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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■ICUにおける早期リハビリテーションの重要性はかなり浸透してきており,本邦では診療報酬改定により早期離床加算も登場しています.ではエビデンスの方はどうか?というと,必ずしも確たる有益性を示しきれているわけではありません.もちろん益があるからこそ推奨はされているのですが,そのeffect sizeはそこまで大きくなく,有意差がついているアウトカムも限られているのが現状です(BMJ Open 2018; 8: e019998)

■今回紹介する論文は,標準的な早期リハビリテーションにベッド上サイクリングと四肢の電気筋刺激を追加すると筋力が改善するかどうかについて検討したRCTです.結果はネガティブで,筋力(MRC score)も有意差がついていません.ICUAWは評価されていませんが,MRC scoreを見るにおそらくはICUAWの予防にはなっていないと思われます.同様に6ヶ月後の健康関連QOLであるSF-36も有意差なしです.

■気になるのはICU死亡率です.統計学的有意差はついていませんが,介入群20.9% vs 標準ケア群15.6%で,絶対差にして5.4%の差がついていて,臨床的には無視できない差だと思います(考察では一切触れられていません).SAPSⅡやSOFAスコアは介入群の方がほんのわずかながら高いですが,こんなわずかな重症度の差で死亡率にここまでの開きが出るとは考えにくいです.そしてこの差は退院時,28日,6ヶ月時点でも維持されています(つまりICUで差がついている).

■私自身,ICU早期リハのシステマティックレビューを行った時に気が付いたことがあります.これまでのICU早期リハのRCTで介入群で死亡リスクが増加傾向を示した研究は複数あり,また,今回の研究を含むICU死亡率を評価した3つのRCTはすべて死亡リスクが増加傾向です.いずれも統計学的有意差はついていないものの,今回のRCTを含めて共通点がみられます.その共通点は,リハビリテーションの強度がかなり強めということです.非ICU患者のRCTでも,超早期から強度の強いリハビリテーションを行うと死亡率や神経学的予後が悪化した研究が2つあります.現時点でこれらの原因は明らかになってはいませんが,高度侵襲期にある患者への強度の強いリハビリテーションが何らかの悪影響を及ぼしている可能性があるのかもしれません.Too much is not always better,ということでしょうか.「ICUではリハビリは早期から,でも強度は強すぎず」が一番いいのかもしれません.
重症成人患者におけるベッド上サイクリングと四肢の電気筋刺激の筋力への影響
Fossat G, Baudin F, Courtes L, et al. Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2018; 320: 368-78
PMID: 30043066

Abstract
【背 景】
早期のベッド上サイクリングと電気筋刺激はICU患者におけるリハビリテーションの有益性を改善させる可能性がある.

【目 的】
標準的な早期リハビリテーションに早期のベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加えることでICU退室時の筋力がより強化されるかどうかを検討する.

【方 法】
本研究はフランスの1100床の病院のICUにおける重症成人患者を登録した単施設無作為化臨床試験である.2014年7月から2016年6月まで登録を行い,2016年11月24日まで6ヶ月の追跡を行った.患者は標準的早期リハビリテーションに早期のベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加える群(n=159)または標準的早期リハビリテーションのみの群(n=155)に無作為に割り付けられた.主要評価項目は盲検化された理学療法士のMedical Research Councilグレードシステム(点数幅0-60点;高い点数ほど良好な筋力を反映;最小の臨床的に重要な差は4点)を用いた評価によるICU退室時の筋力とした.副次評価項目はICU退室時の人工呼吸器非装着日数とICU Mobility Scaleスコア(点数幅0-10点;高い点数ほど良好な歩行能を反映)とした.機能的自立と健康関連QOLは6ヶ月時点で評価した.

