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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

Summary
・インフルエンザワクチンに予防効果がないと主張する前橋レポートは恣意的なデータ解析がなされ,無理やり有効性がないと結論づけられているが,データ自体は有効であることを示している.
・インフルエンザワクチンの効果は個人と社会両方での評価が必要である.
・高齢者においてはインフルエンザワクチンは有効でない可能性が高い.
・学童・学校はインフルエンザの増幅環境であり,インフルエンザワクチン接種によりindirect protection作用を介してインフルエンザの拡大を防ぎうる.
・小児~若年者のインフルエンザワクチン接種はindirect protectionにより高齢者やハイリスク患者のインフルエンザ関連死を減少させる.
・インフルエンザワクチンは発症を完全には予防できないが,60%前後の予防効果を有する.
・インフルエンザワクチンによる重症化予防については特にハイリスク患者において死亡率を含め有意な改善がみられている報告が多い.
■ワクチンに限らず,あらゆる薬剤においては,そのリスク(副作用)とベネフィット(有効性)を考慮した上で投与するかを検討するのが常識である.仮にあるワクチンの副作用リスクが有効性を上回るものであるならば,そのワクチンは投与してはならない.その一方で,有効性が副作用を上回る場合においてはそのワクチンを安易に否定することは避けなければならない.これらはリスクとベネフィットの双方を吟味する能力がなければ評価はできない.その吟味を行わずにワクチンを推進している医師がいることも事実であるし,吟味できない一般人や一部の医師,あるいはホメオパスの一部がワクチンに反対していることも事実である.ことインフルエンザワクチンに関してはインターネット上で多くのデマが流れ,「インフルエンザワクチンは打ってはいけない」という書籍もでているほどである.

■インフルエンザワクチンは任意接種であり,打つか打たないかを決めるのは市民の自由である.逆に打つことを強制することも「打ってはいけない」と言うこともいずれも無責任でしかない.以下の勘違いに該当するならば考え方を変えた方がいいと思われる.
インフルエンザワクチンに関する勘違い
・インフルエンザはたかが風邪だから予防する必要はない(予防はワクチン以外を含む).
・インフルエンザでは死なない.
・インフルエンザワクチン接種で不妊になる.
・インフルエンザワクチンでインフルエンザ感染は完全に予防できる.
・インフルエンザワクチンではインフルエンザ感染は全く予防できない.
・前橋レポートでインフルエンザワクチンの有効性は否定された.
・高齢者でもインフルエンザワクチン接種は非常に有効である.
・海外ではインフルエンザワクチンはほとんど打たれていない.
・インフルエンザワクチン接種でインフルエンザに感染する.

1.インフルエンザワクチンの有効性とindirect protection

■本邦のインフルエンザワクチンは3価不活化スプリットワクチンであり,現在はA型がH1N1pdm2009,香港型の2種とB型の計3種類のワクチン株である.このスプリットワクチンの接種により誘導される免疫は血中の中和抗体である.

■インフルエンザワクチンが有効でないと結論づけ,学童集団接種中止になったと言われる前橋レポートはどのような報告か?現在,賢明な人間であればワクチン懐疑主義者であっても前橋レポートを引用することはなく,紙切れ同然の扱いである.その理由は読めばどれだけいい加減な調査であったかが一目瞭然であるからであるが,残念ならがいまだにこの前橋レポートを引用してワクチン反対を唱えている医師がいることも事実である.この前橋レポートを「優れたレポートだ」と主張する人には学術論文の査読能力がない.よって,論文にすらなっていない上に現在ではとりあげられもしないレポートとなってしまっているので,以下に前橋レポートの概要を記す.

■前橋レポートの調査のアウトカムは,(1)インフルエンザワクチン接種を実施している近隣の自治体と,中止した前橋市との比較,(2)予防接種を中止したことで血中の抗体価がどのように変化したか,である.このレポートではまず,発熱や欠席をもってインフルエンザとみなしている.すなわち,ノロウイルスであってもマイコプラズマであってもズル休みであっても「インフルエンザで欠席した」とみなすという驚くべきいい加減な診断をしている.このような馬鹿げた有効性調査があるだろうか?インフルエンザワクチン接種群と未接種群との比較では,接種率50%以下という,集団免疫が得られないであろう地域を接種群にカウントするなどで有効率を低めるような数字の操作がなされていた.しかし,実際にはデータを見れば,χ2乗検定で計算すると接種有無でインフルエンザになる確率には統計学的有意差がはっきりとでる.抗体価の調査でも,予防接種群の方が発病を防止する効果が高いという結果が出ており,有効性が示されていた.しかし,レポートでは感染率と発病率という異なる2つの指標を比較し,予防接種の効果を意図的に低く見せかけていた.予防接種と医療費との関連性の解析でも,児童が少ない国民健康保険のデータが使用され,予防接種の有効性を低く見せるためのデータの取捨選択がなされていた.

■このように,前橋レポートは,サーベランスを行おうとした姿勢は評価できるが,自らの意図する結論をむりやり導くためにデータ解析過程で恣意的操作を行って有効を無効と言ってしまったレポートであり,その後の学童集団接種中止による死亡率増加に与えてしまった影響は大きい.
※このように前橋レポートは偽装に近い内容であるが,いまだにこれを崇拝しつつディオバン論文は非難する医師がいる.二枚舌は御勘弁いただきたいものである.

■実際のしっかりとデザインされた研究での有効性の評価はどうであろうか.世界各国では,高齢者とハイリスク患者を対象にワクチン接種を進めてきたが,インフルエンザ流行のインパクトを示す重要な指標となる超過死亡(インフルエンザ関連死亡)が低下しないことが指摘された[2].超過死亡の90%は高齢者であり,高齢者ではインフルエンザワクチン接種は有効性が低いことが示唆された.米国では高齢者の接種率が20%以下であったのが20年間で65%まで上昇していたにもかかわらず超過死亡の低下がみられなかったことも高齢者にワクチンが有効でないであろうことが分かる.これは,高齢者にワクチンを接種しても免疫機能の衰退によりワクチンによる免疫獲得がされにくいことが理由と推察される.

