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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:感染症( 14 )

■インフルエンザに対して麻黄湯を使用されている先生はけっこういらっしゃると思います(私も使うことがあります).実際にはインフルエンザに保険適用があるのは麻黄湯と柴胡桂枝湯,竹茹湯胆湯の3つで,病態や進行状況に応じて使い分けがなされます.麻黄湯には,ウイルス感染に対する濃度依存性の抑制効果として桂皮が,サイトカインの産生抑制の効果として桂皮と麻黄が,免疫賦活作用として杏仁と甘草が含まれており,特にインフルエンザ急性期の使用に向いているとされています.具体的には,「熱はあるが比較的元気で汗がまだ出ておらず水分が摂取可能な状態」に適用されます.逆に「気持ち悪く水分摂取ができない状態」では使用すべきではありません.また,解熱薬の併用は逆効果とされています.

■麻黄湯の副作用として特に注意すべきはエフェドリンを含有していることです.このため,心血管系リスクを有する患者や甲状腺機能亢進症患者には使用すべきではありません.また,モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤,甲状腺製剤,キサンチン系製剤などとの併用も避ける必要があります.

■臨床エビデンスとしては,これまで小規模のRCTが2報(Phytomedicine 2007; 14: 96-101,J Infect Chemother 2012; 18: 534-43)本邦からpublishされています.今回紹介するのは,インフルエンザに対する麻黄湯のRCTおよび観察研究のシステマティックレビューです.結果は,エビデンスの質は低いものの,麻黄湯を使用することで発熱期間は有意に短縮する,一方で有症状期間やウイルス排出期間はノイラミニダーゼ阻害薬とは差がない,という結果でした.これに加えてノイラミニダーゼ阻害薬よりも安いことも考慮すると麻黄湯の出番はやはり出てくるとは思います.とはいえやはりRCTがもう少し欲しいところですね.
インフルエンザ症状緩和における日本の漢方薬麻黄湯の使用:システマティックレビューとメタ解析
Yoshino T, Arita R, Horiba Y, et al. The use of maoto(Ma-Huang-Tang), a traditional Japanese Kampo medicine, to alleviate flu symptoms: a systematic review and meta-analysis. BMC Complement Altern Med 2019; 19: 68
PMID: 30885188

Abstract
【背 景】
インフルエンザは世界中で一般的なウイルス感染症である.麻黄湯は古代中国で作られ,インフルエンザの症状を家緩和するために使用されている.現時点で,インフルエンザの症状を緩和するための麻黄湯の有効性と安全性を評価したメタ解析はない.

【方 法】
本研究において,我々は2017年10月以前に出版された研究をMEDLINE/PubMed,Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL),EMBASE,日本のデータベース(医中誌),2つの中国のデータベース(China National Knowledge Infrastructure and VIP),2つの勧告のデータベース(Korean Medical database and Korean Association of Medical Journal Editors)で検索を行った.麻黄湯とノイラミニダーゼ阻害薬(NAIs)の併用 vs NAIs単独,あるいは麻黄湯単独 vs NSIs単独を比較した臨床研究を本解析に登録した.主要評価項目(有効性)は投薬開始からインフルエンザ症状(発熱,頭痛,倦怠感,筋肉痛,悪寒)の改善までの期間とウイルス検出期間とした.副次評価項目(安全性)は(1)悪心,異常行動,症状による治療中断といった,副作用または有害事象,(2)有病率(インフルエンザ感染による合併症)または死亡率,(3)あらゆる理由での入院,とした.

【結 果】
2つのRCT(n=60)を含む12報の関連研究が確認された.発熱期間では,1つのRCT(p<0.05,中央値差 -6時間)と4つの非RCT研究(p=0.003, 加重平均差 -5.34時間)において,麻黄湯とNAIsの併用はNSIs単独よりも優れていた.有症状期間やウイルス排出期間は麻黄湯とNAIsで差はなかった.麻黄湯とNAIsに関連した重篤な副作用や有害事象はみられなかった.

【結 論】
サンプル数が少なく,解析された研究ではバイアスリスクが高いため,最終的な結論に達することはできなかったが,麻黄湯単独,またはNAIsと併用​​すると,発熱期間が短縮する可能性がある.麻黄湯の有効性と安全性を判断するにはより多くのRCTが必要である.

by DrMagicianEARL | 2019-03-25 16:08 | 感染症 | Comments(0)
※このブログでは通常は薬剤名を一般名で記載していますが,今回は分かりやすくするため,一般名より商品名を優先しています.

■昨年まで主要な抗インフルエンザ薬は4剤で,いずれもノイラミニダーゼ阻害薬であったが,今年3月に,新しい機序であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれる新規クラスの抗インフルエンザ薬ゾフルーザ®(バロキサビル)が発売開始となった.ただし,その時はまだ臨床第Ⅲ相試験であるCAPSTONE-1 trialの結果が論文としてpublishされておらず,メーカーからのプレスリリースのみで,詳細データを把握することはできず,そのような中で使用すべきなのかは医師の間で意見が分かれていた.

■2017-2018年シーズンでの抗インフルエンザ薬の売り上げ[1]は,1位がイナビル®(ラニナミビル)の253億円,2位がタミフル®(オセルタミビル)の169億円であった.ではインフルエンザ流行シーズン終盤である3月から発売開始となったゾフルーザ®の売り上げはというと,わずか2週間で24億円もの売り上げがあったことから,相当数の医師がゾフルーザ®を処方したことがうかがえる.2018-2019年シーズンは,既にゾフルーザ®が独走状態とのことである[2]

■一方で,SNSを見ると,12歳未満や高齢者,肺炎合併例に処方しているケースも多く(確かに添付文書上は適用範囲内だが,CAPSTONE-1 trialから除外されている患者層でありエビデンスがほぼない),ひどいものでは予防投与されているケースもあり(適用外),不適切使用が早くも横行している印象であった.また,後述するが,タミフル®より早く症状がよくなる薬であるというデマも多数流れている.塩野義製薬が「速いウイルス減少効果」を前面に押し出して宣伝し,その一方で(主要評価項目であるにもかかわらず)有症状期間や耐性についてはあまり触れていないためそのような勘違いが生じているものと思われる.塩野義製薬は2013/2014年シーズンにも自社製品であるラピアクタ®を推すかのようなインフルエンザ啓蒙CMを流して医療従事者から猛批判を浴びた経緯があり[3],どうもプロモーションに問題があると感じざるを得ない.

■ゾフルーザ®は確かに1日1回製剤であり,インフルエンザウイルス検出をタミフルRより早く抑えられるという2点はメリットとなる.しかし,9月にNEJM誌に(ようやく)publishされたCAPSTONE-1 trial[4]の結果を見るに,そう楽観的に見られるような薬剤ではないことが分かる.以下では,CAPSTONE-1 trialを元にゾフルーザ®について日常臨床で使えるかどうかについて考察した.

※COI開示:本ブログ管理人は過去3年以内に,抗インフルエンザ薬販売メーカーでは塩野義製薬(ゾフルーザ®,ラピアクタ®を販売)とグラクソ・スミスクライン(リレンザ®を販売)から1回ずつ講演料(ただしいずれもインフルエンザとは無関係の講演)を受けている.

1.論文詳細

■CAPSTONE-1 trial[4]は,日本および米国で2016年12月から2017年3月までにインフルエンザ様症状を呈した12-64歳を対象とし,ゾフルーザ®,タミフル®,プラセボに2:2:1で割り付けた二重盲検RCTである.ただし,タミフル®群だけは異常行動との関連の問題が指摘されていた関係で10歳代への処方制限がある時期の研究のため20-64歳が対象となっている(2018年8月21日より10歳代への処方再開が認められた[5]).

■導入基準は腋窩温38.0℃以上の発熱,1つ以上の全身症状,中等度以上の呼吸器症状を有し,発症から48時間以内の患者である(intention-to-treat population; ITT集団).また,迅速診断キットではなくPCR法でインフルエンザと診断された患者をITTI集団(intention-to-treat infected population)としている.

■入院を要する重症例や肺炎等合併例や以下に示すハイリスク集団は除外されている.
ハイリスク集団
妊婦,医療介護施設等利用者,気管支喘息を含む慢性呼吸器疾患患者,神経疾患患者,心臓疾患患者,血液疾患患者,内分泌疾患患者(糖尿病を含む),腎不全患者,肝不全患者,免疫不全患者,肥満指数≧40
■結果であるが,1436例がランダムに割り付けされ(8割弱が日本から登録),ITTI集団は1064例であった.主要評価項目である「症状緩和までの期間」はITTI集団でゾフルーザ®群がプラセボ群より有意に短いという結果であった(中央値53.7時間 vs 80.2時間).よって,ざっくり言えば有症状期間を約1日短縮するということになる.しかし,ゾフルーザ®群とタミフル®群との比較については有意差がなく(中央値絶対差は0.3時間),supplementary appendixにあるKaplan-Meier曲線を見ても治療開始から60時間まではほぼ重なっていた.60時間以降はタミフル®群の方が症状改善を得た患者の割合が一貫して数%ほど少ないようにも見える.
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■ウイルス検出期間中央値はゾフルーザ®群が24時間であり,タミフル®群(72時間),プラセボ群(96時間)よりも有意に短縮していた.有害事象はゾフルーザ®群4.4%,タミフル®群8.4%,プラセボ群3.9%であった.

