見されており,TGC耐性菌は世界各国でAcinetobacter baumanniiなどにおいて報告されている.

■Tigecycline(チゲサイクリン,以下TGCと略)がPhizer株式会社より本邦で商品名タイガシルとして2012年11月に販売開始となった.

■TGCはglycylcyclineに分類されるテトラサイクリン系抗菌薬であり,MINOの半合成誘導体である.作用機序はテトラサイクリンと同様,ribosome 30Sサブユニットに結合してタンパク質の合成を阻害する.

■テトラサイクリンが静菌的であり,TGCも静菌的ということになるが[1],はMICの4倍濃度で殺菌作用も示すことが知られている.その薬物動態から組織内移行性は極めて優れているが,血清中濃度は1μg/mL以下と極めて低く[2,3],理論上,菌血症を伴う病態では効果が得られにくいと推察され,静菌薬であることを考慮すると,菌血症における効果には疑問が残る[4-6]

■TGCは極めて移行性に優れており,14CラベルTGCをラットに投与すると,骨,肝,脾,腎において血漿中よりもはるかに高い組織濃度を維持していた[7].この報告ではTGCの半減期は,血漿中は36時間,骨は208時間,甲状腺は128時間,腎は77時間であった.15%は尿中排泄される.

■TGCは抗菌作用以外にも,神経細胞においてエンドトキシンに誘導される炎症促進/アポトーシスメディエーターの放出を抑制することで神経を保護することがラットモデルの研究で報告されている[8]

■米国では主に成人MRSAによる複雑性皮膚軟部組織感染症および腹腔内感染症の治療薬として使用されている.TGCはDOXYやMINOなどの他のテトラサイクリン系抗菌薬に耐性を示す菌に対しても抗菌活性を認め,PRSP,MRSA,VREなどのグラム陽性の耐性菌[9],ESBL産生菌,カルバペネム耐性緑膿菌やAcinetobacterStenotrophomonas maltophiliaなどの多剤耐性グラム陰性菌[10-12],インフルエンザ菌,梅毒菌[13],マイコプラズマやクラミジアなどの非定型病原体[14],レジオネラ[15],非結核性抗酸菌[16],嫌気性菌[17]に抗菌活性を有する.

■本邦での適応菌種は『他の抗菌薬に耐性を示した,大腸菌,シトロバクター,クレブシエラ,エンテロバクター,アシネトバクター』と非常に少なく,検出されたら病院全体レベルでの感染対策が必要になる可能性もあるような耐性菌を対象としており,MRSAは適応に含まれていない.販売後は100例まで全例調査となっているが,日本では極めて少ない多剤耐性菌に適応が限定されているため,100例集積までにもかなりの期間を要することになると予想される.
※当院ではまず使用する機会はないと考え,必要時に緊急採用という形をとっている.これは当院が所属する感染対策ネットワーク内の,大学病院を含む他院でも同様の傾向がみられた.

■TGCは肝代謝・便胆汁排泄であり,腎障害時も減量する必要はない.しかし,中等度以上の肝障害時は投与量を減量する.副作用は用量依存的に悪心嘔吐などの消化器症状が多く,投与1-2日後早期に発現し,消失する.この副作用は若年者・女性で生じやすいが,投与中止となるほど重症なものは稀であるとされる.

■海外でのRCTはほとんどがPhaseⅢtrialとしてのものであり,皮膚軟部組織感染症,腹腔内感染症,肺炎においてTGCの効果が確認されている[18-27].皮膚軟部組織感染症ではVCM+AZT併用と比較,腹腔内感染症ではCTRX+MNZ併用,またはIPM/CSと比較がなされており,いずれも非劣勢との結果がでている.

■肺炎においては,市中肺炎でTGCとLVFXが比較された報告が複数あり,いずれも非劣勢とされている.一方,Freireら[28]の院内肺炎におけるTGCとIPM/CSの比較では,総死亡率やITT解析での治療奏功率に有意差はないが,per-protocolでの治療奏功率,人工呼吸器関連肺炎に限定したサブ解析ではTGCはIPM/CSより治療成績が悪いという結果が得られている.

■その一方で,TGCはMRSAに対しては殺菌的ではなく静菌的に作用するため,血中濃度の低さも考慮するとMRSAによる敗血症の治療に際しては無効となる可能性が指摘されている.実際,米国のPhaseⅢ・Ⅳにおいては,敗血症など重症MRSA感染症ではTGC投与によって逆に死亡率が増加した結果が得られており,重症MRSA感染症ではTGC以外の抗MRSA薬が使用されるべきであるとされている.その一方で,Gardinerら[29]はTGCに関する8報のPhaseⅢtrialのうち菌血症患者170名を解析しており,二次性菌血症においてTGCの静菌作用が理由で効果が損なわれることはないと結論づけている.

