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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■先月JAMAに敗血症性ショックに対するPMX-DHPを検討したEUPHRATES trialがpublishされました.結果がネガティブだっただけでなく,アウトカムは少ないし本文にはKaplan-Meier曲線も載せないしサブ解析データもなしという実に味気ない論文で,editorialすらつきませんでした.
【RCT+レビュー】敗血症性ショックに対するPMX-DHPは有効か?EUPHRATESの結果を踏まえて
https://drmagician.exblog.jp/27590255/
一方,プレスリリースではEAA 0.6-0.89の患者に限定したサブ解析ならいいデータが出た,とされていて,それは別の論文にまとめるのかなと思ったらIntensive Care Medicineにpublishされましたので紹介します.

■28日死亡率は26% vs 37%でPMX-DHPが有意に死亡率を低下させています.副次評価項目も有意差がないものも含めて概ねPMX-DHP群の方がよさそうなデータ,ということになります.ただ,EAAの範囲をここまで絞る事後解析はかなり恣意的な印象があります.また,EAAの変化については両群間で差はなし.これはEUPHRATESのITT集団やABDO-MIXの解析でも同様で,どうもPMX-DHPはEAAを下げないようです.だとすればPMX-DHPの何がアウトカムを改善させたのかというと,昇圧効果くらいしかないのかなという印象です.

■ただ,この事後解析は当然ながら事前規定のないサブ解析です.それも途中でプロトコル変更して一定以上の重症度に限定したのに,さらに今度は重症度で上限を設けるサブ解析というのは集中治療領域ではあまり前例がありません.この事後解析をもとにRCTを行っても有意差がつくとはあまり思えません.ちなみに,サブ解析の際にいつも気になることですが,サブ解析で良好な結果になった場合,それ以外の集団では悪化するというシーソー減少が起こりかねません.実際に,今回のEUPHRATESにおけるITT集団からこのサブ解析集団を除いた患者集団では,28日死亡率はPMX-DHP群45.2% vs シャム群32.5%で,PMX-DHP群の方が高いという結果ですから,EAA 0.6-0.89以外ではむしろ悪化要因という可能性だって残ります.
過剰なエンドトキシン血症ではないエンドトキシン血症性敗血症性ショックにおけるポリミキシンB血液灌流(PMX-DHP):EUPHRATES trial事後解析
Klein DJ, Foster D, Walker PM, et al. Polymyxin B hemoperfusion in endotoxemic septic shock patients without extreme endotoxemia: a post hoc analysis of the EUPHRATES trial. Intensive Care Med. 2018 Nov 23[Epub ahead of print]
PMID: 30470853
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30470853
Abstract
【目 的】
EUPHRATES trialではEAA≧0.6で定義される敗血症性ショックおよびエンドトキシン血症の死亡率に対するポリミキシンB血液灌流(PMX)の影響を検討した.28日全死亡率には差はみられなかった.しかしながら,エンドトキシン活性が高すぎる(EAA≧0.9)いくらかの敗血症性ショック患者がみられた.事後解析において,我々は敗血症性ショックでエンドトキシン活性が0.6-0.89の患者におけるPMXの使用の影響を評価した.

【方 法】
2つの治療(PMXまたはシャム(≒プラセボ))を完遂したEAA 0.6-0.89の患者194例において,EUPHRATES trialの事後解析を行った.主要評価項目はAPACHE IIスコアとベースラインの平均血圧(MAP)で調整した28日死亡率とした.副次評価項目では,MAPの変化,累積血管作動薬指数(CVI),EAA中央値減少,人工呼吸器非装着日数(VFD),透析非使用日数(CFD),在院期間とした.サブ解析は感染巣別とベースラインで0.1µg/kg/minを超えるノルアドレナリン投与とした.