【結 果】
無作為化された患者314例のうち,312例(平均年齢66歳,女性36%;研究登録時の人工呼吸器装着78%)が研究を完遂し,解析に組み込まれた.ICU退室時の国際的なMedical Research Councilスコア中央値は介入群で48点(四分位範囲 29 to 58),標準ケア群で51点(四分位範囲37 to 58)であった(中央値差-3.0[95%CI -7.0 to 2.8]; p=0.28).ICU退室時のICU Mobility Scaleスコアは両群とも6点(四分位範囲3 to 9)であった(平均差0[95%CI -1 to 2]; p=0.52).28日時点での人工呼吸器非装着日数は介入群で21日(四分位範囲6 to 25),標準ケア群で22日(四分位範囲10 to 25)であった(中央値差1[95%CI -2 to 3]; p=0.24).運動セッションの間の臨床的に意義のある有害事象は,介入群で7例(4.4%),標準ケア群で9例(5.8%)であった.6ヶ月時点で評価されたアウトカムについては両群間で有意差はみられなかった.

【結 論】
ICUに入室した患者を登録した本単施設無作為化臨床試験において,標準的早期リハビリテーションプログラムにベッド上サイクリングと四肢筋の電気刺激を加えることは,ICU退室時の筋力を改善させなかった.

# by DrMagicianEARL | 2018-08-07 12:01 | 文献
■今回紹介する論文は,いわゆる「明日から臨床現場で使える小技」的なRCTです.局所麻酔でリドカイン注射をする際,その注射自体の疼痛はどうしても発生してしまうため,患者さんに我慢してもらうしかないのですが,リドカイン注射をする前にリドカイン1-2mLほどを皮膚の上に滴下することで注射の際の疼痛を有意に減じることができたとのことです.

■キシロカインゼリーを皮膚に塗った場合,5分程度で鎮痛効果が出るとされてますが,この研究の場合は注射前にどれくらいの時間をおけばいいんだろう?と見てみると,「immediately prior to subcutaneous injection of the 1% lidocaine」と書いてありますので,ほんと直前でいいということなんでしょう.ですので,1%リドカイン注射器から皮膚上に滴下してそのまま刺せばいい,という非常にお手軽な手技になります.
ベッドサイド手技で生じる疼痛における2つのリドカイン投与方法の比較:無作為化臨床試験
Patel BK, Wendlandt BN, Wolfe KS, et al. Comparison of Two Lidocaine Administration Techniques on Perceived Pain From Bedside Procedures: A Randomized Clinical Trial. Chest. 2018 Apr 24[Epub ahead of print]
PMID: 29698720

Abstract
【背 景】
リドカインは手技を行う上での疼痛を減じるために使用されるが,リドカイン注射中は逆に疼痛が増してしまう.疼痛の知覚は疼痛ゲート制御理論に基づいて,温度や接触のような非有害な刺激によって制御することができる.我々は,注射前に皮膚に滴下したリドカインが皮膚表面を冷やすあるいは皮膚表面に触れることで,注射による疼痛を軽減すると仮説を立てた.

【方 法】
手技を受けた患者の無作為化臨床試験を2011年2月から2015年3月まで行った.全患者が1%リドカインの皮下注射を受けた.介入群に無作為割り付けされた患者は,リドカイン皮下注射の前に1-2mLのリドカインを皮膚表面に滴下した.患者は介入の詳細については盲検化されており,視覚的アナログスケールを用いて主要な結果(手技による疼痛の程度)を記録するため,盲検化された研究者によって調査された.

【結 果】
481例の患者で同意が得られ,治療を無作為化された.視覚的アナログスケールを用いた結果,介入群で手技による疼痛の主要評価項目は有意に改善した(対照群16.6±24.8mm vs 介入群12.2±19.4mm; p=0.03).サブ解析では,末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)において疼痛スコアが改善していた(対照群18.8±25.6mm vs 介入群12.2±18.2mm; p=0.02).

