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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

Summary
・70歳以上の肺炎は抗菌薬が進歩しても予後は改善しておらず,その原因は宿主の状態にあり,特に誤嚥は予後不良因子である.
・医療介護関連肺炎分類による抗菌薬の推奨は根拠が乏しく,広域抗菌薬の乱用につながりかねない.
・超高齢者肺炎は心不全,嚥下機能障害を含む廃用症候群,認知症,低栄養状態,電解質異常などを合併した,加齢に伴う種々の機能低下であるfrailty,あるいはpost-frailtyの状態を呈する症候群であり,感染症のみでとらえるべきではない.
・抗菌薬治療は延命効果と急性期の症状緩和効果がある一方で,長期のQOLを悪化させる要因になりえ,入院治療はさらに長期QOLを悪化しうる.
・その一方で,終末期の緩和ケアであれば,苦痛緩和目的での抗菌薬治療も有効であれば許容されるべきかもしれない.その上でオピオイドをはじめとする症状緩和も併用されるべきであろう.
・急性期病院における超高齢者肺炎の診療は治療と同時に大きな侵襲となり,大幅なADL・QOLの低下を招く.
・本邦では超高齢者肺炎患者の多くの家族は嚥下機能低下を過小評価しやすく,その受け入れは初期はしばしば困難であり,十分な説明をもって時間をかけて家族に伝える必要がある.
1.高齢者の肺炎は感染症か?

■肺炎は感染症であり,その治療の主軸は抗菌薬であるとされている.このため,若年者では肺炎で死亡することはまず経験されない.しかしながら,超高齢者肺炎では抗菌薬を投与すれば解決するというものではない.実際に厚生労働省の統計では,70歳を境に肺炎死亡率は増加し始める.日本呼吸器学会が定めた肺炎重症度分類A-DROP[1]でも,男性は70歳以上が,女性は75歳以上が重症度リスクとして挙げられている.また,1970年から1991年までの肺炎死亡率の動向[2]を見てみると,70歳未満は肺炎死亡が減少傾向を示したのに対し,70歳以上は増加している様子がよく分かる.

■この70歳をカットオフとした死亡の増加減少の違いは何か?これは抗菌薬の発達とともに若年層は死亡率が低下したが,70歳以上の高齢者は抗菌薬の進歩の恩恵を受けていないことが推察される.実際に,厚生労働省の人口動態推計の疾患別死亡率を見ると,ペニシリン系抗菌薬が発売された1950年頃,マクロライド系抗菌薬が発売された1965年頃は肺炎死亡率は減少傾向を示しており,若年層の肺炎死亡が大幅に減少したことを反映してのものである.一方,1975年以降にセフェム系,カルバペネム系,キノロン系が発売されたが,死亡率は増加の一途をたどっている.高齢化により70歳以上の人口が増え,これらの集団が抗菌薬では治癒しえない何らかの要因で死亡していることを物語っているものと思われる.

■近年,医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン[3]が日本呼吸器学会から発表され,重症度,耐性菌リスクにより,抗菌薬使用について4クラスに分類がなされた.この中で,中等度のC群,重症のD群では広域抗菌薬が推奨され,MRSAリスクのある患者については抗MRSA薬の併用まで推奨がなされている.しかしながら,実際にはC群では推奨抗菌薬を使わずとも予後は変わらない,SBT/ABPCを使用すれば8割は治癒しうる,という報告が学会等で発表されるようになった.これは耐性菌が単なる検出菌であるのか原因菌であるのかについて明確な根拠なしに広域抗菌薬が推奨されてしまった経緯がある.
※当院では,NHCAP診療ガイドラインは広域抗菌薬によるover treatmentにつながること,抗菌薬治療以外について重視していないことから,研修医には一切ガイドラインについて教えていない.

※MRSAを含む薬剤耐性菌を有する患者の予後が悪いことは多くの研究で示されている.しかしながら,高齢者肺炎において抗菌薬の奏功度を見ているとこれらの菌が肺炎起因菌となっていることは実際にはかなり少ないと思われる.耐性菌検出の意味は起因菌であるか否かよりも,その患者の身体機能の衰えを反映しているのではないかと考えている.


■NHCAP診療ガイドラインのお手本である,米国の医療ケア関連肺炎(HCAP)ガイドラインについては,その分類に疑問を呈する報告が相次いでおり,Britoら[4]はHCAPに関するレビューを行い,HCAPガイドラインは広域抗菌薬が不必要な患者にまで広域抗菌薬が投与されており,耐性菌リスクを有する肺炎症例すべでに必ずしも併用療法を行う必要はないとする内容を述べている.Attridgeら[5]もレビューにおいて,HCAPガイドラインを遵守した治療が予後を改善する根拠はないとしている.さらに,Kettらは,薬剤耐性菌を疑われた患者集団においてガイドラインで推奨された広域カバーの抗菌薬併用療法を行ったガイドライン遵守群が非遵守群より死亡率が有意に高かったと報告している[6].2013年にはCharmersらの24報22456例メタ解析[7]において,「HCAPの概念は主に低い質のエビデンスに基づいており,耐性菌を正確に検出していない.HCAPにおける死亡率は耐性菌の高い頻度を反映しない」と結論づけられている.広域抗菌薬や抗MRSA薬は70歳以上の高齢者肺炎においてそれほど大きな意味をなさない,抗菌薬の選択は予後に影響を与えていない可能性が高い.

■ではこの70歳以上という年齢にはどういう特徴があるのか.Teramotoら[8]は,本邦の肺炎患者の多施設前向き研究を行い,年齢別の誤嚥関与の頻度を報告している.これを見ると,50歳から誤嚥は始まっており,60歳代では約半数,70歳代では70%以上,80歳以上では90%前後に達している.70歳以上での誤嚥の関与がいかに多いかであるが,この誤嚥という因子が肺炎の予後決定因子であることも報告されている.使用すべき抗菌薬がほぼ同じになるであろう肺炎球菌肺炎予後を,市中肺炎群(CAP群)と医療ケア関連肺炎(HCAP群)で比較した228例コホート研究PROCORNEU study[9]では,30日死亡率は7.6% vs 29.5%(p<0.001)であり,起因菌と使用する抗菌薬が同一であるにもかかわらずHCAP群で有意に高い結果となった.この中で,誤嚥因子は死亡リスクを5.65倍増加することが示されている.同様に,CAPであろうが,HCAPであろうが,誤嚥が死亡リスクを上昇させる要因であることを示す報告が複数でてきている[10,11]

■誤嚥は嚥下機能低下というベースの合併症の存在に他ならない.さらに誤嚥は数多くの機能低下の氷山の一角に過ぎず,超高齢者肺炎には様々な合併症がつきまとう.心不全,嚥下機能障害を含む廃用症候群,認知症,低栄養状態,電解質異常などであり,抗菌薬治療が予後に関連せず,これらの宿主因子が予後に関連していることは既に多くの報告が示す通りである.これらの患者はいわゆるfrailtyと呼ばれる状態かそれ以下の状態(私はpost-frailtyと表現している)にあり,肺炎治療で実際に難渋するのは肺炎ではなくこれらの背景病態の管理である.すなわち,超高齢者肺炎は感染症というよりも加齢による種々の機能低下による症候群に他ならず,肺炎はその急性増悪病態と考えてよいかもしれない.同様に,超高齢者心不全についても同様の議論はなされるべきと思われる.
※当院では肺炎が治癒せず遷延して死亡するというケースはまず経験することがなく,肺炎が直接死因となることは基本的にない.多くの場合,ベースの慢性心不全の増悪による難治化で,肺炎治癒後も心不全が遷延するケースが死亡する.死亡統計では原疾患が死因として集計されるため,肺炎そのものが直接死因として多いと認識されがちであるが,私はそれには懐疑的である.

2.超高齢者肺炎に抗菌薬治療は意味があるか?

■超高齢者肺炎に抗菌薬治療を行うか行わないかでその後の予後はどう違うのであろうか?そのひとつの答えとなる可能性があるのがGivensらのCASCADE study[12]である.この報告は米国22の介護施設の認知症が進行した肺炎患者225例の前向き観察研究を行ったものである.患者背景を見ると,「Do-not-hospitalised order(入院しない意思表示) 114 (50.7%)」とある.延命治療拒否の意思表示は日本でもDNAR(Do Not Attempt Resuscitate)として知られているが,入院拒否のDNHは日本では馴染みがないだろう.この米国の研究ではこのDNHの意思表示をあらかじめしている患者が約半数にのぼる(もちろん医療保険等の社会的背景の日米での違いはあるが).全患者のうち,抗菌薬を投与しなかった患者は8.9%であった.抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少し,DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させた.本研究では,人生の最後(End-of-life)のQOLを快適に過ごせたかについて評価するスケールを用いており,抗菌薬治療を行わなかった患者に比して抗菌薬治療を行った患者はQOLが低く,入院した患者ではさらにQOLが低下していた.

■なお,このCASCADE studyのコホートデータにおいて,保険会社Medicadeの診療ごとの支払いシステム利用者とMedicadeがケアをマネージメントしたシステム利用者を比較した解析[13]では,マネージメント群の方がDNHが多く,急性疾患での病院搬送が少なく,侵襲的介入も少なかったと報告している.

■救命・延命という点では抗菌薬治療や入院は有用かもしれないが,それと引き換えに著しいQOLの低下を伴っており,抗菌薬も病院への入院も患者への侵襲となっていることを示している.実際に誤嚥やDNHの意思表示のないことは侵襲的治療に関連した因子であることが報告されている[14].van der Steenら[15]は,米国とオランダの介護施設の認知症を伴う下気道感染症932例の前向きコホート研究を行い,行動抑制はADLを低下させ,経口抗菌薬治療は3ヶ月死亡率を改善させないと報告している.2012年に米国集中治療医学会からPICS(Post-Intensive Care Syndrome)の概念が提唱されたが,これは疾患そのものの侵襲のみならずICUでの医療行為による侵襲がICU退室後の種々の長期予後を悪化させていることを示しており[16,17],超高齢者肺炎においてもPost-Hospitalized Syndromeとも呼ぶべき問題がある.すべての医療・介護従事者は入院自体が侵襲であることを認識する必要がある.

