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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■本記事は日本感染症学会から発表された「気道感染症の抗菌薬適正使用」(感染症学 2019; 93: 623-42)への批判である.

■抗菌薬適正使用,さらにはAMR(薬剤耐性)対策が啓発されるようになって久しい.しかし,これまでAMR対策は主に注射用抗菌薬ばかりに焦点があてられてきており,日本の抗菌薬使用量の9割を占める経口抗菌薬は野放しになってきた現状がある.2016年になり,G7伊勢志摩サミットをひかえて日本政府はAMR対策アクションプランを閣議決定し,国としての目標をかかげているが,その目標は経口抗菌薬が主なターゲットになっていることは明白であった.しかし,翌年に発表された8学会合同の提言「抗菌薬適正使用プログラム実践のためのガイダンス」(日化療会誌 2017; 65: 650-87)が発表されたが,ここでも経口抗菌薬には全く触れられていない.

■一方,厚労省はAMR対策事業を学会にではなく国立国際医療研究センターに委託し,AMR臨床リファレンスセンターが設立された.さらに,2017年に国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫先生を座長とした抗微生物薬適正使用等に関する作業部会委員による「抗微生物薬適正使用の手引き」(以下,「厚労省手引き」と略す)が公開された.この厚労省手引きは,主に経口抗菌薬が使用されている外来での急性気道感染症・急性下痢症における抗菌薬適正使用について推奨を出しており,至極まっとうな内容である.
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第一班」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf

■この厚労省手引きに対して,批判的な意見がでているのは事実であるが,アンケート調査を見ると,中身を読まずに批判している医師がけっこういるようである.さらに,今年の3月に日本化学療法学会雑誌に「わが国の感冒・インフルエンザ・肺炎の治療」と題した総説(日化療会誌 2019; 67: 155-60)がpublishされ,その中で厚労省手引きに対する批判が書かれていたが,これまた手引きの中身をちゃんと読まずに批判しているのである(おまけに疫学を無視した伝聞をもとにした批判や屁理屈もあって大変ひどい内容であった).私はこの執筆者の普段の考え方から実際の臨床プラクティスをよく知っているので,こういう内容をあの方が書くことに驚きはしないが,いくら学術に自由があるとはいえこのような内容を掲載した学会としての姿勢はいかがなものかとは思う.

■そして,今年8月末に,日本感染症学会から「気道感染症の抗菌薬適正使用における提言」(感染症学 2019; 93: 623-42)が発表された(以下,学会提言と略す).学会ホームページに書かれている主旨をおおまかに言うと「厚労省手引きは基礎疾患のない健常成人および学童期以上の小児と対象としたものであり,学会提言はそれ以外のハイリスク患者や高齢者も考慮した気道感染症における抗菌薬適正使用を提案するもの」である.つまりは厚労省手引きと互いに補完の関係にあるものともとれ,方向性としては「かゆいところに手が届く」ものとして納得がいくものである.
日本感染症学会「気道感染症の抗菌薬適正使用における提言」
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/093050623_teigen.pdf

■ところがである,この学会提言の内容を見るに見事に抗菌薬適正使用を背中から撃つ内容で,不適切使用を促進しかねない.もはや補完というより対抗という印象である.そもそも「基礎疾患のある患者や高齢者」の設定はどこにいったのであろうか?まず,すぐに目についたのが,生体内利用率が低すぎてもはや実臨床ではもはや出番のない,不適切使用筆頭の経口第3世代セフェムが推奨薬としてずらりと並んでいてその時点でめまいがしたが,それに耐えながらじっくり読み進めてみた.

■まず,急性鼻副鼻腔炎の診療アルゴリズム(図4)である.
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■「中等症・重症」が2つあるのだが,そのうちの1つが「BLNARが強く疑われる場合」とある.そしてその矢印の先には経口第3世代セフェムが先頭に書かれた抗菌薬推奨がある.正直意味不明である.初期抗菌薬が効かなかった状況なら疑うこともあるかもしれないが,アルゴリズムを見る限りこれは初診を想定している.では,ウイルスが9割とされる中で,残り1割のうちインフルエンザ桿菌が原因でさらにそのうちのBLNARという非常に限られた患者集団を何をもって「強く疑う」のであろうか?このアルゴリズムを作成した人は臨床を全く分かっていないか,そうでなければ臨床所見からBLNARを感じ取れるエスパーのようであり,そのようなプラクティスがあるならぜひ論文化していただきたいものである.そもそも重症なら入院下での点滴治療が優先されるし,基礎疾患を考慮した提言と言う割にはどこまで考慮しているのか全く不明で(免疫不全患者は無視?),どういうわけか無理やり経口第3世代セフェムを使わせたいかのようなアルゴリズムである.加えて基礎疾患の精査はアルゴリズムの一番下の最後の選択肢になっていて,最初から基礎疾患を想定したアルゴリズムではない.学会提言の主旨である「基礎疾患を有する患者や高齢者」といった設定はどこへ消えたのだろうか?

■そして,小児の抗菌薬治療の選択に至ってはアモキシシリン以外はピボキシル基がついた経口第3世代セフェム(とテビペネム)が羅列してある.低カルニチン血症の注意喚起は書かれているが,それならそもそもピボキシル基のない経口第3世代セフェムがあるのだからそちらを書くべきだろう(もっとも経口第3世代セフェム自体不要だが).
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■次に急性咽頭・扁桃炎であるが,ここでも嫌な予感が的中する.起因菌についてエビデンスをふまえて詳細なことが書かれているにもかかわらず,そこから推奨抗菌薬への流れは感受性や抗菌薬適正使用を無視した経口第3世代セフェムの羅列であり,厚労省手引きで推奨された経口第1世代セフェムは一番下に追いやられている.さらにはβラクタマーゼ産生菌への警鐘をしているのにもかかわらずクラブラン酸アモキシシリンもなく,作成者はクラブラン酸アモキシシリンの存在を知らないか忘れているのだろうか?小児に対しても相変わらずピボキシル基のついた経口第3世代セフェムを推奨している.

■ここまで来ると,気管支炎についてもどういう内容かだいたい予想がつき,読んでみるとやっぱりその通りだったかと期待を裏切らぬ抗菌薬推奨である(溜息).一応,小児の二次性細菌感染でクラブラン酸アモキシシリンの推奨は書いてあるが,ではなぜ急性咽頭・扁桃炎のところには記載がないのか.どうもこの学会提言は変なところで一貫性がない.日本化学療法学会/日本感染症学会によるガイドラインを何ら修正せずコピペしているからであろうか?COPD急性増悪の抗菌薬推奨では第一選択にレスピラトリーキノロンがずらりとある.吸入ステロイドを使用している結核リスクの高いCOPD患者もいる中でこの推奨は乱暴ではないだろうか.近年JAMAに報告された抗菌薬遅延戦略のエビデンスも紹介しているが,それならばなぜアルゴリズムに入れなかったのか理解に苦しむ.

■以上の通り,この学会提言を見る限りは,学会の考え方は昔とさほど変わっていない印象を受ける.もはやほぼ不要とも言える経口第3世代セフェムを学会はまだガンガン推奨していく気なのだろう.少なくともこのような内容の学会提言は研修医には見せられない.抗菌薬が不要な患者群の存在を示している点は評価できるが,推奨抗菌薬については無理やり感が強すぎて.やはりCOIの関係を疑ってしまう内容と言わざるを得ない.
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by DrMagicianEARL | 2019-09-03 09:14 | 抗菌薬