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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

■COVID-19患者へのNIV(非侵襲的人工呼吸管理)やHFNO(高流量経鼻酸素投与)は当初エアロゾル発生手技である可能性があるとして,感染対策上あまり推奨されていなかった.それゆえ,医療リソースの需給バランスに影響がでたことは否めない.しかし,その後の研究では,観察研究のためエビデンスレベルは低いものの,あまりエアロゾルが発生しないのではないかという報告がでるようになった.

■ガイドラインではどうだろうか.WHOは,エアロゾル発生手技(AGP)リストにおいて,HFNOを削除,NIVはAGPリストに残っている.米国CDCは,NIVをAGPとして,HFNOを潜在的AGPとしてリストアップしている.英国健康保健庁は,直近(2022年)の迅速レビューで,HFNOもNIVもリストから除外することを検討すべきであるとした後,HFNOとNIVを現行のガイドラインから除外している.

■COVID-19におけるHFNOおよびNIVに関するnarrative reviewが複数あるが,メタ解析による定量評価を行ったシステマティックレビューはなかった.今回紹介する論文は,HFNOとNIVがエアロゾル産生を増加させるかを検討した研究のシステマティックレビューである.

■HFNOについては5件の観察研究における152例の患者からの合計212の空気サンプルのメタ解析が行われ,サンプルレベル(OR 0.73; 95%CI 0.15-3.55; P=0.58),患者レベル(OR 0.80; 95%CI 0.14-4.59; P=0.71)のいずれにおいてもHFNOと病原体を含む空気サンプルとの関連は示されなかった.環境汚染の可能性を調査した研究4件のプール感度分析では,HFNOと病原体を含む環境表面サンプルとの関連は示されなかった.健常ボランティアにおけるエアロゾル検出の実験的研究14件のうち9件では,HFNOと対照群とのエアロゾル濃度に統計的に有意な差は認められず,残りの研究のうち,HFNOによるエアロゾル増加の効果量は非常に小さかった.例えば,HFNOに関連したエアロゾル検出が最大の研究では2.3倍に増加しているが,これはHFNOを用いない咳嗽のみによって誘発された際の数値である「371倍の増加」と比較すると非常に小さいものであった.
【SR】COVID-19患者におけるNIVやHFNOでのエアロゾル発生はほとんど増加しない_e0255123_12153978.png
■NIVについてはCOVID-19患者のSARS-CoV-2陽性検出のための空気サンプルを調査した2件の観察研究のうち,どちらもNIVの使用と空気中ウイルス拡散の増加との関連を示していない.72例の患者からの84の空気中サンプルを含むこれらの研究のメタアナリシスでも,サンプルレベル(OR 0.38; 95%CI 0.03-4.63; P=0.13)でも患者レベル(OR 0.43; 95%CI 0.01-27.12; P=0.24)でも,NIVと病原体検出空気サンプルとの関連性はみられなかった.同様に,環境表面汚染の可能性を検討した研究3件のプール感度分析では,患者レベルで病原体が検出された表面サンプルとNIVとの関連は示されなかった.NIVによるエアロゾル生成は最大の研究で2.6~7.8倍の増加が報告されているが,この影響は,NIVなしの咳嗽による「371倍の増加」と比較すると非常に小さい.
【SR】COVID-19患者におけるNIVやHFNOでのエアロゾル発生はほとんど増加しない_e0255123_12155258.png
■研究デザインの問題や,研究ごとの検出方法の差異などはあるが,エアロゾル増加は多く見積もっても臨床的には意義のない増加レベルであり,HFNOまたはNIVのいずれかがAGPとみなされるべきというエビデンスは見つからず,HFNOまたはNIVを使用している患者への曝露に基づくより特別な防護措置は必要ないと考えられると結論づけている.
非侵襲的呼吸管理によるエアロゾル発生:システマティックレビューとメタ解析
Generation of Aerosols by Noninvasive Respiratory Support Modalities: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Netw Open 2023; 6: e2337258
PMID: 37819660
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.37258

Abstract

【背景】感染制御ガイドラインでは,これまで高流量経鼻酸素投与および非侵襲的換気を特殊な感染予防・制御対策を必要とするエアロゾル発生手技として分類してきた.

【目的】高流量経鼻酸素および非侵襲的換気が病原体を含むエアロゾルおよびエアロゾル発生に関連するという現在のエビデンスを評価する.