【結 果】
28日時点で,PMX群で88例中23例(26.1%),シャム群で106例中39例(36.8%)が死亡した[絶対リスク差 10.7%, OR 0.52, 95%CI 0.27-0.99, P=0.047].ベースラインの変数で調整しなかった場合はP=0.11であった.PMX群の28日間での生存期間はシャム群より長かった[HR 0.56, 95%CI 0.33-0.95, P=0.03].PMXによる治療はシャムと比較して,MAPを増加させ[中央値(四分位範囲) 8mmHg (-0.5, 19.5) vs 4mmHg (-4.0, 11), P=0.04],VFDを増加させた[中央値(四分位範囲) 20日 (0.5, 23.5) vs 6日 (0, 20), P=0.004].その他の評価項目には有意差はみられなかった.培養で菌の発育がなかった患者においてはPMX治療の方が死亡率が有意に低かった[PMX 6/30 (20%) vs シャム 13/31 (41.9%), P=0.005].この集団において,EAA中央値の変化は-12.9%(範囲:増加49.2%-減少86.3%)であった.EAA中央値減少群における死亡率はPMX群で6/38例(15.7%),シャム群15/49例(30.6%),P=0.08であった.

【結 論】
EUPHRATES trialの探索的事後解析に基づいたこれらの仮説検証の結果,平均血圧,人工呼吸器非装着日数,死亡率の変化において,敗血症性ショックでEAA 0.6-0.89の患者が反応することを示唆する.

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by DrMagicianEARL | 2018-11-29 19:24 | 敗血症 | Comments(0)
※このブログでは通常は薬剤名を一般名で記載していますが,今回は分かりやすくするため,一般名より商品名を優先しています.

■昨年まで主要な抗インフルエンザ薬は4剤で,いずれもノイラミニダーゼ阻害薬であったが,今年3月に,新しい機序であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれる新規クラスの抗インフルエンザ薬ゾフルーザ®(バロキサビル)が発売開始となった.ただし,その時はまだ臨床第Ⅲ相試験であるCAPSTONE-1 trialの結果が論文としてpublishされておらず,メーカーからのプレスリリースのみで,詳細データを把握することはできず,そのような中で使用すべきなのかは医師の間で意見が分かれていた.

■2017-2018年シーズンでの抗インフルエンザ薬の売り上げ[1]は,1位がイナビル®(ラニナミビル)の253億円,2位がタミフル®(オセルタミビル)の169億円であった.ではインフルエンザ流行シーズン終盤である3月から発売開始となったゾフルーザ®の売り上げはというと,わずか2週間で24億円もの売り上げがあったことから,相当数の医師がゾフルーザ®を処方したことがうかがえる.2018-2019年シーズンは,既にゾフルーザ®が独走状態とのことである[2]

■一方で,SNSを見ると,12歳未満や高齢者,肺炎合併例に処方しているケースも多く(確かに添付文書上は適用範囲内だが,CAPSTONE-1 trialから除外されている患者層でありエビデンスがほぼない),ひどいものでは予防投与されているケースもあり(適用外),不適切使用が早くも横行している印象であった.また,後述するが,タミフル®より早く症状がよくなる薬であるというデマも多数流れている.塩野義製薬が「速いウイルス減少効果」を前面に押し出して宣伝し,その一方で(主要評価項目であるにもかかわらず)有症状期間や耐性についてはあまり触れていないためそのような勘違いが生じているものと思われる.塩野義製薬は2013/2014年シーズンにも自社製品であるラピアクタ®を推すかのようなインフルエンザ啓蒙CMを流して医療従事者から猛批判を浴びた経緯があり[3],どうもプロモーションに問題があると感じざるを得ない.

■ゾフルーザ®は確かに1日1回製剤であり,インフルエンザウイルス検出をタミフルRより早く抑えられるという2点はメリットとなる.しかし,9月にNEJM誌に(ようやく)publishされたCAPSTONE-1 trial[4]の結果を見るに,そう楽観的に見られるような薬剤ではないことが分かる.以下では,CAPSTONE-1 trialを元にゾフルーザ®について日常臨床で使えるかどうかについて考察した.

※COI開示:本ブログ管理人は過去3年以内に,抗インフルエンザ薬販売メーカーでは塩野義製薬(ゾフルーザ®,ラピアクタ®を販売)とグラクソ・スミスクライン(リレンザ®を販売)から1回ずつ講演料(ただしいずれもインフルエンザとは無関係の講演)を受けている.

