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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

I.強心薬療法(Inotropic Therapy)
1.以下の場合,ドブタミンを投与開始または(使用しているなら)昇圧剤に追加して20μg/kg/minまで投与することを推奨する.(a) 心充満圧は上昇しているが低心拍出状態が疑われる心筋機能障害,(b) 適切な血管内容量と適切な平均動脈圧であるにもかかわらず,組織低灌流徴候が持続している場合(Grade 1C)
 1Cで強く推奨されてはいるが,RCTレベルでドブタミンが有効とするエビデンスは依然としてない状態にある.昇圧剤の項目で述べた通り,敗血症におけるβ刺激薬の有害性機序が多数報告されており,ドブタミンの作用により頻脈や血圧低下が生じてしまう可能性もある.このこともあって,日本版敗血症ガイドラインではドパミン,ドブタミンは使用に値せずとしてか推奨項目において名前すら挙げられていない.むしろ近年はesmorolに代表されるβ遮断薬が死亡率を改善させる可能性を示唆する報告が増加しているくらいである.

 Wilkmanら(Wilkman E, et al. Acta Anaesthesiol Scand 2013 Jan.8)は,420例の敗血症性ショック患者の後ろ向き解析を行い,陽性変力薬(90.3%がドブタミン)を受けた患者は90日死亡率が有意に高く(42.5% vs 23.9%, p<0.001),傾向スコア調整後も有意な死亡リスク因子であったと報告している.また,肥大型心筋症,特に左室流出路狭窄がある場合は,投与により僧帽弁のsystoloc anterior mortion(SAM)が発生し,僧帽弁逆流が生じるため禁忌となる.
2.規定された正常を上回る心係数にするための強心薬使用は行わないことを推奨する(Grade 1B)
 2つの前向き臨床試験(N Engl J Med 1995; 333: 102-32,N Engl J Med 1994; 330: 1717-22)が推奨根拠として提示されている.

J.コルチコステロイド(Corticosteroides)
1.適切な輸液蘇生と昇圧剤治療で血行動態安定性(初期蘇生目標を参照)を回復できるのであれば,成人敗血症性ショック患者の治療としてのヒドロコルチゾン静脈内投与は使用すべきではない.血行動態安定化が達成されない場合は,ヒドロコルチゾンのみを200mg/dayの用量で投与してもよい(Grade 2C)
 合成グルココルチコイドは一部の細胞には確かに抗炎症作用を導くものの,敗血症病態においては効力を示しにくい.この理由として,合成グルココルチコイドは,グルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されること,細胞選択性がないこと,敗血症進行の過程でグルココルチコイド受容体は発現量を減少させること,などが挙げられる.ステロイド投与量を増加したとしても,グルココルチコイド受容体が存在しない以上,炎症が生じている臓器細胞(Alert Cell)の炎症性サイトカインを抑制することはできず,結果的にはグルココルチコイド受容体の発現する白血球系細胞にアポトーシスを誘導し,感染症を増悪させてしまう.しかしながら敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり,ステロイドカバーの役割を担う可能性は残されている.

 敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は有効とする報告と無効とする報告の両方が複数報告されている.2004年のメタ解析(BMJ 2004; 329: 480-84)では,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告され,これを根拠としてSSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨された.

 一方で,2008年に報告された二重盲検多施設共同RCTであるCORTICUS study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)は症例数が500例と大規模であり,28日死亡率はステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析では,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには,ベースの患者の重症度が低い,ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

 一方,2004年のメタ解析が2009年にup-dateされ,少量ステロイド長期投与による死亡率の軽減は,CORTICUS studyを加えても維持されていた(Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18).また,ステロイド非投与群での死亡率からみた敗血症の重症度とステロイドの効果についても言及し,低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを示した.これらから,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要がある可能性が示唆され,重症度を想定していないSSCG 2004を遵守した場合は,死亡率に有意差はでていない(Intensive Care Med 2010; 36: 222-31)

 根拠には引用されていないが,2012年にCasserlyら(Intensive Care Med 2012; 38: 1946-54)が,2005-2010年の218施設敗血症患者27836名の解析を行っており,低用量ステロイド投与患者の病院死亡リスクは1.18倍,ショック後8時間以内に早期投与された例では1.23倍有意に増加していたと報告している.
2.成人の敗血症性ショック患者にヒドロコルチゾンを投与すべきかどうかを判断するためにACTH負荷試験は行うべきではない(Grade 2B)
 CORTICUS studyも2009年のメタ解析も,ACTH反応性有無にかかわらず効果は変わっていない.