【データ】2023年3月15日までのEMBASEおよびPubMed/MEDLINE,ならびに2023年8月1日までのCINAHLおよびClinicalTrials.govの系統的検索を実施した.

【研究の選択】高流量鼻経鼻酸素または非侵襲的換気でサポートされている患者または健常ボランティアを対象とした観察研究および(準)実験研究を抽出した.

【データ抽出と統合】3人の査読者が独立した研究スクリーニング,バイアスリスクの評価,およびデータ抽出を行った.観察研究のデータは,標本レベルと患者レベルの両方でランダム効果モデルを用いてプールされた.モデル選択の影響を評価するために感度分析を行った.

【主要評価項目と評価基準】主要評価項目は,空気サンプル中の病原体の検出とエアロゾル粒子の量であった.

【結果】24件の研究が含まれ,そのうち12件は患者,15件は健康なボランティアを対象としたものであった.COVID-19患者152例を対象とした高流量経鼻酸素投与時の合計212検体におけるSARS-CoV-2検出に関する5件の観察研究をメタ解析のためにプールした.高流量経鼻酸素と病原体を含むエアロゾルとの関連は認められなかった(陽性サンプルのオッズ比は,サンプルレベルでは0.73[95%CI 0.15-3.55],患者レベルでは0.80[95%CI 0.14-4.59]).2件の研究では,非侵襲的換気中のSARS-CoV-2検出を評価した(72人の患者から84の空気サンプル).非侵襲的換気と病原体を含むエアロゾルとの関連は認められなかった(陽性サンプルのオッズ比は,サンプルレベルでは0.38[95%CI 0.03-4.63],患者レベルでは0.43[95%CI 0.01-27.12]).健常ボランティアを対象とした研究ではいずれも,高流量経鼻酸素または非侵襲的換気によるエアロゾル粒子産生の臨床的意義のある増加を報告していない.

【結論と関連性】このシステマティックレビューおよびメタ解析では,高流量経鼻酸素または非侵襲的換気と空気中病原体検出またはエアロゾル生成の増加との関連は認められなかった.これらの知見は,高流量経鼻酸素または非侵襲的換気をエアロゾル発生手技として分類することや,これらの手技を受ける患者に対する感染予防および制御の実践を区別することに反対することを主張するものである.

# by DrMagicianEARL | 2023-10-31 11:54 | 感染対策
■新型コロナワクチンがCOVID-19の感染リスクや重症化リスクを低下させることは数多くの研究で示されているが,COVID-19罹患後症状(新型コロナ後遺症,long-COVID,PASC)も軽減する報告がでてきている.今回紹介する論文は,このCOVID-19罹患後症状に対する新型コロナワクチンの有効性を検討したシステマティックレビューおよびメタ解析である.

■32件の研究が抽出され,すべて非無作為化試験であった.14件が後ろ向きコホート研究,9件が前向きコホート研究,5件が横断研究,4件が症例対照研究であった.32件の研究の品質評価スコアに関しては,Downs and Black品質ツールによると,研究の3/4以上 (28 件) が良好な品質 (28 点中19 ~ 23点),3件は公正(14~18ポイント),1件は質が低かった(≤13 ポイント).本システマティックレビューに開示すべき利益相反はなかった.

■このうち,COVID-19罹患前後に少なくとも2回の新型コロナワクチン接種を受けた人の罹患後の状態を評価した24件620,221例のメタ解析が行われ,COVID-19罹患後症状は未接種者では11.8%,接種者5.3%であり,ワクチンによるCOVID-19罹患後症状予防効果は32.0%(95%CI 11.5%~47.7%)であり,異質性はみられなかった(I2=0%).
【SR】新型コロナワクチンはCOVID-19罹患後症状(後遺症)を予防する_e0255123_11122386.png
■さらに,対象者ごとのメタ解析では
(1)21件はCOVID-19罹患前のワクチン接種のデータがあり,COVID-19罹患後症状予防効果は36.9%(95%CI 23.1%~48.2%)であった.
(2)5件はCOVID-19罹患後のワクチン接種のデータがあり,予防効果はみらなかった.
(3)7件はオミクロン流行期でのCOVID-19罹患前のワクチン接種のデータがあり,予防効果は31.6%(95%CI 13.8%~45.8%)であった.
(4)3件はCOVID-19罹患前のブースター接種のデータがあり,予防効果は68.7%(95%CI 64.7%~72.2%)であった.
COVID-19罹患後遷延症状予防におけるCOVID-19ワクチンの効果:最新リサーチでのシステマティックレビューとメタ解析
Marra AR, Kobayashi T, Yano Callado G, et al. The effectiveness of COVID-19 vaccine in the prevention of post-COVID conditions: a systematic literature review and meta-analysis of the latest research. Antimicrob Stewardship Healthcare Epidemiol 2023 Oct.13 [Online ahead of print]
https://www.cambridge.org/core/journals/antimicrobial-stewardship-and-healthcare-epidemiology/article/effectiveness-of-covid19-vaccine-in-the-prevention-of-postcovid-conditions-a-systematic-literature-review-and-metaanalysis-of-the-latest-research/A0B115B5D3AA60846799857B801D116E