【結 論】
ベッドサイド手技は非常に一般的に行われている.手技による疼痛の程度に関するデータとそれを軽減するための方法はインフォームドコンセントのプロセスや患者満足度において重要である.全体として,一般的なベッドサイド処置から報告される痛みは弱いが,リドカインを皮膚表面に滴下して疼痛知覚を制御することにより疼痛をさらに減じることができる.

# by DrMagicianEARL | 2018-08-06 11:21 | 文献
■海外で行われていたDIC治療薬のヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン(リコモジュリン®)のPhaseⅢであるSCARLET trialの結果が8月2日に旭化成ファーマ株式会社からプレスリリースされた.結果はネガティブ.軽症例を多数登録してしまうとハードアウトカムに有意差はつきそうにもないので,ある意味予想通りではあったが,日本発の薬剤がこういう研究デザインの問題でネガティブな結果になってしまうのはなんとも複雑な気分ではある.内容を見るにプロトコル違反もあって,どうもPer-Protocol解析なら有意差つきそうな印象はあるが,そこはpublishデータを見ないとなんとも分からない.

■以下ではこの研究のデザインとプレスリリースデータを見ていく.
研究名:SCARLET trial
試験登録:ClinivalTrialGov. NCT01598831(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01598831?term=ART-123&rank=5

デザイン:国際多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験(PhaseⅢ)
参加国・地域:北米、南米、欧州、アジア・オセアニア(日本を除く)

P(対象):18歳以上の重症敗血症(Sepsis-3ではない)かつ凝固障害(DICとは異なる)
・ICUまたは急性期ケア(ERなど)で治療を受ける
・細菌感染と感染巣の根拠が臨床的に観察されている
・敗血症による心血管障害または呼吸不全を有する
・他に要因がないPT-INR>1.4かつ,血小板数が30,000/mm3より多く150,000/mm3より少ない,若しくは24時間以内に30%を超える減少の凝固障害

I(介入):ART-123(ヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン)0.06 mg/kg/day(=380単位/kg/day)で最大用量6 mg/dayまでを6日間

C(対照):プラセボ

O(アウトカム):主要評価項目:28日全死亡率,28日以内の有害事象,28日以内の重篤な有害事象として収集された主要な出血)副次評価項目:頭蓋内出血,生命を脅かす出血,研究者によって重篤に分類された出血事象,連続する2日間にわたって1440mL(6単位)の赤血球輸血を要する出血
■まず,本RCTの対象は敗血症性DICではなく,PT-INR>1.40と血小板減少のみで規定された敗血症性凝固障害である.基本的に欧米ではDICはあまり浸透しておらず,PhaseⅡb[1]のpost hoc解析でPT-INR>1.40において特に有益性が認められたため,このようなデザインになっている.

■この時点で「あ,これは有意差つかないんじゃないか?コケるんじゃない?」と予想はしていた.研究デザイン的にかなり軽症例を含むことになるため,おそらく対照群の死亡率は30%は切るだろうし,死亡率に有意差はかなりつきにくい(これでなぜ対照群の予測死亡率を35%という高いものに見積もったのかは不明).私自身,敗血症性DICに関して遺伝子組換えトロンボモデュリンは使用するが,軽症例に対しては使用していない.

■またDICではない敗血症患者に対するDIC治療薬投与が予後を改善しないことは以前から指摘されていて,これはJSEPTIC-DIC studyでも示されている[2].PT-INR>1.40の延長がimmunothrombosis[3]の範疇に入る生体に保護的な生理的範囲の凝固(coagulation)なのか生体に有害な凝固障害(coagulopathy)なのかは分からないため,前者に対して遺伝子組換えトロンボモデュリンを投与している(=理論的には逆効果の)可能性も十分にある.実際,マウスモデル研究ではDIC非合併状態だとトロンボモデュリンのレクチン様ドメインの存在がむしろ有害な可能性を示しているものもある[4].血小板減少もあわせて見ているものの,やはり登録基準に凝固線溶系マーカーは入っていてほしかったところである.さらに,PhaseⅡb[1]のサブ解析をもとにRCTを組み直してるわけだが,集中治療領域でサブ解析で有意差がついたことを根拠にRCTをやってポジティブになるケースは極めて稀である.このあたりは旭化成ファーマが海外承認を得ることを目的としているためFDA等の監視のもと進めるので,PhaseⅢからいきなりDIC基準に切り替える,なんてことも難しかったのであろう.