■なお,ゾフルーザ®投与患者のインフルエンザウイルスにおいて,低感受性に関与するとされるPA(ポリメラーゼ酸性蛋白領域)の遺伝子変異(I38T/M/F)が9.7%に生じており,それらはすべてA/H3N2株であった.ゾフルーザ®群のPA遺伝子変異がない患者,変異があった患者,プラセボ群の患者でのウイルス検出率は,5日目でそれぞれ7%,91%,31%,9日目でそれぞれ2%,17%,6%であり,ゾフルーザ®低感受性に関連する遺伝子変異があるとプラセボよりもウイルス検出期間が長引くという結果で,有症状期間も遺伝子変異があると63.1時間に長引いていた.

■低感受性株に関するグラフの提示は本論文にはないが,ゾフルーザ®添付文書[6]には掲示されている.これを見ると,ゾフルーザ群のウイルス力価は遺伝子変異の有無にかかわらず1日で大きく減少しているが,その後遺伝子変異ありの群ではむしろウイルスが増殖に転じ,3日目以降はプラセボ群をも上回っている.米国CDCのUyekiも本論文のperspectiveでこのエスケープ変異の出現に懸念を示している[7]
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2.ゾフルーザ®による懸念

 以上,CAPSTONE-1試験の結果をまとめると、ゾフルーザ®は12-64歳の健常者のインフルエンザにおいて以下の3つの特徴が挙げられる.
(1)ゾフルーザ®は有症状期間を1日ほど短縮させる効果があるが,タミフル®とは差がほぼないに等しい.
(2)ゾフルーザ®はウイルス検出期間をタミフル®やプラセボよりも2~3日短縮する.
(3)ゾフルーザ®投与成人患者の約1割(小児では2割以上)でウイルスに遺伝子変異が生じ,ウイルス検出期間がむしろ延長し,有症状期間も長引く
■患者さん本人にとっては「症状をなんとかしてほしい」ことが第一で、そういう意味ではゾフルーザ®はタミフル®より症状改善効果が大きく上回っているわけではなく,しかも1割の患者ではタミフル®投与の場合に比べ症状が長引く可能性がある,ということになる.

■CAPSTONE-1での第Ⅲ相試験での変異株(9.7%に検出)はすべてA/H3N2株であったのに対し,第II相試験では変異株は2.2%で,すべてA/H1N1pdm2009株であったことから、どのウイルス株に感染したか,流行シーズン内でどのウイルス株が特に多いかの影響を強く受けるものと思われる.ちなみに小児でのシングルアームの国内第Ⅲ相試験では変異株は23.3%に検出している.

■ゾフルーザ®が2018-2019年シーズンに多数処方された場合,低感受性株でウイルス検出期間が長引くとそのぶん周囲への感染リスクがむしろ増加してしまい,ゾフルーザ®低感受性株だけが拡散されていく可能性を想定しなければならず,ゾフルーザ®処方が逆効果になりかねない.これが現実化してしまうと,ゾフルーザ®は早々と使えない薬になってしまうだろう.といっても,臨床現場では低感受性株かどうかをすぐに確認する術がなく,非常に憂慮すべき問題である.

■日本感染症学会では,ゾフルーザ®について,低感受性株の頻度が高いことから公衆衛生上の懸念が大きいとして,現時点では本薬剤についての治療での位置づけを見送っている[8].日本小児科学会の「2018/2019シーズンのインフルエンザ治療指針」[9]でも,小児におけるゾフルーザ®はシングルアームの小規模研究しかないことから「同薬の使用については当委員会では十分なデータを持たず,現時点では検討中である」として推奨は出していない.

3.外来でのインフルエンザ治療

■既にマスコミ報道は加熱しすぎな印象がある.様々なメディアが新薬ゾフルーザ®を過剰な表現で絶賛している記事ばかりであり,その共通点として,ウイルス消失速度が速いには必ず触れるが,症状改善速度がタミフル®と変わらないことについては一切触れていないのである.低感受性株出現に触れている記事も非常に少ない.このようなメディアによる過剰宣伝はイレッサ®発売間もない頃の記事や近年のオプジーボ®報道記事に似るところがある.それに歯止めをかけなければならないのは他ならぬ医師ではあるが,SNSや医師によるネット記事を見るに,どうもあまり期待はできなさそうである.

■さて,外来で季節性インフルエンザ患者を診察した上で,重症でなければどうするか?ゾフルーザ®発売に際して多数の記事がでているが,気になるのは,タミフル®と比較してばかりで,「抗インフルエンザ薬を処方することが大前提」となってしまっている記事が多いことである.まずは抗インフルエンザ薬がその患者さんに必要かをアセスメントする必要がある.

(1) そもそも抗インフルエンザ薬が必要か否か

■季節性インフルエンザは基本的には自然軽快する疾患であり,発症から48時間以降では抗インフルエンザ薬投与に意味はなく,また,48時間以内であってもハイリスク患者でない限りは有症状期間をせいぜい半日-1日程度短縮する効果しかなく[10],これはゾフルーザ®でも同様の結果であることから,副作用リスクや耐性化リスクもあるので,このあたりのメリット・デメリットを患者ごとに説明した上で「処方しない」という選択肢も当然ながらある.少なくとも海外では対症療法のみが一般的であり,WHOや米国CDCも健常者では抗インフルエンザ薬を投与するなとは言っていないが,治療する必要はないとしている.日本小児科学会のインフルエンザ治療指針も基本的にはWHOの方針に順じて「抗インフルエンザ薬は必須でない」としている.一方の感染症学会の指針ではどういうわけかそのような記載は見られない.

■もちろん,ハイリスク患者でないという理由で一律に処方しない,とはならない.ハイリスク患者でなくとも重症化徴候がみられる場合は処方した方がbetterなケースもあるだろう.また,有症状期間短縮効果が「たった半日~1日」なのか,「半日~1日も」なのかは個々の患者でとらえ方が異なる(例えば入試を直前に控えた受験生にとってはその短縮期間は大きな意味をもちうる).益と害のバランスをアセスメントしつつ,個々の患者の事情も踏まえた細かい判断をするのが医師の役割であろう.

(2) 対象患者

■処方する場合,抗インフルエンザ薬は5種類あるが,そのうちラピアクタ®(ペラミビル)だけは点滴製剤であるため,患者を長く院内に留め置くことになり,基本的には外来での使用は感染対策上おすすめできない(使うとすれば肺炎等の合併症に進展した重症例か,内服も吸入も困難な患者くらいであろう).

■ゾフルーザ®のCAPSTONE-1 trialの対象は12-64歳のリスク因子のない患者,かつ非合併症例・非重症例であり,それ以外の患者集団では現時点でRCTがないことから,現時点では処方対象はこのRCTの対象患者に限定すべきである.高齢者やハイリスク群での検討はCAPSTONE-2 trialで検討されており,既に有効とのプレスリリースはされてはいるが[11],論文はまだpublishされていないため詳細不明であり,現状はゾフルーザ®を使用するにしてもCAPSTONE-1の対象患者に限定すべきである.また,12歳未満の小児においてもシングルアーム試験しかない状況である.

■よって,ハイリスク患者であればリレンザ®,タミフル®,(感染対策がとれるなら)ラピアクタ®がbetterと思われる.

(3) 効果

■各種抗インフルエンザ薬間で有症状期間短縮効果はほぼ差はみられない.ただし,2017/2018年シーズンまで最も人気のあったイナビル®については本当に効果があるのか疑問である.イナビル®とプラセボを比較したRCTは海外第Ⅱ相試験である639例二重盲検RCTのIGLOO trialしかなく,本研究では,有症状期間がプラセボと比べて統計学的有意差は得られておらず,その期間中央値を見ても全くと言っていいほど差はない(プラセボ群104時間に対してイナビル®群は102時間).このため,イナビル®は欧州には進出できていない.本研究はpublishもなされることもなく,試験を行ったBiota社のサイトからも結果は既に削除されてしまっている.

■一方,日本,台湾,韓国,香港で行われた国際共同RCTであるMARVEL study[12]ではイナビル®とタミフル®で有症状期間は73.0時間 vs 73.6時間で確かに非劣性であり,これをもとに承認されてはいる.しかし,このRCTでのインフルエンザ患者の約2/3はソ連型A/H1N1株(2009年以降は消滅状態)であり,これらはタミフル®に対してほぼ100%耐性である.すなわち,タミフル®がほとんど効かない時期での比較で差が全くでていないわけであり,これはプラセボと差がなかった欧米でのIGLOO trialの結果と矛盾しない.以上からイナビル®の有効性には疑問を持たざるを得ず,筆者は使用しない方針としている.

■ゾフルーザ®のウイルス検出期間短縮効果は感染拡大を防ぐ上でのメリットとなりうる.このため,院内/施設内感染事例においてはいい使いどころとなるかもしれない.しかし,入院患者や施設患者の多くは高齢者やハイリスク群に該当する患者であり,現時点のエビデンスでは適用がない.また,そのウイルス株が低感受性の変異株によるアウトブレイクであった場合,ゾフルーザ®投与は逆効果となりうる.以上を熟慮した上で使用するか否かを決定すべきであろう.