1.論文詳細

■CAPSTONE-1 trial[4]は,日本および米国で2016年12月から2017年3月までにインフルエンザ様症状を呈した12-64歳を対象とし,ゾフルーザ®,タミフル®,プラセボに2:2:1で割り付けた二重盲検RCTである.ただし,タミフル®群だけは異常行動との関連の問題が指摘されていた関係で10歳代への処方制限がある時期の研究のため20-64歳が対象となっている(2018年8月21日より10歳代への処方再開が認められた[5]).

■導入基準は腋窩温38.0℃以上の発熱,1つ以上の全身症状,中等度以上の呼吸器症状を有し,発症から48時間以内の患者である(intention-to-treat population; ITT集団).また,迅速診断キットではなくPCR法でインフルエンザと診断された患者をITTI集団(intention-to-treat infected population)としている.

■入院を要する重症例や肺炎等合併例や以下に示すハイリスク集団は除外されている.
ハイリスク集団
妊婦,医療介護施設等利用者,気管支喘息を含む慢性呼吸器疾患患者,神経疾患患者,心臓疾患患者,血液疾患患者,内分泌疾患患者(糖尿病を含む),腎不全患者,肝不全患者,免疫不全患者,肥満指数≧40
■結果であるが,1436例がランダムに割り付けされ(8割弱が日本から登録),ITTI集団は1064例であった.主要評価項目である「症状緩和までの期間」はITTI集団でゾフルーザ®群がプラセボ群より有意に短いという結果であった(中央値53.7時間 vs 80.2時間).よって,ざっくり言えば有症状期間を約1日短縮するということになる.しかし,ゾフルーザ®群とタミフル®群との比較については有意差がなく(中央値絶対差は0.3時間),supplementary appendixにあるKaplan-Meier曲線を見ても治療開始から60時間まではほぼ重なっていた.60時間以降はタミフル®群の方が症状改善を得た患者の割合が一貫して数%ほど少ないようにも見える.
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■ウイルス検出期間中央値はゾフルーザ®群が24時間であり,タミフル®群(72時間),プラセボ群(96時間)よりも有意に短縮していた.有害事象はゾフルーザ®群4.4%,タミフル®群8.4%,プラセボ群3.9%であった.

■なお,ゾフルーザ®投与患者のインフルエンザウイルスにおいて,低感受性に関与するとされるPA(ポリメラーゼ酸性蛋白領域)の遺伝子変異(I38T/M/F)が9.7%に生じており,それらはすべてA/H3N2株であった.ゾフルーザ®群のPA遺伝子変異がない患者,変異があった患者,プラセボ群の患者でのウイルス検出率は,5日目でそれぞれ7%,91%,31%,9日目でそれぞれ2%,17%,6%であり,ゾフルーザ®低感受性に関連する遺伝子変異があるとプラセボよりもウイルス検出期間が長引くという結果で,有症状期間も遺伝子変異があると63.1時間に長引いていた.

■低感受性株に関するグラフの提示は本論文にはないが,ゾフルーザ®添付文書[6]には掲示されている.これを見ると,ゾフルーザ群のウイルス力価は遺伝子変異の有無にかかわらず1日で大きく減少しているが,その後遺伝子変異ありの群ではむしろウイルスが増殖に転じ,3日目以降はプラセボ群をも上回っている.米国CDCのUyekiも本論文のperspectiveでこのエスケープ変異の出現に懸念を示している[7]
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2.ゾフルーザ®による懸念

 以上,CAPSTONE-1試験の結果をまとめると、ゾフルーザ®は12-64歳の健常者のインフルエンザにおいて以下の3つの特徴が挙げられる.
(1)ゾフルーザ®は有症状期間を1日ほど短縮させる効果があるが,タミフル®とは差がほぼないに等しい.
(2)ゾフルーザ®はウイルス検出期間をタミフル®やプラセボよりも2~3日短縮する.
(3)ゾフルーザ®投与成人患者の約1割(小児では2割以上)でウイルスに遺伝子変異が生じ,ウイルス検出期間がむしろ延長し,有症状期間も長引く
■患者さん本人にとっては「症状をなんとかしてほしい」ことが第一で、そういう意味ではゾフルーザ®はタミフル®より症状改善効果が大きく上回っているわけではなく,しかも1割の患者ではタミフル®投与の場合に比べ症状が長引く可能性がある,ということになる.