■逆に抗菌薬治療の差し控えは認知症を進行させる,重症肺炎を惹起させる,食物・水分の経口摂取量が減る,脱水が進行するなどの弊害があることを指摘する報告[18]や,肺炎による死亡の直前は認知症患者において著しい苦痛を伴い,死が差し迫っている状況での抗菌薬の使用はこれらの不快さを減じるかもしれないとする報告[19]もあり,必ずしも抗菌薬を投与しないことがよりよい余生を過ごすことにつながるとは限らない.また,病院の介入は,その患者の終末期において,呼吸困難や疼痛といった苦痛の緩和目的でのオピオイドをはじめとする各種薬剤の投与も(病院によっては)可能であるという一面も有する[20].抗菌薬治療を行わないことは症状面での苦痛を増大させるが,死までの時間は短く[21],ここに入院による緩和ケアの意義はあるかもしれない.

■超高齢者肺炎において,抗菌薬を使うべきか,入院すべきか否かについては個々の患者での熟慮も必要であり,そこには社会的背景や個人の思想・宗教もからんでくるため,今後も答えはなかなかでない問題といえる.「抗菌薬の選択は予後に影響を与えない」は「抗菌薬投与有無は予後に影響を与えない」という意味ではないことに注意が必要であり,抗菌薬を投与しても無駄という風潮を危険視する意見もある[22].まとめると,抗菌薬治療は延命効果と急性期の症状緩和効果がある一方で,長期のQOLを悪化させる要因になりえ,入院治療はさらに長期QOLを悪化しうる.その一方で,終末期の緩和ケアであれば,苦痛緩和目的での抗菌薬治療も許容されるべきかもしれない(ただし,抗菌薬投与による副作用で死亡率が悪化することも知られており,無目的かつ漫然とした使用は避けるべきである).その上でオピオイドをはじめとする症状緩和も併用されるべきであろう.

3.高齢者肺炎における急性期病院の役割は?

■高齢者自身はどう考えているか.認知機能が保たれた介護施設患者へのアンケート調査[23]では,誤嚥性肺炎を繰り返した場合どうするかについて,61.5%が入院を希望し,73.1%が抗菌薬治療を希望した.69%は経鼻胃管栄養を希望せず,71%は胃ろうを希望しなかった.59.6%は再誤嚥のリスクがあっても経口摂取がしたいと答えた.

■当院では軽症であっても肺炎はすべて呼吸器内科で診療を行っている.急性期は積極的加療を行い,抗菌薬に加え,嚥下困難例は早期から一時的に経鼻胃管や中心静脈カテーテルを挿入して栄養管理を行いながら嚥下・運動リハビリテーションを行い,ときにアルブミン製剤を使用することもある.敗血症性ショック例もICUで治療を行わない場合であってもプロトコル導入により一般病棟の治療でも救命率が向上した.急変時no CPR希望が多いため,利尿薬(フロセミド)にすら反応しない心不全合併例の救命は困難であることが多かったが,トルバプタン(サムスカ)の登場によりこれらの難治例も救命できるようになり,死亡率は非常に低くなった.このように急性期の救命という意味では非常に超高齢者肺炎の治療成績がよくなったが,さて,はたしてこれらの当院の治療成績向上は意味があるのだろうか?仮に超高齢者肺炎の平均死亡率よりも当院の死亡率が非常に低かったとしても,それはよりよい医療を提供しているわけではないのではないか?そんな疑問を抱きながら肺炎治療を今日も行っている.

■リハビリと口腔ケアを積極導入することにより早期回復・退院をめざす医療介入を行っても,嚥下困難となり,依然として超高齢肺炎患者の約4割(当院の場合)が経口摂取以外の栄養経路が必要となってしまう現実がある.これらの患者層は可逆的なfrailtyという状態を超えたpost-frailtyという状態にあり,その機能を戻すことはもはや困難な患者集団である.難治例の救命はそれだけ患者に侵襲を与え,身体機能・精神機能を大幅に低下させ,post-frailty状態の患者を生み出しているという現状が急性期病院の肺炎診療にあたる医療従事者につきつけられている.しかしながら米国で導入されているDNHという概念を本邦で普及させるには法整備と自宅や介護施設で看取れる社会環境の変革がまず必要であり,加えて,日本の国民への「老衰」への認識を考えてもらう必要がある.健康日本21で日本国民に周知させるためにメタボリックシンドロームや糖尿病,COPDがとりあげられているが,今の日本国民により必要なのはこの老衰の認識ではないか.残念ながら老化に関しては「アンチエイジング」の認識しか広まっていない.日本人は,風邪ひとつをとってみても分かる通り,「点滴」「病気になったら病院へ」の文化が定着している民族であり,DNHという考え方はなかなか根付かないだろう.

■高齢者肺炎で救急搬送されてくる患者の家族はそのほとんどが患者の嚥下機能の衰えを認識しておらず,肺炎が治れば元通りになると考えている家族は非常に多い.それゆえ,肺炎は治療したが嚥下機能は廃絶していることを告げると,あたかも癌告知のようなショックを受ける家族もおり,誤嚥性肺炎を起こすことは,たとえそれが初めての誤嚥性肺炎であっても嚥下機能がギリギリの状態にまで衰退している場合も少なくはなく,癌の進行と似たようなものなのかもしれない.少なくとも,患者の機能がここまで衰えていること,余生についてそろそろ考えるべき時期がきていることを十分な説明をもって時間をかけて家族に伝えるという意味での入院・救命の意義はあるかもしれない.

※「窒息してもいいから食べさせて」と言う家族もたまにいる.当然ながら“倫理的問題”により病院や施設ではそのようなことは不可能で,嚥下機能廃絶患者に危険を承知で経口摂取してもらうなら自宅で家族に行ってもらうしかない.しかし,人間にとって三大欲のひとつ「食欲」の手段である経口摂取をさせないことは“倫理的問題”にはならないのか?

※現在私は,超高齢者肺炎では,肺炎が治癒しても約4割が経口摂取困難になること,その際は他の栄養摂取経路の選択(末梢点滴,胃ろう,中心静脈ポート)が必要になることを入院時の家族へのムンテラで説明している.さらに,急性期にできるだけ早い改善をもって回復期のリハビリと早期退院でADLを落とさないようにするため,一時的に経鼻胃管や中心静脈カテーテル,アルブミン製剤を使用して(実際に中心静脈カテーテルを挿入するのは末梢点滴がとれないケースがほとんど)短期間の集中的治療を行うことを説明している(これらの退院・転院までの一連の流れはより効率化させるため,TAPERing projectと称する回復期介入のガイドライン/プロトコルを作成し,現在クリニカルパスとして運用を開始している).抗菌薬は耐性菌リスクがあってもほとんどのケースはABPC,SBT/ABPC,CMZで治療(過去に緑膿菌感染の既往があればPIPCまたはTAZ/PIPCを考慮することもある.抗MRSA薬が最初から投与されることはまずない)しており,治療開始4日目前後の奏功度と培養結果を見て継続かescalationするかを決定している(普段はde-escalationを行っているが,超高齢者肺炎だけは例外的に狭域で開始して必要に応じてescalationを行っている).このescalationについて近々コホート研究として報告を検討している.


超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?(2) ~ヒトは肺炎で死ぬのか?~ はこちら

[1] 日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会,東京,2007
[2] 西田 茂樹.近年の肺炎死亡率の動向について.Bull Inst Public Health 1993; 42: 526-32
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[4] Brito V, Niederman MS. Healthcare-associated pneumonia is a heterogeneous disease, and all patients do not need the same broad-spectrum antibiotic therapy as complex nosocomial pneumonia. Curr Opin Infect Dis 2009; 22: 316-25
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[6] Kett DH, Cano E, Quartin AA, et al; Improving Medicine through Pathway Assessment of Critical Therapy of Hospital-Acquired Pneumonia (IMPACT-HAP) Investigators. Implementation of guidelines for management of possible multidrug-resistant pneumonia in intensive care: an observational, multicentre cohort study. Lancet Infect Dis 2011; 11: 181-9
[7] Chalmers JD, Rother C, Salih W, et al. Healthcare-Associated Pneumonia Does Not Accurately Identify Potentially Resistant Pathogens: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Infect Dis 2013 Dec 19
[8] Teramoto S, Fukuchi Y, Sasaki H, et al; Japanese Study Group on Aspiration Pulmonary Disease. J Am Geriatr Soc 2008; 56: 577-9
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[17] DrMagicianEARL. 敗血症と長期予後,PICS(Post Intensive Care Syndrome). EARLの医学ノート 2013 Apr.16 http://drmagician.exblog.jp/20272480
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[19] Van Der Steen JT, Pasman HR, Ribbe MW, et al. Discomfort in dementia patients dying from pneumonia and its relief by antibiotics. Scand J Infect Dis 2009; 41: 143-51
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[21] van der Steen JT, Ooms ME, van der Wal G, et al. Pneumonia: the demented patient's best friend? Discomfort after starting or withholding antibiotic treatment. J Am Geriatr Soc 2002; 50: 1681-8
[22] van der Steen JT, Helton MR, Ribbe MW. Prognosis is important in decisionmaking in Dutch nursing home patients with dementia and pneumonia. Int J Geriatr Psychiatry 2009; 24: 933-6
[23] Low JA, Chan DK, Hung WT, et al. Treatment of recurrent aspiration pneumonia in end-stage dementia: preferences and choices of a group of elderly nursing home residents. Intern Med J 2003; 33: 345-9
# by DrMagicianEARL | 2014-01-06 10:41 | 肺炎
 新年明けましておめでとう御座います.今年も宜しく御願い申し上げます.

