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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

Summary
・MRSAに対してはニューキノロン系はほとんどが耐性化しており,たとえ感受性があっても速やかに耐性化を獲得されてしまうため,原則としてニューキノロン系をMRSAに用いることはない.
・ABK耐性MRSAは増加傾向にあり,現在10%弱が耐性化している.その耐性化機構にはAAC(6')/APH(2'')が関与している.

■以下ではMRSAに対して感受性を示しうる抗菌薬に対する耐性について記載する.

1.ニューキノロン系に対する耐性化

■ニューキノロンは,環状のds-DNAに負のスーパーコイルを導入するDNAジャイレース(GyrA,GyrB)と,複製したds-DNAを解離(デカテネーション)させるトポイソメラーゼⅣ(GrlA,GrlB)の活性を阻害し,結果として細菌のDNA複製を停止させることで殺菌効果を発揮する[1]

■ニューキノロン耐性を引き起こすGrlAとGyrAのアミノ酸置換変異は,特異的領域に集中している[2,3].この領域は多くの菌種間で保存性が高く,キノロン耐性決定領域(quinolone-resistance-determining-region:QRDR)といわれている.MRSAでは,GrlAのアミノ酸64位から103位間,およびGyrAのアミノ酸68位から107位の領域がQRDR領域と推定されている.QRDRに変異が蓄積すると細菌はキノロン高度耐性となっていく[4]

■MRSAを含めた黄色ブドウ球菌では,GyrとGrlのQRDRの段階的変異によって,ニューキノロン高度耐性菌が出現する[5]

■黄色ブドウ球菌の薬剤排出ポンプとして,NorA,NorB,QacA/B,Smr,MdeA,MepAなどが同定されている[6,7].これらは基質特異性が低く,種々の化学物質を細胞外に排出する.このうちニューキノロンを排出する蛋白質としてはNorA,NorB,MepAが知られている[6].しかし,臨床におけるMRSAの薬剤排出蛋白質によるニューキノロン耐性への関与は,薬剤標的部位の変異と比べて低い.

■2000年以降,GrlAとGyrAの多重変異をきたしたニューキノロン高度耐性MRSAが増加している.この多重変異パターンは,多段階変異だけでは説明し難いほど多様である.最近,本邦で分離されるMRSAの約40%が保有する多剤排出ポンプ遺伝子qacBⅢの産生する蛋白質QacBⅢはキノロンも排出することが明らかとなった.QacBⅢをもつMRSAのほとんどはレスピラトリーキノロンに高度耐性である.

■現在MRSAはほとんどのニューキノロンに耐性化してきており,STFXのみが良好な感受性を有している.しかしながら,速やかに耐性化を獲得されてしまうため,原則としてニューキノロン系をMRSAに用いることはない.
※MRSAに限らず,一般的に黄色ブドウ球菌にニューキノロン系単剤治療は行わない方がよい.

2.アミノグリコシド系(ABK)に対する耐性化

■抗MRSA薬に分類されるABK(ハベカシン®)は1991年に上市されたアミノグリコシド系であり,MRSAに対して殺菌作用を示す.現在市場拡大とともに耐性株の報告がみられている.

■臨床分離株におけるアミノグリコシド耐性機序は,抗菌薬に対する不活性化酵素の出現,もしくは抗菌薬の膜透過性の低下によるものと理解されている.多くは不活性化酵素の出現による場合が多いが,特にMRSAについてはAAC(6')/APH(2'')酵素の関連が主である[8-10]

■アミノグリコシド系は細菌の細胞膜表面に吸着した後にporinを介して細胞内に取り込まれ,細胞質内のribosomeに作用する.ところが,アミノグリコシド耐性株では細胞質に不活化酵素が局在し,細胞内に取り込まれたアミノグリコシド系を不活化することによって,アミノグリコシドとribosomeの結合を防ぐことで耐性機構が成立することが知られている[11].しかしながら,ABKの臨床分離株における耐性菌の出現頻度は比較的低く,AAC(6')/APH(2'')による耐性はMIC 25μg/mL以下の中等度に留まるものが多い[12]

■ABK耐性はGM耐性と相関性が高く,ABK耐性株は多くがGM高度耐性株であるが,GM耐性株は必ずしもABK耐性株であるということはない.これは,AAC(6')/APH(2'')がほとんどのアミノグリコシド系を不活化するにもかかわらず,ABKはこの酵素によって不活化されにくいからである[13].一方でAAC(6')/APH(2'')の酵素量が上昇すればABKも不活化されるという報告もある[14]

■本邦でのMRSAに対するABKの感受性率はおおよそ90%以上を保っている.