■なお,PT-INR>1.4かつ血小板数<15万の患者ならば急性期DIC診断基準も満たすのではないか?との疑問もあるかもしれない.参考までに日本救急医学会Sepsis Registry解析データ[5]を見ると,急性期DIC診断基準を満たさない重症敗血症患者でもPT-INRの平均値は1.4±0.56,血小板数21.5万±11.1万であり,非DIC症例も相当な数が混ざってくる可能性が分かる.

■次にプレスリリースで公表された結果である.
旭化成ファーマプレスリリース内容:http://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2018/me180802.html
主要評価項目:28日死亡率 遺伝子組換えトロンボモデュリン群26.8%(106/395例),対照群29.4%(119/405症例),絶対差2.6%
検定(本ブログ管理人算出):p=0.433(Fisher検定),RR 0.913, 95%CI 0.73-1.14

1.血液凝固マーカーであるD-ダイマー,トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT),プロトロンビンフラグメントF1+2濃度,並びに血小板数の推移は,PhaseⅡbと同様に対照群と比較して改善が見られた.

2.本剤投与直前までPT-INR並びに血小板数のクライテリアを満たしていた患者(約600例)では,本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は4.5%以上であった.なおこの中で,治験薬を4回以上投与できた患者(約450例)に限ると,本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は約7%であった.

新たに懸念すべき有害事象は見られなかった
■予想通り対照群の死亡率は30%を下回っており,絶対差も2.6%と小さい.相対死亡リスク減少は8.7%.原疾患治療がうまくいって,試験薬を投与する頃には凝固障害が解除されていた症例が1/4以上あったようで,治験薬を4階以上投与した患者も半数しかいないことを考えれば,本RCT全体での重症度はやはり高くなかったのであろう.遺伝子組換えトロンボモデュリン(や他のDIC治療薬)は重症度が高いほど死亡リスク減少効果がでることが知られており,代表的なものとして,Yamakawaらのメタ解析[6]やJSEPTIC-DIC studyの解析[2]が挙げられる.

■非DIC,非重症例が多い集団でのRCT結果であるので,本研究結果を本邦の臨床現場に適用させるのは難しいが(少なくとも軽症例ではやはりDIC治療は不要とは言えるかもしれない),はたしてこの結果を米国FDAがどう判断するかである.まだpublishはされていないものの,既に欧州集中治療医学会で結果が公表されたPMX-DHPの大規模RCTであるEUPHRATES trialについては,ITT解析としては予後の改善はみられなかったが,PP解析やサブ解析により予後改善がみられていることもあってのせいか,FDAは追加試験を承認している.そして,ClinicalTrialGov.で検索してみると,既にSCARLET2 trialが登録されていた.登録予定患者数は800例で,登録基準を見ると,SCARLET trialとかなり似てはいるが,臓器障害が敗血症性ショックまたはPaO2/FiO2<250と具体的表記がある.ただ,凝固障害についてはDICではなく引き続きPT-INRと血小板のみで規定している.詳しくはこちらのリンクを参照していただきたい.
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03517501?cond=ART-123&rank=3