■一方,学童集団接種が1994年に中止となった日本では,中止前後の調査がなされた[3].これは日米の合同調査でもあり,日本では学童接種開始後に超過死亡が減少し,学童集団接種が中止した時期頃より再び超過死亡が(強力な抗生剤が新たに発売されていたにもかかわらず)急激に増加していることが分かる.一方の米国では高齢者のワクチン接種率が増加しても超過死亡が減少していなかった.超過死亡のほとんどは高齢者であり,高齢者へのインフルエンザワクチン接種は有効ではないが,学童集団接種は高齢者死亡を抑制していたのである.これは学童集団接種を行うことで学童のインフルエンザ感染を抑え,学童から社会さらには高齢者への感染を防いだことで高齢者のインフルエンザ死亡数が減少したという結果であり,後にこの効果はワクチンのindirect protection(間接的保護作用)と呼ばれるようになる.この論文はその後の世界のワクチン接種の基本的な考え方を変えることになった.同様の研究結果が2011年にも報告され[4],このindirect protectionの概念をもって世界はインフルエンザワクチン接種推進に舵を切るに至った.なお,これらの研究には,インフルエンザワクチンの有効性に懐疑的であったSimonsenらの研究グループもたずさわっていたことを付け加えておく.indirect protection効果は小児のロタウイルスワクチンにおいても証明されている[5]

■2005年には学童集団接種は日本の幼児の死亡を抑えていたことも報告された[6].この報告の超過死亡の推移から,学童集団接種による集団免疫により幼児が守られていたこと,1990年代のインフルエンザ脳症の多発は学童集団接種中止が原因であることが推察され,indirect protection効果を示唆する結果である.また,インフルエンザワクチン接種率,欠席率,学級閉鎖日数を24年間にわたり調査した報告[7]では,ワクチン接種率が低下すると,欠席率,学級閉鎖日数ともに有意に上昇することが示されている.特にワクチン接種率が60-70%程度に上昇すれば学級閉鎖が大幅に減少していることから,ある程度の接種率がなければ学校内での集団免疫,indirect protectionが得られないことが分かる.前橋レポートでもインフルエンザワクチンが有効であったデータが得られていることから,現時点で学童集団接種が無効であったとする根拠はほとんどないに等しい.

■2009年のインフルエンザA/H1N1pdm2009の大流行では,学童・学校でのインフルエンザ流行が社会全体に流行が拡大する増幅の場として大きな役割をはたしていることが改めて確認されており,学童におけるインフルエンザワクチンの重要性は今や世界の共通認識となっている.これは,それまでの個人の発病防止効果(direct protection:直接的保護作用)のみを重要視する考え方が大きく変わった結果である.インフルエンザワクチンの有効性は,indirect protectionについての理解を広めることが重要であり,インフルエンザワクチン接種により接種者自身をインフルエンザから守ることのみならず,その家族や周囲の人々,さらには社会の高齢者やハイリスク群を守ることにもなる.

■「インフルエンザワクチンは重症化を予防するが発症は予防できない」ということはよく知られているが,かなり誤解を招く表現である.インフルエンザワクチンによる免疫獲得の過程で,重症化を予防するのはIgG抗体であり,発症を予防するのは気道粘膜から分泌されるIgA抗体である.現在の不活化インフルエンザワクチンはIgGを誘導してもIgAの誘導能は乏しいとされている.ただし,不活化ワクチン接種者の末梢単核球においては,経鼻弱毒生ワクチン接種者に比してより多くのIgA,IgGを産生していることが証明されており[8],実際に上述の通り,学童集団接種で発症予防効果もあることが示されている.つまり「インフルエンザを完全には予防できない」だけで,年度によるが,実際には60%前後の予防効果が得られる.米国ではインフルエンザワクチンの有効率が毎年1月に米国CDCのMMWR速報で報告されている.

■本邦での調査では,6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの予防効果は42-69%,入院防止効果は71-72%と報告されている[9].ハイリスク患者ではどうであろうか?最も厳しい論文評価を行うとされるコクランメタ解析でも,免疫力が低下した癌患者においてインフルエンザワクチンが安全かつ死亡リスクを減少させることが報告されている[10].糖尿病患者においては肺炎やインフルエンザ,さらにはあらゆる原因による入院をインフルエンザワクチン接種で減少させたと報告されている[11].6報RCT,6735例のメタ解析では,心血管ハイリスク患者に対するインフルエンザワクチンは心血管イベントリスクを36%有意に減少させ,特に最近の急性冠症候群の既往のある患者では55%有意に減少させたと報告されている[12].HIV感染者102例でのRCT[13]では,2回投与により100%の有効性を報告している.

■このように,あげていけばキリがないが,ハイリスク患者でのインフルエンザワクチンは有効であるとする報告は非常に多い.逆に言えばハイリスク患者はそれだけインフルエンザで重症化・死亡するリスクが高いということであり,この集団への感染を極力防ぐためにも,一般人へのインフルエンザワクチン接種が推奨されるわけである.ただし,前述の通り高齢者では有効性が落ちることが知られており,これは近年の日本の報告[14]でも示されている.実際に65歳以上でもインフルエンザワクチンが有効とする無作為化試験が存在しない(ただし,60歳以上という設定の1838例RCTでは有効との報告が1報[15]ある)ことから,高齢者に一律ルーチンでインフルエンザワクチンを推奨する方針は考え直すべきであろう.

■64歳以下の健常人での数百例以上の規模を有する無作為化比較試験では,現時点ですべて有効であるとの報告がでている[16-18]

■また,インフルエンザワクチン製造の段階で株の変異が生じ,目的としているワクチン株とは異なる株になっていることも最近判明し,2013-2014年シーズンからはそのような変異を抑制するように製造工程を見直したため,予防効果が増強されることが期待されている.ただし,そのシーズンに流行するウイルス株をはずしてしまうと予防効果が落ちることは避けられない.

■インフルエンザワクチンの有効性を高める方法として,probiotics製剤,漢方(補中益気湯など),マクロライドを接種期間前後に投与することが検討されているが,抗体価はあがるものの,実際の予防効果を検討した報告はまだない.