Abstract

【目的】COVID-19ワクチンの接種完了者におけるCOVID-19罹患後の状態(long-COVID)に対する有効性について,システマティックレビューとメタ解析を行った.

【デザイン】システマティックレビュー/メタ解析

【方法】2019年12月1日から2023年6月2日まで,PubMed,CINAH,EMBASE,Cochrane Central,Scopus、Web of Scienceを検索し,COVID-19ワクチンを2回接種した接種者におけるCOVID-19罹患後の状態に対するCOVID-19ワクチンの有効性(VE)を評価する研究を検索した.COVID-19罹患後の症状は,COVID-19罹患後4週間以上持続する症状と定義した.ワクチン接種者とワクチン未接種者のCOVID-19罹患後症状に関するプール診断オッズ比(DOR)(95%信頼区間)を算出した.ワクチンの有効性は100%×(1-DOR)で推定した.

【結果】775,931人を対象とした32の研究でCOVID-19罹患後の状態に対するワクチン接種の効果が評価され,そのうち24研究がメタ解析に含まれた.接種者におけるCOVID-19罹患後症状に対するプールDORは0.680(95%CI 0.523-0.885)で,推定VEは32.0%(11.5%-47.7%)であった.ワクチンの有効性は,COVID-19罹患前にCOVID-19ワクチンを2回接種した人では36.9%(23.1%-48.2%),COVID-19罹患前に3回接種した人では68.7%(64.7%~72.2%)であった.層別解析では,COVID-19感染後にCOVID-19ワクチン接種を受けた人では,COVID-19感染後の状態に対する予防効果は認められなかった.

【結論】ウイルスに感染する前にCOVID-19の完全なワクチン接種を受けることで,オミクロン流行期を含む研究期間を通じてCOVID-19罹患後の症状が有意に減少した.ワクチンの有効性は追加接種を行った場合に増加した.

# by DrMagicianEARL | 2023-10-19 11:17 | 感染対策
■リファンピシンは黄色ブドウ球菌に対して極めて強い抗菌活性を有しており,効果発現も速やかで,細胞・組織・バイオフィルムへの浸透も良好である(ただし,単剤で使用すると短期間で耐性化するため必ず併用で使用することとなっている).このため,難治性の場合のオプションとして使用されることがあるが,エビデンスとしては大規模RCTが1件あり,治療失敗,菌血症再燃,死亡リスクに影響は与えないことが2017年にLancetに報告されたARREST試験で示された[PMID: 29249276]

■黄色ブドウ球菌菌血症に対する補助的リファンピシンのRCTのメタ解析が2023年8月に報告された[PMID: 37583062].全部で6報のRCTがあったが,前述のARREST以外は小規模であったため,85%のweightを占めるARRESTにかなり引っ張られる結果となっている.結果は,細菌学的治療失敗が59%減少するが,臨床的治療失敗や死亡に関しては有意差はみられなかった.これらの結果から,少なくともルーティンでのリファンピシン併用は行う必要はないと思われる.ただし,ARRESTは菌血症の割には比較的軽症集団であり,皮膚軟部組織感染症やカテーテル関連血流感染症が多いことは考慮しておく必要があり,重症例や人工物感染においてのオプションとしては考慮してもいいかもしれない.