■最後に,これまでの遺伝子組換えトロンボモデュリンのRCTについて私の方でRを用いてメタ解析を行ってみた.対象は各RCTごとに異なるため,網羅的表現としては敗血症性DICではなく感染性凝固障害となるが,死亡率のメタ解析結果は以下の通りである.OR 0.84, 95%CI 0.67-1.05で,統計学的有意差はついていない.ただし効果量は0.84,95%信頼区間上限も1.05であり,出血リスクと勘案しても益が害を上回るとはいえる.また不精確性はあるもののI2=0であり,一貫した有益性が示唆される.あとはコストやその施設における敗血症患者集団の重症度,治療成績との兼ね合いであろう.
【速報】敗血症性凝固障害に対するヒト遺伝子組換えトロンボモデュリン海外PhaseⅢの結果_e0255123_14181539.png
[1] Vincent JL, Ramesh MK, Ernest D, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled, Phase 2b study to evaluate the safety and efficacy of recombinant human soluble thrombomodulin, ART-123, in patients with sepsis and suspected disseminated intravascular coagulation. Crit Care Med 2013; 41: 2069-79, PMID: 23979365
[2] Yamakawa K, Umemura Y, Hayakawa M, et al; Japan Septic Disseminated Intravascular Coagulation (J-Septic DIC) study group. Benefit profile of anticoagulant therapy in sepsis: a nationwide multicentre registry in Japan. Crit Care 2016; 20: 229, PMID: 27472991
[3] Engelmann B, Massberg S. Thrombosis as an intravascular effector of innate immunity. Nat Rev Immunol 2013; 13: 34-45, PMID: 23222502
[4] Schouten M, de Boer JD, van 't Veer C, et al. The lectin-like domain of thrombomodulin hampers host defence in pneumococcal pneumonia. Eur Respir J 2013; 41: 935-42, PMID: 22936703
[5] Gando S, Saitoh D, Ogura H, et al; Japanese Association for Acute Medicine Sepsis Registry Study Group. A multicenter, prospective validation study of the Japanese Association for Acute Medicine disseminated intravascular coagulation scoring system in patients with severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R111, PMID: 23787004
[6] Yamakawa K, Aihara M, Ogura H, et al. Recombinant human soluble thrombomodulin in severe sepsis: a systematic review and meta-analysis. J Thromb Haemost 2015; 13: 508-19, PMID: 25581687

# by DrMagicianEARL | 2018-08-03 14:19 | 敗血症性DIC
■ここ数日でテレビやSNSにおいて高齢者の延命治療の問題が話題となっている.ことの発端は大口病院で起きた点滴内消毒剤混入による殺人事件の被疑者が逮捕されたことによる.そして,Twitterにおいて療養病床に勤務する看護師が大口病院にからめて高齢者の延命治療に関して持論を展開し,それらのツイートが多数の人達に大量にリツイートで拡散されていき,まとめサイトにも投稿された.高齢者の延命治療の問題が議論され,一般市民にも浸透することは有益であるが,今回のSNSでの一連の流れで危惧していたことが現実になっているため,ここに批判を記しておく.

1.SNSにおけるとある看護師のツイートについて

■拡散した看護師のツイートを見るに,自身の病院での治療・ケアの実態が書かれていて,療養病床での悲惨さを訴えられている.私も急性期に勤めつつ非常勤で療養病床や在宅往診をやっていたが,この看護師のツイートには杜撰というか不可思議というかそういう医療行為が随所に見られ,高齢者医療が悲惨というよりもその施設独特の看護ケアの慣習が悲惨なことになっているのではないか?高齢者延命問題を語る前にまずその医療行為レベルをどうにかすべきでは?という印象を受けるが,そこは本題からずれるのであえてこれ以上はつっこまない(ただ勉強はし直してほしい).

■なぜ大口病院殺人事件と高齢者延命問題を関連づけたのかである.かの事件はさっそう大量殺人に他ならず,安楽死でも尊厳死でもない.容疑者の供述である「自分の勤務時間帯に患者が亡くなると家族に説明するのが面倒だった」「20人以上でやった」が事実だとすれば,それはもう医療従事者どころか人としての一線を大きく踏み越えた上にそれを20回以上も常習的に行っていたわけで,この事件をきっかけにするには前提条件があまりに異なる.