[1] http://www.kangaeroo.net/D-maebashi-F-top.html
[2] Simonsen L, Reichert TA, Viboud C, et al. Impact of influenza vaccination on seasonal mortality in the US elderly population. Arch Intern Med 2005; 165: 265-72
[3] Reichert TA, Sugaya N, Fedson DS, et al. The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza. N Engl J Med 2001; 344: 889-96
[4] Charu V, Viboud C, Simonsen L, et al. Influenza-related mortality trends in Japanese and American seniors: evidence for the indirect mortality benefits of vaccinating schoolchildren. PLoS One 2011; 6: e26282
[5] Anderson EJ, Shippee DB, Weinrobe MH, et al. Indirect protection of adults from rotavirus by pediatric rotavirus vaccination. Clin Infect Dis 2013; 56: 755-60
[6] Sugaya N, Takeuchi Y. Mass vaccination of schoolchildren against influenza and its impact on the influenza-associated mortality rate among children in Japan. Clin Infect Dis 2005; 41: 939-47
[7] Kawai S, Nanri S, Ban E, et al. Influenza vaccination of schoolchildren and influenza outbreaks in a school. Clin Infect Dis 2011; 53: 130-6
[8] Sasaki S, He XS, Holmes TH, et al. Influence of prior influenza vaccination on antibody and B-cell responses. PLoS One 2008; 3: e2975
[9] Katayose M, Hosoya M, Haneda T, et al. The effectiveness of trivalent inactivated influenza vaccine in children over six consecutive influenza seasons. Vaccine 2011; 29: 1844-9
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# by DrMagicianEARL | 2013-11-27 00:00 | 感染症
■短時間作用型β1アドレナリン受容体選択的遮断薬であるランジオロール(商品名オノアクト®)が11月22日に「心機能低下例における頻脈性不整脈(心房細動・心房粗動)」が効能追加承認され,これまで周術期のみの適応がはずれ,内科領域でも使用可能となった.申請の際の試験は2013年4月にCirculation Journalに掲載された以下に紹介するJ-Land studyである.
心房細動/粗動と左室機能障害を有する患者における頻拍の緊急管理:超短時間作用型β1選択的遮断薬ランジオロールとジゴキシンの比較(J-Land Study)
Nagai R, Kinugawa K, Inoue H, et al; J-Land Investigators. Urgent management of rapid heart rate in patients with atrial fibrillation/flutter and left ventricular dysfunction: comparison of the ultra-short-acting β1-selective blocker landiolol with digoxin (J-Land Study). Circ J 2013; 77: 908-16
PMID:23502991

Abstract
【背 景】
左室機能障害における心房細動(AF)または心房粗動(AFL)の際の頻拍は心機能をしばしば損ないうる.

【目 的】
このJ-Land Studyは,左室機能障害を有する患者でのAF/AFLによる頻脈の迅速な制御において,超短時間作用型β遮断薬であるランジオロールの有効性と安全性を,ジゴキシンと比較したものである.

【方 法】
AF/AFL,心拍数≧120回/分,左室駆出率25-50%の患者200例をランジオロール群(n=93)とジゴキシン群(n=107)に無作為に割り付けた.心拍数制御成功は,ランジオロールまたはジゴキシンの静脈内投与開始から2時間での心拍数<110回/分かつ心拍数の20%以上の減少と定義した.ランジオロールの用量は患者の状態に合わせて1-10μg/kg/minの範囲で調整した.
原文から抜粋追記:ジゴキシンは0.25mgを静注.

【結 果】
ベースラインの平均心拍数は,ランジオロール群が138.2±15.7回/分,ジゴキシン群が138.0±15.0回/分であった.心拍数制御成功は,ランジオロールで治療された患者の48%,ジゴキシンで治療された患者の13.9%で達成された(p<0.0001).重篤な有害事象は各群でそれぞれ2例,3例報告された.

【結 論】
左室機能障害を有するAF/AFL患者において,ランジオロールはジゴキシンよりも頻拍制御により有効であり,この臨床状況において治療的オプションと考えられた.
■ランジオロールは短時間作用型β1遮断薬であるが,本邦以外では使用されていない.海外では同系統の薬剤としてエスモロールが使用されている.基本的には血圧降下作用はエスモロールの方が強く,心拍数低下作用はランジオロールの方が強い.よって,rate controlの観点ではランジオロールの方が安全かつ有効であることが予想されるが,ランジオロール自体が内科領域では初めてのRCTであり,当然ながら直接比較はなされていない.

■本ブログは敗血症をメインに取り扱っているため,敗血症性ショックにおける可能性を論じたいが,なにぶんまだエビデンスがない状況にある.加えて,このJ-Land Studyは全身性炎症反応症候群(SIRS)患者があまり含まれておらず,主たる対象は心疾患患者である.SIRS病態において「心機能低下例における頻脈性不整脈(心房細動・心房粗動)」を合併する患者は非常に多いことが想定されるが,現時点でSIRS患者でのランジオロールの有用性についてはほぼ皆無に等しく,エビデンスが作られるのはこれからである.敗血症性ショックに代表されるSIRS患者において頻脈が循環動態を悪化させている場合に有効な可能性について検討しなければならない.なお,このような状態ではCa拮抗薬やジギタリス製剤も考えられるが,Ca拮抗薬は血圧低下作用が強く,その陰性変力作用ゆえに重症例では心停止をきたすこともある.ジギタリス製剤もSIRS病態では効果が減弱する.

■短時間作用型β1遮断薬が敗血症性ショックにおいて予後を改善させる可能性については先日JAMA誌に報告されたエスモロールのPhase2 RCT[1]が物語っており,本ブログにおいても文献紹介とレビューを行った[2]のでそちらを参照されたい.ただ,そのレビューではややいいことばかり書きすぎな印象も否めないので,以下に他の薬剤もふまえた,「高用量ノルアドレナリンに反応しない敗血症性ショック」での考察の追加を述べるので,あわせて判断していただきたい.

■このPhase 2は,28日死亡率はエスモロール群49.4%,対照群80.5%(調整後HR 0.39, 95%CI 0.26-0.59, p<0.001)という驚異的治療成績ではあるが,154例のそれほどサンプルサイズが大きくないRCTであり,予後も大幅に改善したとはいえプライマリアウトカムではなく,対照群の死亡率の高さ(80.5%)も気になるところではある.近年の報告では敗血症性ショックの死亡率は約25-45%程度であり,この80.5%をどうとらえるかであるが,対象患者集団が頻脈かつ高用量ノルアドレナリン投与下でも改善が得られないという,敗血症性ショックの中でも特に難治例であることを考慮すると妥当な可能性はあるかもしれない.実際に,Sviriら[3]はICU患者の循環作動薬の必要度と死亡率の関連を調べた観察研究(イスラエル)で,高用量(≧40μg/min)のノルアドレナリンを要した患者のICU死亡率は84.3%(非高用量と比較してOR 5.1; 95%CI 2.02-12.9; p=0.0001),院内死亡率は90%(OR 3.82; 95%CI 1.28-11.37; p=0.016)であった.