 外傷や全身性炎症の急性期管理に用いられる薬物の中には,副腎機能を低下させる可能性のある薬物がある.ベンゾジアゼピン系鎮静薬やオピオイドはACTHの放出を抑制し,副腎皮質からのコルチゾル分泌を抑制する可能性がある.また,抗真菌薬であるケトコナゾールやフルコナゾール,シクロスポリン,フェニトインなどはコルチゾル分解を促進させる.また,コルチゾル担体であるコルチコステロイド結合グロブリンは好中球エラスターゼの基質であり,好中球エラスターゼによりコルチコステロイド結合グロブリンが切断されるため,フリー体のコルチゾルの遊離が高まる.このため,局所炎症では好中球の浸潤によりコーチゾルレベルが高まり,細胞保護が合理的に行われているが,侵襲的手術や敗血症のように好中球エラスターゼレベルが血中で上昇する病態では,炎症部位へのコーチゾル運搬が障害される.敗血症性ショックや多発外傷ではアルブミンのみならずコルチコステロイド結合グロブリンが低下し,コルチゾルの血漿消失半減期が短縮することも知られている.

 ACTH刺激試験において計測されるコルチゾルは総コルチゾルであり,フリーコルチゾルではない.血中のコルチゾルは通常90%が蛋白結合型の不活性型であり,活性を持つのは残りの10%のフリーコルチゾルである.ところが,敗血症などの重症疾患ではフリーコルチゾルの割合が50%にまで増加する.しかし,特にアルブミン低下が著明な(<2.5 g/dL)重症患者では,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されてしまう.以上から,総コルチゾール測定では副腎機能低下を判定することは不正確であり,フリーコルチゾルの測定結果もすぐに得られない上に重症患者での基準値が明確でないという問題点から,ACTH刺激試験を行う意義は乏しい.
3.昇圧剤が既に不要である場合は,ステロイド療法を漸減させてもよい(Grade 2D)
 一定期間の治療プロトコルを使用したRCTは3報,ショック改善後の減量についてのRCTは2報あり,これらのうち4報では数日間でステロイド漸減を行っている.また,RCT1報を含む2報の研究ではステロイドを中断している.1つのクロスオーバー試験においてステロイドの突然の中断による血行動態的・免疫学的なリバウンドを示している.また,1つの研究で敗血症性ショック患者に対する低用量ヒドロコルチゾン使用期間は3日間と7日間で予後に有意差がなかったと報告している.これらの根拠から,突然の中断は好ましくないため漸減療法がbetterであるが,投与期間に関しては明確な基準がない.
4.ショックでない敗血症治療においてはコルチコステロイドを投与しないことを推奨する(Grade 1D)
 本項目に関しては明確な根拠となる文献はないが,非ショック病態の敗血症において投与するメリットを示す報告はなく,現時点で副作用を上回る利益を得る可能性は低いと思われ,現時点では必要性は乏しく,投与しないのが妥当と思われる.

 一方で,肺炎におけるステロイド投与が議論されており,本ガイドラインの根拠においてもステロイドが有効であるとした2つの報告(Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 242-8,Lancet 2011; 377: 2023-30)を引用している.6報437例のコクランのメタ解析(Cochrane Database Syst Rev 2011; 3: CD007720)では死亡リスク減少効果は認められなかったが,症状改善までの期間を短縮したとしている.ただしそのエビデンスの強さは十分ではないと付け加えている.現在肺炎に対するステロイドの効果を検証する大規模studyであるESCAP(e) studyが行われている.
5.低用量ヒドロコルチゾンを投与する際は,反復ボーラス投与よりも持続投与を行うべきである(Grade 2D)
 いくつかのRCTにおいて敗血症性ショック患者に対する低用量ヒドロコルチゾン投与は,副作用として有意に高血糖・高ナトリウム血症をきたすことが知られる(JAMA 2002; 288: 862-71).また,小規模研究ではあるが,反復ボーラス投与が持続投与よりも高血糖をきたしやすいことも報告されている(Intensive Care Med 2007; 33: 730-3)