■ツイートした看護師は,容疑者を擁護しているつもりはないとしつつも「私も同じことをしたかもしれない」と書いており,職場環境の問題があったとしても療養病床に入院している患者の家族がこのツイートを見るとどう思うかである.自分の勤務時間帯に患者が亡くなれば当然仕事量が増え,家族対応も必要になる.そういう意味では,それを回避したいという気持ちがでることはあるだろうが,それと「だから殺す」は全く別物であり,これで共感するというならその職場を去るべきだろう.

■加えて,療養病床の実態をツイートするにあたり,年金目当てで延命を希望する家族を持ち出し,ことさら強調している.確かに年金目当ての延命希望をする家族は私も経験があるが,このようなケースはほんのごく一部に過ぎない.しかし,このツイートから「療養病床にいる高齢患者の家族は年金目当てばかり」という誤解が発生しかねない,と思っていたら見事に「年金で貰える金のために延命させられる高齢者医療の現実」というタイトルで看護師のツイートがまとめサイトに投稿されてしまった.ああいうツイートをすればこういうことが起こることくらい想像がつかなかったのだろうか?高齢患者全体にマイナスイメージがついてしまうのはよくない風潮である.

■繰り返すが,終末期の高齢患者のうち,年金目当ての延命希望ケースはほんのごく一部に過ぎない.なのにそれをことさらに強調して高齢者延命問題を議論するのは全くの不毛である.誤った結論にいきつくだけであるし,年金目当てではない大部分の高齢患者やその家族には適用できるわけがないからである.

■そしてなぜか,年金目当ての延命希望をした患者家族のツイートだけはハッシュタグで「#大口病院」をつけていた.これではあたかも大口病院で殺された犠牲者が年金目当てで延命されていたかのような書き方になっている.大口病院の話をどうしてもからめたいなら犠牲者目線もいれるべきであろうが,そこへの配慮は皆無としか言いようがない.

■高齢者医療の理想を語るのはいいが,「現場の看護師として実情を訴えたい」のであれば,大局的な話ではなく,患者やその家族一人一人がなぜ延命を選択したかも配慮すべきである.極端例だけを持ち出しても誤解しか生まれない.

2.高齢者延命問題にからむ固定観念

■最近,「患者は高齢だから一律に延命不要」という,高齢者を一括りにしてしまう主張をする医療従事者をSNSや某医療従事者コミュニティで散見する.書き込みを見ると実際に実臨床でそういうプラクティスをされておられるが,これはこれでかなり問題だなと感じている.

■高齢者の終末期延命問題に関しては,既に複数の学会から声明等を出しており,QOL/QOD(生活の質/死の質)や終活といった話が活発化しているし,私自身も高齢者の肺炎について,治療により救命はしうるがQOLが下がることの懸念から安易な延命には慎重になる必要があるとのレビューをいくつか執筆している.

■だが,勘違いしてはいけないのは,これらは「延命はダメ」という話ではないということである.これらの高齢者延命問題に対する方向性は,あくまでもエビデンスや臨床現場や学会意見等をふまえた最大公約数的なものに過ぎず,それがすべてではないし,肝心のエビデンスもまだ非常に脆弱であり,ゴールデンスタンダードと呼べるものがあるような領域ではない.

■なので,高齢であるから延命した場合に何が想定されるかの説明を家族にした上での提案程度ならよいが,「高齢だから治療は一律に無意味」という主義主張は暴論になりかねず,インフォームドコンセントのプロセスもすっ飛ばしてその主義主張を医療従事者が患者家族に対して一方的に強引に押し付けることはあってはならない.個々の患者での対応を考えるべき現場の医師がこれをやっては本末転倒である.