■Florescuら[30]は,入院患者におけるMRSA(ME n=117,ITT n=133)およびVRE感染(ME n=5,ITT n=10)に対するTGCとVCM or LZDを比較しており,TGCの非劣勢が示されている(ただし,ITT解析ではTGC群がやや成績が悪い傾向がみられた).

■これらの各RCTの結果の一方で,メタ解析においてはTGCの治療成績は芳しくないとされている.Tashinaら[31]はRCT14報の約7400例のメタ解析を行っており,従来治療を行った対照群と比較して,TGC治療群は奏功率(OR 0.87, 95%CI 0.74-1.02),死亡率(OR 1.28, 95%CI 0.97-1.69)ともに有意ではないが成績が悪い傾向が見られ,TGC従来治療より優れているわけではなく,TGCの適切な適応を評価する研究が必要としている.Yahavら[32]もRCT15報の7654例のメタ解析を行っており,TGCは従来治療群と比較して,全死亡リスクが1.29倍(95%CI 1.02-1.64),臨床的治療失敗リスクが1.16倍(95% CI 1.06-1.27,細菌学的治療失敗は有意差なし:RR 1.13, 95%CI 0.99-1.30).敗血症性ショック進展リスクは7.01倍(95%CI 1.27-38.66)という結果が得られており,重症感染症においてTGCを使用すべきでないとしている.Caiらのメタ解析[33]でも同様の結果であり,TGCの治療効果は,特に重症感染症においては現時点では不明確であり,過信すべきではない.

■耐性菌対策で本邦に導入されるTGCであるが,TGCに耐性を示す菌は世界各国で報告があり,とりわけアジア各国からの報告は非常に多い.とりわけ,カルバペネムに耐性を示す多剤耐性Acinetobacter baumanniiはAdeABC排出ポンプシステムによりTGCの抗菌力が働きにくいことが知られている[34].比較的耐性菌が他国より少ない本邦においてもTGCは万能ではなく,医療ツーリズムにより海外から本邦にやってくる外国人でのTGC耐性菌については注意が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2012-12-18 13:56 | 抗菌薬
■1952年にフィリピンの土壌から検出された放線菌Streptomyces erythreus( 新:Saccharopolyspora erythrea)の代謝産物から単離・精製されたエリスロマイシンの発見を発端に,1957年にR.B.Woodwarsにより“マクロライド”という用語が提唱され,マクロライド系抗菌薬が多数開発されるようになった.マクロライド系抗菌薬(MLs)は複雑な大環状(macrocyclic)のラクトンリングが多数連なった構造をしており,比較的大きい分子量を有する.以下では代表的な3剤である,エリスロマイシン(EM:エリスロシン®),クラリスロマイシン(CAM:クラリス®,クラリシッド®),アジスロマイシン(AZM:ジスロマック®)について記す.

1.マクロライド系の抗菌効果とPK/PD
■EMは経口投与により胃の中で分解され,ヘミケタルを作る.これが胃を刺激するため,EM特有の消化器症状が現れる.胃内の酸に安定性を増し,消化器症状を少なくし,生体内利用率,組織移行性,抗菌スペクトラムを改善したのが,EMの半合成誘導体である新世代マクロライドと言われるCAMとAZMである.EM,CAMはラクトンリングが14個,AZMは15個であるため,それぞれ14員環MLs,15員環MLsと呼ばれる.CAMはEM分子の炭素6位がメトキシ基に置換されており,経口による吸収が増し,抗菌スペクトラムが広くなっている.

■MLsは菌の50S ribosomeサブユニットの単一ドメイン(23rRNA分子のドメインVの2058 位および2059 位のアデニン塩基付近)に可逆的に1:1の割合で結合することで蛋白合成の延長反応を阻害し,抗菌効果を発揮する.その作用機序については不明な点も多いが,14 員環MLsはペプチジルtRNA の転位反応を阻害する.この結果,MLsはribosomeからのペプチジルtRNA の解離を促進す
ることでタンパク合成を阻害していると考えられている[1].さらに,他の作用機序として50S サブユニットの会合阻害も報告されている[2]

■EM経口薬は,空腹時によく吸収され,内服3時間後に血清濃度がピークに達する.CAM,AZMは経口でEMよりよく吸収され,血清濃度のピークは1時間以内に達する.EMとAZMは空腹時に内服すべきである.CAMは食後内服が可能である.

■多くのMLsは肝臓で代謝されるが,AZMは代謝されずにそのまま胆汁中に排泄される.また,わずかであるがMLsは尿中にも排泄される.