[1] Drlica K, Malik M, Kerns RJ, Zhao X. Quinolone-mediated bacterial death. Antimicrob Agents Chemother 2008; 52: 385-92
[2] Noguchi N, Okihara T, Namiki Y, et al. Susceptibility and resistance genes to fluoroquinolones in methicillin-resistant Staphylococcus aureus isolated in 2002. Int J Antimicrob Agents 2005; 25: 374-9
[3] Tanaka M, Wang T, Onodera Y,et al. Mechanism of quinolone resistance in Staphylococcus aureus. J Infect Chemother 2000; 6: 131-9
[4] Carattoli A. Resistance plasmid families in Enterobacteriaceae. Antimicrob Agents Chemother 2009; 53: 2227-38
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[7] Putman M, van Veen HW, Konings WN. Molecular properties of bacterial multidrug transporters. Microbiol Mol Biol Rev 2000; 64: 672-93
[8] Kondo S, Tamura A, Gomi S, et al. Structure of enzymatically modified products of arbekacin by methicillin-resistant Staphylococcus aureus. J Antibiot (Tokyo) 1993; 46: 310-5
[9] Kondo S, Hotta K. Smisynthetic aminoglycoside antibiotics: Development and enzymatic modification.s J Infect Chemother 1999; 5: 1-9
[10] HOtta K, Ishikawa J, Ishii R, et al. Necessity and usefulnes of detection by PCR of mec A and aac(6')/aph(2'') genes for identification of arbekacin-resistant MRSA. Jpn J Antibiot 1999; 52: 525-32
[11] Taber HW, Mueller JP, Miller PF, et al. Bacterial uptake of aminoglycoside antibiotics. Microbiol Rev 1987; 51: 439-57
[12] 出口浩一.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するarbekacinの経年的抗菌活性.Jpn J Antibiot 1997; 1: 49
[13] 山下直子,生方公子,野々口律子,他.アミノ配糖体に耐性のブドウ球菌に対するABKの抗菌作用. Chemotherapy 1986; 34: S33
[14] 鈴木隆男,藤田欣一,大久保豊司,他.Methicillin-resistant Staphylococcus aureusのArbekacin耐性菌出現について.Jpn J Antibiot 1994; 47: 634
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# by DrMagicianEARL | 2012-08-15 00:22 | MRSA | Comments(0)
当院の抗菌薬適正使用ガイドライン(2012年5月発表)
各項目についてのガイドラインに記載した解説文はこのブログでは省略(抗菌薬の基本原則にだいたいの内容は記載している).ここではなぜこの項目にしたのかについてのみ下に記載した.

第4章.抗菌薬の継続・変更・中止
1.抗菌薬有効性の判断
1-1.抗菌薬有効性の判断はその感染症の一般的回復過程を考慮した上で,抗菌薬投与開始後しかるべき時期に行う.

1-2.白血球数やCRP,発熱などのパラメータだけでなく,臓器特異的パラメータや感染症毎の病態,感染部位の状態,患者の免疫状態,細菌学的検査追跡なども十分考慮して抗菌薬の有効性評価を臨床的総合判断で行う.
 抗菌薬療法の開始時や最初の有効性評価のときには,抗菌薬の有効性評価のための指標(熱型,酸素飽和度,尿検査所見など)をあらかじめいくつか設定しておく.その際,体温や白血球数,CRPは特異度が低く,参考にはなるものの直接病勢を表さないことは感染症診療では常識である.

 体温は血中ホルモン動態や放散熱の影響なども受けるため,その上昇と増悪が1対1対応になるとは限らないし,状態が悪いときは発熱がなくなることもある.白血球も好中球の消費が生じればたとえ高値でなくとも重症であることはしばしば経験され,その正常化は重症敗血症に進展している可能性もある.CRPはリアルタイムの病勢を表さず,24時間遅れた病勢を表し,肝機能障害があればCRP産生能そのものが低下する.

 解説では各臓器ごとの特異的指標となる項目の表も提示している.
2.抗菌薬無効時の判断
2-1.感染症であるかどうかを判断する.

2-2.抗菌薬のスペクトラム,移行性の認識,用法・用量,投与ルート,投与間隔などに誤りがないか確認する.

2-3.抗菌薬無効の感染症(ウイルス感染症など)でないか判断する.

2-4.複数菌感染症でないか確認する.

2-5.細胞内増殖菌による感染症でないか確認する.

2-6.真菌感染症,結核の合併がないか確認する.

2-7.起因菌が耐性化していないか確認する.

2-8.菌交代現象に伴う耐性菌感染でないか確認する.

2-9.排膿ドレナージ,異物除去の必要性を確認する.

2-10.宿主防御能が低下していないか確認する.
 ICTが介入となることが多いのはこの項目といえる.感染症の評価が甘く,状態がよくなっていないのに同一抗菌薬を投与し続けるという無意味なことを行ったり,原因菌や感染巣の再検索を行わずに広域抗菌薬に変更したりなどして迷宮入りしてしまう医師は多い.とりわけよく忘れられがちなのがウイルス,真菌,結核,Clostridium difficile,薬剤熱,腫瘍熱,末梢点滴刺入部の蜂窩織炎などである.

 感染が持続すると,感染部位の膿瘍化やバイオフィルム形成など,十分な濃度の抗菌薬が菌に到達できず抗菌作用が得られない状況になる場合がある.このような状況では,排膿ドレナージなどの外科的処置や,感染源となっているカテーテルの抜去などメディカルデバイスの除去を行うことが状態の改善につながることが少なくない.
3.抗菌薬のde-escalation
3-1.原因菌が同定され,初期治療の反応が良好であれば,臨床効果が期待できる狭域の薬剤を用いた標的治療へ可及的に変更する(de-escalation).
 de-escalation療法が通常の広域抗菌薬のまま治療し続けるよりも耐性菌発生率が少ないというのはあくまでも理論上の話であり,実際にエビデンスが構築されているわけではなく,直接の有効性を評価したRCTは存在しない.しかしながら,de-escalationが安全に行え,耐性菌発生率・再発率・死亡率を高めないとするコホート研究は存在する.

 de-escalationで注意すべきは,とりあえず狭域にすればいいというわけではないということである.よって,de-escalationを行う場合は以下のことに注意する.
 ① 経験的治療開始前に細菌検査(培養)が行われている.
 ② 臨床的に改善傾向を認めている.
 ③ 他の感染巣が否定できる.
 ④ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.