K.血液製剤投与(Blood Product Administration)
1.組織低灌流が改善し,心筋虚血や重度の低酸素,急性出血,虚血性心疾患などの考慮すべき懸念がなければ,成人ではヘモグロビン7.0g/dL未満の場合において7.0-9.0g/dLを目標に赤血球輸血を行うことを推奨する(Grade 1B)
 重症敗血症患者において最適なHb濃度は分かっていない.TRICC trial(N Engl J Med 1999; 340: 409-17)では目標値Hb 10-12g/dLの輸血非制限群と比較して目標値7-9g/dLの輸血制限群は死亡率が低い傾向にあったが,統計学的に有意な差ではなかったと報告されており,また,重症感染症や敗血症性ショックの患者に限定したサブ解析でも30日死亡率に有意差はなかった.

 しかし,CRITT trialのその他のサブ解析について本ガイドライン根拠では触れられていない.TRICC trialにおいて,APACHEⅡスコア≦20の軽症患者,55歳未満の患者層,院内死亡率のそれぞれでサブ解析を行うと,輸血制限群の方が有意に死亡率が低い結果となった.その後,Vincentらの大規模観察研究ABC study(JAMA 2002; 288: 1499-507)が行われ,輸血が死亡率を高めると結論付けている.一方,VincentらはSOAP studyの輸血に関するデータベースの解析を行い(Anesthesiology 2008; 108: 31-9),傾向スコア解析で輸血と死亡率に関連性がないとしている.Marikらのシステマティックレビュー(Crit Care Med 2008; 36: 2667-74)では,輸血は死亡に関連する独立因子(OR 1.7, 95%CI 1.4-1.9)であり,院内感染を含む感染性合併症やARDS,多臓器不全の危険因子となることも示している.

 Leal-Novalら(Intensive Care Med 2012 Nov.27)は,非出血性の中等度貧血(Hb 7.0-9.5)がある重症患者428例の後ろ向きペアマッチングコホート研究を行い,赤血球輸血群が非輸血群より死亡率,ICU再入室率,院内感染率,急性腎傷害が有意に高いことを示している.輸血投与開始基準としてのHb値は高値がいいか低値がいいかを検討した19報RCT6000例のメタ解析(JAMA 2013; 309: 83-4)では,低値群の方が30日死亡率が15%低い結果となっている.これらのことから,日常診療では感じにくいが,輸血投与にはリスクが伴うことを周知しておく必要がある.

 一方,敗血症に限定した研究では,韓国22施設ICUの1450例の傾向スコアマッチング解析を行ったParkら(Crit Care Med 2012; 40: 3140-5)の報告があり,低リスクの重症敗血症/敗血症性ショック患者に対する輸血により7日死亡率,28日死亡率,院内死亡率のすべてが約50%低下していた.今後は敗血症における前向き研究が望まれるが,現時点では輸血リスクを考慮し,上記推奨項目通りの施行がbetterであると思われる.
2.重症敗血症による貧血の特異的治療としてのエリスロポエチンは使用しないことを推奨する(Grade 1B)
 重症患者の貧血の原因のひとつにエリスロポエチン(EPO)産生低下があり,ICUで輸血を減らすためにもEPO製剤投与が推奨されるが(Crit Care Med 2009; 37: 3124-57),敗血症ではEPOは推奨されていない.