■無論,自分の家族の死を決定してしまうという葛藤から延命を希望されるケースも少なくないし,そういう話をこちらから出した直後は特に多い.だが,その後は家族内での話合い等を経ていくと,その延命希望の理由は詳しく聞けば患者家族ごとに様々であり,それらを無視して医療費問題や年金問題に安易につなげるのはいかがなものかと思う.

■延命はダメだということを前提条件にしていたり,患者や家族が延命を選択した理由の考慮をしていなかったりすると間違った延命バッシングにいきかねないし,そういうバッシングが出てきてしまっているのが事実である.延命問題を議論する上で,医療従事者側の事情だけが先行するのは避けるべきだろう.

# by DrMagicianEARL | 2018-07-13 14:38
■この度の西日本の豪雨災害でお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈り申し上げます.また,被災された方々の1日でも早い復興をお祈りいたします.

■被災地での医療は通常の状況とはかなり異なり,疫学的状況が大きく変化します.このまとめは2年前の熊本地震の際に作成したものですが,ひきつつ以下に感染制御をはじめとする種々の医療関連マニュアルや各学会からの注意喚起を掲載します.被災地での活用や,今後の災害に備えての参考にしていただければ幸甚です.また,「こんなマニュアルもあるよ」というのがあれば御教授ください.こちらに掲載いたします.
【緊急】「平成28年熊本地震」への対応(日本内科学会)
http://www.naika.or.jp/saigai/kumamoto/
日本薬剤師会熊本地震専用ホームページ
http://www.nichiyaku.or.jp/saigai2016/index.html
大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引き
http://www.kankyokansen.org/other/hisaiti_kansenseigyo.pdf


災害と感染症対策
http://www.kansensho.or.jp/disaster/index.html

やむを得ない場合の抗HIV薬内服中断の方法について(東日本大震災時情報)
http://www.acc.ncgm.go.jp/earthquake/020/110315_001.html

医療資源の限られた状況における敗血症治療の推奨(欧州集中治療医学会:英文,フルテキスト無料)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22349419
災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2014_shimokawa_h.pdf


循環器系学会からの被災地の皆様への注意とお知らせ~避難所生活の方と車中で避難をされておられる方へ~いわゆるエコノミークラス症候群の予防について
http://www.j-circ.or.jp/topics/20160418_vte.htm
厚生労働省からの周知依頼「平成28 年熊本地震で被災した妊産婦及び乳幼児等に対する支援のポイント」
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20160418_kumamoto.pdf
平成28年熊本・九州地震に伴う「日本糖尿病学会 熊本・九州地震対策本部」の設置について
http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=62
高齢者災害時医療ガイドライン(試作版)第2版
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/member/kaikai/koku_saigai-guideline.html
日本透析医会災害情報ネットワーク
https://www.saigai-touseki.net/

熊本県透析施設協議会
https://www.saigai-touseki.net/?bid=100
リウマチ性疾患あるいは膠原病患者の内服薬について(東日本大震災時情報)
http://www.ryumachi-jp.com/info/news110314.html
熊本県災害時の栄養管理ガイドライン~市町村における避難所栄養管理のための手引き~
http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_2574.html
災害精神保健医療マニュアル
http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/H22DisaManu110311.pdf

子どもの心のケアのために(日本小児科医会)
http://jpa.umin.jp/download/kokoro/PTSD.pdf

災害時の発達障害児・者支援エッセンス-発達障害のある人に対応するみなさんへ-
http://www.rehab.go.jp/ddis/%E7%81%BD%E5%AE%B3%E6%99%82%E3%81%AE%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E5%85%90%E3%83%BB%E8%80%85%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/?action=common_download_main&upload_id=813
大規模災害リハビリテーション対応マニュアル
http://www.jrat.jp/images/PDF/manual_dsrt.pdf
災害ボランティアの安全衛生対策マニュアル VER4.1
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/volunteer/bousai-volunteer/link/pdf/anzen_manual_ver4.1.pdf

# by DrMagicianEARL | 2018-07-08 20:07