 起因菌と抗菌薬感受性判明後は可及的早期に,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,標的臓器に到達しうる狭域/単剤の薬剤へと変更した標的治療を施行する.この際,感受性に関しては各施設のantibiogramを参照とすることを忘れてはならない.
4.抗菌薬の投与期間・終了・中止
4-1.経過が良好で,抗菌薬を投与しなくても感染症が治癒すると判断した時,抗菌薬を終了する.その際,バイタルサインの安定化や感染を起こした臓器機能の改善などを考慮し,臨床的な総合判断で行う.

4-2.代表的な感染症では標準的治療期間を参考に治療期間を決定する.

4-3.感染症でないと判断した時,抗菌薬を終了する.

4-4.微生物学的検査や免疫学的検査などで起因菌が決定されず,臨床的に細菌感染症と診断できないとき,抗菌薬を終了する.

4-5.予防的抗菌薬の適応でなくなった時,抗菌薬を終了する.

4-6.薬剤性の発熱,アレルギーなどの副作用が出現したとき,抗菌薬を中止する.
 抗菌薬の効果判定と同じく,臓器特異的指標を主に参考として,抗菌薬の終了を決定することが望ましい.その上で代表的な標準的治療期間はよい目安となる.抗菌薬の投与を終了するタイミングや推奨される抗菌薬投与期間で代表的なものを解説では表として提示している.

 抗菌薬の長期投与により耐性菌リスクが生じやすくなることが多くの研究で報告されているが,どれほどの期間でどれだけ耐性菌リスクが増加するかについての報告は少ない.人工呼吸器関連肺炎における抗菌薬の8日間投与と15日間投与の比較では,死亡率,肺炎再燃率に有意差はないが,耐性菌出現率は15日間投与群が有意に高かったという報告がある.また,2012年8月現在はまだ論文化されていないが,日本感染症学会をはじめとする3学会合同調査では,抗菌薬の14日間を超える投与は耐性菌が増加することが示されているとのことである.

■本章で引用した文献数14

←院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第3章.初期抗菌薬の選択(2)」
→院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第5章.抗菌薬の副作用・薬物相互作用」

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# by DrMagicianEARL | 2012-08-13 20:17 | Comments(0)
※2012年7月10日に投稿,8月3日 大幅加筆
Summary
・HITはDICに非常に類似した動静血栓症病態をとり,FDP,D-dimer,TATも上昇する.
・HIT発症はヘパリン使用から5-14日目に生じる.
・ヘパリン使用から100日間はヘパリン投与によるHITのリスクがある.
・治療用ヘパリンのみならず,ヘパリンフラッシュ(ヘパロック含む),カテーテルや回路などのヘパリンコーティングでもHITをきたしうる.
・検査所見,臨床経過に加え,4Tsを参考にHITを疑い,早期に治療を開始する.
・HIT抗体を計測し,確定診断を行う.
・治療の第一選択はヘパリン中止とアルガトロバン投与であり,APTTを指標として用い,基準値の1.5-3.0倍になるように調節する.
1.HITの病態
■播種性血管内凝固(DIC:disseminated intravascular coagulation)と鑑別が非常に紛らわしいものにヘパリン起因性血小板減少症(HIT:heparin induced thrombocytopenia)がある.

■HIT は1960 年代から報告されている[1].HIT の発症メカニズムに関しては当初より免疫的機序が推察されていたが1992 年Meyer らがヘパリンと血小板第4 因子(Platelet Factor 4)の複合体に対する抗体(HIT 抗体)が本症の発症の中心的な役割を果たすことを報告してから[2]飛躍的に研究が進み,現在は非免疫的機序によるⅠ型と,HIT 抗体が出現し免疫的機序で発症するⅡ型に分類されている[3].このうち重症化し臨床的に問題となるのはⅡ型である.以下ではⅡ型HITをHITとして記載する.

■HITは本来血液凝固反応を阻止するヘパリンの投与がきっかけで発症する血栓性の血小板減少症であり,30-50%に動静脈血栓症を合併する,ヘパリンの出血に次ぐ重大な副作用であり,血栓症による死亡率は5%程度に及ぶとされている[5].臨床的にはヘパリン開始後約5-14日で,DICなど明確に説明できる状況がないにもかかわらず血小板減少が進行する,原因不明の血小板減少症として認識されることが多い.血小板数はヘパリン使用前の50%以下,または10万/μL以下に減少する.また,100日以内にヘパリンの投与歴があれば,急速発症,早期発症の様式を示す場合がある.HITの約50%に血栓塞栓症が発症し,動静脈血栓症(静脈の方が多い)や透析では回路内凝血が生じる.ときに突然発症タイプもあり,血小板減少以外に以下の急性全身反応が発症する場合がある.
 ・炎症反応:悪寒,発熱,発疹
 ・心肺症状:頻脈,高血圧(or低血圧),頻呼吸,呼吸困難,胸痛,心肺停止
 ・偽性肺梗塞:重篤な呼吸困難,肺不全,呼吸停止
 ・消化器症状:悪心,嘔吐,下痢
 ・神経症状:拍動性疼痛,一過性健忘
これらの症状はヘパリンの中止により急速に改善する.HITでは通常は血小板減少から始まるが,血小板減少前に血栓症が先行するケースもある.治療目的でのヘパリンのみならず,カテーテルルート開存性維持目的でのヘパリンフラッシュによってもHITが生じることがあるため,医師が,ヘパリン投与に気が付いていないこともあり注意が必要である.