 今年の最初の記事は,まだ論文化されていない研究内容として,2014年1月9日から13日まで米国サンフランシスコで開催される米国集中治療医学会の抄録集から(個人的に)興味深い内容のピックアップです.

The 43rd Critical Care Congress
January 9-13, 2014
Moscone Center South, San Francisco, California, USA
President: Carol L. Thompson, PhD, ACNP, CCRN, FCCM
Crit Care Med 2013; 41 Suppl
【未論文化研究先取り】米国集中治療医学会学術集会2014抄録集より(1)_e0255123_0482650.png
集中治療室入室が必要ではない可能性がある患者の検出モデル
Sadaka F, Cytron M, Fowler K, et al. A model for identifying patients who may not need intensive care unit admission. SCCM Congress 2014 Oral 1
ICUに入室した全患者を後ろ向きに解析し,APACHEアウトカムデータベースを用いて,day1に1つ以上の生命維持のための積極的加療を受けた患者を検出し,低リスク群(初日に積極的加療を要さず,その後も積極的加療を要するリスクが10%以下の患者)2293例と積極的加療群(ICU入室中に1つ以上の積極的加療を受けた患者)を比較.APACHEⅣスコアは低リスク群34.3±13.4,積極的加療群58.7±25(p<0.0001).ICU在室日数は低リスク群1.6±1.7日,積極的加療群4.3±5.3日(p<0.0001).ICU死亡率は低リスク群0.7%,積極的加療群9.6%(OR 15.0; 95%CI 9.2-24.8; p<0.0001).院内死亡率は低リスク群1.8%,積極的加療群15.2%(OR 9.8; 95%CI 7.1-13.4; p<0.0001).
 米国でも集中治療コストは年間800億ドルに達しており,今後も増加することが見込まれている.限られた医療資源,ベッド,スタッフでICUを運営するためにもICUが必要でない患者を抽出していくシステムは必要で,本研究でもICU全入室患者の29.7%に及ぶ患者が低リスク群に該当している.
外傷性脳損傷におけるHMGB-1トランスロケーションと小膠細胞活性化はミノサイクリンによって減少する
Simon D, Aneja R, Lewis J, et al. HMGB1 translocation and microglial activation after pediatric TBI attenuated by minocycline. SCCM Congress 2014 Oral 10
重症外傷性脳損傷モデルラット17例での動物実験で,ミノサイクリンがHMGB-1トランスロケーションと小膠細胞活性化を阻害した.
 第2世代テトラサイクリン系抗菌薬のミノサイクリンには抗菌作用以外に神経保護作用が知られている.本研究でも指摘された小膠細胞阻害作用については実は早稲田大学の研究で男性の浮気防止効果としてプラセボ対照RCTで有用性が示されている(Watabe M, et al. Sci Rep 2013; 3: 1685).
早期リハビリテーション(mobilization)は脳神経外科ICU患者のアウトカムを改善するか?
Klein K, Mulkey M, Bena J, et al. Does early mobilization improve neuroscience ICU patient outcomes? SCCM Congress 2014 Oral 11
Neurosurgical ICUに入室した637例で,看護師始動の早期リハビリテーション開始プロトコル介入を検討した前向き前後比較研究.介入後は有意に歩行障害,人工呼吸器装着日数,血流感染,圧迫潰瘍,不安,抑うつが減少した.多変量解析では,早期リハビリテーショの方がより運動能があり,ICU在室期間や入院期間が短縮し,自宅退院が多く,不安が少なかった.死亡率,深部静脈血栓症,その他臨床アウトカムには有意差はみられなかった.
 今流行のnurse drivenの早期リハビリテーションプロトコルの有用性研究.血流感染症まで減少したのは意外.死亡率については長期予後でみると有意差がつくのかもしれない.
蘇生後心筋機能におけるβ遮断薬,β遮断+α1遮断薬の効果
Yang M, Hu X, Lu X, et al. The effects of β- and β-, α1- adrenergic blocking agents on post-resuscitation myocardial function. SCCM Congress 2014 Oral 18
心室細動蘇生後モデルラット24例での動物実験.β遮断薬(プロプラノロール),あるいはβ遮断薬とα1遮断薬(プラゾシン)の併用は蘇生後心筋機能障害を減少させ,心筋傷害バイオマーカー放出を減少させた.
 敗血症性ショックでのβ遮断薬については既にPhaseⅡまで有用性が示されているが,心肺蘇生後にもβ遮断薬の研究がでてきた.
ECMOを受ける重症心不全の成人患者において高体重は死亡率を増加させる
Ryan K, Lynch W, Wypij D, et al. Higher body weight increases mortality in adults with severe cardiac failure supported with ECMO. SCCM Congress 2014 Oral 25
米国の2005年から2011年までの多施設ECMOレジストリデータから,体重分布80%タイル以上の肥満群(男性100kg以上,女性90kg以上)と40-60%タイルの非肥満群(男性75-85kg,女性65-75kg)を比較した1611例後ろ向きコホート研究.調整前の死亡率は54% vs 51%(p=0.4)で有意差なし.サブ解析では,心原性(68% vs 54%, p=0.002)と心肺蘇生(84% vs 60%, p=0.03)においては肥満群の方が有意に死亡率が高かった.多変量解析では,肥満が死亡に関連した有意な独立危険因子であった(OR 1.4; 95%CI 1.1-1.7).
 近年の肥満パラドックスとは間逆の結果.ただ,日本人からしてみると40-60%タイル群でもかなり高体重な印象.
重症疾患における血清鉄レベルと血流感染症の関連性
Christopher K, Hajifathalian K, Chanchani S, et al. The association of serum iron levels and bloodstream infections in the critical ill. SCCM Congress 2014 Oral 42
2施設ICUの18歳以上の成人患者4703例の観察研究.血流感染症は18.4%に生じ,そのうち35.2%が敗血症と診断された.30日全死亡率は23.5%.入院前の血清鉄レベル>170μg/dLは60-169.9μg/dLの集団と比して血流感染症リスクが1.38倍(95%CI 1.00-1.92; p=0.050),調整後で1.41倍(95%CI 1.01-1.97; p=0.041),調整後敗血症リスクが1.39倍(95%CI 1.05-1.84; p=0.022),30日死亡リスクが1.42倍(95%CI 1.02-1.96; p=0.035)であった.
 鉄剤静注による感染症増悪は有名だが,入院前の血清鉄濃度で血流感染症発生率のみならず30日死亡率まで増加するとの結果.過剰な鉄剤投与は控えるべきであろう.
重症疾患患者の初期ビタミンD濃度と90日死亡リスク
Quraishi S, Bittner E, Blum L, et al. Vitamin D status at innitiation of care in critically ill patients and risk of 90-day mortality. SCCM Congress 2014 Oral 49
2施設の外科ICU患者100例を前向きに登録したビタミンDについての観察研究.平均血清total 25(OH)Dは17±8ng/mL,total 1,25(OH)2Dは32±19ng/mL.平均生体利用25(OH)Dは2.5±2.0ng/mL,1,25(OH)2Dは6.6±5.3ng/mL.90日再入院率は24%,90日死亡率は22%.Poisson回帰解析では,total 25(OH)Dが1ng/mL増加するごとに入院期間は2%短縮する(OR 0.98; 95%CI 0.97-0.98).共変量調整後,total 25(OH)Dが1ng/mL増加するごとに,90日再入院リスクは16%減少(OR 0.84; 95%CI 0.74-0.95),90日死亡リスクは16%減少(OR 0.84; 95%CI 0.73-0.95).外科ICU患者においてビタミンD補充が予後を改善するかについて無作為化比較試験が必要である.
 ビタミンDが低いと予後悪化に関連するとの結果.
重症疾患生存者におけるICU入院中のせん妄の長期予後
Wolters A, van Dijk D, Pasma W, et al. Long-term outcome of delirium during ICU admission in survivors of critical illness. SCCM Congress 2014 Oral 50
内科外科混合ICUに入室した1101例前向き観察コホート研究.412例(37%)がICU入室期間中にせん妄エピソードを有した.そのうち198例(18%)がICU入室から12ヶ月以内に死亡している.12ヶ月後の調査回答率は64%であった.ICU入室期間中の疾患重症度を含む共変量で調整すると,せん妄と12ヶ月死亡率に有意な関連性はみられなかった(HR 1.25; 95%CI 0.92-1.69).同様に調整するとせん妄は12ヶ月健康関連QOLとも関連性はみられなかった(β -0.04; 95%CI -0.10 to 0.01).しかし,中等度から重度の認知機能障害は共変量調整後でも有意に関連性がみられた(中等度認知機能障害OR 2.41; 95%CI 1.57-3.69,重度認知機能障害OR 3.10; 95%CI 1.10-8,74).
 PICS関連研究.せん妄が長期死亡率を悪化させる報告が近年複数でており,この研究では有意な増加はみられないものの,HR 1.25であり注意が必要.
敗血症性ショックにおける蘇生バンドル遵守:遅くとも行わないよりはよい
Sadaka F, Tannehill D, Trottier S, et al. Resuscitation bundle compliance in septic shock: better late than never. SCCM Congress 2014 Oral 57
2011年7月から2013年1月までの大学病院における敗血症性ショック395例を,6時間以内にSSCGに順じた蘇生プロトコルを施行した群(C6群)95例,6時間以上18時間以内に蘇生プロトコルを遵守した群(C18群)85例,18時間時点で蘇生プロトコルが達成されていない群(NC群)215例を比較した前向き観察コホート研究.3群間で年齢,体重,SOFAスコアに有意差なし.疾患重症度とベースラインで調整したCoxハザード解析では,NC群と比較した院内死亡リスクはC6群で55%減少(HR 0.45; 95%CI 0.24-0.85; p=0.01),C18群で88%減少(HR 0.12; 95%CI 0.04-0.39; p<0.001)した.
 たとえ6時間以内に達成できなくともプロトコルを行わないよりはマシ,という結果.
妊婦における重症敗血症―全国解析
Kumar G, Ahmad S, Dagar G, et al. Severe sepsis in pregnancy - A national analysis. SCCM Congress 2014 Oral 58
米国の2000-2009年までの18歳以上の妊婦の入院患者データを用いた解析.45107956例の妊婦データが得られ,そのうち19351例(0.04%)が重症敗血症であった.年間の重症敗血症発生率は2000年の21/100000から2009年の74/100000に増加していた.重症敗血症の原因の50%は出産時の感染であった.妊婦の重症敗血症の院内死亡率は6.8%であり,2000年から2009年まで変化していない.その一方で,妊婦でない女性の院内死亡率は30.3%であった.重症敗血症は妊婦の全死亡原因のうち23%であった.敗血症のない妊婦の入院期間が2.6日間であったのに対し,重症敗血症発症妊婦は12.9日間であった.
 妊婦の敗血症発生率と死亡率は低いが,死亡率はこの9年間で変わっておらず,死亡原因の1/4を重症敗血症が占めるという結果.
小児における重症敗血症:小児医療情報システムデータベースでみた傾向と予後
Ruth A, McCracken C, Hall M, et al. Severe sepsis in children: trands and outcomes from the pediatric health information system database. SCCM Congress 2014 Oral 59
2004-2012年の小児病院関連小児医療情報システムのデータベースからPICSに入室した新生児でない小児の重症敗血症の解析.全561937例の入室のうち,重症敗血症は7.0%(39372例)であった.併存疾患は76%にみられた.全死亡率は15.1%であった.小児重症敗血症患者のうち,心血管疾患の合併が最も多かった(28.3%,死亡率19.8%).多変量解析では,悪性新生物を有する小児重症敗血症が最も死亡リスクが高かった(OR 2.2; 95%CI 2.1-2.4; p<0.001).血流感染が最も多い感染巣であった(61.2%).PICU在室日数中央値は7日(IQR 3-19),入院日数中央値は18日(IQR 9-39).10-19歳と比較すると,1歳未満が最も死亡リスクが高かった(死亡率19.5%,OR 1.24; p<0.001).ブドウ球菌属は最も多い原因菌であり(10.8%),次いで連鎖球菌属が多かった(5.8%).真菌感染症は多くなかったが(0.6%, n=239),死亡率は16.7%と高かった.3つ以上の臓器障害は死亡のハイリスクであった(死亡率47%; OR 13.4; 95%CI 12.1-14.9; p<0.01).2004年から2012年で小児重症敗血症発生率は有意に増加し(5.1% vs 5.8%; p<0.001),コストも$211784から$232138に有意に増加した(p=0.002).しかし,死亡率は有意に低下していた(19.2% vs 13.2%; p<0.001).
 近年の小児敗血症のデータを知るための重要な研究である.おおむね成人データと同様の傾向が示されている.
敗血症診断日の低体温は低リンパ球血症遷延を予測する
Drewry A, Skrupsky L, Fuller B, et al. Hypothermia on the day of sepsis diagnosis predicts persistent lymophopenia. SCCM Congress 2014 Oral 63
敗血症または菌血症の成人患者445例の後ろ向きコホート研究.免疫疾患既往や免疫抑制薬使用歴のある患者は除外とした.24時間以内の体温で分類し,低体温は36.0℃未満,発熱は38.3℃と定義した.低リンパ球血症は培養後4日目でリンパ球数<1.2細胞/μL×1000と定義した.183例(41.1%)が正常体温,58例(13.0%)が低体温,204例(45.8%)が発熱であった.正常体温群と比較して,28日死亡率は低体温群で有意に高く(48.3% vs 30.6%; p=0.015),高体温群で有意に低かった(21.1% vs 30.6%; p=0.03).診断日の低体温は正常体温と比較して低リンパ球血症遷延と有意に関連していた(調整後OR 2.42; 95%CI 1.03-5.69; p=0.028).生存退院した患者においては,各群で二次感染発症率に有意差はないが,発熱群で低い傾向がみられた.
 敗血症において低体温が最も予後が悪いことはこれまで複数のコホート研究で示されており,今回低体温とリンパ球減少の関連性が示唆された.低体温による免疫力低下は心肺蘇生後の低体温療法の合併症としても知られている.
夜間騒音減少バンドルとアラーム設定調整によるICUの騒音と夜間のアラームの減少
Mattingly AM, Valcin EK. Reduction of ICU noise and alarms with a night-time noise reduction bundle and modified alarm profile. SCCM Congress 2014 Poster 111
内科ICUにおいて,夜間騒音減少バンドルとアラームの調整を組み合わせた介入による前後比較研究.バンドル構成要素は,時間アラームを小さくし,患者の個室を閉じ,輸液ポンプとモニターの音を小さくし,アラームを鳴らすようなワークフローを調整し,テレビやラジオを消し,スタッフの声を小さくすることである.新しいアラーム設定は,アラーム基準を最も厳しくすることで迷惑なアラーム音を減少させるよう調整した.24時間での音の強さは有意に減少し(中央値54.3 to 53.0 dB; p<0.0005),夜間の音の強さも有意に減少した(中央値52.8 to 51.3; p<0.0005).非不整脈によるレッドアラームが増加したにもかかわらず,全アラーム,全イエローアラーム,不整脈によるレッドアラームは有意に減少した.モニター音量,輸液ポンプ音量,時間音量は有意に改善したが,テレビはつけられることが多くなった.ラジオとドア閉めは変化がなかった.
 音による睡眠障害はICUせん妄の大きな要因であるにもかかわらず,多くの施設においては基準をはるかに上回る音量がなっており,睡眠障害が生じていることが報告されてきている.本研究ではなんとかしてICUの騒音を減少させようとする取り組みを提示し,ある程度の統計学的に有意な減少を示したが,臨床的に意味のある減少量かは判断しづらい.また,患者への有用性,安全性についての検討がなされていないところが問題点と思われる.
日本の集中治療におけるFCCSコースの評価
Atagi K, Fujitani S, Ishikawa J, et al. Evaluation the Fundamental Critical Care Support course in critical care education in Japan. SCCM Congress Poster 131
米国でICUをローテーションするレジデントのための訓練コースを日本の臨床に合わせたFCCSコース(2日間のoff-the-jobトレーニング,プレテスト・ポストテストによる評価)の評価.4年間で受講者は増加し,1804名に達した.70%近くの参加者は医師であり,それ以外で最も多かったのは看護師であった.創設した最初の年は臨床経験年数が5年を上回る医師は50%を超えていたが,徐々に減少した.その一方で,レジデントと看護師が増加した.半数近くの参加者が人工呼吸器について有益なセッションと考えていた.プレテストで既に平均点は高かったが(78.8±14.1点),ポストテストでは有意に改善していた(82.0±6.6点; p<0.01).集中治療管理のいかなる分野においても受講者の信頼度は5ポイントスケールでほぼ4ポイントであった.
 日本各地で開催されているFCCSの評価である.私自身も参加したいのだが,いろいろな日程と重なっていまだに1度も参加できずにいる(ただし呑み会だけは1度参加した(^^;)).このコースの特徴は集中治療医というより,むしろそれ以外の医療スタッフを対象にしていることである.集中治療医でなくとも是非一度は受講しておきたいコースである.
# by DrMagicianEARL | 2014-01-03 00:37 | 文献
■今年は(よっぽど面白い文献が残り数日ででてこない限り)この記事が最後のアップになります.