■こう見ると,やっぱり対照群の死亡率は妥当で,β遮断薬は有用かのように見えるわけだが,高用量ノルアドレナリンを有する患者でのオプションは他にもあり,バソプレシン,低用量ステロイド,アドレナリン,PMX-DHPなどが考えられる.

■敗血症性ショック患者における頻脈は高用量のノルアドレナリン投与自体も原因となりうる.バソプレシン投与はノルアドレナリン必要量を減じることで頻脈を減少させる可能性があり,また,ノルアドレナリン自体もわずかながらβ刺激作用があるため,ドパミン・ドブタミンほどではないものの炎症増悪作用があることから,バソプレシンへの移行により炎症増悪を抑制し,頻脈を誘発するサイトカインを抑えうる[4].Russellらの行ったVASST study[5]は,800例でノルアドレナリン+バソプレシン併用群とノルアドレナリン単独群を比較したRCTであり,28日死亡率(35.4% vs 39.3%, p=0.26),90日死亡率(43.9% vs 49.6%, p=0.11)は有意差がないものの併用群で低い傾向がみられ,非重症例に限定したサブ解析では併用群で有意な死亡率低下がみられた(26.5% vs 35.7%, p=0.05).このことから,β遮断薬使用の前にバソプレシンを優先すべきかもしれない.ただし,VASST studyでは重症例では死亡率に有意差がついていないこと,cold shockでは使用できないことなどの限界がある.

■PMX-DHPについては,内因性カンナビノイド吸着による昇圧効果[6]は期待できるが,バソプレシンに勝るとするエビデンスはなく,PMX-DHPとバソプレシンを比較した60例後ろ向きマッチングコホート研究[7]では90日死亡率はバソプレシン群が有意に死亡率が低かった(17% vs 47%, p=0.008).また,重症例(大腸穿孔症例において,POSSUM予測死亡率70%以上)では有効でないとする報告[8]や,敗血症から敗血症性ショックへと移行する過程のごく初期にしか奏功しにくい[9]ということもあり,高用量ノルアドレナリンを要する症例での位置づけは低くなる.

■低用量ステロイド療法は賛否両論ではあるが,日本ではバソプレシンよりも好まれているようである.この低用量ステロイド療法については2つのRCTが代表的である.一方はAnnaneらの300例のRCT[10]であり,輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例におけるステロイド投与群とプラセボ群を比較し,ステロイド群で28日死亡率が有意に低かった(55% vs 61%, p=0.03).一方,CORTICUS studyでは同じく輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例500例を対象とし,ステロイド群とプラセボ群を比較したRCT[11]を行ったが,28日死亡率に有意差はみられなかった(34.3% vs 31.5%, p=0.51).この試験では,ステロイド群の方がショック離脱は早いが,感染による新たな敗血症発症リスクが高いという結果であった.Annaneらの報告の方が死亡率が高いことから,ベースラインの重症度に差があり,低用量ステロイドは重症例では奏功しうるが,非重症例では奏功しにくい可能性がある.また,輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例という集団において対照群の死亡率はいずれも31.5%と61%で,エスモロールのPhase2の対照群の死亡率80.5%はやはり高いのか?という疑問が残るが,ステロイドのRCTが頻脈を伴う難治例であったかは不明である(病態を考えると通常ならば頻脈になっているだろうという予想はつくが).

※バソプレシンで四肢疎血の出現を経験し,痛い目にあったので使用しなくなり,低用量ステロイドを使用している施設がそれなりにあるようである.私自身はノルアドレナリンの次のオプションとしてはステロイドよりもバソプレシン派で(ただし,高度炎症病態であるにもかかわらず血糖値は100未満の場合は副腎機能不全も考慮して,ステロイドを優先して選択することがある),バソプレシンを使用するときは,輸液をやや過剰気味に入れてからバソプレシンで締め上げるイメージで使用している.末梢ボリュームをある程度確保して使う必要はあるのではないかと思われる.

■アドレナリンに関してはSSCG 2012[12]で第2選択に挙げられてはいるものの,β遮断薬が適応となるような頻脈での血行動態破綻例に対してはさらに頻脈を助長し,火に油をそそぐようなものかもしれない.アドレナリンとβ遮断薬を併用すると有用な可能性はあるが,現時点ではエビデンスがなく推測にとどまる.

■以上から,「高用量ノルアドレナリンでも反応しない,頻脈性のAF/AFLを伴う血圧低下例」においては,まずはバソプレシン併用(cold shockなら使用不可),効果不十分ならさらに低用量ステロイドを追加すべきで,それでも奏功しない場合にアドレナリン持続投与を行いながらランジオロールを併用するという最終手段的使用方法が考えられる.ただし,頻脈が心拍出量を保つ代償機構としての結果なのか頻脈で血行動態が破綻しているかの鑑別が事前に必要である.ランジオロール自体が半減期が非常に短いため,頻脈を抑制すると同時に血圧が下がった場合はすぐに切れば状態もすみやかに戻ると推察されるが,安全かつ有効に使用するためにも心臓超音波検査,PiCCOなどでのモニタリングによる評価が不可欠であろう.一方,頻脈が血行動態破綻の原因と判明した状態でランジオロールを使用するならば,バソプレシンまたは低用量ステロイドとの比較試験が今後必要であり,使用する施設ではぜひそのようなデータの評価を発表してほしいところである.

[1] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
[2] DrMagicianEARL. 【文献+レビュー】敗血症性ショックに対するβ遮断薬は有用か?無作為化比較試験 2013 Oct.15 http://drmagician.exblog.jp/21195780/
[3] Sviri S, Hashoul J, Stav I, et al. Does high-dose vasopressor therapy in medical intensive care patients indicate what we already suspect? J Crit Care 2013 Oct 17
[4] Russell JA, Fjell C, Hsu JL, et al. Vasopressin compared with norepinephrine augments the decline of plasma cytokine levels in septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2013; 188: 356-64
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# by DrMagicianEARL | 2013-11-26 02:10 | 敗血症
■低体温療法について大規模RCTがはじめて報告されましたので紹介します.2002年にNEJM誌に報告された低体温療法の有用性のエビデンスが11年たって同じNEJM誌上でくつがえされました.これまでの推奨に大きな影響を与えることは間違いないでしょう.
心停止後の目標体温管理33℃ vs 36℃(TTM study)
Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al; the TTM Trial Investigators. Targeted Temperature Management at 33℃ versus 36℃ after Cardiac Arrest. N Engl J Med.2013 Nov 17. [Epub ahead of print]
PMID:24237006

Abstract
【背 景】
院外心停止で意識のない生存者は高い死亡リスクや神経学的予後不良リスクを有する.低体温療法は国際ガイドラインで推奨されているが,支持するエビデンスは限られており,最良の予後に関連する目標体温は知られていない.我々の目的は,発熱防止を目的とした2つの目標体温を比較することである.