■MLsの特徴として,組織移行性が非常に高く,血清濃度をはるかに上回る組織内濃度を保つことができる.ただし,中枢神経へは移行性は悪い.また,免疫担当細胞である好中球,マクロファージなどに選択的に取り込まれ,炎症部位に集積しやすい特徴(phagocyte delivery,biological drug delivery system)を有する[3,4].細胞外濃度と比較した貪食細胞内濃度はEMで6.5倍,CAMで12.6倍,AZMで40.0倍となる[5,6].肺胞マクロファージ内においては投与4時間後で血漿中の濃度の1700倍以上となり,その後24時間まで血漿中濃度は低下していくのに対し,肺胞マクロファージ内濃度は上昇し続けることが分かっている(Phizer株式会社資料).AZMを貪食したマクロファージに細菌が近づくとAZMを放出することも知られている[7]

■マクロライド系抗菌薬における抗菌作用の濃度依存性または時間依存性の分類に関しては,必ずしも一致した見解が得られていないものの,EM, CAM およびAZM の抗菌作用は時間依存的効果と考えられていた[8].しかしながら,AZMの食細胞内濃度残存時間も考慮すると,AZMは濃度依存的効果も有しているともいえる.PAE(Post Antibiotics Effects)で見ると,肺炎球菌のPAE はEM で平均3.8hrs(1.9-7.7hrs),CAM で平均3.9 hrs(2.2-7.7hrs),AZM で平均2.9hrs(0.8-5.8hrs)が示されている[9,10].抗菌薬の治療効果と相関のあるPK/PDパラメータは,EM ではTAM(T>MIC)と考えられている.CAM に関しては,従来TAM との相関が指摘されていた.しかし,最近では,遊離薬物濃度でPK/PD パラメータの相関を見た場合に,AUC0-24h/MIC が最も良く治療効果と相関すると報告されている[11,12].また,AZM もAUC0-24h/MICと考えられている.

■MLsはほとんどのグラム陽性菌と一部のグラム陰性菌に対して優れた活性を有する.また,とりわけよい適応となるのはマイコプラズマ,クラミジア,レジオネラ,リケッチアの一部などの細胞内細菌である(これらにβラクタム系抗菌薬は無効).Peptostreptococcusなどの口腔内嫌気性菌にも抗菌活性はあるが,Bacteroides属などの腹腔内嫌気性菌に対する抗菌活性はAZM注射製剤以外はないと考えた方がよい.その他に非定型抗酸菌,アクチノミセス,スピロヘータ(梅毒),減り子縛ター・ピロリにも抗菌活性を有する.カンピロバクターにおいては耐性がなければ,臨床的に長い経験もあるためよく使用される.2011年にドイツで大流行した大腸菌O-104(ESBL産生)感染者を対象にAZMを投与したところ28日以上長期保菌者はAZM群で22人中1人,抗菌薬非投与群で43人中35人で有意差あり.AZM群全員が最低3回の便検査で陰性化したことも報告されている[13]

■AZM注射製剤(AZM IV)はAZM錠剤とは別の薬剤と考えてよいほど抗菌スペクトラムが異なる.AZM IVはその高い移行性と極めて高い組織内濃度から,AZMに耐性化した菌であっても有効となることが近年発見されてきている.AZMに対する耐性化率が高い肺炎球菌においても,MICが128μg/mLを越える高度耐性株にまで臨床効果が得られたことが報告されており[14],MLs耐性肺炎球菌に対する効果は臨床薬理学を専門とする一部の研究者の注目を集めている[15].ただし,これらが意味することは,AZM IVは超広域抗菌薬として考えるべきであり,正常細菌叢破壊や耐性菌の菌交代現象に対する注意が必要ということでもある.従来MLsはClostridium difficile関連腸炎をきたしにくい薬剤とされていたが,AZM IVでは嫌気性菌にも強い抗菌活性を有し,注意する必要がある.なお,AZM SR製剤は錠剤と注射製剤の中間レベルの効果を持つ.
※当施設でもAZM耐性肺炎球菌においてAZM SRやAZM IVの単独治療での軽快例を複数経験している.