■今回紹介する論文は,リファンピシンをリネゾリドと併用すると相互作用でリネゾリドの血中濃度が低下することを定量化して示した研究である.もともと,リファンピシンはCYP450酵素を誘導することから,リネゾリドの代謝を増加させ,血中濃度が低下することが知られている.本研究の対象は感染性心内膜炎であり,実臨床でリネゾリドを本疾患に使用することはまずないとは思われるが,MRSA感染症の難治例等ではリネゾリドとリファンピシンの併用を検討する機会はよくみられる.その際のリネゾリドの投与量には注意が必要である.
感染性心内膜炎患者においてリファンピシンはリネゾリドの血漿中濃度を低下させる
Bock M, Van Hasselt JGC, Schwartz F, et al. Rifampicin reduces plasma concentration of linezolid in patients with infective endocarditis. J Antimicrob Chemother 2023 Oct.12 [Online ahead of print]
PMID: 37823408
https://doi.org/10.1093/jac/dkad316

Abstract

【背景】リネゾリドとリファンピシンの併用は,特に黄色ブドウ球菌に感染した感染性心内膜炎の治療に用いられてきた.

【目的】リファンピシンはリネゾリドの血漿中濃度を低下させることが報告されているため,本研究ではリファンピシンとの併用による影響を定量化する目的で,リネゾリドの母集団薬物動態を明らかにすることを目的とした.また,用量調節による補正の可能性を検討した.

【方法】POET(Partial Oral Endocarditis Treatment:部分的経口心内膜炎治療)試験において,左側感染性心内膜炎に対してリネゾリドを投与された62例を対象に薬物動態測定を行った.15例はリファンピシンを併用していた.合計437例のリネゾリド血漿中濃度が得られた.薬物動態データは,一次吸収・一次排泄の1コンパートメントモデルにより適切に記述された.

【結果】リファンピシンとの併用により,リネゾリドのクリアランスが150%(95%CI 78~251%)増加することが示された.最終的なモデルは適合度プロットにより評価され,許容可能な適合を示し,視覚的予測チェックによりモデルが検証された.モデルベースの投与シミュレーションによると,リファンピシンとの併用により,リネゾリドのPTAは,MICが2mg/Lおよび4mg/Lの場合,それぞれ94.3%から34.9%および52.7%から3.5%に減少した.

【結論】感染性心内膜炎患者において,リネゾリドとリファンピシンの間に実質的な相互作用が検出され,その相互作用はこれまでの報告よりも強かった.モデルベースのシミュレーションでは,リネゾリドの投与量を増やすことで副作用のリスクを同程度増加させることなく補える可能性が示された.

# by DrMagicianEARL | 2023-10-18 13:45 | 抗菌薬
■ここ20年のPICSの研究により,ICU患者においては様々なストレスに伴う症状がみられることが知られており,浅鎮静が主流となった現在では,よりいっそうこれらの症状を訴える頻度は増加してきており,PICS予防や質の高いEnd-of-Lifeを考える上でこれらの症状を知っておくことは重要である.

■2010年にPuntilloら[PMID: 20711069]は米国の三次施設において171例のICU患者の10の症状について調査したところ,疲労(74.7%),口渇(70.8%),不安(57.9%)が最も一般的な症状であった(その他では落ち着かない49.0%,空腹44.8%,息切れ43.9%,疼痛40.4%,悲しみ33.9%,恐怖32.8%,混乱26.6%).症状の軽度を1点,中等度を2点,重度を3点とした平均値では,口渇は最も強度が高く(2.16),息切れ(1.89),空腹(1.89)も高かった.症状の苦痛の度合いについても軽度を1点,中等度を2点,重度を3点とした平均値を評価したところ,息切れが最も高く(2.34),恐怖(2.15),混乱(2.10),疼痛(2.08)も高かった.また,34.2%にせん妄がみられ,せん妄時と非せん妄時の比較では,混乱(44% vs 22%)と悲しみ(46% vs 31%)はせん妄時が有意に多く,疲労(57% vs 77%)は非せん妄時が有意に多かった.

■このPuntilloらの研究は,苦痛のある症状がICU患者の大多数に存在することを示唆しており,ICU患者のより広範な症状の有病率,強度,苦痛を評価する調査の基礎を築いた.今回紹介する論文はノルウェーにおいて2018年10月から2020年6月まで2施設のICUにおいて,患者が経験した症状の有病率,強度,苦痛を評価した前向き観察研究である.症状は,Chanquesらの推奨[PMID: 25758669]に従って,データ収集の実現可能性を高めるために,前述のPuntilloらが用いた元のPSSから5つの症状(疼痛,口渇,不安,疲労感,息切れ)に限定して評価している.