■今年もいろんな論文が発表されました.腹臥位療法の有用性を示したPROSEVA study[1],低体温療法の有用性が否定されたTTM study[2],集中治療医有無でのICU治療成績の差を示したWilcoxらのシステマティックレビュー[3],敗血症性ショックに対するエスモロールのPhase II study[4],抗菌薬投与患者へのルーチンのprobiotics投与に疑問を投げかけたPLACIDE study[5],重症疾患患者におけるグルタミンと抗酸化物質が無効であることを示したREDOXS Study[6],救急隊による病院到着前のアドレナリン投与に疑問を投げかけた日本からのNakaharaらの報告[7]が特に印象的でした.ニュースとしては,中国で発生した鳥インフルエンザウイルスA/H7N9,新型インフルエンザ等感染症特別措置法施行,イレッサ訴訟,ディオバン論文不正問題などでしょうか.

■このブログについて主旨等を書いたことがなかったので,2013年を振り返りながら.本ブログは,最初は倉原先生の人気ブログ「呼吸器内科医」のように文献要約をアップしていこうかと思っていましたが,いろいろな意図もあって,レビュー形式で,私の院内の取り組みとパラレルに記事を書いています.イメージとしては,敗血症のUp-to-Dateのつもりで,新しい記事を書くと同時に古い記事は適宜新しいエビデンスがでたら更新していくスタイルをとっています.それも日本語で,医師のみならず他の医療スタッフにも知っていただきたいエビデンスをできる限り文献引用をつけてこのブログから情報発信し,知識共有できればと考えています.敗血症レビューが蘇生バンドルに始まり,最近ようやく疼痛不穏せん妄のレビューにまできましたが,これは私自身の勉強・取り組みをリアルタイムに表しています.

■私は卒後臨床研修医から今の病院に勤務しておりますが,最初は循環器内科希望でした.それがHIV感染症の患者(ニューモシスチス肺炎)を担当してから感染症に興味を持ち呼吸器内科希望に方針を転換しました(当院呼吸器内科は肺癌をあまり担当することはなく,肺炎がほとんどという急性期に特化した特殊な呼吸器内科でした).その後2011年になって名古屋大学救急集中治療医学分野教授の松田直之先生の講演を聴講して敗血症に興味を持ち始め,院内の敗血症診療の改善に取り組み始めました.院内ガイドラインを作成した後,最初は研修医やスタッフがいつでもどこでもインターネット上で見れるようにと本ブログで敗血症診療のレビュー記事を2011年秋からスタートしました.現在では1日1200人程度の閲覧数があり,おかげさまで研究会やメールで「ブログ見てますよ」とお声をいただいたり,ブログ経由で講演会依頼もいただいたり,書籍の分担執筆依頼もいただくようになりました.今後もより多くの敗血症・肺炎関連のレビューを発信していきたいと思います.