【方 法】
この国際的試験では,心原性の院外心停止後の意識のない950例の成人患者を33℃または36℃を目標とした体温管理に無作為に割り付けた.一次評価項目は試験終了までの全死亡率とした.二次評価項目は,Cerebral Performance Category(CPC)scaleとmodified Rankin scaleで評価による180日での神経学的機能予後不良または死亡とした.

【結 果】
全体で939例の患者が一次解析に組み込まれた.試験終了時点で,36℃群の患者の死亡率が48%(225/466例)であったのに対し,33℃群では50%(235/473例)の患者が死亡した(HR 1.06; 95%CI 0.89-1.28; p=0.51).180日の追跡で,死亡またはCPCで評価した神経学的予後不良は,36℃群の患者で52%であったのに対し,33℃群では54%であった(RR 1.02; 95%CI 0.88-1.16; p=0.78).modified Rankin scaleを用いた解析では,両群とも52%であった(RR 1.01; 95%CI 0.89-1.14; p=0.87).既知の予後規定因子で調整した解析結果でも同等であった.

【結 論】
心原性院外心停止で意識のない生存者においては,33℃を目標とした低体温は,36℃を目標とした場合と比較して有益性は認められなかった.
■本研究はこれまでの報告より規模・質ともに高く,これまでのエビデンスをくつがえす結果であり,低体温療法の推奨度が下げられることは避けられないと思われる.低体温療法が有益性を示せなかった理由としては,集中治療管理の進歩により死亡率が改善し潜在的有益性が減少してしまったこと,集団選択性が低いこと(このためサンプルサイズを大きくしえたともいえる)などが考えられ,安直に低体温療法を完全否定すべきではなく,低体温療法の恩恵を受けうる集団を特定し,評価する研究が必要である.また,心停止蘇生後患者の体温管理に関する研究は,管理法がバラバラであり,本研究で目標とした33℃と維持期間,復音等のプロトコルがベストな低体温療法であったのかも明らかではない.この研究で重要なのは常温療法の有益性なのかもしれない.

■救急医学2013年9月号は体温特集であり,心停止後症候群の体温管理の項で「低体温療法を考慮することは今や当たり前のオプション」「本治療のプロトコルを成し遂げることが患者の機能的予後の改善につながることを忘れてはならない」と強く低体温療法を推奨する書き方であったのが記憶に新しい.しかし,臨床的根拠は2002年のNEJMに報告された小~中規模のRCT2報のみであり,やはりサンプルサイズや過去の報告の問題点を加味した研究で再検討された場合,エビデンスはくつがえることがあるといういい一例であろう.また,いかに優れたエビデンスであっても,年数がたてば他の治療の進歩,社会的背景の変化などでエビデンスの妥当性も揺らぎうるため,ある一定年数がたてば再度検証するという姿勢は必要なのかもしれない.質の高いシステマティックレビューによるエビデンスでも賞味期限1年以内が15%,2年以内が23%,賞味期限の平均期間はわずか5.5年(95%CI 4.6-7.6)しかなく,心血管領域のエビデンスの賞味期限はもっと短い[1]質の高いエビデンスといえどもその妥当性はTPO(Time Place Occasion)の影響を免れない(私の持論です).

■また,本研究では,延命治療を中止のプロトコルを採用していることが特徴である.ほとんどの先行研究では神経学的予後不良のため生命維持を中止することが最も多い死因であり,長期的予測を行う上で確実な方法がないという問題点をかかえていた.本研究では治療の中止された患者へのアプローチが詳細に記載されている.

■近年,重症患者における解熱薬を含めた体温管理に関する研究がさかんであるが,低体温に関する研究は依然として少ない.病的低体温と治療的低体温を同列に扱うことはできないが,低体温が予後不良に関連しうる報告があることも事実である.実際には重症患者では正常体温~高熱が一般的であり,低体温の患者は多くないため,発熱時に比して低体温が生体に与える有益性・有害性等の影響の知見はまだまだ少ないといえ,今後さらなる解明が必要である.

1.これまでの低体温療法のエビデンス
■まず,用語について整理する.低体温で管理を行う治療法は以前まで低体温療法(therapeutic hypothermia)とされ,また,これに対して35-37℃の常温にコントロールする治療法は常温療法(induced normothermia)とされていた.常温療法は発熱を回避するという意味でanti-hyperthermia,fever controlとも表現されていた.2009年にATS,SCCM,ERS,ESICM,SELFの5学会によるコンセンサスカンファレンスが開催され,低体温療法(therapeitic hypothermia)という言葉を使用せず,目標体温管理(targeted temperature management:TTM)に統一し,導入induction,維持maintenance,復温reversionについてのプロファイル記載が推奨された[2].これは,目標体温設定,冷却方法,維持期間,復温速度などがこれまでの研究ではバラバラで評価が困難であったことへの対策である.

■心停止蘇生後患者に対する低体温での脳保護効果の知見は1958年のWilliamsらの報告までさかのぼる.この報告で低体温療法(therapeutic thpothermia)に関心がもたれるも,技術的問題により普及することはなかった.しかし,1990年代に入って技術向上により低体温療法が再び注目され,2002年に報告された2つのRCT[3,4]が低体温療法の有効性を示したことから,心肺停止後の脳障害に対して低体温療法がガイドラインで推奨されるに至った[2,5]

■Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group[3]は,心室細動による院外心停止患者273例に対する低体温療法を検討した欧州9施設共同RCTを行った.低体温群は膀胱温32-34℃を24時間維持するプロトコルと用いており,6ヶ月後の神経学的予後が良好であったのは低体温群55% vs 常温群39%(p=0.009; RR 1.40; 95%CI 1.08-1.81),死亡率は低体温群41% vs 常温群55%(RR 0.74; 95%CI 0.58-0.95)であり,低体温療法が有意に予後を改善していた.

■Bernardら[4]は,心室細動による院外心停止患者77例に対する低体温療法を検討した豪州4施設共同RCTを行った.低体温群は自己心拍再開から2時間以内に深部温度を33℃に冷却し,12時間維持するプロトコルを用いており,退院時の神経学的予後が良好であったのは低体温群49% vs 常温群26%(p=0.046),調整後オッズ比は5.25(95%CI 1.47-18.76; p=0.011)であり,低体温療法が有意に神経学的予後を改善していた.