 EPO投与についての多施設二重盲検RCTは3つ(Crit Care Med 1999; 27: 2346-50,JAMA 2002;288: 2827-35,N Engl J Med 2007; 357: 965-76)あり,2つは死亡率に有意差なし,1つはEPO群が有意に死亡率を低下させたが,EPO群において血栓性合併症発症リスクが有意に高くなることも判明し,EPO使用は安全性という点で懸念されることとなった.これらの結果やEPO試験のメタ解析(CMAJ 2007; 177: 725-34)から,腎不全による赤血球産生能低下に対してはEPO投与を考慮してもよいかもしれないが,重症敗血症に合併する貧血の特異的治療法としてはEPOを使用すべきではない.
3.出血や侵襲的な処置の予定がなければ、凝固異常補正を目的とした新鮮凍結血漿(FFP)の投与は行うべきでない(Grade 2D)
 ここはDICの積極的治療を行う日本とDICの概念に乏しい海外とで意見の分かれるところかもしれない.FFPの投与は軽度の凝固異常(PT INR 1.10-1.85)のある非出血性患者においては99%の患者でプロトロンビン時間が補正されなかったことが報告されている(Transfusion 2006; 46: 1279-85)こと,非出血性の重度凝固異常のある患者でのFFPによる補正に関する研究がなされていないことが本項目の根拠である.これに対して本邦では敗血症患者でも重症例でのDICにおいては経験的にFFPの投与を行っている施設は多い.その目的として,凝固因子補充や,ADAMTS13の輸注が挙げられるが,敗血症性DICにおいてFFPが臨床アウトカムを改善した報告はなく,日本版敗血症診療ガイドラインのDICの項目においても,「著明な出血傾向のある症例で,APTTが正常の倍以上,あるいはPT-INRが2倍以上に延長している場合に適応となる」と明記されている.

 FFPで注意しなければならない有害事象に,輸血の死亡原因となる輸血関連急性肺傷害(TRALI)もあり,血漿中の抗白血球抗体などの液性成分が発症に関与する機序も明らかとなっている.近年の前向き研究(Crit Care Med 2007; 176: 886-91)では全輸血患者のうち8%が輸血後6時間以内にTRALIを発症し,特に敗血症患者で発症率が高かったと報告されている.
4.重症敗血症,敗血症性ショックの治療においてアンチトロンビン製剤は投与すべきではない(Grade 1B)
 これもDICの概念が乏しい海外ならではの推奨項目であり,その根拠は,DIC有無関係なしにアンチトロンビン製剤(AT)を敗血症患者に投与した2314例の多施設共同二重盲検RCTであるKyberSept study(JAMA 2001; 286: 1869-78)に基づく.この報告ではAT投与群と非投与群とで28日全死亡率に有意差がなかった.サブ解析では,ATへのヘパリン併用が出血リスク増大に関連おり,ヘパリン非併用群では死亡率が改善していた(J Thromb Haemost 2006; 4: 90-7).また,DICを合併していた重症敗血症例ではATが90日後の予後を改善させていた(Crit Care Med 2006; 34: 285-92)