(4) 副作用

■副作用としては,ゾフルーザ®もタミフル®も下痢などの消化器症状が特徴だが,ゾフルーザ®の方が副作用リスクが少ないことが分かっており,その点はゾフルーザ®に利点がある.ただし,新薬は市販後に新たな副作用が判明することもしばしばあり,単回投与だけでいい半減期の長い薬剤なだけに副作用も長引く可能性がある.

■イナビル®とリレンザ®は乳糖を使用しており,乳糖中の乳タンパクが問題となることから,牛乳アレルギー患者では禁忌であることをふまえておく必要がある.

■タミフル®とラピアクタ®は腎障害を有する患者では投与量減量が必要となる.ゾフルーザ®は主に胆汁排泄の薬剤であり,腎障害患者でも用量調節不要とはなっているが,前述の通り,腎障害患者を含むハイリスク患者での有効性・安全性を検討したRCTであるCAPSTONE-2 trialはまだpublishされておらず,本剤の使用は待つべきである.

■タミフル®で一時問題に挙がった(特に10歳代の)異常行動については,厚労省の調査では因果関係は明確ではないとの判断となり,2018年8月21日より処方制限が解除されている[5].過去の厚労省研究班の調査結果では,異常行動発生率はタミフル服用群で10%,非服用群で22%であった.もっとも臨床医ならばよく経験されるが,抗インフルエンザ薬内服有無にかかわらずインフルエンザでは異常行動が生じうる.このため,インフルエンザと診断したら「発熱から少なくとも2日間は家の外に飛び出さないよう玄関や窓を施錠し,目を離さない」ようにすることを家族に伝えておく必要がある.

(5) 用法・デバイス

■イナビル®とゾフルーザ®は1日使用するだけでOKなため,患者としても扱いやすく,アドヒアランス上はメリットとなる.ただし,イナビル®のデバイスは操作が煩雑である.

■製剤形状の違いとして,イナビル®とリレンザ®は吸入薬であり,これらの吸入デバイスは患者の吸入力を考慮した設計となっていないため,COPD/喘息治療薬の吸入デバイスに比して数倍の吸入力を必要とする.よって吸入力の衰えた高齢者や4歳以下では使用困難である.

(6) 値段

■値段に関しては,抗インフルエンザ薬は不要と判断して処方しなければもちろん0円であるが,最も安いタミフル®は2720円に対し,バロキサビルは4789円である.加えて,2018年9月から後発品であるオセルタミビルカプセル®「サワイ」も販売開始となり,先発品の半額の1360円に設定されているため,3割負担でもゾフルーザ®と1000円ほどの差が出てくる.

(7) 麻黄湯

■漢方薬の麻黄湯がインフルエンザに有効とされてはいる.非常に少ないサンプル数ではあるが,本邦からRCTが2報でており[12,13],いずれもタミフル®より有症状期間を有意に短縮したという結果となっている.

■以上をふまえた上で,ゾフルーザ®を使用するか否かを検討すべきであり,一律にゾフルーザ®ばかり処方する,ということにはならないはずであるし,むしろ処方機会は限定的になるであろう(バンバン処方されてしまってはいるが).

[1] AnswersNews. インフルエンザ 変わる治療薬の市場―ゾフルーザがシェア拡大 タミフルには後発品登場. 2018年9月18日. https://answers.ten-navi.com/pharmanews/14802/
[2] SankeiBiz. インフル薬「ゾフルーザ」シェア1位に 負担軽く人気. 2018年11月6日. http://www.sankeibiz.jp/business/news/181106/bsc1811061619010-n1.htm
[3] EARLの医学ノート. 塩野義製薬のインフルエンザの啓蒙CM・サイトについて. 2014年1月12日 https://drmagician.exblog.jp/21562162/
[4] Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, et al. Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med 2018; 379: 913-23
[5] 日本経済新聞. タミフル10代投与再開 厚労省、異常行動に注意喚起. 2018年8月21日. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34408200R20C18A8CR8000/
[6] 塩野義製薬株式会社. ゾフルーザ添付文書第3版. http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/340018_6250047F1022_1_04.pdf
[7] Uyeki TM. A Step Forward in the Treatment of Influenza. N Engl J Med 2018; 379: 975-7
[8] 日本感染症学会インフルエンザ委員会. キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ®)について. 2018年10月1日. http://www.kansensho.or.jp/guidelines/pdf/1810_endonuclease.pdf
[9] 日本小児科学会 新興・再興感染症対策小委員会/予防接種・感染症対策委員会. 2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018_2019_influenza_all.pdf
[10] Jefferson T, Jones MA, Doshi P, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev 2014; 4: CD008965
[11] 塩野義製薬株式会社. 抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシルの良好な第 III 相臨床試験(CAPSTONE-2)結果について(速報). 2018年7月17日 http://www.shionogi.co.jp/company/news/qdv9fu000001dgz1-att/180717.pdf
[12] Nabeshima S, Kashiwagi K, Ajisaka K, et al. A randomized, controlled trial comparing traditional herbal medicine and neuraminidase inhibitors in the treatment of seasonal influenza. J Infect Chemother 2012; 18: 534-43
[13] Kubo T, Nishimura H. Antipyretic effect of Mao-to, a Japanese herbal medicine, for treatment of type A influenza infection in children. Phytomedicine 2007; 14: 96
by DrMagicianEARL | 2018-11-08 17:39 | 感染症 | Comments(0)
■一般市民の間でHIV検査がなかなか進まない理由のひとつに「HIVに感染すると助からないから検査するのが恐い」というのがあります.検査を受けたくないという若い人に聞くと帰ってくる答えはだいたいこれです.世代によってはドラマ「神様もう少しだけ」を鮮明に覚えておられる方もいて,今はHIVに感染しても死なない時代に変わったということを教えると非常に驚かれます.それくらい,HIV/AIDSの治療が進歩したことはまだあまり知られておらず,悲しいことに医療従事者の間でも認識されていない,HIV/AIDSの疾患の知識が不十分と感じることがよくあります.

■HIV治療薬の進歩は目覚ましく,毎年新薬が出続け,ガイドラインも毎年のように更新されます.片手いっぱいの錠剤を飲まなければいけなかった時代はもう過去の話,今は内服薬は非常に少なくてすみ,副作用も少なくなっていて,一般人と変わらない生活を送ることができます.日本では1日あたり4人ずつHIV/AIDS患者が増加しており,いつどこで自分が感染するか分かりません.推計では依然8人に1人のHIV感染者が自身の感染の事実を知らずに生活しているとされています.HIV検査は保健所で無料で受けることができますので,一度でも性交渉があるなら検査をぜひ受けてください.たとえ感染が分かっても今は様々なサポート体制が整っています.

■今回,HIV感染者で治療を受けた患者の大規模コホートデータの解析結果がLancet HIV誌に報告されました.結果は,HIV患者の平均余命は今や一般人と変わらない,という結果でした.また,まだウイルス量が少ない状態で治療を開始した20歳のHIV感染者の平均余命は78歳と報告されており,できるだけ早いうちに検査を受けて治療を開始した方がいいのです.

■同時に,HIV感染患者は治療の進歩により高齢化が進んでいます.現時点でそのHIV患者の高齢化を受け入れる社会体制はまだ整っているとは言えず,これは医療機関でも同様で,今後の課題になっていくでしょう.
1996年から2013年に抗レトロウイルス治療を開始したHIV陽性患者の生存:コホート研究の共同解析
The Antiretroviral Therapy Cohort Collaboration. Survival of HIV-positive patients starting antiretroviral therapy between 1996 and 2013: a collaborative analysis of cohort studies. Lancet HIV 2017, May.10 [Epub ahead of print]

【背 景】
過去20年間でHIV感染患者の医療福祉は大幅に改善している.これらの改善が予後および平均余命にどのように影響したのかについての推定は,患者,臨床医およびヘルスケアプランナーにとって最も重要である.我々は1996年から2013年に抗レトロウイルス治療(ART)を開始した患者の3年生存と平均余命の変化について検討した.

【方 法】
我々は欧州および北米の18のHIV-1コホートからデータ解析を行った.患者(16歳以上)は1996年から2010年に3種類以上の薬剤によるARTを開始され,少なくとも3年間観察されている場合に解析に組み込んだ.ART開始後の最初の年およびART開始後の2年目および3年目の4期間(1996-99年,2000-03年,2004-07年,2008-年)における,ART開始時の年齢,性別,AIDS,リスク群,CD4細胞数,HIV-1 RNAで調整された全死亡と原因別死亡ハザード率(HRs)を推定した.ART導入の期間から平均余命を推定した.