■CAPSTONE-1での第Ⅲ相試験での変異株(9.7%に検出)はすべてA/H3N2株であったのに対し,第II相試験では変異株は2.2%で,すべてA/H1N1pdm2009株であったことから、どのウイルス株に感染したか,流行シーズン内でどのウイルス株が特に多いかの影響を強く受けるものと思われる.ちなみに小児でのシングルアームの国内第Ⅲ相試験では変異株は23.3%に検出している.

■ゾフルーザ®が2018-2019年シーズンに多数処方された場合,低感受性株でウイルス検出期間が長引くとそのぶん周囲への感染リスクがむしろ増加してしまい,ゾフルーザ®低感受性株だけが拡散されていく可能性を想定しなければならず,ゾフルーザ®処方が逆効果になりかねない.これが現実化してしまうと,ゾフルーザ®は早々と使えない薬になってしまうだろう.といっても,臨床現場では低感受性株かどうかをすぐに確認する術がなく,非常に憂慮すべき問題である.

■日本感染症学会では,ゾフルーザ®について,低感受性株の頻度が高いことから公衆衛生上の懸念が大きいとして,現時点では本薬剤についての治療での位置づけを見送っている[8].日本小児科学会の「2018/2019シーズンのインフルエンザ治療指針」[9]でも,小児におけるゾフルーザ®はシングルアームの小規模研究しかないことから「同薬の使用については当委員会では十分なデータを持たず,現時点では検討中である」として推奨は出していない.

3.外来でのインフルエンザ治療

■既にマスコミ報道は加熱しすぎな印象がある.様々なメディアが新薬ゾフルーザ®を過剰な表現で絶賛している記事ばかりであり,その共通点として,ウイルス消失速度が速いには必ず触れるが,症状改善速度がタミフル®と変わらないことについては一切触れていないのである.低感受性株出現に触れている記事も非常に少ない.このようなメディアによる過剰宣伝はイレッサ®発売間もない頃の記事や近年のオプジーボ®報道記事に似るところがある.それに歯止めをかけなければならないのは他ならぬ医師ではあるが,SNSや医師によるネット記事を見るに,どうもあまり期待はできなさそうである.

■さて,外来で季節性インフルエンザ患者を診察した上で,重症でなければどうするか?ゾフルーザ®発売に際して多数の記事がでているが,気になるのは,タミフル®と比較してばかりで,「抗インフルエンザ薬を処方することが大前提」となってしまっている記事が多いことである.まずは抗インフルエンザ薬がその患者さんに必要かをアセスメントする必要がある.

(1) そもそも抗インフルエンザ薬が必要か否か

■季節性インフルエンザは基本的には自然軽快する疾患であり,発症から48時間以降では抗インフルエンザ薬投与に意味はなく,また,48時間以内であってもハイリスク患者でない限りは有症状期間をせいぜい半日-1日程度短縮する効果しかなく[10],これはゾフルーザ®でも同様の結果であることから,副作用リスクや耐性化リスクもあるので,このあたりのメリット・デメリットを患者ごとに説明した上で「処方しない」という選択肢も当然ながらある.少なくとも海外では対症療法のみが一般的であり,WHOや米国CDCも健常者では抗インフルエンザ薬を投与するなとは言っていないが,治療する必要はないとしている.日本小児科学会のインフルエンザ治療指針も基本的にはWHOの方針に順じて「抗インフルエンザ薬は必須でない」としている.一方の感染症学会の指針ではどういうわけかそのような記載は見られない.

■もちろん,ハイリスク患者でないという理由で一律に処方しない,とはならない.ハイリスク患者でなくとも重症化徴候がみられる場合は処方した方がbetterなケースもあるだろう.また,有症状期間短縮効果が「たった半日~1日」なのか,「半日~1日も」なのかは個々の患者でとらえ方が異なる(例えば入試を直前に控えた受験生にとってはその短縮期間は大きな意味をもちうる).益と害のバランスをアセスメントしつつ,個々の患者の事情も踏まえた細かい判断をするのが医師の役割であろう.