 以上から,ATには敗血症性DICでの有効性が残されているものの,そのエビデンスはあくまでもサブ解析に過ぎず,前向きRCTが必要である.また,KyberSept studyのAT用量は30000単位を4日間かけて投与しており,本邦の1500単位3日間投与という基本レジメンが予後を改善するのか,あるいはATを何%まで回復すれば予後が改善するのか,ということに関してはエビデンスがない状況にある.
5.重症敗血症の患者においては,明らかな出血がない患者では血小板10000/mm^3未満の場合に血小板輸血を行い,明らかな出血のリスクがある患者では血小板20000/mm^3未満で血小板輸血を行ってもよい.活動性出血のある患者,外科的処置や侵襲的処置を行う患者では血小板数が50000/mm^3以上あることが望ましい(Grade 2D)
 凝固障害をきたしやすい敗血症においては血小板輸血は慎重に考える必要があり,高いレベルの血小板数を目標としてはならない.敗血症性DICの場合は,リコンビナント・トロンボモデュリン製剤やアンチトロンビン製剤が投与されていない状況で血小板輸血を行うと臓器障害が悪化する可能性がある.また,難治性の敗血症性DIC病態においてはvon Willbrand Factor切断酵素であるADAMTS13が枯渇している可能性があり,血栓性血小板減少症(TTP)に類似した状態になっている可能性があり,血小板輸血は極めて慎重に行うべきである(Thromb Res 2010; 125: 6-11).また,ヘパリン起因性血小板減少症では血小板輸血は禁忌である.
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# by DrMagicianEARL | 2013-02-05 16:55 | 敗血症
G.重症敗血症の輸液療法(Fluid Therapy of Severe Sepsis)
1.重症敗血症・敗血症性ショックの蘇生では初期輸液の選択として晶質液(crystalloids)を推奨する(Grade 1B)
 循環動態を回復させる初期輸液においては晶質液がベースとなるが,膠質液をそこに併用するかは長年議論されており,実臨床においては併用している施設も多い.膠質液を用いるメリットは血管内ボリュームの早期改善とその効果の持続性が理論上指摘されている.その一方で,膠質液にはコストの問題点があり,安価な晶質液でも十分量投与すれば膠質液と同等の効果があり,副作用も少ないとされている.ただし,Jacobら(Crit Care 2012; 16: R86)は,心肺機能が健全な成人で純粋な血管内容量不足に対して3倍量の乳酸リンゲル液による置換では血管内容量を正常に維持することはできず,維持するためには5倍量は必要であると報告している.

 過去の報告では2つのメタ解析で晶質液と膠質液では予後に有意差はないと報告されており(Crit Care Med 1999; 27: 200-10,Ann Intern Med 2001; 135: 205-),これにコスト面を踏まえてSSCG 2008では晶質液を第一選択としていた.その後,2011年にSAFE studyのサブ解析(Intensive Care Med 2011; 37: 86-96)が報告され,重症敗血症への輸液負荷時は生理食塩水と比較してアルブミン投与が腎障害やその他臓器障害を起こさず死亡率を減らす可能性が示唆されたが,SSCG 2012でも晶質液を第一選択とする方針は変わっていない.実際,このエビデンスもあくまでもサブ解析であり,新たな大規模RCTが必要である.RCTではないが,Bayerら(Crit Care Med 2012; 40: 2543-51)の前向き検討の報告では,敗血症性ショックにおいて膠質液の使用は必要とする蘇生輸液量がわずかに少ない程度であり,ショックからの回復は合成膠質液でも晶質液でも同様に早く達成できるとしている.

 どの種の輸液製剤が敗血症において優れているかというエビデンスはないが,そもそも研究した大規模スタディが少ない.生理食塩水は最も安価という利点がある一方で,大量急速投与で血中の重炭酸イオン濃度を希釈し,希釈性代謝性アシドーシスを起こしうる.また,高クロール血症も伴うと,重炭酸イオンはさらに減少し,代謝性アシドーシスが持続することがある.

 乳酸加リンゲルは,臨床的に乳酸が蓄積するような敗血症病態であっても,末梢組織の酸素代謝が改善して血中乳酸値が低下することから,ショック時でも頻用されている.その理由として,乳酸イオンそのものが生理的な物質であること,乳酸イオンも重炭酸イオンと同じくアルカリ化剤であること,他のリンゲル液に比して安価(118円)であることが挙げられる.健常人において乳酸加リンゲル1Lを1時間負荷したtrialでは,乳酸値は上昇しなかったと報告されている(Crit Care Med 2012; 25: 1851-4).一方で,乳酸代謝半減期は30分であるが,生体の代謝速度を上回る量が投与された場合は乳酸加リンゲル液投与による高乳酸血症を起こすことであり,特に肝不全や敗血症性ショックでは注意が必要である.また,乳酸加リンゲル大量輸液により,乳酸イオンの過剰負荷によるアルカリ化作用でショック回復後2-3日して高度の代謝性アルカローシスを起こすことがある.乳酸加リンゲルの問題点を解決したのが酢酸加リンゲルである(175円).さらに,細胞外補充液の中で最も生理的である重炭酸加リンゲルがあるが,高価(269円)であるのが難点である.以上の3種の細胞外補充液は,高価なものほどショック病態に向いてはいるが,実際の臨床的有意差は明らかではない.
2.重症敗血症,敗血症性ショックの輸液蘇生においてヒドロキシエチルスターチ(HES)を用いないことを推奨する(Grade 1B)(この推奨はVISEP,CRYSTMAS,6S,CHESTのtrialの結果に基づいている.最近終了したCRYSTALの結果は考慮していない).
 HESには凝固・止血機能障害,アナフィラキシー様反応,腎障害の懸念があり,特に腎障害が有意に増加したとする報告は多い.また,HESを有効とした報告の多くにかかわっていたのがBoldt J氏であるが,2009年に同氏が報告した論文が捏造であったことが発覚している(Anesth Analg 2011; 112: 498-500).HESの有効性を検討したメタ解析やシステマティックレビューで解析対象とされた同氏の報告はHESを肯定するものが多く,今後の調査結果次第でさらにHESの有効性は否定的なものとなる可能性がある.