【結 果】
88504例の患者が我々の解析に登録され,そのうち2106例がART導入の最初の1年で死亡し,ART導入の2年目または3年目で2302例が死亡した.2008-10年にARTを開始した患者は,2000-03年にARTを開始した患者よりも,ART導入後の最初の1年間の全死亡率が低かった(調整HR 0.71, 95%CI 0.61-0.83).ART導入後2年目および3年目の全死亡率もまた,2008-10年にARTを開始した患者の方が,2000-03年に開始した患者よりも低く(調整HR 0.57, 95%CI 0.49-0.67),この減少は1年時点でのウイルス量やCD4細胞数では十分に説明しえなかった.2000-03年のART導入と比較して2008-10年の方が,1年目(調整HR 0.48, 95%CI 0.34-0.67),2年目と3年目(調整HR 0.29, 95%CI 0.21-0.40)のAIDSでない死亡率は低かった.1996年から2010年までの間,ARTを開始した20歳の患者の平均余命は女性で9年,男性で10年延びていた.

【結 論】
後期ART時代であっても,ARTの最初の3年間の生存率は改善し続けており,おそらくは毒性の低い抗レトロウイルス薬への移行,服薬遵守の改善,予防措置,および併存疾患の管理を反映している.これらの改善を考慮に入れて,予後モデルおよび平均余命予測を更新する必要がある.

by DrMagicianEARL | 2017-05-12 18:04 | 感染症 | Comments(0)
■上気道炎での咽頭痛を訴える患者は非常に多く,このような患者に対しては私はアズノールうがい液を処方することが一番多いです.他にはトローチや小柴胡湯加桔梗石膏を処方することもあります.この咽頭痛があるせいで抗菌薬の不適切使用につながっているという見方もあるようです.

■研修医の頃,咽頭痛にNSAIDsやトランサミンを処方している上級医も見たことがありますが,エビデンス的には・・・.一方,耳鼻科の先生から咽頭痛に対してステロイド(デキサメサゾン)が経験的によく効くということを教えられたことがあります.でもエビデンスや副作用のことを考えると処方する気にはなれず処方したことはありません.今回紹介する論文は成人の急性咽頭痛にデキサメサゾンが有効かを検討したRCTです.結果は,主要評価項目の24時間時点では咽頭痛を改善させる傾向はあるけど有意差なし,副次評価項目の48時間後なら有意に改善というなんとも評価しにくい結果です.どうやら効くかもしれないなという印象はありますが,投与を推奨するほどのインパクトがあるかというと疑問です.少なくともこの研究を見てデキサメサゾンを処方しようとは私はならないですね.
成人の急性咽頭痛における初期抗菌薬なしでのプラセボと比較したデキサメサゾン経口の効果
Hayward GN, Hay AD, Moore MV, et al. Effect of Oral Dexamethasone Without Immediate Antibiotics vs Placebo on Acute Sore Throat in Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017 Apr 18;317(15):1535-1543
PMID: 28418482

Abstract
【背 景】
急性咽頭痛はプライマリケアにおいては明らかな負担であり,不適切な抗菌薬処方の原因となる.コルチコステロイドは代替対症療法となりうる.

【目 的】
抗菌薬が処方されていない急性咽頭痛における経口コルチコステロイドの臨床的有効性を評価する.

【方 法】
南および西イングランドの42の診療所において,直ちに抗菌薬治療を必要としない急性咽頭痛を診療所で訴えたその日に登録された成人576例の二重盲検プラセボ対照無作為化試験(2013年4月から2015年2月まで;28日間追跡完了は2015年4月)を行った.投与は,デキサメサゾン10mg経口単回(293例)または同一のプラセボ(283例)とした.主要評価項目は,24時間後での症状が完全消失した患者の割合とした.副次評価項目は48時間後に症状が完全消失した患者の割合,中等度の症状持続期間(Linkertスケールに基づく),視覚的疼痛尺度(0-100mm; 0が無症状で100が最も悪い),仕事や学校を休んだ日数,後で処方された抗菌薬使用量または他の薬剤,有害事象とした.

【結 果】
565例の患者(年齢中央値34歳[四分位範囲 26.0-45.5歳]; 女性75.2%; 介入率100%)はデキサメサゾンを投与された288例とプラセボ277例に無作為に割り付けられた.24時間後,デキサメサゾン群で65例(22.6%),プラセボ群で49例(17.7%)が症状完全消失となり,リスク差は4.7%(95%CI -1.8% to 11.2%),相対リスクは1.28(95%CI 0.92 to 1.78; p=0.14).24時間後で,デキサメサゾン投与を受けた患者はプラセボを投与された患者と比較して症状完全消失が多くはならなかった.48時間後では,デキサメサゾン群で102例(35.4%),プラセボ群で75例(27.1%)が症状完全消失し,リスク差は8.7%(95%CI 1.2% to 16.2%),相対リスクは1.31(95%CI1.02 to 1.68; p=0.03)であった.この差は後での抗菌薬投与を受けていない患者においても見られており,リスク差は10.3%(95%CI 0.6% to 20.1%),相対リスクは1.37(95%CI 1.01 to 1.87; p=0.046).他の副次評価項目では有意差はみられなかった.

【結 論】
急性咽頭痛をプライマリケアで呈する成人において,デキサメサゾン経口単回投与はプラセボに比して24時間後の症状消失率を増加させなかった.しかしながら,48時間後では有意な増加がみられた.

by DrMagicianEARL | 2017-05-08 19:56 | 感染症 | Comments(0)
Summary
・固形癌患者の感染症を最も規定する因子は好中球減少や細胞性免疫不全よりも癌そのものによる解剖学的異常であり,CTで構造的評価が必要となることがある.
・終末期癌患者は多様な感染症リスクを有し,広範囲の感染症に罹患しえ,死亡の主たる要因であるが,感染症とその他の炎症病態を鑑別することはしばしば困難となる.
・肺炎,尿路感染症が多く,いずれも3-5割を占める.原因菌では腸内細菌(特に大腸菌)と黄色ブドウ球菌が多い.
・抗菌薬治療により生存率向上,症状改善,快適さの向上が得られるとの報告があるが,一方でその改善率は非常に少ないとも報告されている.
・尿路感染症では抗菌薬は非常に有効であるが,その他の感染症においては抗菌薬奏功度は半分以下である.
・発熱のみをもって抗菌薬を投与することは治療失敗リスクを上昇させる可能性がある.
・複数の抗菌薬による広域カバーは副作用リスクや死亡リスクを増大させる可能性がある.
・患者側には抗菌薬に対する過剰な期待があり,抗菌薬投与の意思決定プロセスは医師単独で行われる傾向があり,是正が必要である.
・抗菌薬投与については,患者・家族,主治医や病棟スタッフ,PCT,ICTをまじえた検討が望ましく,そのゴールは治癒よりも症状緩和とすべきであり,症状改善がない状態での抗菌薬の漫然とした投与は避けるべきである.
■終末期の癌患者において感染症は頻繁にみられるが,同時に感染症以外での発熱や炎症もよく見られるものであり,感染症の診断自体が困難となることがある.このような患者において抗菌薬を投与するべきであろうか?抗菌薬を投与せず亡くなられる患者もいれば,カルバペネム系抗菌薬を亡くなるその瞬間まで投与されているケースもある.以下では,終末期の癌患者における抗菌薬投与の是非についてレビューを行った.

1.終末期の癌患者における感染症

■一口に癌患者といっても感染症リスクは非常に多様である.血液悪性腫瘍と固形腫瘍では感染症リスクは大きく異なるし,固形腫瘍でも免疫不全の程度はばらつきが非常に大きい.このため,癌患者全体でとらえるのではなく,個々の患者においてどの程度の感染症リスクがあるのかについて,知識とアセスメントが必要であり,「癌患者だから免疫不全」という単純な考え方は避けるべきである.

■固形腫瘍患者の感染症を最も規定する因子は好中球減少や細胞性免疫不全よりも解剖学的異常である.固形癌に伴う臓器障害や生体バリアの機能不全といった物理的要因も免疫不全を形成しうる[1].感染症を疑う場合,通常の市中感染症,医療関連感染症,日和見感染症のどれで考えるか,免疫不全がどの程度かを検討しなければならない.それを踏まえた上での抗菌薬投与は一般的な感染症診療の原則に基づいて行うが,前述の通り,(感染症治療を行うのであれば)腫瘍に伴う解剖学的異常を検索する意味も含めてCT検査は積極的に行うべきかもしれない.

■加えて,終末期の癌患者は低栄養状態,骨髄抑制,ステロイド治療,オピオイド投与,医療デバイスなど,感染リスク要因が多数存在し,広い範囲の感染症を合併しうる[2]

■また,終末期の癌患者では感染症以外の要因で発熱や炎症反応を呈することも多い.その原因は,腫瘍熱,薬剤熱,脱水,血栓塞栓症などさまざまであり,これらを明確に鑑別することはしばしば困難である.近年,プロカルシトニンが細菌感染症とそれ以外の鑑別に有用であるとされているが,その数値の解釈は簡単ではなく,偽陽性や偽陰性の問題もあるため,敗血症に至っていない終末期の癌患者において有用とは考えにくく,エビデンスもほとんどない状況である.

■このような状況下で,感染症を疑った場合,抗菌薬を投与するのは簡単であるが,抗菌薬を投与しないのは医療従事者としては選択しづらいオプションであろう.とりわけ国民皆保険制度がある本邦の医療においてはたとえ効果のエビデンスが乏しい治療を選ぶかにおいては「見送り三振」よりも「空振り三振」を好む傾向がある.