■さて,2013年はSurviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[8]と日本版敗血症診療ガイドライン[9]が発表された,敗血症診療において大きなイベントの年でした.SSCGにより敗血症診療がここまで進歩したこと,日本語でガイドラインが発表されたことは非常に有意義なことであると同時に,なぜこのようなガイドラインになったのかと疑問に思うことも事実です.World Sepsis Alliance(世界敗血症同盟)が2012年9月13日に世界敗血症宣言[10]をだし,偶然にも東京オリンピックと同じ2020年までに達成すべき項目を提示しました.残念ながら現在のガイドラインはSSCGも日本版も世界敗血症宣言で提示された目標をカバーできていません.公衆衛生による感染症予防に始まり,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)[11,12]などの長期的ケアに至るまで,敗血症診療でカバーすべき範囲は広いにもかかわらず,ガイドラインが示すのはICUの中の診療だけです.敗血症診療を三次救急施設ICUのみで作られたエビデンスだけで語る時代はもう終わりにすべきでしょう.同時に救急集中治療医がいない病院でも通用する敗血症診療のエビデンスを救急集中治療医でない医師が作っていく必要があると思います.おそらく2020年までにSSCGも日本版もあと2回の改訂が行われるのではないかと予想されます(できれば日本版改訂の際の委員会メンバーに入ってみたいと思ってはいますが,まあ私のキャリアでは無理でしょう).

■私は敗血症診療と同時に超高齢者肺炎もメインに診療しています.肺炎については日本呼吸器学会のガイドラインがでていますが,臨床現場とガイドライン作成者の間の認識のズレを感じずにはいられません.ガイドラインが示したのは細菌学的理論と抗菌薬の推奨のみにとどまっていて,その抗菌薬の推奨ですら臨床現場の感覚と異なるものでした.2013年10月に行われた第13回呼吸器感染症フォーラムで,ようやくガイドラインの方針にメスが入りましたが,このフォーラムで議論された内容を現場の医師はとっくに気がついていたと思います.おそらくパブリックコメントでも指摘があったはずです.ガイドライン作成をした大学教授陣と臨床現場の医師の距離が縮まるのに何年かかったのでしょうか.

■抗菌薬の選択は超高齢者肺炎患者の予後に影響を与えません[13-15].しかしながら,ガイドラインが示す耐性菌リスクによる分類は過大評価になってしまい,広域抗菌薬使用増加につながっています.慢性心不全,嚥下機能障害,認知症,骨格筋の廃用,といった様々な背景が超高齢者肺炎のベースにあり,高齢者肺炎は感染症のみで語れる疾患ではなく,様々な疾患を合併した症候群であり,実際に難渋するのは肺炎治療ではなくfrailtyあるいはpost-frailty(後者は私の造語です)という状態です.

■加えて,病院への入院そのものが基礎疾患の悪化を招き,QOLを著しく低下させている要因になっており[16],海外にはDNARならぬDNH(Do Not Hospitalization:入院しない意思表明)という意思表示が法的に定められているくらいです.院外心肺停止患者へのアドレナリン投与は心拍再開率を上げるが神経学的予後は変わらず,意識障害患者をいたずらにつくりだしているのではないかという論文[7]が最近でましたが,実は高齢者肺炎診療ですでにそのようなことが起きていて(肺炎治療で寝たきり老人をつくってしまう),入院自体が大きな侵襲となってしまっているという事実が急性期病院につきまとうジレンマとなっています.肺炎患者をリハビリで機能維持し,できる限り早く退院させる必要がありますが,現実的にはかなり難しい問題となっています.敗血症をはじめとするICU重症患者におけるPICSと同じく,高齢者肺炎ではPost-Hospitalization Syndromeとも呼ぶべき問題があり,日本呼吸器学会,日本感染症学会もそろそろここに強く焦点をあてるべきではないでしょうか.

■ここから私事になりますが,2013年度は私はレジデント最後の年というひとつの区切りとなる医師年数を迎えました(なので医師5年以上というキャリア年数の制限があるため実はまだICDの資格が取れていません).他病院の先生からのお誘いもあって,卒後臨床研修医から御世話になっている当院を今年度で退職して新たな病院で・・・,と考えていたのですが,あとから次々と新しい取り組みを始めてしまい,当院で可能な臨床研究ネタも尽きたと思っていたらまだまだ探せばでてくる,感染対策加算もようやく加算1を取得する,ということでとりあえずもう1年残ることにしました(ちなみに私はどこの大学医局にも属していません).

■完全主治医制の当院において,敗血症診療について私1人が実践するだけではダメで,院内全体の治療成績を挙げる上でガイドラインをつくり,システム自体を変える必要がありますが,他の医師との様々な信念対立にぶつかり,改革がいかに難しいかを思い知りました.それでもなんとか改革は前に進んでおり,一定の成果をだすに至った,2013年はそんな年でした.次なるステップとして,ガイドライン/プロトコルのみならず,本格的に治療介入に入るシステム作りに移行しています.

■当院ではICT,NST,RST,その他ICU管理を網羅した多職種集学的な週3回の回診チームであるICST(Intensive Care Support Team:集中治療サポートチーム)を導入し,低侵襲かつ有効な急性期治療介入を推進するとともに,TAPERing projectと名づけた回復期のサポートプロトコル/クリニカルパスも導入し,入院から退院後ケアまでの円滑な流れができるよう取り組みを開始しました.2014年はこれらの取り組みをより推進し,評価を行い,エビデンスを作っていくことが大きな目標となっています.詳しい内容は決定していませんが,2014年7月の日本呼吸療法医学会学術総会の多職種連携をテーマとしたシンポジウムで講演の機会をいただいたので,これらの取り組みを発表しようと考えています.また,来年4月に刊行予定のINTENSIVIST誌に当院ICSTについてちょっと書かせていただきました.

■長々となってしまいましたが最後に,このブログを続けていくにあたり,面識の有無に関係なく様々な先生方から御指導,御鞭撻を賜り,また,当院における敗血症診療,肺炎診療の実践においても多職種スタッフの後押しと御協力のもとここまでくることができ,非常に充実したレジデント生活を送ることができました.2014年も宜しく御願い申し上げます.

[1] Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al; PROSEVA Study Group. Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2013; 368: 2159-68
[2] Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al; TTM Trial Investigators. Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest. N Engl J Med 2013; 369: 2197-206
[3] Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al. Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med 2013; 41: 2253-74
[4] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
[5] Allen SJ, Wareham K, Wang D, et al. Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet 2013; 382: 1249-57
[6] Heyland D, Muscedere J, Wischmeyer PE, et al; Canadian Critical Care Trials Group. A randomized trial of glutamine and antioxidants in critically ill patients. N Engl J Med 2013; 368:1489-97
[7] Nakahara S, Tomio J, Takahashi H, et al. Evaluation of pre-hospital administration of adrenaline (epinephrine) by emergency medical services for patients with out of hospital cardiac arrest in Japan: controlled propensity matched retrospective cohort study. BMJ 2013; 347: f6829
[8] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637
[9] 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本版敗血症診療ガイドライン.日集中医誌 2013; 20: 124-73
[10] DrMagicianEARL. 敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言. EARLの医学ノート 2013 Sep.9 http://drmagician.exblog.jp/18901899/
[11] Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med 2012; 40: 502-9
[12] DrMagicianEARL. 敗血症と長期予後,PICS(Post Intensive Care Syndrome). EARLの医学ノート 2013 Apr.16 http://drmagician.exblog.jp/20272480/
[13] Attridge RT, Frei CR. Health care-associated pneumonia: an evidence-based review. Am J Med 2011; 124: 689-97
[14] Komiya K, Ishii H, Umeki K, et al. Impact of aspiration pneumonia in patients with community-acquired pneumonia and healthcare-associated pneumonia: a multicenter retrospective cohort study. Respirology 2013; 18: 514-21
[15] Lisboa T, Diaz E, Sa-Borges M, et al. The ventilator-associated pneumonia PIRO score: a tool for predicting ICU mortality and health-care resources use in ventilator-associated pneumonia. Chest 2008; 134: 1208-16
[16] Givens JL, Jones RN, Shaffer ML, et al. Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia. Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7
# by DrMagicianEARL | 2013-12-25 16:54
夏休みに引き続き,明日からの臨床に役立たない(一部役に立つ?)「へぇ~」的論文特集第2弾です.小ネタにどうぞ.

メタボリックシンドローム神話崩壊?
Thomsen M, et al. JAMA Intern Med 2013
メタボリックシンドローム有無にかかわらず過剰体重や肥満は心筋梗塞や虚血性心疾患のリスクであり,リスク検出の上でメタボリックシンドロームはBMIを上回る価値はない.デンマーク71527例コホート研究

ナッツで寿命が延びる?
Bao Y, et al. N Engl J Med 2013; 369: 2001-11
118962例コホート研究.ナッツを食べない人と比較して,死亡リスクは週1回食べると7%減少,週2-4回で11%減少,週5-6回で15%減少,週7回以上で20%減少.ナッツは癌・心疾患・呼吸器疾患による死亡リスク減少と有意に関連.

喫煙者が多い室内のPM2.5濃度は北京市のひどい日の4倍
呼吸 2013;32:1028-35
日本の喫煙者が多い室内において,PM2.5濃度は3000μg/m3に達しており,北京市のPM2.5濃度が高い日の約4倍の劣悪な環境であった.
※なお,国立癌研究センターでは日本での受動喫煙死亡者数は6800人と推定している.

医師は敗血症で死亡しにくい
Shen HN, et al. Crit Care Med 2013 Nov.13
医師29697人と非医療者をマッチさせたコホート研究.医師は重症敗血症発生率になりにくく,重症敗血症に罹患しても死亡リスクが18%低い.医学知識を有し,疾患認識力が高く,病院を早く受診しやすいのが原因かもしれない.