■本邦ではHIT診断のためのHIT抗体が保険承認されておらず,結果としてHITの理解が進まない現状がある[4].このため本邦におけるHITの発生頻度調査は少なく,患者の病態によってHITの発症リスクが異なるため,病態別のHITの発症リスク管理が必要である.したがって,HIT発症の高リスク患者に対しては,血小板数の測定を隔日に実施するなどの対応が必要となる.
(1) 高リスク(発生頻度1%以上)
 ヘパリン投与を受けた心血管術後患者と整形外科術後患者.
(2) 中リスク(発生頻度1-0.1%)
 ヘパリンフラッシュを受けている術後患者,ヘパリン治療を受けている入院患者,透析導入期患者,低分子ヘパリンを投与されている術後患者.
(3) 低リスク(発生頻度0.1%)
 低分子ヘパリン(ダルテパリン;フラグミン®など)やヘパリンフラッシュのみの入院

■HIT発生が予測される病態と血小板測定推奨回数は以下の通り.
(1) ヘパリンによる血栓症の治療が行われている場合
 5-14日間(またはヘパリン中止まで)は隔日または2-3日間隔で実施
(2) 過去100日以内にヘパリン投与の既往歴がある場合
 ヘパリン投与前と投与後24時間以内は反復測定
(3) ヘパリン単回投与による急性全身反応(アナフィラキシー様反応)が発症した場合
 即刻血小板数を測定し,最近の血小板数と比較する
(4) フォンダパリヌクス(アリクストラ®)使用の場合
 通常は不要
(5) 透析導入時のヘパリン使用の場合
 ヘパリン透析では10-15回透析まで透析ごとに実施する

■HIT発症のメカニズムは,血小板が何らかの要因で継続的に活性化される病態ではα顆粒より血小板第4因子(Platelet factor 4:PF4)が血小板膜上や血中に放出される.PF4は陽性荷電をもち,投与されたヘパリンや内皮のヘパラン硫酸と結合し,PF4-ヘパリン複合体を形成する.これが抗原として認識され,PF4-ヘパリン複合体抗体(HIT抗体)が産生され,PF4-ヘパリン複合体と免疫複合体を形成し,HIT抗体のFc部位が血小板膜上のFcγⅡa受容体と結合して血小板を活性化させ[6],血小板減少を引き起こす.ヘパリンとPF4が適度な濃度で存在しないとPF4の構造変化が起こらないことが指摘され,それがHIT抗体産生のリスク因子を規定している可能性が高いと報告されている[7]

■また,活性化された血小板より,凝固促進作用の強いマイクロパーティクルが放出され,Thrombinの産生により血液凝固が活性化され,凝固促進状態となる.血管内皮細胞や,単球に存在するヘパラン硫酸とPF4の複合体にもHIT抗体は結合し,その表面にTF(組織因子:Tissue factor)を発現させ,TFを介した血液凝固が活性化され,血栓症が生じる.このため,HITではDIC様の凝固亢進状態となり(TAT,FDPは上昇する),その後,動静脈血栓症が続発する.

■実際,血小板減少に伴い,ある程度のD-ダイマー産生が多くの症例で観察される.さらにHITを多く発症することが知られている血液透析の場合は,透析カラムの詰まりなどで血栓の存在を確認でき,メシル酸ナファモスタット(フサン®)に変更すると透析続行が可能な症例があることも知られている.このように免疫学的機序を介するため,発症まで5-14日を要する.

■HITはその病態メカニズムから一種の自己免疫疾患とも考えられるが,ヘパリン投与後5日目からとかなり早い段階から発症する.また,HIT抗体のなかのIgMやIgAではなく,IgGのみが血小板,単球,血管内皮細胞の活性化能をもち,病因となることが指摘されている[8].実際,外傷や整形外科術後で深部静脈血栓症のためにヘパリン投与を受けた患者で,HIT抗体を術後毎日測定した結果では,通常の免疫反応の場合,IgMの上昇から遅れてIgGの上昇がみられるが,HIT抗体の場合はIgM,IgA,IgGがほぼ同時にヘパリン投与開始後5日目から上昇してくることが報告され,HITの場合は通常の免疫反応と異なることが指摘されている[9].その理由として,PF4が陰性荷電を呈する微生物に対する防御システムのmisdirctionである可能性が指摘されている[10].したがって,ヘパリン投与によるHIT抗体の産生はたとてヘパリンの初回投与であっても二次応答として起こるため,IgM,IgA,IgGがほぼ同時に早期から産生されるものと理解できる.このように,HITの病因となるHIT抗体の産生は通常の抗原抗体反応とは異なる免疫学的システムと関連している可能性が示唆されている.

2.HITの診断
■HITの臨床診断として,Warkentinが提唱する,4項目のスコア化で行う方法(4T's scoreing)がよく用いられる[11,12]
(1) Thrombocytopenia(血小板減少)
 2点:50%以上の減少,または最低値2-10万/μL
 1点:30-50%の減少,または最低値1-1.9万/μL
 0点:30%未満の減少,または最低値1万/μL
(2) Timing(ヘパリン使用開始後,血小板減少の出現まで)
 2点:5-14日,またはヘパリン使用歴(30日以内)があり1日以内に血小板減少
 1点:14日以後あるいは時期不明,またはヘパリン使用歴(31-100日)があり1日以内に血小板減少
 0点:ヘパリン投与歴がなく4日以内の血小板減少
(3) Thrombosis(血栓,HITの皮膚症状)
 2点:血栓の新生,皮膚壊死,静注後の急性全身反応
 1点:血栓の進行か再発,紅斑様の皮膚症状,血栓の疑いが濃厚
 0点:なし
(4) oTher(血小板減少の他の原因)
 2点:他の原因なし
 1点:他の原因の可能性あり
 0点:他の原因あり
スコアの合計が6-8点ならHITの可能性が高い.4-5点ならHITの可能性は中等度.3点以下はHITの可能性が低い.ただし,本法は万能ではなく,救急領域など血小板減少が元来存在する領域で4Tsの利用しにくい症例があることも知られている[4,11,13].よって,overdiagnosisに注意しながら4Tsを用いるべきである.