■終末期癌患者の死亡においては感染症が最多の原因とされる.その感染部位の検討[3-5]では,尿路感染症と呼吸器感染症が多く,いずれも3-5割程度を占め,皮膚軟部組織感染症や血流感染症がそれぞれ1割前後である.原因菌としては,腸内細菌,特に大腸菌が多く,ついで黄色ブドウ球菌がつづく[3,4]

■終末期癌患者が感染症を発症した場合,抗菌薬投与を受ける患者はそのうちの4-84%[6]と幅があるが,多くの報告は60%以上の数字がでており,高頻度に抗菌薬投与を受けている.また,亡くなる当日まで抗菌薬投与を受けている患者も多い[7,8].同時に,経験的治療になりやすいことから,適切か否かはともかく広域カバーの抗菌薬が選択されやすい傾向があり,Chunら[9]の検討ではTAZ/PIPCが37%,次いでVCMが33%であった.また,抗菌薬多重カバー(抗真菌薬,抗ウイルス薬)も少なからず行われている[10,11]

■前提として,終末期癌患者の感染症における抗菌薬投与は,必ずしも治療を目的とするとは限らない.もちろん単一菌種の単純性尿路感染症であれば短期間の抗菌薬投与で容易に治療できるが,実臨床では感染症治療は難渋することもしばしばある.低アルブミン血症による抗菌薬効果の減弱,腫瘍閉塞に伴う感染部位への抗菌薬移行性の低下などの効果阻害要因に加え,免疫能低下,重複感染,複数の菌種による感染,耐性菌などの存在がその治療を困難とさせる.

■また,抗菌薬投与の判断を難しくさせる要因として,余命推定が難しいことも挙げられる.本邦の研究[12]では,癌診療医による癌患者の余命推定はせいぜい3割程度しか当たらないことが報告されている.また,システマティックレビュー[13]によれば,医師は癌患者の余命を長めに推定してしまう傾向があるとされる.終末期で余命数日内という正確な判断ができるのであれば抗菌薬使用頻度は大きく変わるかもしれないが,現実的にはかなり難しく,「まだ最期の状況ではない」との判断で抗菌薬がなされることも多いと思われる.

2.終末期の癌患者の感染症に抗菌薬は使用すべきか?

■終末期癌患者における抗菌薬治療の是非を評価することは非常に難しく,RCTもガイドライン推奨もない状況にある.多くの研究は後ろ向き研究であり,前述の余命推定がしばしば困難であることに加え,その抗菌薬使用の適切性の判断も困難である上に,研究デザインによっては全例死亡することを前提とした研究(死亡から遡って1週間までのデータ集積を報告したもの)も複数あり,抗菌薬使用の妥当性評価をさらに難しくさせている.以下では過去の文献からPros & Consのそれぞれのデータを抽出して提示する.

Pros:「終末期癌患者には抗菌薬を投与すべき」

■Chenら[14]は,ホスピスおよび緩和ケアユニットに入院した535例の後ろ向き解析を行い,抗菌薬が投与されなかった患者では投与された患者に比して生存期間が有意に短かく(8.7±9.9日 vs 14.6±13.1日; p=0.03),3日死亡率も有意に高かった(50% vs 15.2%; p=0.015).また,抗菌薬を投与した方が,PS,口頭での意思疎通,意識レベルが改善していることから,患者の快適性を改善させたとしている.

■Mirhosseiniら[15]は,緩和ケアユニットに入室した26例の患者において抗菌薬投与前と投与後のEdmonton Symptom Assessment Scale (ESAS)スコアを評価したところ,不安以外のすべての項目において小さな改善を認めたと報告している.また,感染症に関連した症状の患者のアセスメントでも,すべての症状が小さく改善していた.医師によるアセスメントでは,咳嗽のみ有意ではあったが,すべての症状でごくわずかながら改善を認めた.抗菌薬治療後の患者の予後に関して,多くの医師のアセスメントでは症状が改善したとしている.

■Chihら[16]は,緩和ケアユニットに入院した終末期癌患者799例の後ろ向き解析を行い,Cox比例ハザード回帰解析では,抗菌薬投与は投与後1週生存率を有意に改善させた(HR 0.66; 95%CI 0.46-0.95)と報告している.

■Lamら[5]は,緩和ケアを受けた進行癌患者87例(感染エピソード計120事例)についてロジスティック回帰では,呼吸困難が感染症治療期間中の予後不良に関連しており,感受性に基づいた抗菌薬投与(vs経験的投与)と抗菌薬静脈内投与(vs経口投与)が予後良好に関連していたと報告している.

■また,終末期癌患者において尿路感染症は比較的治療しやすく,67-92%で抗菌薬治療で改善が得られる[6]ことから,とりわけ尿路感染症では抗菌薬治療を行うべきかもしれない.

Cons:「終末期癌患者には抗菌薬は投与すべきではない」

■Mohammedら[17]は,人生最後の入院となった癌患者258例において,発熱が生じ抗菌薬投与がなされた患者のうち,症状改善が得られたのはわずか17.3%であったのに対し,症状不変が29.2%,症状悪化が53.5%であったと報告している.これらは発熱のみで投与しており,感染症ではない病態に抗菌薬投与を行っていた可能性もあるが,逆に言えば発熱だけで抗菌薬を投与することは控えるべきかもしれない.

■Ohら[8]は,症状コントロール目的のみで入院した終末期癌患者141例を解析している.平均生存日数は31.2日間であり,医師が臨床的に感染症であると診断した患者の84.4%が抗菌薬治療を受け,抗菌薬使用後に48%が発熱を制御できたが,症状改善が得られたのはわずか15.1%であり,55.4%は改善がみられなかったが,63.8%は死亡するその日まで抗菌薬投与がなされていた.

■また,Prosにもある通り,尿路感染症の場合は抗菌薬の反応性は良好であるものの,他の部位の感染の患者では半分以下の改善率しかないと報告されている[18]

■また,抗菌薬を投与することは同時に副作用等の侵襲を与えうること,延命治療でしかない可能性もあることも理解しておかなければならない.癌患者においては多数の薬剤を使用する,いわゆるポリファーマシーも指摘されており[19],そこに抗菌薬が加わることによる相互作用も考慮が必要である.多剤併用によるカバーを行えば少なくとも感染症が悪くなることはないだろう,という安直な考えは危険である.耐性菌をカバーすべく複数の抗菌薬を併用して超広域カバーを行うと,あとでde-escalationを行ったにもかかわらず死亡率が増加することも示されている[20,21](うち1報はRCT)ことから,思っている以上に併用による副作用は大きいのかもしれない.

3.終末期癌患者に抗菌薬投与を行うかどうかをどのように決定すべきか?

■上記Pros & Consを見ても分かる通り,終末期癌患者の抗菌薬投与の是非については答えがでない状況にあり,その使用を決定する過程は非常に複雑である.これまでの研究で結果に大きくばらつきが出るのは,「終末期」の明確な定義が定まっていないことも関係している.

■Yaoら[22]は,末期癌で緩和ケアユニットに入院した201例の患者にアンケートを行った.最も多かった誤解は,「感染症の全末期癌患者において抗菌薬使用は有用」であり,これの反対意見を述べていた13.4%のみであった.また,45.8%は死が差し迫った末期状態においてさえも抗菌薬使用を希望し,26.4%は抗菌薬を希望せず,27.8%は不明確であった.最終的にこの抗菌薬を投与するかについて最も影響を与えるのは医療スタッフであった.このように,患者側に抗菌薬に対する過剰な期待がある場合もあり,同時に医療スタッフからの言動の影響も受けやすい.

■Stielら[23]の報告では,緩和ケアを受けている終末期患者で抗菌薬治療中断理由を調査したところ,全身状態の悪化が41.4%,治療の反応性なしが25.7%,患者の明確な希望が14.3%であった.さらに,この抗菌薬治療の開始はしばしば医師単独で決定されていた.

■このように,終末期癌患者においては抗菌薬使用の適切性のみならず,患者側と医療側の抗菌薬に対する感覚の乖離,意思決定プロセスの問題点がある.また,治療(Infection Control)も大事であるが,症状緩和(Symptom Control)できるかどうかが,抗菌薬を投与するか否かの指標とするべきであるとの意見もある[18,24].このあたりは,主治医,ICT(感染制御チーム),PCT(緩和ケアチーム)で連携して評価する必要もある.いずれにせよ,症状改善が得られないのであれば,その抗菌薬を漫然と投与しつづけることは避けるべきであろう.

■緩和ケアを受ける癌終末期患者へのアプローチは,患者の希望,症状緩和,QOLの観点に基づき個別に対応し,患者・家族と医療提供者側が人工呼吸器・透析・輸血などの使用に際して行うか行わないかを話し合うのと同様に,抗菌薬についても検討すべきである.緩和ケアにおける抗菌薬治療のゴールは症状緩和であり,急性期病態における死亡率の低下を目標とした治療とはアウトカムが異なりうる.尿路感染症に対しては有効性は高そうであるものの,それ以外については全体的な生存期間延長を示す強い根拠が乏しく,医療スタッフ側は抗菌薬使用の限界を知る必要がある.