 近年の報告はそのほとんどがHESの有効性を否定し,腎障害リスク上昇を報告している.2012年に報告されたRCTでは,6S Trial Group/Scandinavian Critical Care Trials Groupの報告(N Engl J Med 2012; 367: 124-34)ではHESによる有意な死亡リスク増加と腎障害が報告され,ANZICS trial groupの報告(N Engl J Med 2012; 367: 1901-11)でも腎障害リスク増加が報告されている.これに対し,CRYSTMAS study(Crit Care 2012; 16: R94)はHESの有効性と安全性を示した数少ないRCTの1つではあるが,そのデータを見ると死亡率,急性腎不全発生率に統計学的有意差はないものの,いずれもHES群が絶対差で6%,4.5%高い結果となっている.これらの結果からHESが推奨されないのは当然の流れと言える.

 2013年に入って2つのメタ解析が報告された.Haaseら(BMJ 2013; 346: f839)は,敗血症における6% HES 130/0.38-0.45と晶質液,アルブミンを比較した9報RCT3456例のメタ解析を行い,HESが腎代替療法や輸血の必要性を増加させ,より重篤な有害事象を引き起こすと報告している.Gattasら(Gattas DJ, et al. Intensive Care Med 2013 Feb.14)は,急性疾患の初期輸液蘇生における6% HES 130/0.4-0.42を検討した35報10391例のメタ解析を行い,HESが死亡リスク,腎代替療法を要するリスクをそれぞれ8%,25%増加させると報告している.

 ただし,HESに関するほとんどの報告が6% HES(130/0.4)であり,本邦で使用されているヘスパンダー®,サリンヘス®は海外の報告で使用されたものより低分子の6% HES(70/0.5)であり,報告もなく腎障害の有無などは不明の状態にあり,現時点では本邦では禁忌までとはいかず,慎重投与の状態にある.今後,本邦で使用されている低分子HESの安全性を検討した大規模RCTが必要である.敗血症ではないが,術中出血量1000mL以上の患者846例の後ろ向き解析(Anesth Analg 2012; 115: 1309-14)が東京慈恵医大から報告されており,6% HES(70/0.5)製剤投与は急性腎傷害を増加させず,多変量解析,傾向スコアを用いても急性腎傷害リスク増大は認められなかったとしている.
3.大量の晶質液を必要とする患者では,重症敗血症・敗血症性ショックの初期輸液としてアルブミン製剤を使用してもよい(Grade 2C)
 SAFE studyのサブ解析で重症敗血症において生理食塩水と比較してアルブミン投与が腎障害やその他臓器障害を起こさず死亡率を減らす可能性が示されていることは上で述べた通りである.また,Delaneyらのメタ解析(Crit Care Med 2011; 39: 386-91)では,アルブミン製剤使用は死亡リスクを22%減少させるとしている.ただし,この中で敗血症性ショック患者における大規模多施設RCTにおいては28日死亡率で統計学的有意差はみられず,2Cという低いグレードとなっている.
4.敗血症による組織低灌流と血管内容量減少を有する患者の初期輸液は,晶質液を最低でも30mL/kg以上投与することを推奨する(一部,相当量のアルブミンで代替してもよいかもしれない).患者によってはより急速で,より大量の輸液が必要となるかもしれない(初期蘇生推奨を参照)(Grade 1C)
  2001年にRiversらによって提唱されたEGDTが普及し,敗血症性ショックにおける大量輸液療法がスタンダードとなったものの,輸液過剰は死亡率の上昇と関連する可能性も示唆されており,現在どこまで大量輸液を行うべきなのかが議論となっている.