■結果は,有病率については以下の通りであった.
・口渇や疲労が6~7割
・疼痛や息切れが3~4割
・不安が2~3割程度
強度についても口渇が最も強く,次いで疲労であった.苦痛については不安や疼痛が強かった.ICU入室7日間での多変量解析による症状の有意な予測因子は以下の通りであった(「負の関連」は症状軽減に関連している).
・口渇:敗血症,鎮痛薬投与
・疼痛:若年,人工呼吸器装着(負の関連),鎮痛薬投与(負の関連)
・不安:面会(負の関連)
・疲労:有意な予測因子なし
・息切れ:女性

■口渇症状が最も多いことは既知の研究(有病率はおおむね7割台)と一致しており,口腔ケアは口渇症状を軽減するものの,その効果は1時間程度しかもたないことも報告されており[PMID: 34059413],より頻回なケアが必要となる.Tsaiら[PMID: 36535871]は11報のシステマティックレビューを行い,術後患者への氷などによる冷たい口腔刺激が有効であることを報告した.Puntilloら[PMID: 36535871]は,術後患者において,口腔綿棒ワイプ,滅菌氷冷水スプレー,口唇保湿剤などの「口渇バンドル」を導入することで口渇症状が大幅に軽減できたと報告している.VonSteinら[PMID: 30600225]は,氷水の口腔綿棒とメントール配合の口唇保湿剤により口渇の強度を有意に軽減したと報告している.口渇以外の症状についても同様のことがいえるが,特に頻度が高い症状についてはより頻回に拾い上げて介入に入るだけでなく,介入頻度にも注意が必要である.
集中治療室の患者が経験した自己報告による症状:多施設共同前向き観察研究
Saltnes-Lillegård C, Rustøen T, Beitland S, et al. Self-reported symptoms experienced by intensive care unit patients: a prospective observational multicenter study. Intensive Care Med 2023 Oct 9[Online ahead of print]
PMID: 37812229
https://doi.org/10.1007/s00134-023-07219-0

Abstract

【目的】本研究の目的は,集中治療室(ICU)患者における5つの症状の有病率,強度,苦痛を記述し,症状強度に関連する可能性のある予測因子を調査することである.

【方法】本研究はICU患者の前向きコホート研究である.症状質問票(すなわち,患者症状調査)を用いて,ICU7日間の疼痛,口渇,不安,疲労感,息切れの有病率,強度,苦痛を記述した.一般推定式(GEE)モデルを用いて,症状強度と予測因子との関連を評価した.

【結果】対象患者603人のうち,353人(サンプル2)が本研究に組み入れられた.ICU初日,195人の患者(サンプル1)は,口渇が最も多い症状(66%)であり,平均強度スコアは最も高かった(6.13, 95%CI [5.7-6.56]).口渇は,ICUでの7日間の入院中,最も有病率が高く(64%),最も強い症状(平均スコア6.05, 95%CI [5.81-6.3])であった.不安は,初日と7日間(平均スコア5.46, 95%CI [4.95-5.98])で最も苦痛な症状(平均スコア5.24, 95%CI [4.32-6.15])であった.7日間では,鎮痛薬投与と敗血症診断が口渇強度の増加と関連していた.高齢と機械的人工呼吸は疼痛強度の低下と関連し,鎮痛薬投与は疼痛強度の増加と関連した.家族の面会と女性の性別は,それぞれ不安の強さと息切れの強さの増加と関連していた.

【結論】自己申告によるICU患者は,7日間にわたって一貫した高い症状負担を経験していた.特定の変数が症状強度の程度と関連していたが,これらの関連をよりよく理解するためにはさらなる研究が必要である.

# by DrMagicianEARL | 2023-10-10 11:53 | 敗血症
■基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)は大腸菌や肺炎桿菌などでよくみられるβラクタマーゼであり,多くのペニシリン系抗菌薬,セファロスポリン系抗菌薬,モノバクタム系抗菌薬は無効である.また,近年はキノロン系抗菌薬も8割程度が無効となっており,ESBL産生菌に対してキノロン系抗菌薬は原則使用できないと考えるべきである.ESBL産生菌は,細胞分裂による増殖に加えて,プラスミド伝達により,耐性化していない他の菌をESBL産生菌に容易に変えてしまうため,その耐性化は非常に厄介である.加えてこのプラスミド伝達は異なる菌種にまで拡散しうる.