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by DrMagicianEARL | 2015-09-29 23:05 | 感染症 | Comments(0)
■Clostridium difficle感染(CDI)といえば,最近海外では最強のprobioticsとも言われる細菌叢移植である糞便投与が話題ですが,今度は無毒化したClostridium difficileを投与して再感染を防ぐという研究で,これもある意味probioticsということにはなりますが・・・この領域はとにかく驚かされる発想ばかりです(回盲部にドレーンつっこんで大量の水で洗い流すなんて治療もあります).よくこんなことやろうと考えましたね・・・
Clostridium difficle感染再発予防のための無毒化Clostridium difficile株M3の芽胞投与:無作為化比較試験
Gerding DN, Meyer T, Lee C, et al. Administration of spores of nontoxigenic Clostridium difficile strain M3 for prevention of recurrent C. difficile infection: a randomized clinical trial. JAMA. 2015 May 5;313(17):1719-27
PMID:25942722

Abstract
【背 景】
Clostridium difficileは米国の病院における医療ケア関連感染の最も多い原因である.患者の25-30%が再発する.

【目 的】
安全性,腸管内定着,再発率,C. difficle感染(CDI)再発予防のための無毒化C. difficile株M3(VP20621; NTCD-M3)最適な用量設計を検討する.

【方 法】
本研究は,米国,カナダ,欧州の44施設において,2011年6月から2013年6月まで,CDI(初回感染または初回再発)と診断を受け,かつメトロニダゾールか経口バンコマイシンまたはその両方の投与による治療が成功した18歳以上の患者173例で行われたPhaseⅡ,二重盲検プラセボ対照用量調節研究である.患者は,NTCD-M3の経口固形物として,10^4芽胞/日を7日間(n=43),10^7芽胞/日を7日間(n=44),10^7芽胞/日を14日間(n=42),プラセボを14日間(n=44)の4つの治療に無作為に割り付けられた.主要評価項目は治療7日間以内のNTCD-M3の安全性と忍容性とした.副次評価項目は研究薬終了から6週間のNTCD-M3の腸管定着とday 1から6週間のCDI再発とした.

【結 果】
治療開始となった168例の患者のうち,157例が治療を完遂した.1つ以上の治療を要する有害事象はNTCD-M3投与を受けた患者の78%,プラセボ投与を受けた患者の86%で報告された.下痢と腹痛は,それぞれ,NTCD-M3投与患者で46%と17%,プラセボ投与患者で60%と33%であった.治療を要する重篤な有害事象は,プラセボ投与患者で7%,NTCD-M3投与患者で3%であった.頭痛はNTCD-M3患者で10%,プラセボ投与患者で2%であった.腸管内定着はNTCD-M3患者の69%でみられ,10^7芽胞/日群で71%,10^4芽胞/日群で63%であった.CDI再発率は,プラセボ患者43例中13例(30%),NTCD-M3患者125例中14例(11%)であり(OR 0.28; 95%CI 0.11-0.69; p=0.006),最も低い再発率であったのは10^7芽胞/日の7日間投与を受けた患者で,43例中2例(5%)であった(OR 0.1; 95%CI 0.0-0.6; p=0.01 vs プラセボ).再発は定着した患者では86例中2例(2%),NTCD-M3を投与されたが定着しなかった患者では39例中12例(31%)であった(OR 0.01; 95%CI 0.00-0.05; p<0.001).

【結 論】
メトロニダゾールかバンコマイシンで治療を行い臨床的に改善したCDI患者において,NTCD-M3芽胞の経口投与は良好な忍容性と安全性を示した.無毒化C. difficlie株M3は消化管に定着し,CDI再発を有意に減少させた.

by DrMagicianEARL | 2015-06-25 19:14 | 感染症 | Comments(0)
■先週,メディカル・サイエンス・インターナショナル社様から「感染症プラチナマニュアル」という書籍を御恵贈いただきました.岡秀昭先生(東京高輪病院プライマリケア臨床研修センター長/感染症内科)の単著本です.
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以下は1週間読んだり現場で持ち歩いたりしてみての使用感です.

1.非常にコンパクト
大きさとしてはiPhone 6 plusとほぼ同じくらいです.他のポケット本もいろいろ持っていますが一番小さくて持ち運びしやすいです.いわゆるレジデントマニュアルシリーズはポケットにギリギリ入るレベルですが,この本は余裕をもって持ち運びできます.

2.使いやすさ
Sunford Guide(熱病),JAID/JSC感染症治療ガイドよりも実践的です.すべての情報は網羅していないけれど,必要最低限の情報は網羅されていて,最短で抗菌薬選択できる現場向けの作りです.

3.内容レベル
高度な内容ではありません.基本をおさえ,かつ感染症診療に不慣れな人が臨床でよく困るシチュエーションに対応できるような感じです.

4.おすすめ度
研修医やレジデント,感染症診療に不慣れな医療従事者には非常におすすめできる本ではありますが,もちろん「これだけで分かった気にはなるなよ」と釘をさしておく必要はあります.また,ICTに所属しているスタッフならば,少なくともこの本に書かれている内容は既にほぼ頭に入っている状態であることが望ましいと思います.
by DrMagicianEARL | 2015-05-22 17:48 | 感染症 | Comments(0)
■敗血症といえば菌・・・だけでなく真菌,ウイルス,寄生虫でも起こります.今話題のエボラ出血熱もウイルスによる敗血症です.菌による敗血症に対しては抗菌薬がありますが,対ウイルスには我々はごくわずかの武器しか持ち合わせておらず,治療薬がないウイルス感染症は多数存在します.

■セリンプロテアーゼ阻害薬であり,主に播種性血管内凝固(DIC;Disseminated Intravascular Coagulation)の治療に用いられるアンチトロンビン製剤(AT)が広域スペクトラムの抗RNAウイルス効果があることが近年多数報告されています.効果がみられたウイルスは単純ヘルペスウイルス,C型肝炎ウイルス,HIVに加え,近年インフルエンザウイルスでも有効であることが報告されました.一部の専門家によれば,その効果はリバビリンに匹敵するのではないかとも推測されています(インフルエンザウイルスH1N1では100倍以上の効果があるとする結果).保険適応はなく,ヒトでの臨床研究もまだありませんが,重症RNAウイルス感染症における将来的治療オプションとしての可能性を記憶しておいてもいいかもしれません(あるいは重症ウイルス感染症によるDICでAT IIIを使用するなど).さまざまなウイルスに対する論文を集めてみました(理論上,エボラウイルスやデングウイルスにも効きそうなんですが,残念ながらこれらのウイルスでの研究はありませんでした).全文フリーで読めるものも多いです.
セリンプロテアーゼ阻害薬アンチトロンビンIIIによるインフルエンザウイルスH1N1阻害
Smee DF, Hurst BL, Day CW, et al. Influenza Virus H1N1 inhibition by serine protease inhibitor (serpin) antithrombin III. Int Trends Immun 2014; 2: 83-6
PMID:24883334
Free Full Text

Abstract
内因性セリンプロテアーゼ阻害因子(Serpins)は複数の生物学的機能を伴う抗炎症メディエーターである.Serpinsはマンノース結合蛋白レクチン,可溶性CD14,ディフェンシン,抗微生物ペプチドを含む,ウイルス感染に対する早期の先天的免疫反応の一部でもある.近年,SerpinのアンチトロンビンIII(AT III)はHIV,単純ヘルペスウイルス,C型肝炎ウイルスに対する広域抗ウイルス活性が示されている.我々はAT IIIの抗ウイルス活性によるさまざまなインフルエンザウイルス株への活性効果を検討した.本研究において,インフルエンザウイルスA/H1N1に対するin vitroの強い阻害作用が観察された.また,我々はAT IIIの活性の強さがリバビリンの100倍以上であることも示した.また,その阻害効果は,H1N1>H3N2>H5N1>>Bの順に減弱しており,ウイルスのヘマグルチニン依存性であることが分かった.この生体分子のより有効な輸送方法が必要であるため,in vivoでの効果を示すには至らなかった.AT IIIがインフルエンザウイルスを阻害するのかの解明は新たな治療介入の道を示す可能性がある.
セリンプロテアーゼ阻害薬アンチトロンビンIIIの抗単純ヘルペスウイルス活性(マウスモデルのin vivo研究)
Quenelle DC, Hartman TL, Buckheit RW, et al. Anti-HSV activity of serpin antithrombin III. Int Trends Immun 2014; 2: 87-92
PMID: 25215309
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HIV-1複製を阻害するプロスタグランジンシンセターゼ-2の抗ウイルス活性を誘導するセリンプロテアーゼ阻害薬(in vitro研究)
Whitney JB, Asmal M, Geiben-Lynn R. Serpin induced antiviral activity of prostaglandin synthetase-2 against HIV-1 replication. PLoS One 2011; 6: e18589
PMID:21533265
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HIV-1 CD8陽性T細胞抗ウイルス因子としてのウシアンチトロンビンIIIの修飾形の浄化作用(in vitro研究)
Geiben-Lynn R, Brown N, Walker BD, et al. Purification of a modified form of bovine antithrombin III as an HIV-1 CD8+ T-cell antiviral factor. J Biol Chem 2002; 277: 42352-7
PMID:12192009
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リンパ球を標的とするイムノリポソームにおけるヘパリン活性化セリンプロテアーゼ阻害薬アンチトロンビンIIIのin vitroでの抗HIV活性
Asmal M, Whitney JB, Luedemann C, et al. In Vivo Anti-HIV Activity of the Heparin-Activated Serine Protease Inhibitor Antithrombin III Encapsulated in Lymph-Targeting Immunoliposomes. PLoS One 2012; 7: e48234
PMID:23133620
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セリンプロテアーゼ阻害薬アンチトロンビンIIIによるC型肝炎ウイルスの阻害
Asmal M, Seaman M, Lin W, Chung RT, Letvin NL, Geiben-Lynn R. Inhibition of HCV by the serpin antithrombin III. Virol J 2012; 9: 226
PMID:23031791
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ヒトアンチトロンビンIIIの抗ウイルス活性
Elmaleh DR, Brown NV, Geiben-Lynn R. Anti-viral activity of human antithrombin III. Int J Mol Med 2005; 16: 191–200
PMID:16012749