(2) 対象患者

■処方する場合,抗インフルエンザ薬は5種類あるが,そのうちラピアクタ®(ペラミビル)だけは点滴製剤であるため,患者を長く院内に留め置くことになり,基本的には外来での使用は感染対策上おすすめできない(使うとすれば肺炎等の合併症に進展した重症例か,内服も吸入も困難な患者くらいであろう).

■ゾフルーザ®のCAPSTONE-1 trialの対象は12-64歳のリスク因子のない患者,かつ非合併症例・非重症例であり,それ以外の患者集団では現時点でRCTがないことから,現時点では処方対象はこのRCTの対象患者に限定すべきである.高齢者やハイリスク群での検討はCAPSTONE-2 trialで検討されており,既に有効とのプレスリリースはされてはいるが[11],論文はまだpublishされていないため詳細不明であり,現状はゾフルーザ®を使用するにしてもCAPSTONE-1の対象患者に限定すべきである.また,12歳未満の小児においてもシングルアーム試験しかない状況である.

■よって,ハイリスク患者であればリレンザ®,タミフル®,(感染対策がとれるなら)ラピアクタ®がbetterと思われる.

(3) 効果

■各種抗インフルエンザ薬間で有症状期間短縮効果はほぼ差はみられない.ただし,2017/2018年シーズンまで最も人気のあったイナビル®については本当に効果があるのか疑問である.イナビル®とプラセボを比較したRCTは海外第Ⅱ相試験である639例二重盲検RCTのIGLOO trialしかなく,本研究では,有症状期間がプラセボと比べて統計学的有意差は得られておらず,その期間中央値を見ても全くと言っていいほど差はない(プラセボ群104時間に対してイナビル®群は102時間).このため,イナビル®は欧州には進出できていない.本研究はpublishもなされることもなく,試験を行ったBiota社のサイトからも結果は既に削除されてしまっている.

■一方,日本,台湾,韓国,香港で行われた国際共同RCTであるMARVEL study[12]ではイナビル®とタミフル®で有症状期間は73.0時間 vs 73.6時間で確かに非劣性であり,これをもとに承認されてはいる.しかし,このRCTでのインフルエンザ患者の約2/3はソ連型A/H1N1株(2009年以降は消滅状態)であり,これらはタミフル®に対してほぼ100%耐性である.すなわち,タミフル®がほとんど効かない時期での比較で差が全くでていないわけであり,これはプラセボと差がなかった欧米でのIGLOO trialの結果と矛盾しない.以上からイナビル®の有効性には疑問を持たざるを得ず,筆者は使用しない方針としている.

■ゾフルーザ®のウイルス検出期間短縮効果は感染拡大を防ぐ上でのメリットとなりうる.このため,院内/施設内感染事例においてはいい使いどころとなるかもしれない.しかし,入院患者や施設患者の多くは高齢者やハイリスク群に該当する患者であり,現時点のエビデンスでは適用がない.また,そのウイルス株が低感受性の変異株によるアウトブレイクであった場合,ゾフルーザ®投与は逆効果となりうる.以上を熟慮した上で使用するか否かを決定すべきであろう.

(4) 副作用

■副作用としては,ゾフルーザ®もタミフル®も下痢などの消化器症状が特徴だが,ゾフルーザ®の方が副作用リスクが少ないことが分かっており,その点はゾフルーザ®に利点がある.ただし,新薬は市販後に新たな副作用が判明することもしばしばあり,単回投与だけでいい半減期の長い薬剤なだけに副作用も長引く可能性がある.

■イナビル®とリレンザ®は乳糖を使用しており,乳糖中の乳タンパクが問題となることから,牛乳アレルギー患者では禁忌であることをふまえておく必要がある.

■タミフル®とラピアクタ®は腎障害を有する患者では投与量減量が必要となる.ゾフルーザ®は主に胆汁排泄の薬剤であり,腎障害患者でも用量調節不要とはなっているが,前述の通り,腎障害患者を含むハイリスク患者での有効性・安全性を検討したRCTであるCAPSTONE-2 trialはまだpublishされておらず,本剤の使用は待つべきである.