 Smithら(Crit Care 2012; 16: R76)は前向きコホート研究において成人敗血症性ショックにおける体液量の高値と低値の比較で,初期輸液量は死亡率に関連せず,3日間以上のショック患者においては晶質液,膠質液,血液製剤を含む高用量輸液が90日死亡率の減少に関連していた(高用量40% vs 低用量62%,p=0.03)と報告している.一方,小児ではFEAST trial(N Engl J Med 2011; 364: 2483-95)で敗血症性ショックにおける急速輸液の有害性が示されている.EGDTに関してはHiltonらが初期大量輸液に対する批判をまとめたレビューをだしているが(Crit Care 2012; 16: 302),現時点では結論を出すのは時期尚早であり,敗血症におけるEGDTの有効性を検討している3つの研究(米国のPROCESS,オーストラリア/ニュージーランドのARISE,英国のPROMISE)が進行中であり,この結果で決着がつくものと思われる.
5.初期輸液を動的指標(脈圧や1回心拍出量変化)や静的指標(動脈圧,心拍数)に基づいて血行動態の改善が得られるまで継続する輸液チャレンジテクニックを適応することを推奨する(Ungraded)
 輸液過剰とならないよう,適切な輸液量を推定する様々な方法が多数報告されているが,いずれも小規模RCTで確認されたものばかりであり,大規模で確認されたものはほとんどない.ただ,主流は静的パラメータから動的パラメータにうつりつつあるようであり,その代表例が呼吸変動であり,10年以上有効性の報告が出続けている.本ガイドラインではシステマティックレビューとしてMarikらの報告(Crit Care Med 2009; 37: 2642-7)を推奨根拠に挙げており,この報告では輸液反応性の診断における血圧変化,1回心拍出量変化のオッズ比はそれぞれ59.86(95%CI 23.88-150.05),27.34(95%CI 3.46-55.53)と非常に高い数値となっている.

H.昇圧薬(Vasopressors)
1.昇圧療法は,平均動脈圧(MAP)65mmHgを初期の目標にすることを推奨する(Grade 1C)
 血圧には,収縮期血圧SBP,拡張期血圧DBP,平均血圧MAPの3つの数字があり,重症管理患者におけるそれぞれの臨床的な意義として,SBPは左室後負荷と動脈性出血リスクに関与,DBPは冠血流の決定因子,
MAPは心臓以外の臓器灌流の決定因子となる.血圧が低いことが問題になるのは臓器血流量が減少するからであり,それを決定するのは冠血流を除いてはMAPである.よって,集中治療においてはMAPが最も重視されるべき項目である(Crit Care 2005; 9: 601-6)

 敗血症においてはノルエピネフリンによってMAPを少なくとも65mmHgに維持することで組織灌流を維持できたとする報告(Crit Care Med 2000; 28: 2729-32)がある.また,MAPが60mmHgと28日死亡率の関連が強く,SBPと死亡率の関連閾値は見出せなかったと報告されている(Intensive Care Med 2009; 35: 1225-33)
2.昇圧剤の第一選択としてノルエピネフリン(ノルアドレナリン)を推奨する(Grade 1B)
 輸液でも血圧を維持できず臓器血流量不足が懸念される状況では昇圧剤が必要となってくる.SSCG 2008ではwarm shockにおけるカテコラミン第一選択薬をドパミン(DOA),ノルアドレナリン(NA)のいずれでもよいとしていた.しかしながら,敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,NAを用いることが病態生理学的に理にかなっている.