■一方,初期調律が心室細動でない心停止患者では低体温療法が有用であるとする明確なエビデンスはなく,PEAや心静止においては2つの小規模RCT[6,7]では有用性は示されず,Dumasら[8]の1145例多施設共同後ろ向きコホート研究においても初期調律がVF/VTであれば低体温療法が神経学的予後良好と関連したが,PEA/心静止では関連しなかった.本邦14施設452例の低体温療法の解析(J-PULSE-HYPO)[9]でも初期調律がPEA/心静止の症例では予後は不良であった(ただし,発症から16分以内に蘇生できた症例では初期調律がVF/VTであった患者群と有意差はない).除細動非適応の心停止患者387例の単施設前向き観察研究[10]では,低体温療法の神経学的予後や生存率への有効性は認められなかった.これらの結果から,PEA/心静止患者では心原性心停止の割合が少なく,脳虚血時間が長く,心停止の原因が多様であるために低体温療法が奏功せず,むしろ有害となる可能性もあることが分かる.

2.低体温療法の目的と有害事象
■心停止後症候群(PCAS)では83%に(脳障害で神経学的予後悪化と関連しているとされる)72時間以内の38℃以上の発熱が認められると報告されており[11],PCASにおいて脳障害の増悪と発熱が関連しているとの報告もある[12].脳障害は発熱を誘発し[13],発熱は脳障害を増悪させる[14,15]とする悪循環に陥ってしまうため,体温管理が必要であるという考えが現在では主流となっている.

■体温を常温にコントロールするのか,より低い体温にコントロールするのかについてこの10年で議論がなされてきた.低体温では脳血流と代謝が低下し,PCASでの脳の障害が軽減するとされている.すなわち,侵襲直後の脳障害ではなく,侵襲後に緩徐に心呼応していく脳障害を防止するのが低体温療法である.この脳障害は,神経細胞の代謝によるATP枯渇から細胞外毒素であるグルタミン酸が放出,フリーラジカルやアポトーシスによって生じてくる.低体温療法はこれらを抑制する[16-18]

■低体温療法による合併症には,感染症,血小板減少,血液凝固異常,高血糖,過冷却,脱水,不整脈や血圧低下,低カリウム血症,シバリング,低二酸化炭素などがある.特に感染症リスク増加は報告が多く,注意が必要である.低体温療法について検討した23報RCT,2820例のメタ解析[19]では,低体温療法は全感染症リスクを増加させない(RR 1.21; 95%CI 0.95-1.54)が,肺炎リスクは1.44倍(95%CI 1.10-1.90),敗血症リスクは1.80倍(95%CI 1.04-3.10)に有意に増加したと報告されている.

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# by DrMagicianEARL | 2013-11-21 21:46 | 文献
敗血症とせん妄(2) ~せん妄の予防~
■鎮静薬のふみこんだ話はボリュームがかなり大きいので,別のまとめで扱うことにし,今回はガイドラインに沿った話でまとめた.起こったせん妄に対する治療は重要だが,まず予防することである.
Summary
・せん妄の危険因子は認知症・高血圧・アルコール依存症の既往,入院時の重症度,昏睡,ベンゾジアゼピン系薬の使用である.
・早期リハビリテーションはせん妄予防となる.
・せん妄予防目的での薬物療法は,ハロペリドール,非定型抗精神病薬,デクスメデトミジンなどが有効な可能性がいくつかのRCTで示されているが,現時点ではエビデンスが乏しく,推奨されていない.
・ICUにおける睡眠障害はせん妄の大きな要因であり,光・音などのICU環境の制御により睡眠の質と量を改善することでせん妄を予防できる可能性がある.

5.せん妄の予防
(1) せん妄の危険因子
■ICUに入室した患者のせん妄の危険因子は以下の通りである[6]
ICUせん妄危険因子
① 既存の認知症[36-38]
② 高血圧の既往[13,39]
③ アルコール依存症の既往[13,38]
④ 入院時点で重症度の高い疾患[13,34,36,40]
⑤ 昏睡[13]
⑥ ベンゾジアゼピン系薬の使用[41]
■せん妄発症に関与している生体因子は以下の通りである.
① 神経伝達物質の異常:アセチルコリンの減少,ドーパミン,セロトニン,GABA,グルタミン酸,ノルアドレナリンの増加
② びまん性脳神経障害:脳虚血,脳血流低下,高血糖,低血糖,血管内皮障害および微小血栓形成
③ 内分泌機能:コルチゾールなどの副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン
④ 不眠
⑤ 代謝異常:高ナトリウム血症,高カルシウム血症,高浸透圧,尿毒症
■せん妄を予防するにはまず上記に示したリスク因子のうち可能なものは回避もしくは治療することが基本原則である.

(2) 早期リハビリテーションによるせん妄予防
■成人ICU患者では,せん妄の発現抑制と期間短縮のために,可能な限り早期モビライゼーションを促すことが推奨される.

■Schweickertらは,人工呼吸器を装着した成人患者104例で,1日1回の鎮静中断に,早期モビライゼーション(理学療法・作業療法)を加える介入群と加えない対照群を比較したRCT[42]を行ったところ,28日間の観察で,介入群で有意にせん妄期間が短縮し(中央値2.0日[IQR 0.0-6.0] vs 中央値4.0日[IQR 2.0-8.0]; p=0.02),人工呼吸器を装着していない期間も有意に短縮した(23.5日[7.4-25.6] vs 21.1日[0.0-23.8]; p=0.05).

■Needhamらは,人工呼吸器を装着した内科ICU患者を対象として,集学的チームにより深鎮静を減じ,モビライゼーションを促進する質改善プロジェクトを施行し,57例での前後比較研究を行った[43].その結果,プロジェクト開始後でベンゾジアゼピン系薬の使用,鎮静薬の用量が有意に減少し,鎮静・せん妄状態が改善した.2013年にも同様に,早期モビライゼーションの質改善プログラムの導入がICU在室期間,入院期間の短縮とともに鎮静薬の必要度とせん妄を減少させたと報告している[44]

(3) 薬物療法によるせん妄予防
■せん妄治療としての薬物療法は推奨があるものの,これらを予防目的で使用することはガイドラインでは推奨されていない.具体的にはハロペリドール,非定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン遮断薬SDA;リスペリドン,ペロスピロン,ブロナンセリン,パリペリドン/多元受容体作用抗精神病薬MARTA;オランザピン,クエチアピン,クロザピン/ドパミン受容体部分作動薬;アリピプラゾール)であるが,ICU患者において十分なサンプルサイズ・エフェクトサイズの質の高い研究が存在しないためである.一方,中等度以下の質ではRCTがいくつか存在する.