バイリンガルは認知症になりにくい
Alladi S, et al. Neurology 2013; 81: 1938-44
インド在住の648人(平均年齢66歳)を対象に調査を実施し,2言語話せる群と1言語のみの群で認知症発症を比較.2言語群は,たとえ読み書きができなくとも,1言語しか話さない人と比べて認知症の発症が4年半遅かった.
※英語論文を読む医師は読まない医師より認知症になりにくい,なんて研究はでないでしょうか

スーパーマリオで知能アップ?
Kühn S, et al. Mol Psychiatry 2013 Oct.29
テレビゲームのスーパーマリオ64を2ヶ月間プレイする群としない群を比較したRCT.プレイ群は右脳の海馬,前頭前野皮質,小脳の脳体積が増加し,知能増加が見られた.PTSD,統合失調症に有用かもしれない.

大豆で放射線治療副作用を予防?
Hillman GG, et al. J Thorac Oncol 2013;8:1356-64
大豆のイソフラボンは,放射線による皮膚障害,脱毛,呼吸数増加,肺炎,線維化に対して保護的に作用する.マウスモデル研究.

アリはアカシアの奴隷
Heil M, et al. Ecol Lett 2013 Nov.4
アカシアとアリの共生がこれまで知られていたが,アカシアの樹液が含む酵素によってアリがほかの糖源を摂取できなくなる樹液中毒によりアリがアカシアの奴隷となっていることが判明.

刑務所釈放者の死亡原因と麻薬
Binswanger IA, et al. Ann Intern Med 2013; 159: 592-600
刑務所釈放後の全死亡率737/10万人/年.死亡原因の14.8%は麻薬であり,また薬物大量服用死は167/10万人/年.女性は薬物大量服用と麻薬関連死のリスク因子.米国76208例コホート研究.

男性は女性のどこを見ているか
Gervais SJ, et al. Sex Roles 2013 Oct
大学生65名を対象としたアイトラッキング技術を用いた研究.男性が女性を見る際には顔よりもセクシャルなボディーパーツを見て判断していた.男性が女性を物として見ていることが示唆された.

喫煙は老ける
Okada HC, et al. Plast Reconstr Surg 2013;132:1085-92
双子79組の比較研究.喫煙者と非喫煙者の組み合わせの双子では喫煙者の方が老けて見える確率が57%,いずれも喫煙者だが喫煙歴に5年以上差があると喫煙歴が長い方が老けて見える確率が63%.

甘い飲料水に課税すると肥満者が減少
Briggs AD, et al. BMJ 2013; 347: f6189
イギリスで砂糖の入った甘い飲料水に20%の税金を課税したところ肥満者が1.3%減少した.

新たな脱毛治療の可能性
Higgins CA, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2013
毛包形成に必要な毛乳頭細胞を成人男性の脱毛症患者の後頭部から採取し,試験管内で立体的に培養した後でヒト皮膚組織に移植したところ毛を生やすことに成功.

アメフト選手の脳
Hampshire A, et al. Sci Rep 2013; 3: 2972
引退したアメフト選手13例の脳MRI解析研究で,前頭葉が過反応を起こしていた.損傷を受けた脳がより活発に活動しなければこれまでと同じ機能を果たせなくなっており,脳の活動場所を増やすことで対応していると結論.

睡眠は脳の老廃物を排出する
Xie L, et al. Science 2013; 342: 373-7
グリンパティック系循環による脳内老廃物の排出の睡眠時活動量は覚醒時の約10倍になり,脳細胞が約60%収縮するため,脳脊髄液がより速くより自由に脳内を流れることで脳内老廃物の排出が睡眠時に促進される.マウスモデル研究.

皮膚細胞から直接別の細胞を作り出す手法
Outani H, et al. PLoS ONE 2013; 8: e77365
皮膚の細胞に遺伝子を導入し,別の細胞を直接作製するダイレクト・リプログラミングを用い,皮膚細胞から軟骨細胞を,iPS細胞を経ることなく直接作成することに成功.iPS細胞の半分の期間で作成可能に
※京都大学.もはやiPS細胞すら使わないという手法

バソプレシン受容体の遮断は時差ボケ防止に有用?
Yamaguchi Y, et al. Science 2013; 342: 85-90
バソプレシン受容体ノックアウトマウスモデルで周囲の明るさなどの環境に適応しやすくなることが判明.時差ボケ防止薬開発に期待.

バレリーナの平衡感覚の秘密
Nigmatullina Y, et al. Cerebral Cortex 2013 Sep.27
バレリーナは内耳にある平衡器官からの信号を処理する小脳の部位が健常人より小さく眩暈を感じないため,身体を回転させてもバランスを崩さない.49例のMRI解析.
※トリビアの泉で,フィギュアスケーター(安藤美姫選手)を何分間回転させても目が回らないというのがありましたね.

高齢者にテレビゲームで認知力改善
Nature 2013; 501: 97-101
車を運転するテレビゲームを高齢者にさせたところ脳の認知力が改善した.

生きたマウスの体内でiPS細胞の作製に成功
Nature 2013, PMID:24025773
生体内で再プログラム.しかもiPS細胞よりもむしろES細胞に近い性質を持つ高い万能性.「採取→培養→移植」の過程を省いてリアルタイムで組織再生ができるようになる?

台風災害とPTSD
Aust N Z J Psychiatry 2013, PMID:23975696
小児~若者262例の解析.台風災害から18ヶ月後に中等症から重症のPTSDが遷延していたのは小児で5人に1人,若者で12人に1人であった.

銃の所持率上昇は銃器殺人発生率を増加させる
Am J Public Health 2013, PMID:24028252
1981-2010年の全米50州の調査解析.銃の所持率が1%上がるごとに,銃器による殺人の発生率は0.9%上昇する.
※銃の所持率の上昇は銃犯罪増加につながらないとする全米ライフル協会の主張を否定する結果となりました

ダウン症患者の血管内皮細胞で作られるたんぱく質は癌を抑制する
Cell Rep 2013; 4: 709-23
ダウン症患者の血管内皮細胞で大量に産生されるたんぱく質を特定し,このたんぱく質ができないようにマウスの遺伝子を操作すると,癌細胞転移が促進される.
※以前からダウン症患者は癌になりにくいことが指摘されていました.

ヒトの脳のGPS機能
Nat Neurosci 2013; 16: 1188-90
人間の脳にGPS機能のような細胞があり,稼働していることを実験的に証明.

肥満と腸内細菌
Science 2013; 341: 1241214
肥満患者の腸内細菌をマウスの腸に移植すると脂肪がたまりやすくなってマウスが太り,やせた患者の腸内細菌を移植した場合はマウスの体形が維持された.ただし,脂質の多い餌を摂取するマウスはやせ形の腸内細菌による体質改善効果がみられない.

睾丸の大きさと子育て
Mascaro JS, et al. Proc Nat Acad Sci 2013 Sep.9
子供をもつ男性70例の生殖器をMRI撮影し解析.生物学的に睾丸の小さな父親の方が子育てに気持ちが傾きやすい.

性格のよくない男性のみがアダルトビデオの影響で女性に偏見を抱く
J Commun 2013; 63: 638-60
デンマーク男性200例での前向き観察研究.アダルトビデオの卑猥な映像により女性に偏見を抱くのは元から性格がよくない男性(事前のテストで分類)のみで,その他の男性がアダルトビデオから影響を受けることは少ない.

カジノでの喫煙禁止で救急車出動要請が減少
Circulation 2013; 128: 811-3
米国コロラド州で2008年にカジノでの喫煙を禁止する法律を施行したところ,カジノからの救急車出動要請が19.1%減少.
※同州では2006年に職場,レストラン,バー等の公共の場での喫煙を禁止する法律施行で救急車出動要請が22.8%減少

右脳・左脳の使用に差はない
PLoS One 2013; 8: e71275
1011名の安静時の脳の機能的結合状態を7266の関心領域に分けてMRIで分析.脳の機能が左右いずれの半球でより多く使用されるということはない.
※右脳派・左脳派の分け方は都市伝説だった?

恋愛パートナーの成功に対する心理変化
J Pers Soc Psychol 2013, PMID:23915040
恋愛パートナーの成功に対して男性は自尊心ゆえに否定的な影響を受ける(素直に喜ばない).一方,女性にはそのような傾向がみられず
※男ってちっちゃいね,という研究.あくまで学生が対象ですが

日本の公立病院での医師への給料の支払いは適切か?
Pediatr Int 2013; 55: 90-5
夜と休暇中の任務を労働時間と考えられていないため,多くの公立病院は医師に必ずしも増加した労働時間の給料を支払っていない.日本369病院調査
※日本の医師の労働はボランティア扱いが含まれているのでしょうねぇ.私自身,当直明けの日勤は無給扱いです.

Facebookで不幸になる?
PLoS One 2013; 8: e69841
Facebookは表面的には貴重な情報を提供するが,その使用は幸福を高めるわけではなく,むしろ幸福を減少させる可能性が示唆された.82例報告.

コーヒーの消費と全死亡および心血管疾患の関連性
Mayo Clin Proc 2013; 88: 1066-74
43727例解析.1週間に28杯以上コーヒーを飲む男性は全死亡リスクが1.21倍に有意に増加.年齢,55歳未満の男女に層別化すると,週28杯以上のコーヒー消費は全死亡リスクを男性で1.56倍,女性で2.13倍に有意に増加させる.1日4杯以上コーヒー飲む人は早死にするかもしれない.
※2012年には1日6杯コーヒー飲む人は死亡リスクが1割少ないという報告がNEJM誌にあったのですが・・・(NEJM 2012;366:1891-904)

食物添加物の臨床試験と利益相反
JAMAIM 2013, PMID:23925593
食物添加物で,試験により安全の認識されているものはCOIに偏りがあり,米国FDAはこの懸念に対処すべきである.システマティックレビュー.