■集中治療領域ではHITと鑑別が困難な疾患は多数存在し,ときには複数が重複していることもある.鑑別を要するものとして,敗血症,DIC,抗リン脂質抗体症候群(APL),血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS),薬剤性血小板減少症などがある.

■HITの診断においては,血小板減少や血栓形成などの病像に加え,血小板を活性化するHIT抗体が検出できることが臨床検査医学的に重要(なぜか保険承認がない)である[4,11].しかし,血小板を活性化するHIT抗体をその血小板活性化能としてとらえる感度のよい方法がないため,感度はよいが特異度の低いenzyme immunoassay(EIA)法を代用することが多いため,結果の解釈などで問題点が生じる.すなわち,臨床的にHITでない症例における偽陽性の問題がある.以下に各種HIT検査法を示す[13]

(1) IgG/IgA/IgM型抗体検出EIA:感度>95%,特異度74-77%
(2) IgG型抗体検出EIA:感度98-100%,特異度89-90%
(3) セロトニン遊離試験:感度>95%,特異度>95%
(4) HIT抗体による血小板活性化試験:感度80%,特異度>90%

■HITの第一人者であるWarkentinが最良とするセロトニン遊離試験はHIT抗体の血小板活性化能を放射性同位元素標識セロトニンで検出する方法で,感度,特異度とも非常に優れているが,欧米の一部の施設でしか行われず,本邦では施行できない.本邦で実際に主に行われている検査はIgG/IgA/IgM型抗体検出EIAであり,本邦で一部の施設でしか実施できないIgG型抗体検出EIAに比して特異性が劣る.よって,カットオフ値付近の検査結果は参考程度とし,他の血小板減少要因を除外診断しながらヘパリン中止で臨床症状が改善するかなどを慎重に見極め,治療を進めることが重要である.カットオフ値を大きく上回っていればHIT診断特異度が上がることが知られている[4,11].したがって,検査結果報告を受ける際は陽性・陰性のみならず,どの程度カットオフ値を上回るor下回るかを確認すべきである.

3.ヘパリン投与とHIT
■未分画ヘパリンはHITを最も発症しやすい.ダルテパリン(フラグミン®)などの低分子ヘパリンでも発症することが知られ,最近ではペンタサッカライドであるフォンダパリヌクス(アリクストラ®)でもHIT発症の報告がある.しかし,一方でフォンダパリヌクスをHIT治療薬として利用した際に有用であるとの報告もあり[11,12],フォンダパリヌクスに関する理解はいまだ明確な結論を得るに至っていない.

■HIT抗体は一過性にのみ存在し,ヘパリン投与中止後,HIT抗体は平均100日程度で陰性化することが明らかになっている[14].これは,ヘパリン投与が中止されるとPF4の構造変化が起こらなくなり,抗原が体内に存在しなくなるため,急速に抗体価が低下するものと推測されている.このことから,逆にHIT抗体が存在している時期であるヘパリン最終投与後1ヶ月間は血栓塞栓症発症のハイリスク期間となる.また,ヘパリン中止後,しばらくしてから(数日後に)発症する,あるいは数週間症状が遷延する遅延発症型が存在する[15].これらの症例の場合,HIT抗体の活性化能が非常に強く,症状が重篤化することも少なくなく,これらの症例のHIT抗体はしばしばex vivoアッセイでヘパリン非存在下でも血小板を活性化させうる.直近(少なくとも100日以内)のヘパリン投与によりHIT抗体を保持している患者に,ヘパリン再投与を行った場合,1日以内に急激に発症する急速発症型が存在する[14].HIT抗体存在時にヘパリン大量静注を行うと,5-30分後に発熱,悪寒,呼吸困難,胸痛,頻脈,悪心,嘔吐などを伴う強い全身症状と急激な血小板減少が起こることがある[10]

4.HITの治療
■HITの治療は当然ながらヘパリン中止が第一原則である.治療薬としてのヘパリンだけではなく,圧ライン確保などのためのヘパリン生食や,ヘパリンコーティング回路についても中止する必要がある.

■ヘパリン中止だけでは1日あたり約6%の患者が血栓塞栓症を発症すること,また代替の抗凝固療法を実施すれば血栓塞栓症の発症が劇的に減少することが報告されており[16],ヘパリンに代わる抗凝固剤投与が必要と言われている[17,18].また,HIT抗体検査は結果が返ってくるまでに日数を要するため,臨床的にHITを強く疑った場合は,HIT抗体検査結果を待たずに抗トロンビン薬を開始すべきとする報告もある[19]

■本邦ではHIT治療薬として抗トロンビン薬のアルガトロバン(ノバスタンHI®,スロンノンHI®)が保険で認められており,海外のコホート研究でその安全性と有効性が報告されている[20,21].HITに対するアルガトロバン投与量の調節にはAPTTを指標として用い,基準値の1.5-3.0倍で調節するようFDAでは推奨している.