by DrMagicianEARL | 2014-10-08 19:12 | 感染症 | Comments(0)
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■MDRPのアウトブレイクから始まり,フィリピン輸入株の麻疹流行,大阪でのNDM-1産生腸内細菌の制御困難なアウトブレイク(おそらく大阪全域に既に拡散されているものと予想されてもいます)など2014年の日本の感染症業界は暗いニュースばかりですが,海外でもいろいろと大変なことが起こっています.今年NEJM誌に報告された3つの感染症の文献を紹介します.
Plasmodium. falciparumマラリアにおけるアルテミシン耐性
Ashley EA, Dhorda M, Fairhurst RM, et al; for the Tracking Resistance to Artemisinin Collaboration (TRAC). Artemisinin Resistance in Plasmodium. falciparum Malaria. N Engl J Med 2014; 371: 411-23
 東南アジアおよびアフリカのマラリア患者1241例の血液サンプルの解析を行ったもので,マラリア治療薬であるアルテミシンに耐性をもつマラリア原虫Plasmodium. falciparumがカンボジア,ミャンマー,ラオス,タイ,ベトナムで検出された.アルテミシンの単独治療はより強く回避すべきであろう.既に飛行機等を経由してマラリア媒介蚊が本邦に侵入してきている懸念もあり,高度耐性を有するマラリアが上陸すればかなり厄介なものとなるだろう.
市中感染型MRSAにおける伝達可能なバンコマイシン耐性
Rossi F, Diaz L, Wollam A, et al. Transferable vancomycin resistance in a community-associated MRSA lineage. N Engl J Med 2014; 370: 1524-31
PMID:24738669
 ブラジルで発見された,プラスミド伝達されるバンコマイシン耐性遺伝子van Aを有する市中感染型MRSA(米国で猛威をふるった強毒性PVLを産生するUSA300株の系統に関連)の世界初の報告.菌と菌が接触するだけでバンコマイシン感性株が耐性化してしまうプラスミド伝達があるため,菌の細胞分裂増殖をはるかに上回る爆発的な耐性菌数増加が生じうる.加えて菌種を越えて伝達しうるため,腸球菌等にまで耐性が伝達される可能性もある.

 一般的に感染症はオリンピックやメッカの巡礼などで世界中に拡散されるとされている.たとえば中東で流行しているMERSコロナウイルスも今年のメッカの巡礼を経て島国のインドネシアで十数人の感染者がでている.今回NEJM誌に報告されたすぐ後にブラジルでワールドカップが開催,さらには2年後にオリンピックも開催予定であり,プラスミド伝達型バンコマイシン耐性MRSAの世界中への拡散が懸念される.
ギアナにおけるエボラウイルス疾患の緊急事態(予備レポート)
Baize S, Pannetier D, Oestereich L, et al. Emergence of Zaire Ebola Virus Disease in Guinea - Preliminary Report. N Engl J Med 2014 Apr 16 [Epub ahead of print]
PMID:24738640
 2014年2月から西アフリカ地域でアウトブレイクしたエボラ出血熱は,過去の同疾患の中でも最悪の感染拡大となっており,既に感染者は1000人以上,死亡者は600人以上にのぼり,死亡率は約6割で,現地で治療にあたっている医師も感染・死亡している.同地域ではさらに感染が拡大,制御困難な状態に陥っており,7月31日に米国CDCは3カ国(ギニア,リベリア,シエラレオネ)について警戒レベルを最も高い「不要な渡航を控える勧告」に引き上げた.

 エボラウイルス自体は感染力は強くなく,主たる感染経路は接触感染である(ただし感染患者が嘔吐した場合等は,飛散により感染範囲が飛沫感染距離以上となりうる)ため,隔離と標準予防策・接触/飛沫感染予防を徹底すれば終息させることは難しくない.西アフリカでの感染拡大はアウトブレイク認知が遅れたことにより隔離が遅れたためと推察されている.地域丸ごと封鎖するか国境封鎖を行わなければ現在の流行地域での感染拡大は防げないだろう.

 一方,すでに世界中に認知された現在,おそらく世界レベルでのパンデミックは起こりにくく,海を越えて本邦に侵入してきたとしても感染対策で制圧は難しくないだろう.ただし,各国でのワクチンによる予防対策の準備は必要である.現時点でワクチンや治療薬は開発段階であり,使用できるものはなく,早急な開発が急がれる.
by DrMagicianEARL | 2014-08-01 00:00 | 感染症 | Comments(0)
■多数の医療関係者が批判している塩野義製薬のインフルエンザの啓蒙CMについて,既に青木眞先生をはじめ多数の医師がブログで問題点を指摘しているため,もうブログ記事にしなくてもいいか,とも思ったが,インフルエンザ診療に携わる医師としてここは声をあげておく必要があるかと思い記事をアップした.

■問題のCMはこちらから見ることができる.
「ちゃんと知ろうインフルエンザ治療のこと」http://www.shionogi.co.jp/influ/
このCMでは,子供をもつ主婦+尾木ママの女子トークで始まる.「インフルエンザって早期治療がいいんだって」のセリフで始まり,尾木ママが「点滴薬まであるんだって」と加わり,最後は「インフルエンザ 早期治療 で検索を」で終わる.さらに,このサイトでは,インフルエンザがどのような病気か,かかったらどうしたらいいか,どんな治療薬があるか,について解説している.おそらく多くの一般市民はこれの何が問題なのかと思うだろうが,医療従事者から見ればおおいに問題である.

問題点1.「抗インフルエンザ薬は不要」という希望選択肢がない

■先述の啓蒙サイトを見ると,「どの治療を受けたいか」で注射薬,内服薬,吸入薬の3択になっている.なぜか「抗インフルエンザ薬は不要」という選択肢がない.投与して当たり前という認識を一般市民に持たせかねない.「インフルエンザに対して有効な薬剤があるならそれを投与すればよい」というほど感染症とは単純な疾患ではない.その病原体に効く薬剤があるからといって,それを投与すればより効果的とは限らないのが感染症の難しいところで,そこを理解していないと薬剤の乱用につながる.薬である以上は副作用を考慮する必要があり,副作用を上回る有用性が得られぬなら,安易にその薬剤は投与すべきではない.

■抗インフルエンザ薬(ここではタミフル®,リレンザ®,イナビル®,ラピアクタ®の4種類のノイラミニダーゼ阻害薬のことをさす)を投与されることによって重症化リスクのない健常成人では21時間の罹病期間短縮という恩恵が得られる一方で重症化率低下や死亡率低下といった有用性は認められないことが2つのメタ解析で示されており[1,2],この結果からは免疫力がある健常成人においては抗インフルエンザ薬を投与せずともさほど影響はないと考えられ,少なくともインフルエンザ患者全員に一律に抗インフルエンザ薬を投与する必要性はないであろう.インフルエンザは多くの場合,自然治癒しうる疾患である.

■その一方で,インフルエンザで重症化しやすい,あるいは死亡率が高まる集団がある.65歳以上の高齢者,妊婦,慢性肺疾患(COPD,喘息,肺線維症,肺結核など),心疾患(僧帽弁膜症,うっ血性心不全など),腎疾患(慢性腎不全,血液透析患者,腎移植患者など),代謝異常(糖尿病,アジソン病など),免疫不全状態の患者といったいわゆるインフルエンザ重症化ハイリスク群の患者である.また,これらのハイリスク群ほどではないが,小児も重症化リスクが若年成人より高い.前述の2つのメタ解析[1,2]で注意しなければならないのは,死亡リスクの高い患者をあらかじめ除外したRCTのみを扱っている点である(RCTを行う以上,リスクの高い患者を組み入れることが困難であった).米国CDCは,「規制当局が保有する臨床試験のみでタミフル®の効果を結論づけるべきではなく,観察研究で評価されるべきである」としてコクランのメタ解析を批判する声明をだしている.