飼い主のあくびは犬にうつる
PLoS ONE 2013;8:e71365
見知らぬ人のあくびよりも,飼い主のあくびの方が犬にうつりやすい.犬にとって,あくびがうつるには相手との感情の結びつきが重要な可能性.一般家庭で暮らすプードルやパピヨン,ゴールデンレトリバーなど25匹での実験.

兄弟がいると離婚リスクが減少する
Downey D, et al. 108th American Sociological Association, NY, 2013 Aug.13
米国570000例調査の解析.兄弟が1人増えるごとに将来の離婚する可能性が2%低下する.
※一人っ子は離婚リスク?

心停止から30秒間は精神状態が非常に高まる
Proc Natl Acad Sci U S A 2013, PMID:23940340
心停止モデルのラット9匹の脳電図の解析.心臓が停止してから30秒間にわたり脳の活動は急増し,精神状態が非常に高揚していており,この結果は心停止後蘇生患者の臨死体験を説明しうる可能性がある.

頭部冷却法は抗癌剤ドセタキセルによる脱毛を予防する
Support Care Cancer 2013;21:2565-73
固形癌患者238例においてドセタキセル点滴後45分の短期間の頭部冷却法を検討した前向き非ランダム化比較試験.頭部冷却法は脱毛の予防的な効果をもたらし,特にドセタキセル3週ごとの投与で効果的であった.

睡眠不足で太るメカニズム
Nat Commun 2013; 4: 2259
MRIによる23例解析で睡眠不足で太るに至る脳のメカニズムを検討.睡眠不足では大脳皮質の食欲・満腹感評価領域に活動性低下が見られ,同時に渇望に関連する領域に活動性上昇があり,睡眠不足の被験者は高カロリー食品により強い食欲を感じていた.

情けは人のためならずの実証
PLoS ONE 2013: 8: e70915
大阪府内保育園の5-6歳児70例を観察し,親切児が親切をした場合としなかった場合を約250回比較.親切をした場合の方が周りの園児が親切児を手伝ったりする頻度が高くなり,他者を好ましく思う言動も増えた.情けは人のためならずを実証

遠距離恋愛の方が心理的な結びつきが強い
J Commun 2013; 63: 556-77
カップル63組(約半数が遠距離恋愛)の解析.平均恋愛期間は2年未満,遠距離恋愛群は平均1年5カ月の間遠距離.長距離恋愛群は非長距離恋愛群よりも有意に,自分自身のことについて打ち明け,より親密な結びつきを感じていた.

動物との性交渉は陰茎癌を増加させる
J Sex Med 2012; 9: 1860-7
ブラジル農村地域の18-80歳の男性492例症例対照研究.35%(陰茎癌患者に限定すると44.9%)が馬,牛,豚,ニワトリ等の動物と性交渉経験あり.そのうち39.5%は週1回以上の頻度.動物との性交渉は陰茎癌を有意に増加させる.

Twitterは癌患者の心理的サポートとなる
BMC Res Notes 2012; 5: 699
フォロワーを500人以上有するTwitterアカウントをもつ癌患者51例のツイートの解析.Twitterは癌コミュニティーにおける患者の心理的サポートとなっている.山形大学の研究

オペラ「椿姫」を聞くことによる延命効果
J Cardiothorac Surg 2012; 7: 26
心臓移植したマウスを術後7日間聴かせる音楽として,オペラ「椿姫」群,モーツァルト群,音楽聴かせない群に割り付け.平均生存期間は26日,20日,7日.オペラには延命効果があるかもしれない.今年のイグノーベル賞受賞論文.日本から

セクハラされる看護師の特徴
Med J Malaysia 2012; 67: 506-17
看護師455名の解析.51.2%がセクハラ経験があり,内容は言葉46.6%,視覚的24.8%,心理的20.9%,身体的20.7%.美人,魅力的体型,親しみやすい,楽観的な看護師で多く,厳格で激しい性格の看護師には少ない.

病棟におけるチョコレート生存期間
BMJ 2013; 347: f7198
チョコレートを入れた箱を各病棟に設置し,継続的に観察してそれぞれのチョコレートが食べられた時間を記録した多施設共同前向き観察研究.チョコレート258個中191個が食べられた.平均観察期間は254分(95%CI 179-329分),チョコレートの生存期間中央値は51分(95%CI 39-63分).チョコレート消費モデルは非線形で,初期に急速に消費され,その後消費スピードは緩徐となった.指数関数的減衰モデルがこれらの結果に最も合致した.50%のチョコレートが食べられる時間(半減期)は99分であった.また,チョコレートの箱が病棟で開けられるまでの平均時間は12分(95%CI 0-24分)であった.最も高い頻度で摂取した医療従事者は,看護助手(28%),看護師(28%)であり,医師は15%であった.

ブラディという名前の人は徐脈でペースメーカーを挿入されやすい
BMJ 2013; 347: f6627
ブラディ(Brady)という人の名前が徐脈(bradycardia)の頻度を増加させるかどうか調査し,人の名前が健康に及ぼす影響を検討した後ろ向きコホート研究.161967例のうち,名前がブラディである579人(0.36%)が登録された.ブラディ群と非ブラディ群の年齢に差はなかった.ペースメーカー挿入頻度はブラディという名前の人の方が有意に高かった(1.38%vs0.61%, p=0.03).非ブラディと比較して,ブラディという名前によるペースメーカー挿入の非調整ORは2.27 (95%CI 1.13-4.57)だった.

ジェームズ・ボンドのアルコール摂取量の定量
BMJ 2013; 347: f7255
007のジェームズ・ボンドのアルコール消費量を定量する後ろ向き文献レビュー.ボンドが飲酒できなかった日数の除外後,彼のアルコール消費量は92単位/週であり,推奨適正量の4倍以上であった.彼の1日最大消費量は49.8単位であった.ジェームズ・ボンドのアルコール摂取レベルは早期死亡につながる多数のアルコール関連疾患のハイリスクの状態になっている.小説で示されている機能レベルは,この多量のアルコール摂取者において予測される身体的,精神的,性的機能と矛盾する.我々は更なる評価と治療(安全なレベルへのアルコール摂取の縮小)のために直ちに被照会者に忠告する.「ステアではなくシェイクで」という有名なキャッチフレーズは,アルコールによって誘発された手の振戦の原因であると推察される.ジェームズ・ボンドがウォツカ・マティーニをあおってからボンドガールと性行為ベッドインすることが多いのに,性行為後のボンドガールはみんな“大満足”の表情を見せるのはおかしい.

米国麻酔科レジデントと薬物依存
JAMA 2013;310:2289-96
米国で麻酔研修プログラムを受けたレジデント44612例の後ろ向きコホート研究.384例が研修中に薬物依存.発生リスクは2.16/1000人/年.28名(7.3%)が研修期間中に死亡し,全て薬物依存に関連していた.

細胞老化の進行を逆戻りさせる薬
Cell 2013; 155: 1624-38
マウスモデル研究.2歳のマウスにNMN投与で1週間後,筋肉が生後半年のマウスの筋肉とまったく変わらなかった.
# by DrMagicianEARL | 2013-12-24 18:41 | 文献
敗血症とせん妄(3) ~せん妄の治療と鎮静薬~
Summary
・せん妄は早期診断を行い,危険因子等明確な原因がある場合はまずそれを除去することが大前提である.
・ICUせん妄に対してハロペリドールが有効であるとする報告はない.クエチアピンは有効かもしれない.
・ICUせん妄に対して抗精神病薬を使用する場合は,その薬剤あるいは相互作用によるQT延長からのTorsades de Pointsに注意が必要である.
・リバスチグミンに代表される抗認知症薬はICUせん妄に対しては有害な可能性がある.
・デクスメデトミジンとプロポフォールはせん妄抑制効果は同等であり,この2剤に比してベンゾジアゼピン系はせん妄が生じやすい.
・これまでのデクスメデトミジンのほとんどの質の高い研究では最大用量が日本の保険適応最大用量の2倍になっていることを考慮しておく必要がある.
・抑肝散がICUせん妄に対して有用かについては小規模の症例集積検討しかなく,機序的にも臨床的にもその有効性は現時点では不明である.

1.せん妄治療の原則
■まず,せん妄が生じていることを早期に診断しなければならない.せん妄は進行するとしばしば治療が困難になりやすく,高用量の鎮静薬が必要になってしまい,それに伴う有害事象が重なりやすくなる.また,せん妄は興奮している活発型が多いと誤解されがちだが,実際には不活発型の方が圧倒的に多く(不活発型43.5-88.6%,混合型10.8-54.2%,活発型0.7-1.6%)[4,5],活発型は2%にも満たないため見逃されている可能性もある.ICUせん妄が予後不良因子であることは今や多くの報告によって知られることであり[10],RASS/SAS,CAM-ICU/ICDSCの評価が重要となる.

■せん妄が起きてしまった場合の対処は,予防とは違って,現時点では薬剤以外の介入法はあまり検討されていない.ただし,危険因子等の明確な原因があるならそれを除去することを優先するが大原則であり,これらの除去なしにせん妄に対する薬剤治療を行うことは無意味であるばかりか,不適切な鎮静となってしまい,病態をさらに悪化させる要因となりうる.
※せん妄危険因子については「敗血症とせん妄(2) ~せん妄の予防~」http://drmagician.exblog.jp/21317127/を参照

2.抗精神病薬,抗認知症薬
■米国精神医学会ではせん妄に対しては呼吸抑制の少ないハロペリドールを第一選択に挙げているが,大規模前向き試験は存在しない.2013年の米国集中治療医学会PADガイドライン[6]でも「成人ICU患者において,ハロペリドールがせん妄の期間を短縮するという公表されたエビデンスはない(no evidence)」としている.一方,「成人ICU患者において,非定型抗精神病薬はせん妄の期間を短縮するかもしれない(C)」とされている.DelvinらはICDSC≧4で,神経学的合併症のないICUせん妄患者36例に対するクエチアピンの有効性を検討した二重盲検RCTを行っている[71].この研究のプロトコルは,クエチアピン50mgまたはプラセボを12時間ごとに投与するもので,クエチアピンは24時間以内にハロペリドールを1回以上使用したならばクエチアピンの用量を24時間ごとに50mgずつ増量するというものであり,クエチアピンはプラセボより有意に最初のせん妄離脱までの期間を短縮し(1.0日(IQR 0.5-3.0) vs 4.5日(IQR 2.0-7.0); p=0.001),せん妄期間も有意に短縮した(36時間(IQR 12-87) vs 120時間(IQR 60-195); p=0.006).なお,この研究ではハロペリドール使用は両群間で有意差がなかった.