■静菌作用の抗菌薬とされているが,抗菌薬の組織濃度,対象微生物の種類や増殖速度によっては殺菌的に働く.実際,A群溶連菌,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌には殺菌的に作用することが知られており,このため耳鼻科・呼吸器領域の市中感染症で乱用されがちである.これらの領域においては,非定型菌やレジオネラでない限りはペニシリン系で十分対応できることを忘れてはならない(ペニシリン系が第一選択となることがほとんどである).実際に,呼吸器感染症の原因菌においてはMLs耐性菌は増加傾向にあり,肺炎球菌に対しては耐性化率が80%以上に達している.また,第一選択であるマイコプラズマにおいても耐性化が進行している.外来においては適切に病態を判断し,MLs処方は慎重とすべきである.非定型菌の疑いがなければ,MLsはペニシリン系アレルギー患者にのみ適応させるべきである.また,マイコプラズマであっても,気管支炎レベルであれば無治療で軽快しうる.

2.マクロライド系に対する耐性化機序
■腸内細菌や緑膿菌などの非発酵菌の外膜をEMは透過することができない.また,何種類かの排出ポンプによる耐性化をきたすものもあり,あるものはM-phenotypeと呼ばれ,A群β溶連菌,肺炎球菌,その他の連鎖球菌で認められている.

■MLsに対する肺炎球菌の主な耐性機序としては,①メチル化酵素(ermB 遺伝子保有)による23SrRNA の特定アデニン塩基のメチル化,②マクロライド排出型タンパク質(mefA 遺伝子保有)による薬剤の汲み出し,③23SrRNA の点突然変異,または④ 50S リボソームタンパクの変異(L4,L22)が示されている.これらの耐性菌の分布には地域差があり,欧州と日本ではermB 遺伝子保有株,米国においてはmefA 遺伝子保有株の分離頻度が高いと報告されている[16]
近年,ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP),マクロライド耐性肺炎球菌(ERSP),フルオロキノロン耐性肺炎球菌(QRSP)が臨床上問題となっているが,さらに,これに加えてペニシリン(PCG),第二世代セファロスポリン,マクロライド,テトラサイクリン,トリメトプリム/ スルファメトキサゾールのうち2 薬剤以上に耐性を獲得した多剤耐性肺炎球菌(MDRSP)も海外では問題となっている[17].本邦ではPRSPはそれほど多くなく,PRSPであっても肺炎であれば高用量PCGで治療が可能であり,今でも肺炎球菌の第一選択薬はPCGであることは変わりなく,第一選択としてMLsを使用する必要性はない.

■AZM耐性肺炎球菌に対してAZM錠剤は無効であるが,AZM SR,AZM IVは有効となりうる(上述参照).

■臨床におけるMLsの使用量の増加に伴い,2000年頃からMLsに耐性を示すMycoplasma pneumoniae(Mp)が出現し始め[18],本邦では2005年に15%程度と報告されていたが,2006年には30.6%にMLs耐性を認めていると報告された.そして,2011年にはMLs耐性Mpが全国で大流行することとなった.耐性機構は肺炎球菌と同じく,メチル化酵素(ermB 遺伝子保有)による23SrRNA の特定アデニン塩基のメチル化による耐性化がある.ポンプ機構やプラスミドを介した耐性機構などは見出されていない.

■乳幼児などで抗菌薬経口投与が難しい場合はMpにCLDMが用いられる場合があるが,MLs耐性MpではCLDMにも耐性が生じる.一方でテトラサイクリン系,ニューキノロンには感受性があり,耐性株に推奨される.しかしながら,耐性株は日常診療では実感されにくい.これは,MLs投与後の平均解熱日数が,感受性菌が1.5日であるのに対し,耐性菌は3.7日と2日間程度しか延長せず,難知性症例として感じにくく,MLsに感受性があるかのように感じるからである.Mpは,感染した細胞内に過剰に活性化酸素を産生させて軽く組織を傷害することの他には直接細胞傷害作用はなく,肺炎の病像は決して菌による直接侵襲の結果ではなく,宿主の免疫応答がサイトカインを介して過剰な炎症を惹起した結果である.MLsには気道上皮細胞あるいはマクロファージなどからのサイトカイン産生を抑制する作用があり,耐性菌であっても,これによる治療効果が存在するため解熱する.結果,症状は消失するも平均2日間の発熱期間延長により菌排出期間が遷延して耐性菌の流行が拡大しやすくなる.
※MLs耐性Mpとして当院に紹介されてくるケースの中には,Mp感染症でなかったケースも多く,実際にMLs耐性Mpが報道されていた数だけ大流行していたかどうかは疑問の余地もある.Mp抗体価のとらえ方,診断方法があまり知られていないこと,Mp-IgM迅速キット(イムノカード®)の偽陽性例多発などにより他の菌と誤診されていた可能性もある.何より肺炎に対して,原因菌にスペクトラムはあるが効果の乏しい経口第3世代セフェムを投与して効果がないとしてMpと判断してはならない.

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by DrMagicianEARL | 2012-04-12 09:09 | 抗菌薬