■これらのハイリスク群に対しては抗インフルエンザ薬投与によりメリットが大きくなる可能性が数多く報告されており,Hsuらのタミフル®についての大規模観察研究74報のメタ解析[3]では,ハイリスク群において死亡率を77%減じ,入院を25%減じるとしている.また,2009年の新型インフルエンザH1N1pdm2009のパンデミック時の各国の死亡率をみると,日本が他国と比して非常に低い.これは,海外の他の国では,インフルエンザ罹患時は自宅待機し,タミフル®は服用しない方針であったのに対し,日本においては早期に病院を受診し,タミフル®を処方されていたことが関係しているとされる.これにより,これまでタミフル®処方に対して否定的見解を示してきたWHO,CDCもタミフル®使用検討に方針変更となっている.最も高い死亡率となった米国も「H1N1pdm2009時は日本のようにタミフル®を積極投与をすべきであった」との反省を示している[4]

■抗インフルエンザ薬を使用するとそのインフルエンザに対する抗体が作られにくくなることが報告されており[5,6],このため同一シーズンに2回同じウイルスに罹患しうるということが起こりうる.

■以上のように,抗インフルエンザ薬を使用すれば劇的によくなる,というわけでもなく,副作用のリスクもあり,罹患したのに抗体ができなくなるというデメリットも有する.3割負担でも薬剤だけで1000円以上かかるということもあり,これらを説明した上で患者と相談し,抗インフルエンザ薬を使用しないという選択肢もあってしかるべきであろう.健常成人であれば,重症例でない限りは抗インフルエンザ薬が不要な可能性もあり,それならばわざわざ早期受診する必要性にもおおいに疑問がもたれる(受診せず自宅養生という選択肢もある).一方で重症化リスクの高い患者では早期治療を積極的に考慮すべきであろう.

問題点2.周囲への感染の危険性が考慮されていない

■インフルエンザウイルスの感染経路は飛沫感染である.感染危険距離は1mであり,ヒトが吸い込む飛沫の直径は0.5-5μmであるが,たった1個の飛沫でも感染が成立する.また,ヒトがよく触る部位にウイルスが付着し,それを触った場合はそこから何らかの経緯で気道内に入り込むことがある.咽頭にウイルスが付着した場合,15秒以内にうがいを行わなければ粘膜内に浸潤してしまう(このため,原則としてうがいではインフルエンザは予防できないとされる).それほどインフルエンザウイルスの感染力は強い.

■このようなインフルエンザ患者が病院に来院することは他の患者への危険も伴う.病院には上述のハイリスク群に含まれる患者が多く存在し,その患者に院内で感染することはなんとしても避けなければならない.塩野義製薬はCMやサイトでラピアクタ®という抗インフルエンザ薬の点滴そのものを宣伝したわけではないが,点滴薬の存在を強調しており,サイトでも希望治療薬の一番上に点滴薬を持ってきており,なんとかして間接的にラピアクタ®を強調しようとしていることがうかがえる.日本は点滴が大好きな文化が根付いており,「抗インフルエンザ薬の点滴があるならすごく効きそう」という先入観を与えかねない.このCMやサイトによって抗インフルエンザ薬の点滴を希望する患者が増える可能性は十分にあると思われる.

■ラピアクタ®の点滴時間は15分以上かけて行う必要があり,院内に余計にインフルエンザ患者を長く留め置くことになってしまう.隔離可能な部屋を有する病院ならまだいいが,そうでないならば感染対策上ラピアクタ®を外来で使用することは禁止とすべきだろう.これは何もラピアクタ®に限ったことではない.空気感染,飛沫感染の可能性がある患者に対する外来点滴治療は感染対策上細心の注意を払う必要があり,行わないという選択肢があるならば行うべきではない.

※抗インフルエンザ薬ではないが,ジスロマック®注射製剤の点滴は2時間を要する.外来で投与されるとき,ほとんどの場合は原因菌が確定していないケースがほとんどであり,そのような患者を外来点滴で2時間院内にとどめる場合,感染対策上問題がある.特にインフルエンザ,結核の除外がなされていない状況では問題である.非定型肺炎の診断基準では結核もあてはまってしまうという欠点がある.また,画像検査で結核は否定できない.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[7]

■病院としてはインフルエンザ患者は帰宅できるのであればさっさと薬剤を処方してできる限り早く帰宅させることが原則で,点滴によって院内滞在時間を長引かせるようなことはすべきではない.

※当院ではラピアクタ®を採用してはいるが,上述の理由により,院内感染対策室の方針で外来でのラピアクタ®投与を禁止している.よって患者からの希望があってもラピアクタ®を外来では使用できないようになっている.

問題点3.耐性化リスクを考慮していない

■微生物の環境適応性は我々の想像をはるかに超えており,今や世界中に抗菌薬耐性の細菌が蔓延している状態にあるが,これはウイルスであっても例外ではない.現在の抗インフルエンザ薬主要4剤が発売されるまではアマンタジンが唯一のインフルエンザ治療薬であった.しかし,インフルエンザウイルスはM2蛋白質の5箇所のアミノ酸のうち1つでも変異が起これば耐性化する.実際にin vitro研究ではアマンタジン存在下でたった1回の継代培養で耐性ウイルス株が検出された.アマンタジン耐性株は2003年に中国で増加傾向となり,わずか3年後には香港型H3N2株の91%が耐性化している.このため,米国CDCはインフルエンザ治療の目的でアマンタジンを使用すべきではないと勧告した.

■アマンタジンの後に登場したのがタミフル®である.このタミフル®は当初は耐性株が出現しにくいと考えられていたが,2004年には小児の入院患者などでタミフル®による治療後に香港型H3N2の18%が耐性化していたと報告されている[8].さらに,2007-2008年シーズンにはソ連型H1N1において高頻度にH275Y変異による耐性株が北欧で出現し,2008年に入って南半球で,2008-2009年シーズンは日本でもH275Y変異による耐性ウイルスが100%でみられるようになった.ラピアクタ®については耐性株の増加は報告されていないものの,やはりH275Y株では感受性低下が示されており,インフルエンザウイルスの耐性化に注意が必要である.リレンザ®,イナビル®も今のところ耐性株の報告はほとんどなく,耐性化しにくいと考えられているが,タミフル®発売時と同様に耐性化しないという楽観論は危険であると思われる.

■医療従事者にとって,感染症における抗菌薬,抗ウイルス薬の適正使用は目の前の患者の治療のみならず,10年・20年先の未来の患者における耐性株感染リスクを減少させるための治療でもある.乱用をすれば耐性ウイルスが増加する可能性がある以上,全患者に抗インフルエンザ薬をすすめるという安易な考えでインフルエンザ診療を行うべきではない.

その他問題点

■この他にも,医療費の圧迫(ラピアクタ®は抗インフルエンザ薬の中でも一番高い),他の疾患(ノロウイルスによる感染性胃腸炎,心筋梗塞,肺炎などなど)の患者でもごった返すシーズンに点滴を施行することによる病院スタッフの仕事量の増加,医師と患者のインフルエンザに対する認識のズレを悪化させてしまう,など塩野義製薬のCM・サイトの問題点は多い.なんとかして感染対策にかかわる医療従事者が苦労して治療薬を適正使用するよう推進し,一般市民にも正しい知識を啓蒙している中で,製薬会社が臨床現場の意図とは真逆の内容をCMやサイトで一般市民に発信するのは遺憾と言わざるを得ない.塩野義製薬は医療関連感染対策研修サポートツールも作成して医療機関に配布している製薬会社でもあるだけに,実に残念である.

■ラピアクタ®は決して不要な薬ではなく,重症例においては積極的に使用すべき薬剤である.しかしながら,上述の様々な問題点を無視し,「早期受診」「早期治療」という聞こえのいいうたい文句での情報発信は啓蒙とは言いがたい.

[1] Jefferson T, Jones MA, Doshi P, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev 2012; 1: CD008965
[2] Ebell MH, Call M, Shinholser J. Effectiveness of oseltamivir in adults: a meta-analysis of published and unpublished clinical trials. Fam Pract 2013; 30: 125-33
[3] Hsu J, Santesso N, Mustafa R, et al. Antivirals for treatment of influenza: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Ann Intern Med 2012;156: 512-24
[4] Kuehn BM. Antiviral drugs underused in US patients for 2009 influenza A(H1N1) pandemic. JAMA 2011; 305: 1080-3
[5] Sawabuchi T, Suzuki S, Iwase K, et al. Boost of mucosal secretory immunoglobulin A response by clarithromycin in paediatric influenza. Respirology 2009; 14: 1173-9
[6] Takahashi E, Kataoka K, Fujii K, et al. Attenuation of inducible respiratory immune responses by oseltamivir treatment in mice infected with influenza A virus. Microbes Infect 2010; 12: 778-83
[7] Kobashi Y, Mouri K, Yagi S, et al. Clinical features of immunocompromised and nonimunonocopromised patients with pulmonary tuberculosis. J Infect Chemother 2007; 13: 405-10
[8] Kiso M, Mitamura K, Sakai-Tagawa Y, et al. Resistant influenza A viruses in children treated with oseltamivir: descriptive study. Lancet 2004; 364: 759-65
by DrMagicianEARL | 2014-01-12 18:20 | 感染症 | Comments(2)