■Wangらは,65歳以上の心臓以外の術後ICU患者457例に対してハロペリドールの投与を検討したプラセボ対象二重盲検RCTを行い[45],ハロペリドール群がプラセボ群より,術後7日までのせん妄発生率が有意に低く(15.3% vs 23.2%; p=0.031),せん妄発症までの平均期間は有意に長く(6.2日 vs 5.7日; p=0.021),せん妄のない日数は有意に長く(6.8日 vs 6.7日; p=0.027),ICU在室期間が有意に短縮した(21.3時間 vs 23.0時間; p=0.024).Girardらは,6つのICUの人工呼吸器患者101例に対して,ハロペリドール,ジプラシドン,プラセボを比較した二重盲検RCTを行い[46],3群間でせん妄・昏睡の発生や人工呼吸器装着期間,入院期間などに有意差はみられなかった.Prakanrattanaらは,心臓手術を受けた患者126例に対して術後のリスペリドン投与を検討したプラセボ対象二重盲検RCTを行い[47],リスペリドン群がプラセボ群より有意にせん妄発生率が少なかった(11.1% vs 31.7%; p=0.009; RR 0.35; 95%CI 0.16-0.77).また,RCTではないが,van den Boogaardらは,せん妄発症リスク50%以上の患者において,予防的低用量ハロペリドールの投与を検討した476例前後比較研究を行い[48],せん妄発生率(65% vs 75%; p=0.01),せん妄のない期間(20日 vs 13日; p=0.003 )が有意に改善している.

■せん妄リスクを有する術後患者でのせん妄予防を検討した5報RCT(ハロペリドール3報,リスペリドン1報,オランザピン1報),1491例のメタ解析[49]では,せん妄発生率を約半分に減少させる(RR 0.51; 95%CI 0.33-0.79; heterogeneity, p<0.01, random effects model)と報告している.

■デクスメデトミジンをせん妄予防目的で用いることもガイドラインでは有力なエビデンスがないとして推奨していない.Shehabiらは,心臓術後患者306例において,デクスメデトミジンとモルヒネを比較した二重盲検RCT(DEXCOM study)を行っている[50].せん妄発生率はデクスメデトミジン群が少ない傾向であるものの統計学的有意差はなかった(8.6% vs 15.0%; RR 0.571; 95%CI 0.256-1.099; p=0.088).しかし,せん妄期間はデクスメデトミジン群の方が3日間有意に少なかった(2日vs5日; 95%CI 1.09-6.67; p=0.0317).サブ解析では,IABPを施行された患者(20例vs25例)では有意にデクスメデトミジン群でせん妄発生率が少なかった(15% vs 36%; RR 0.416; 95%CI 0.152-0.637; p=0.001).また,デクスメデトミジン群で有意に抜管が早かった(RR 1.27; 95%CI 1.01-1.60; p=0.040, log-rank p=0.036).

(4) せん妄予防のための睡眠の質を改善するICU環境からのアプローチ
■非薬物的なせん妄予防としては,光・音をコントロールするための方策をとる,患者ケアを一括して行う,睡眠サイクルを障害しないように夜間の刺激を減らすなど環境を最適に整えることにより,睡眠を促すことがガイドラインで推奨されている.睡眠中断はヒトにとって有害であることが知られており,睡眠障害はICU患者でよく見られる[51,52].ICU環境(音,光,身体刺激)による覚醒が非常に多く,レム睡眠となるのは稀であり,完全な睡眠サイクルが得られるICU患者は少ない[51,53-56].睡眠障害は組織修復や細胞性免疫を障害し,治癒反応に影響を与える可能性がある[57].重症患者においては,睡眠障害はせん妄を誘発し[58-62],精神的ストレスを増大させる[63,64].しかしながら,ICUの睡眠科学はここ10年であまり進展していない.

■人工呼吸器を装着したICU患者には連続的な睡眠期間がほとんどないことも報告されている[65,66].以上より,ガイドラインではICUのルーチンケアを避け,光を落とし,音を減じるなどして,患者の睡眠を促進する時間を設けるべきであると提案している.しかし,エビデンスはまだ乏しい状況にある.

■アイパッチや耳栓がICU患者の睡眠の質を改善し[67],耳栓によりせん妄が減じたとするRCTもある[68].夜間のICUの音を制御することで,音や睡眠を妨げるケアが有意に減少し,睡眠の質と量も有意に改善することが報告されている[69,70]

敗血症とせん妄(1) ~定義と評価,予後との関連~
→敗血症とせん妄(3) ~せん妄の治療と鎮静薬~(近日UP予定)

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# by DrMagicianEARL | 2013-11-18 12:11 | 敗血症
■日本の多施設共同研究が報告されたので紹介します.敗血症ではショック有無にかかわらず低体温患者で特に予後が悪いことは経験的によく知られていますが,プライマリアウトカムとして研究されたエビデンスとしてはまだ全くなかった状態で,今回エビデンスとして確認がなされた意味は大きいと思います.
重症敗血症患者での疾患重症度と予後における体温異常の影響:重症敗血症の多施設共同前向き調査による解析
Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al. The impact of body temperature abnormalities on the disease severity and outcome in patients with severe sepsis: an analysis from a multicenter, prospective survey of severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R271
PMID:24220071

Abstract
【背 景】
体温異常は重症敗血症患者においてよく見られる.しかし,体温異常と疾患重症度の関連性については明確ではない.本研究では重症敗血症患者での疾患重症度と予後における体温の影響を検討した.

【方 法】
重症敗血症患者624例が登録され,登録時の体温で6つのカテゴリーに分類された.体温カテゴリー(≦35.5℃,35.6-36.5℃,36.6-37.5℃,37.6-38.5℃,38.6-39.5℃,≧39.6℃)はAcute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアに基づいている.我々は患者の特性,生理的データ,死亡率を群間で比較した.