■本邦では,心臓手術,血液浄化,PCPS維持の際にACT(Activated Coagulant Time)を指標としてアルガトロバンを安全に投与できたとする報告が多数ある[22-25]

■本邦ではHITに対してヘパラン硫酸であるダナパロイドナトリウム(オルガラン®)は承認されていないものの,海外では承認されている.HITに対する投与量については本邦では確立されていない.また,ダナパロイドの本邦での添付文書では,HITの既往歴のある患者で,ヘパリン抗体と本剤との交差反応性のある患者に対しては原則禁忌とされている.

■急性期HITに対してワーファリン単独投与を行った場合,凝固因子の低下より先に抗凝固因子(Protein C)の低下をきたすことで,逆に一時的に血栓経口に傾く可能性があり,急性期HIT患者に四肢壊疽を起こすリスクがあるため[26],ワーファリン単独療法は行わない.血小板数が回復した時点で,抗トロンビン薬と併用する形で投与を開始し,臨床症状が落ち着いた時点でワーファリン単独治療への切り替えを行う.

■DICの治療としてヘパリンが投与されることもあり,逆に10-20%のHIT患者がovert-DICに移行するとされており,その鑑別は容易ではない.しかし,HITの臨床的特徴(発症時期や,血小板数が2万/μL以下になることが少ない,出血傾向を示すことは稀など)を適確に把握し,そのうえで臨床的にHITが疑われる場合には,すべてのヘパリンを直ちに中止するとともに治療を開始し,HIT抗体の測定を行う必要がある.

■最近,HIT-associated consumptive coagulopathyでAPTTの延長が認められる症例で,HIT治療に対する懸念が生じている.HIT治療薬である抗トロンビン薬はその投与量をAPTTでモニターするが,HIT-associated consumptive coagulopathy患者においては特に強力な治療が必要である.しかし,APTTが過度に延長することでの出血の懸念により,抗トロンビン薬の投与量を減量してしまうことが発生する.この場合,HITの治療としてはunderdosingとなるため,HIT病態の悪化を招く可能性があると指摘されている[27]

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# by DrMagicianEARL | 2012-08-03 18:57 | 敗血症性DIC | Comments(0)
■リコンビナント・トロンボモデュリン製剤(以下rTM;商品名リコモジュリン®,旭化成ファーマ)は本邦で開発され,2008年に承認・発売開始となった新しいDIC治療薬であり,PhaseⅢ[1],市販後全例調査ともに優れたDIC改善効果を示している.その一方で,生存率は改善傾向を示したが有意差がでていない.また,二重盲検RCTであるが,対照群はプラセボではなくヘパリンを使用している.これは,本邦ではDICが治療対象疾患として保険承認されているせいでもあり,倫理的問題をはらみ,対照をプラセボにできないという事情がある.

■本邦でのDIC治療薬については科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス[2]があるが,rTMは2008年に承認発売となったため掲載されていない.日本版敗血症診療ガイドライン(案)ではアンチトロンビンⅢ製剤(ノイアート®)の2Aに次いでrTMは2Bに推奨度が位置づけられているが,DIC治療薬に関してこの推奨度は全く理解できないものでありあてにならない.
日本版敗血症診療ガイドラインのDICについてはこちら

■DIC治療においてrTM使用で確かな手ごたえを感じている集中治療医は多い.抗炎症効果も示し,凝固と炎症のcross-talkを形成する敗血症性DICでは特に有用であることが言われている.しかしながらDICは治療できるが生存率は改善できない,というのが現時点でのrTMのエビデンスである.そして,前述の通り本邦でプラセボ対照のRCTを行うことは難しく,国内でエビデンスを作るのであれば,アンチトロンビンⅢ製剤をはじめとする既存の抗DIC治療薬を対照とするより他ない.

■その一方で,海外ではDICは治療対象ではなく,原疾患治療が原則である.そこで,旭化成ファーマは海外での治験をすすめ,敗血症性DIC患者(ただし,DIC診断基準は本邦とは異なる)を対象とした二重盲検RCTのPhaseⅡが終了し,死亡率改善傾向を確認,p<0.3の基準をもってPhaseⅢに移行しており,その結果がエビデンスとなる可能性がある.
rTMの海外PhaseⅡについてはこちら

■ARDSに対するrTMの有用性については専門家レベルではおそらく有用ではないかと言われている程度であり,実際にそれを示したRCTはなく,症例集積の報告のみにとどまっている.ARDS単独に対しては保険適応外であり,有効な投与量も分かっていない.ARDSを合併したDIC症例において改善率を示した報告は少数ながら存在する.

■これまでrTMによる生存率改善を示したRCTはなく,以下の論文が2012年現在で生存率改善を示した最も質の高い研究ということになる.この研究は大阪大学医学部附属病院での研究で,高度救命救急センターの山川一馬先生が報告し,5月のJ Trauma Acute Care Surgに掲載され,現在旭化成ファーマが本研究の宣伝用アブストラクトを作成し,配布している.以下,本研究の概要と考察を述べる.

■本研究はrTMの敗血症性DICに対する効果を検証したもので,2006年1月から2008年8月までのrTM非使用の41例(他の抗DIC治療もなされていない)を対照群とし,2008年9月から2011年1月までのrTM使用の45例をrTM群として,後方視的に前後比較した単施設非盲検非無作為化試験である.