■タミフル®で一時問題に挙がった(特に10歳代の)異常行動については,厚労省の調査では因果関係は明確ではないとの判断となり,2018年8月21日より処方制限が解除されている[5].過去の厚労省研究班の調査結果では,異常行動発生率はタミフル服用群で10%,非服用群で22%であった.もっとも臨床医ならばよく経験されるが,抗インフルエンザ薬内服有無にかかわらずインフルエンザでは異常行動が生じうる.このため,インフルエンザと診断したら「発熱から少なくとも2日間は家の外に飛び出さないよう玄関や窓を施錠し,目を離さない」ようにすることを家族に伝えておく必要がある.

(5) 用法・デバイス

■イナビル®とゾフルーザ®は1日使用するだけでOKなため,患者としても扱いやすく,アドヒアランス上はメリットとなる.ただし,イナビル®のデバイスは操作が煩雑である.

■製剤形状の違いとして,イナビル®とリレンザ®は吸入薬であり,これらの吸入デバイスは患者の吸入力を考慮した設計となっていないため,COPD/喘息治療薬の吸入デバイスに比して数倍の吸入力を必要とする.よって吸入力の衰えた高齢者や4歳以下では使用困難である.

(6) 値段

■値段に関しては,抗インフルエンザ薬は不要と判断して処方しなければもちろん0円であるが,最も安いタミフル®は2720円に対し,バロキサビルは4789円である.加えて,2018年9月から後発品であるオセルタミビルカプセル®「サワイ」も販売開始となり,先発品の半額の1360円に設定されているため,3割負担でもゾフルーザ®と1000円ほどの差が出てくる.

(7) 麻黄湯

■漢方薬の麻黄湯がインフルエンザに有効とされてはいる.非常に少ないサンプル数ではあるが,本邦からRCTが2報でており[12,13],いずれもタミフル®より有症状期間を有意に短縮したという結果となっている.

■以上をふまえた上で,ゾフルーザ®を使用するか否かを検討すべきであり,一律にゾフルーザ®ばかり処方する,ということにはならないはずであるし,むしろ処方機会は限定的になるであろう(バンバン処方されてしまってはいるが).

[1] AnswersNews. インフルエンザ 変わる治療薬の市場―ゾフルーザがシェア拡大 タミフルには後発品登場. 2018年9月18日. https://answers.ten-navi.com/pharmanews/14802/
[2] SankeiBiz. インフル薬「ゾフルーザ」シェア1位に 負担軽く人気. 2018年11月6日. http://www.sankeibiz.jp/business/news/181106/bsc1811061619010-n1.htm
[3] EARLの医学ノート. 塩野義製薬のインフルエンザの啓蒙CM・サイトについて. 2014年1月12日 https://drmagician.exblog.jp/21562162/
[4] Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, et al. Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med 2018; 379: 913-23
[5] 日本経済新聞. タミフル10代投与再開 厚労省、異常行動に注意喚起. 2018年8月21日. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34408200R20C18A8CR8000/
[6] 塩野義製薬株式会社. ゾフルーザ添付文書第3版. http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/340018_6250047F1022_1_04.pdf
[7] Uyeki TM. A Step Forward in the Treatment of Influenza. N Engl J Med 2018; 379: 975-7
[8] 日本感染症学会インフルエンザ委員会. キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ®)について. 2018年10月1日. http://www.kansensho.or.jp/guidelines/pdf/1810_endonuclease.pdf
[9] 日本小児科学会 新興・再興感染症対策小委員会/予防接種・感染症対策委員会. 2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018_2019_influenza_all.pdf
[10] Jefferson T, Jones MA, Doshi P, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev 2014; 4: CD008965
[11] 塩野義製薬株式会社. 抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシルの良好な第 III 相臨床試験(CAPSTONE-2)結果について(速報). 2018年7月17日 http://www.shionogi.co.jp/company/news/qdv9fu000001dgz1-att/180717.pdf
[12] Nabeshima S, Kashiwagi K, Ajisaka K, et al. A randomized, controlled trial comparing traditional herbal medicine and neuraminidase inhibitors in the treatment of seasonal influenza. J Infect Chemother 2012; 18: 534-43
[13] Kubo T, Nishimura H. Antipyretic effect of Mao-to, a Japanese herbal medicine, for treatment of type A influenza infection in children. Phytomedicine 2007; 14: 96
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by DrMagicianEARL | 2018-11-08 17:39 | 感染症 | Comments(0)