【結 果】
登録日では体温≦36.5℃の患者は体温37.5℃の患者より有意にsequential organ failure assessment(SOFA)スコアが悪かった.APACHE IIスコアもまた,体温≦35.5℃の患者が体温>36.5℃の患者と比較すると高かった.28日死亡率および院内死亡率は体温≦36.5℃で有意に高かった.死亡率の差は体温≦35.5℃と体温>36.5℃を比較したときに特に顕著であった.体温≧37.6℃の範囲は体温36.6-37.5℃と比較して死亡に関連はなかったが,28日死亡相対リスクは35.6-36.5℃,<35.5℃の患者でより高かった(それぞれOR 2.032,3.096).低体温あり(≦36.5℃,n=160)またはなし(>36.5℃,n=464)に基づいたグループに患者を分けると,SOFAスコア,APACHE IIスコアと同様に播種性血管内凝固(DIC)スコアも低体温患者で有意に高かった.低体温患者は低体温のない患者と比較して,28日死亡率,院内死亡率が有意に高かった(それぞれ38.1% vs 17.9%,49.5% vs 22.6%).低体温は28日死亡の独立した予測因子であり,低体温有無の差は敗血症性ショックとは無関係に観察された.

【結 論】
重症敗血症患者において,低体温(体温≦36.5℃)は敗血症性ショック発症とは無関係に死亡率と臓器不全の増加に関連していた.
■本報告は2010年に行われた日本救急医学会の前向き調査Sepsis Registryデータの解析結果である.全624例の28日死亡率は23.1%,院内死亡率は29.5%であり,現在の重症敗血症の死亡率としては妥当と思われる.体温36.5℃をカットオフとしたときの低体温は,28日死亡ではOR 2.828; 95%CI 1.900-4.210; p=0.00000016,院内死亡ではOR 3.335; 95%CI 2.284-4.869; p=0.00000000016となり,約3倍程度の死亡リスク増加となっている.なお,2012年に報告された日韓共同FACE study[1]では,敗血症において発熱(体温上昇)は予後に関連していなかったことから,体温では低体温のみが予後関連因子である可能性がある.本報告でショック有無に関係なく低体温の予後が悪いことが示されたことに加え,FACE studyでは解熱薬の投与そのものが死亡率を増加させることも報告されており,敗血症において,体温セットポイントが下がることそのものが,疾患原性,医原性に関係なく予後を悪化させることを示唆しているのかもしれない.

1.発熱
■発熱は集中治療を要する重症患者に頻繁に生じる症状の1つであり[2],全身状態を把握する上で重要な指標となる.集中治療患者の20-70%に発熱が生じることが知られている[3-5].発熱を契機に新たな診察,検査,治療が開始されることは稀ではない[6].また,発熱は,手術[7-10],輸血[11],薬剤投与[12,13],急性拒絶反応[14]など感染症以外の要因でも生じる.

■SIRSにおける体温上昇は,脳血液関門(BBB)がない視床下部に炎症性メディエータ受容体が発現しており,SIRS状態ではAlert Cellとして働き,誘導型シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の転写段階からの産生亢進によるプロスタグランディンE2(PGE2)の産生により発熱反応が誘導される[15]

■発熱は,患者不快感,呼吸需要および心筋酸素需要の増大[16],中枢神経障害[17,18]などを生じる.感染症による体温上昇は,抗体産生の増加,T細胞の活性化,サイトカインの合成,好中球およびマクロファージの活性化を惹起させる自己防衛反応であり[19,20],解熱処置によりこれらの防衛反応が抑制される可能性もある.

■中枢神経障害を有する患者においては,発熱が生命および神経学的予後を悪化させ[21,22],特に心停止後患者では軽度低体温が患者予後を改善させる.しかし,中枢神経障害を有さない重症患者において,どのように発熱をコントロールし,解熱処置を行うべきかについては,明確な指針が存在しない[4]

■発熱が患者死亡率の30%増加と関連することがメタ解析で示唆されている[23].また,重症度など患者情報を調整した多変量解析を行った上で,発熱と患者死亡率増加との関連性を示した報告も存在する[2,24].しかし,これらの結果は全て発熱と患者死亡率との関係を調査した観察研究から得られたものであり,その因果関係を結論付けることはできない.

2.敗血症と低体温
■敗血症初期の体温低下は,熱産生低下や体血管抵抗の減弱が関与する[25].敗血症初期は,白血球系細胞より産生された一酸化窒素に加え,主要臓器の炎症警笛細胞(Alert Cell)より産生されるプロスタノイド,内因性カンナビノイドの血管内皮依存性血管拡張物質により,血管が恒常的に強く拡張する.交感神経緊張により血漿カテコラミン濃度が上昇し,体血管抵抗を保ち,血圧を維持するような代償機構が保てなくなると,拡張した末梢血管より熱放散が高まり,体温が低下する.また,鎮静下では交換神経活性化が抑制されるため,体血管抵抗の減弱により同様の機序で体温が低下する.

■体温異常による敗血症予後についてプライマリアウトカムを評価した報告は今回が初めてであるが,以下に示す重症敗血症を対象としたRCTの二次解析では低体温が予後悪化に関連することが報告されている.

■Clemmerら[26]の報告では,低体温(<35.5℃)は全重症敗血症患者の9%に認められ,発熱患者と比較して,低体温患者では中枢神経機能障害が多く(88% vs 60%),血漿ビリルビン値が高く(35% vs 15%),PT時間が延長し(50% vs 23%),ショックが多く(94% vs 61%),ショックからの離脱失敗が多く(66% vs 26%),死亡率も高かった(62% vs 26%).

■Aronsら[27]は,455例中,44例(9.6%%)に低体温(<35.5℃)を認め,発熱患者と比較した死亡率は70% vs 35%と有意に高かった.低体温患者では尿中のTxB2,プロスタサイクリン,血漿中のTNF-α,IL-6が有意に高かった.

■Marikら[28]は,全患者930例のうち195例(21%)に低体温(≦36.5℃)を認め,28日死亡率は66% vs 41%(p<0.001)と有意に低体温患者が高く,低体温は死亡の独立した予測因子であった.また,低体温患者は登録時点での臓器障害発生率が高かった.しかし,低体温群と非低体温群でサイトカイン濃度に有意差はなく,加えて深部体温と血漿中サイトカインレベルに関連性は見られなかった.

■以上より,敗血症においては低体温はショック有無にかかわらず予後不良因子であることが分かる.加えて,体温をみるとき,その患者に発熱がなく正常体温であっても,それは低体温に移行しつつある状態なのかもしれないことに注意が必要である.

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# by DrMagicianEARL | 2013-11-16 16:39 | 敗血症

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