■ESBL産生菌にはカルバペネム系抗菌薬以外でもTAZ/PIPC,セファマイシン系抗菌薬(セフメタゾール:CMZ),オキサセフェム系抗菌薬(フロモキセフ:FMOX),ホスホマイシン(FOM)などが有効であるとして実臨床では用いられている.実際に私も敗血症や菌血症の超急性期でない限りはESBL産生菌(Enterobacter を除く)に対してはCMZで対応しており,今のところ奏功しなかった経験はない.

■ESBL産生菌におけるCMZの有効性を検討した研究はPubMedでは48報ヒットし,多くが日本からのものである.Kusumotoら[PMID:37150609]は,本邦のESBL産生菌218株を解析し,ESBL産生のみ(AmpCなし)の肺炎桿菌,P. mirabilis に対するCMZの感性率は95.5%,82.7%と良好であった.一方で,本邦のYamashiroらによる基礎研究[PMID:37610203]がpublishされており,MIC 4-16µg/mLのESBL産生大腸菌において,CMZのヒト血中濃度を模倣した条件下でも菌の再増殖がみられ,24時間で耐性獲得が発生し,この再増殖した菌ではFMOXやMEPMのMICも上昇していた.これらのことから,CMZではCLSIのブレイクポイントはESBL菌に対する効果を過大評価している可能性が示唆されていた.

■臨床研究では,Hamadaら[PMID:34348852]は39例の解析を行い,正常腎機能において,CMZ 1 gを8時間ごとに1時間以上点滴静注することは,MIC≦4mg/LのESBL産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対して有効と報告している.Kuwanaら[PMID:33336036]は,25例の症例集積検討で,ESBL産生菌による尿路感染症が原因の敗血症患者ではバイタルサインが安定している場合には,広域抗菌薬からCMZへのde-escaltion戦略が潜在的な治療選択肢であると報告している.

■今回紹介する論文は,ESBL産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対するCMZ vs MEPMの有効性を検討した本邦10施設共同127例観察研究である.死亡率,再発率,微生物学的有効性には有意差はみられておらず,CMZ使用によりカルバペネム系抗菌薬を温存できる可能性が示唆されている.
基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生大腸菌による侵襲性尿路感染症に対するセフメタゾールvsメロペネムの有効性
Hayakawa K, Matsumura Y, Uemura K, et al. Effectiveness of cefmetazole versus meropenem for invasive urinary tract infections caused by extended-spectrum β-lactamase-producing Escherichia coli. Antimicrob Agents Chemother 2023 Sep 13[Online ahead of print]
PMID: 37702483
https://doi.org/10.1128/aac.00510-23

Abstract

【背景】セフメタゾールは,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生性大腸菌(ESBLEC)に対して活性を示し,カルバペネム温存療法の候補となりうる.

【方法】この多施設共同観察研究では,2020年3月~2021年11月に日本国内の10施設でESBLECによる侵襲性尿路感染症で入院した患者を対象とし,培養採取後96時間以内にセフメタゾールまたはメロペネムのいずれかを確定療法として開始し,少なくとも3日間継続した.転帰は,臨床的および微生物学的有効性,28日以内の再発,全死亡(14日,30日,院内)とした.転帰は,セフメタゾールまたはメロペネムの投与を受けた傾向スコアの逆確率で調整した.

【結果】セフメタゾール群には81例が,メロペネム群には46例が組み入れられた.菌血症の割合はセフメタゾール群で43%,メロペネム群で59%であった.セフメタゾール群とメロペネム群の患者における粗臨床効果,14日後,30日後,および院内死亡率は、それぞれ96.1% vs 90.9%,0% vs 2.3%,0% vs 12.5%,および2.6% vs 13.3%であった.傾向スコア調整後,臨床的有効性,院内死亡リスク,再発リスクは両群間で同等であった(それぞれP=0.54,P=0.10,P=0.79).データが得られた全症例(セフメタゾール:n=61,メロペネム:n=22)において,両薬剤は微生物学的に有効であった.すべての分離株で,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子としてblaCTX-Mが検出された.CTX-MサブタイプはCTX-M-27(47.6%)が優勢であった.

【結論】セフメタゾールは,ESBLECによる侵襲性尿路感染症に対して,メロペネムに匹敵する臨床的・細菌学的有効性を示した.

# by DrMagicianEARL | 2023-09-14 10:53 | 抗菌薬

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