■①感染症を基礎疾患とするSIRSスコア2点以上,②1臓器以上の臓器障害,③血小板数が8万/mm^3未満,④人工呼吸器管理を要する重症例,の4項目を満たす成人の敗血症性DIC症例を対象とし,rTM禁忌に該当する場合は対象から除外している.その他の治療はSSCG(Surviving Sepsis Campaign Gideline)に準じ実施している.

■評価項目は①DIC治療開始後28日,60日,90日の転帰,②7日目までのSOFAスコアおよび肺損傷スコア(Lung Injury Score),③安全性評価項目(出欠に関する重篤有害事象)であった.

■患者背景は23項目で有意差検定が行われ,APACHEⅡスコア以外は有意差がなかった.APACHEⅡスコアは27.0(21.5-32.5) vs 21.0(16.-24.0),p<0.001であり,rTM群の方が対照群より重症例が多い.その他SOFA,ARDS合併率,肺損傷スコアなどを見ても,有意差はないがrTM群の方が高く,重症例が多いことがうかがえた.

■転帰については,Kaplan-Meier生存曲線を見るに7日目あたりから著明に差がついており,以下の通りrTMが有意に生存率を改善させる結果となった.
 28日目生存率 76% vs 53%,p=0.037
 60日目生存率 66% vs 42%,p=0.026
 90日目生存率 63% vs 42%,p=0.038

■SOFA score変化量,肺損傷スコア変化量においてもrTM群はコントロール群より有意な改善が認められた(7日間の追跡).

■出血に関連する重篤な有害事象は,rTM群が1例(2.4%),コントロール群が2例(4.4%)であった.

■以上の結果をもって,「rTMは敗血症性DIC患者に対する有用な治療薬であると考えられる」と述べている.

■本研究の問題点として以下のことがあげられる.
①後方視的に前後比較した単施設非盲検非無作為化試験であり,エビデンスレベルは低くなる.
②本研究はrTM使用有無以外はSSCGに準じた治療を行っているとのことであるが,2008年を境に前後比較している.2008年はSSCGが改訂された年でもあり,敗血症治療のエビデンスがさらに蓄積されているため,治療内容に差が出る可能性がある(治療方法が異なる症例については除外しているとのことであるが・・・)
③患者背景にDIC関連の検査項目の比較がない(当然ながら有意差検定もない)
④患者背景においてAPACHEⅡスコアに有意差があり,rTM群の方が重症例が多かった
⑤SOFA score,肺損傷スコアについて絶対値ではなく変化量で比較している

■問題点③については,急性期DIC診断基準スコアなり,厚生労働省DIC診断基準スコアなりを示した方がよかったのではないだろうか?(もっとも海外向けの医学誌に掲載しても・・・という意見もあるだろうが).主要評価項目はDICの治療成績ではないためこうなったのかもしれない.しかし,DIC治療薬の研究であり,DICが多臓器不全の重要なfactorととらえての研究であるのだからDIC関連項目についても評価すべきではないだろうか?

■問題点④⑤についてであるが,特に肺損傷スコアについて疑問がある.肺損傷スコアの変化量は7日目の時点で有意にrTM群の方が低下しており(p=0.025),その差は約0.5である.繰り返すがこれは変化量の有意差である.一方,患者背景として,肺損傷スコアのベースラインはrTM群が2.5(1.75-2.88),コントロール群が2.0(1.75-2.75)であり,有意差はないが(p=0.153),rTM群の方が高い傾向にあり,ベースラインのAPACHEⅡスコアがrTM群で有意に高いことを考えれば重症例が多いことを反映していると思われる.問題はその差である.有意差はないがベースラインで0.5の差があり,7日目の変化量の差は約0.5.つまり肺損傷スコアの絶対値はほぼ重なるわけでありその差はかなり小さくなる.ここに有意差はあるのだろうか?

■この小生の疑問に対し,「改善効果を見ている以上,肺損傷スコアの絶対値で評価する必要はない」と反論されるかもしれない.また,「rTM群が重症例が多いのだから肺損傷スコアの絶対値で見るのはおかしい」という反論もあるかもしれない.しかし,ベースラインの肺損傷スコアの絶対値に有意差がないのであれば,7日目の絶対値比較は不要だろうか?加えて,治療を行っている以上,数値が高い方が下がりやすい可能性もある.こうなると,ベースラインの重症度(APACHEⅡ)に有意差がある状態での比較は効果が分かりにくくなる危険性があり,「重症でも肺傷害に対してrTMが効いた」と結論づけるのは客観性に欠ける.最終的に生存率に有意差がついているため,rTMの転帰改善効果は示せているものの,肺損傷スコアを改善したかというとそうは言い切れないだろう.実際,人工呼吸器装着期間は有意差がなかった.

■以上より,本研究では,rTMが生存率改善,臓器不全を改善する可能性が示唆されるものの,肺傷害に対する効果は再検討が必要であると思われる.
⇒本研究報告者の山川先生よりコメントに御回答あり

Ogawa Y, Yamakawa K, Ogura H, Kiguchi T, Mohri T, Nakamori Y, Kuwagata Y, Shimazu T, Hamasaki T, Fujimi S.
Recombinant human soluble thrombomodulin improves mortality and respiratory dysfunction in patients with severe sepsis.
J Trauma Acute Care Surg. 2012 May;72(5):1150-7.

Abstract

BACKGROUND: Respiratory dysfunction associated with severe sepsis is a serious condition leading to poor prognosis. Activation of coagulation is a consequence of and contributor to ongoing lung injury in severe sepsis. The purpose of this study was to examine the efficacy of recombinant human soluble thrombomodulin (rhTM), a novel anticoagulant agent, for treating patients with sepsis-induced disseminated intravascular coagulation (DIC) in terms of mortality and respiratory dysfunction.