■抗精神病薬をICUせん妄に用いる際に注意しなければならないのはQT延長,Torsades de Pointsに代表される致死的不整脈である.PADガイドラインでは「Torsades de Points(TdP)の著明なリスクがある患者(ベースライン時にQTc延長が認められる患者,QTc延長を起こすことが知られている薬剤を投与中の患者,これら不整脈の既往歴がある患者)に対して抗精神病薬を使用することは推奨しない(-2C)」としている.

■急性期領域での薬物相互作用とQTc延長は認識されていない大きな問題となりつつある.1995-2009年の米国救命救急部におけるQT延長の副作用を有する薬剤の占める割合は10.4%→22.2%まで増加しているが,心電図スクリーニングは20.9%にしか行われていない[72].心電図におけるQT時間の延長は,参照範囲内であっても一般住民レベルでも死亡率と相関することが知られており[73],心臓突然死の60%がQT延長と関連しているとされている[74].65歳以上の入院患者2712例の横断研究[75]では,60.5%の患者が薬物相互作用リスクに曝されて,さらに18.9%は少なくとも1つの重大な薬物相互作用リスクに曝されており,少なくとも2つの重大な薬物相互作用リスクのある薬剤曝露は3ヶ月死亡リスクが2.62倍有意に増加すると報告されている.ハロペリドールはオリジナルケースレポートでTdPの報告があり[76,77],QT時間の延長との関連が指摘されている[78,79].ただし,QT延長がない患者でもTdPは生じており[80,81],また,ジプラシドン[82],リスペリドン[83],あるいは薬物相互作用を有する薬剤もTdPのリスクとなる報告がなされている[84]

■コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンは,認知症高齢患者においては有用かもしれないが,ICU患者においてはリバスチグミンはプラセボと比して有益でないばかりか有害であったために二重盲検RCTが中止された経緯がある[85].この試験では440例登録予定であったが,104例登録時点でリバスチグミン群で死亡率が高い傾向がみられ(22% vs 8%; p=0·07),せん妄期間もリバスチグミン群で長い傾向がみられた(5.0日(IQR 2.7-14.2) vs 3.0日(IQR 1.0-9.3); p=0·06)ため中止となっている.このため,PADガイドラインでも「ICU患者において,せん妄期間の短縮の目的ではリバスチグミンの投与を推奨しない(-1B)」としている.他のコリンエステラーゼ阻害薬でも同様の有害事象が発生する可能性はあり,リバスチグミンに限らず認知症治療薬はICU患者に用いるべきではないかもしれない.

3.鎮静薬
■鎮静薬によるアウトカムは多岐にわたるが,ここではせん妄に限定して述べる.せん妄治療にミダゾラムをはじめとするベンゾジアゼピン系やプロポフォールが以前はよく使用されていた[86]が,せん妄治療にあまり向いていないということを認識しておかなければならない.ベンゾジアゼピン系やGABA受容体作用薬はせん妄を誘発しやすいことが報告されている[41,87].また,呼吸抑制の問題も生じてくる.PADガイドラインでは「アルコールまたはベンゾジアゼピン系薬の離脱症状とは無関係のせん妄を呈する成人ICU患者に対して,せん妄の期間を短縮するために鎮静薬を使用する場合は,ベンゾジアゼピン系薬の投与よりもデクスメデトミジンの静脈内持続投与を行うことを推奨する(+2B)」としている.

■近年,デクスメデトミジンが鎮静薬としてその有用性が多数報告されているが,せん妄についてはどうであろうか?デクスメデトミジンについての質が高い研究は2007年にPandharipandeらが報告したMENDS trial[87]から始まる.この研究は2施設の人工呼吸器患者106例においてデクスメデトミジン(0.15-1.5μg/kg/h)とロラゼパム(1-10mg/h)を比較した二重盲検RCTであり,目標RASSは医療チームが決定するデザインとなっている.結果は,最大5日間までの投与においてデクスメデトミジン群がせん妄や昏睡のない日数が有意に長く(7.0日vs3.0日; p=0.01),RASS目標値の±1以内に入っている時間も有意に長かった(80% vs 67%; p=0.04).このMENDS trialを敗血症患者と非敗血症患者にわけてサブ解析[88]を行うと,いずれのサブグループにおいてもデクスメデトミジン群でせん妄期間が有意に短く,せん妄発症リスクも有意に少なかった.

■2009年にRikerらによって報告された多施設共同二重盲検RCTのSEDCOM study[89]では,人工呼吸器患者375例においてRASS -2~+1を目標にデクスメデトミジン(0.2-1.4μg/kg/h)とミダゾラム(0.02-0.1mg/kg/h)を比較しており,RASS目標値に入っている時間に有意差はないが(77.3% vs 75.1%),せん妄の発生率はデクスメデトミジン群が有意に少なかった(54.0% vs 76.6%; p<0.001).

■同じく2009年にShehabiらによって報告された2施設共同二重盲検RCTであるDEXCOM study[90]では,60歳以上の心臓外科術後患者306例を対象として,デクスメデトミジン(0.1-0.7μg/kg/h)とモルヒネ(10-70μg/kg/h)を比較し,両群とも必要に応じてプロポフォールを併用する形でMotor Activity Assessment Scale2-4点を目標としている.結果は,せん妄の発生頻度に有意差はないがデクスメデトミジン群で低い傾向がみられ(8.6% vs 15.0%; RR 0.571, 95%CI 0.256-1.099; p=0.088),せん妄期間は有意に減少した(2日(1-7) vs 5日(2-12); 95%CI 1.09-6.67; p=0.0317).MAAS目標値に入っていた割合に有意差はみられなかった(75.2% vs 79.6%; p=0.516).

■2012年にはデクスメデトミジン(0.2-1.4μg/kg/h)をミダゾラム(0.03-0.2mg/kg/h)と比較したMIDEX,プロポフォール(0.3-4.0mg/kg/h)と比較したPRODEXがJakobらによって1つの論文に報告された[91].いずれもICUの人工呼吸器を装着した患者を対象とした二重盲検RCTで,MIDEXは欧州9カ国44施設500例,PRODEXは497例が登録された.鎮痛はフェンタニルを用い,RASS目標値は0~-3に設定された.また,1日1回の鎮静中断と自発呼吸トライアルを行っている.RASS値に入っていた時間はMIDEX,PRODEXともに有意差がなかった(MIDEX: RR 1.07; 95%CI, 0.97-1.18 / PRODEX: RR 1.00; 95%CI 0.92-1.08).せん妄はMIDEXではデクスメデトミジン群が有意に少なかったが,PRODEXでは有意差はみられなかった.

■以上より,現時点でのエビデンスではせん妄頻度or期間はデクスメデトミジン≒プロポフォール<ベンゾジアゼピン系ということになる.その他のアウトカムについては詳細は別の特集で扱うが,現時点ではデクスメデトミジンが他の鎮静薬と比較したデメリットは少なく,有用なオプションである.しかし,上記の5つのRCTのうち4つが本邦の保険承認最大用量の2倍量までを使用可としており,本邦用量と同一なのは心臓外科手術後患者を扱ったSEDCOM studyのみであることには注意が必要である.

■鎮静の深さや変動とせん妄の関連性を研究した報告も存在する.深い鎮静(RASS -4以下)よりも浅い鎮静,深い鎮静よりも1日1回の鎮静中断がよいとする報告は多く,現在では深い鎮静は推奨されていない.PADガイドラインでは「人工呼吸中の成人ICU患者に対して,鎮静を毎日中断するか,目標鎮静レベルを浅く設定するかのどちらかを日常的に行うことを推奨する(+1B)」としている.ICU患者における毎日の鎮静中断と浅鎮静戦略を比較したシステマティックレビュー[92]では,いずれが深鎮静より優れているか,どちらがより優れているかについては不明確との結論づけており,1日1回の鎮静中断についてはいまだに議論されているところではある.また,Svenningsenらは3つのICUの650例前向きコホート研究を行い[93],性別,年齢,疾患重症度,ICUの場所と状況で調整すると,RASSが2レベルを超えて変化すればせん妄発症リスクは5.19倍有意に上昇したと報告している.

4.抑肝散
■現時点でRCTはなされていないが,漢方の抑肝散が新たにICU患者の鎮静補助薬として研究され始めている.抑肝散は興奮を主体とした精神症状に使用されており[94],特に認知症の行動・心理症状(BPSD)を改善することがRCTのメタ解析で報告されている[95].また,術後患者において抑肝散が有効とする報告が複数ある[96-98].坪らは,鎮静が不十分と判断されたICU患者14名を対象として,抑肝散2.5g投与前後の評価を行った[99].その結果,各種バイタルサインやSpO2に影響を与えることなく,RASSを1.35から-0.57に有意に減少させたとしている.

■この抑肝散がせん妄治療に有用かについては今後のRCTを待たねばならない.認知症患者のBPSDとICU患者の異常行動の症状が類似してはいるが,発症機序が同じであるかは不明であり,現時点では機序的にも臨床的にもその有効性は不明であると言わざるを得ない.

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# by DrMagicianEARL | 2013-12-10 14:26 | 敗血症

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