METHODS: This study comprised 86 consecutive patients with sepsis-induced DIC who required ventilator management. The initial 45 patients were treated without rhTM (control group), and the following 41 patients were given rhTM (0.06 mg/kg/d) for 6 days (rhTM group). Patients were followed up for 90 days after study entry. Sequential Organ Failure Assessment (SOFA) score and lung injury score were recorded until 7 days after entry.

RESULTS: The baseline characteristic of severity of illness was significantly higher in the rhTM group than in the control group. Nevertheless, 90-day mortality rate in the rhTM group was significantly lower than that in the control group (37% vs. 58%, p = 0.038). There was a significant difference in the serial change of SOFA score from baseline to day 7 between the two groups (p = 0.009). Both the respiratory component of the SOFA score and the lung injury score in the rhTM group were significantly lower compared with the control group (p = 0.034 and p < 0.001, respectively).

CONCLUSIONS: rhTM may have a significant beneficial effect on mortality and respiratory dysfunction in patients with sepsis-induced DIC.

LEVEL OF EVIDENCE: III, therapeutic study.

[1] Saito H, Maruyama I, Shimazaki S, et al. Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravascular coagulation: results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 2007; 5: 31-41
[2] 日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会.科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス. 日血栓止血会誌 2009; 20: 7-113
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# by DrMagicianEARL | 2012-07-27 14:19 | 敗血症性DIC | Comments(2)
■当院で経験した芍薬甘草湯の副作用まみれの症例である.本症例は当院と提携している開業医向けの機関誌に1例報告として掲載した.今でも芍薬甘草湯を3包分3定期処方している医師を散見するが,甘草の副作用発現率は決して低くなく,みくびらない方がよい.下の症例では芍薬甘草湯の副作用とは気づかずドツボにはまり,足の筋クランプが芍薬甘草湯の副作用からくるものであるにもかかわらず,筋クランプに芍薬甘草湯を処方されつづけている.

■漢方薬の間質性肺炎といえば小柴胡湯が有名であり,1989年の築山らの報告を皮切りによく報告されている.漢方薬で薬剤性間質性肺炎を起こした報告があるものは30種類あり,特によく処方される葛根湯,半夏瀉心湯,小青竜湯,麦門冬湯,補中益気湯,六君子湯,十全大補湯,芍薬甘草湯,牛車腎気丸,柴苓湯なども例外ではない.

症例.芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例
【症例】70歳代女性

【主訴】呼吸困難

【現病歴】1年前に一過性の咳嗽発作があり,β刺激吸入薬を処方されてから下肢の筋クランプが出現し,芍薬甘草湯3包/日を定期処方された.その後から近医での血液検査で肝酵素,CPK,LDH上昇,カリウムの低下が出現している.3ヶ月前から夜間呼吸困難,咳嗽を何度か自覚していた.1週間前より同様の症状が出現し,胸部X線で異常陰影を認め,肺炎疑いで当院紹介となった.

【来院時所見】体温36.5℃.脈拍69/分,整.血圧150/71 mmHg.呼吸数21回/分.意識清明.SpO2 96%(経鼻酸素1L/分).両側肺に軽度のfine cracklesを聴取.
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【経 過】
 芍薬甘草湯を中止し,カリウム製剤を投与開始したが,低K血症の改善が得られないため,カリウム製剤を中止し,第4病日よりK保持性利尿薬(スピロノラクトン®)を投与開始したところ速やかに是正された.その他,肝酵素,CPK,LDHも速やかに改善した.間質性肺炎像も消退傾向となり,軽快につき第17病日に退院となった.
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【考 察】
 本症例はβ刺激薬吸入により低K血症から筋クランプが出現し,それに対する芍薬甘草湯の長期投与で偽性アルドステロン症を発症して低K血症増悪したものと推察された.
 
 横紋筋融解症(ミオパシー),肝機能障害も添付文書に記載されている重大な副作用に合致する.本薬剤中止により間質性肺炎も速やかに改善していることから本薬剤が原因と考えられた.
 
 糖質コルチコイド系においてcortisolからcortisoneへの変換酵素である11-β-hydroxysteroid dehydrogenase type2を甘草が阻害することによりcortisolが蓄積し,aldosterone receptorに結合することでアルドステロン作用を発現する.negative feedbackによりレニン,アルドステロンは抑制される.これが甘草による偽性アルドステロン症の機序である.漢方による副作用では甘草2.5g/日以上の常用で偽性アルドステロン症が出現しやすく,芍薬甘草湯はとりわけ甘草の含有量が多いため,定期内服ではなく,短期間投与もしくは頓服での処方が推奨されている.偽性アルドステロン症による低K血症に対してはカリウム製剤が有効であるが,尿細管でのK再吸収抑制が遷延している場合は難治性であり,K保持性利尿薬が推奨される.
 
 漢方による薬剤性肺障害は30種類で報告がある.芍薬甘草湯では本症例を併せて4例の報告があり,添付文書改訂の際に副作用に記載される予定である.抗菌薬やNSAIDs,総合感冒薬などによる薬剤性肺障害は投与後平均10日前後で発症するのに対し,漢方は平均43日と有意に長いことが報告されている.

【結 語】
 芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例を経験した.漢方投与開始から日数が経過していても,低K血症や間質性肺炎などと認めたときは薬剤服用を見直す必要がある.
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# by DrMagicianEARL | 2012-07-18 16:01 | Comments(0)

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