 DOAでα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激をしてしまうことを留意しておく必要がある.敗血症性ショックではβ1受容体のdown regulationが生じたり,β1シグナルが阻害されるため,DOAでは陽性変力作用が期待できないばかりか,β2受容体刺激により血管拡張や頻脈が生じ,むしろ昇圧を妨げてしまう.また,細菌にもβ受容体は存在し,DOA,DOB5γ以上の投与で菌増殖やバイオフィルム形成を促進してしまう.加えて,β受容体刺激は,転写因子NF-κBを活性化させ,炎症性サイトカインや血管拡張性物質の産生を高めてしまう.また,マクロファージはβ受容体刺激により泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている.また,β受容体刺激でリンパ球のアポトーシスが進行したり,好中球の遊走能が阻害されることも報告されている.

 これらの機序は以前から指摘されており,臨床においては,2012年には敗血症性ショックにおけるNAとDOAを比較したメタ解析が2報でており(Crit Care Med 2012; 40: 725-30,J Intensive Care Med 2012; 27: 172-8),いずれにおいてもDOAはNAに比して死亡リスクが高い結果となっており,SSCG 2012ではノルアドレナリンが第一選択となった.
3.適切な血圧を維持するため追加薬剤が必要な場合は,(ノルエピネフリンに追加,または潜在的代替薬として)エピネフリン(アドレナリン)を用いてもよい(Grade 2B)
 敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンとアドレナリンを比較した研究はCATS study(Lancet 2007; 370: 676-84),CAT study(Intensive Care Med 2008; 34: 2226-34)があり,いずれも死亡率等に有意差はみられなかったが,CAT studyのサブ解析では,敗血症性ショック患者においてアドレナリン投与群で有意に頻脈や乳酸アシドーシスが多かったと報告されている.このことから,ノルアドレナリンを用いても,高度心機能低下によりショックから離脱できない場合に限り低用量のアドレナリンを考慮してもよいかもしれない.
4.平均動脈圧(MAP)を上昇させる,またはノルエピネフリンを減量する目的で,ノルエピネフリンにバソプレシン(0.03U/min)を追加してもよい(Ungraded)
 warm shockの中にはノルアドレナリン(NA)に反応しないケースがある.乳酸蓄積によりATP依存性Kチャネルが開放し,Caが細胞内に流入できず,NOによる血管拡張の働きのみが残ることがあり,この状態はカテコラミン不応性である.このような病態においてはバソプレシンが有効とされている.バソプレシンは血管平滑筋を収縮させ,カテコラミンに対する反応性を改善し,血圧上昇に働く.本来は血圧が下がるとバソプレシンの血液中濃度は上昇する.

 実際に,敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている(Crit Care Med 2007; 35: 33-40).一般病棟ではこの低下の時期に敗血症が診断される場合も多い.NAとバソプレシンを比較したVASST study(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブ解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している(Crit Care Med 2009; 37: 811-8).実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している(Circulation 2003; 107: 2313-9).また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている(Anesthesiology 2002; 96: 576-82).以上より,NAでも改善が得られないwarm shockに対してバソプレシン少量投与追加を検討してもよいかもしれない.
5.敗血症による血圧低下に対して初期に選択される昇圧剤としては低用量バソプレシンは推奨されず,0.03-0.04 U/min以上のバソプレシンは(他の昇圧剤で適切な平均動脈圧が得られない場合の)代替療法として温存すべきである(Ungraded)
 根拠としてDunserらの報告(Crit Care Med 2003; 31: 1394-8)が引用されており,高用量バソプレシンは心臓,消化管,内臓の虚血と関連し,昇圧薬による治療が奏功しないケースのために温存されるべきであるとされる.ノルアドレナリンとバソプレシンを比較した7報では,バソプレシンのルーティンでの使用は支持されておらず,代替療法の位置づけにある.しかし,ノルアドレナリンによる上室性不整脈リスクは7.25倍(95%CI 2.30-22.90)であることから,ノルアドレナリン減量目的での併用も考慮してもよいかもしれない.
6.極めて限られた患者(頻脈性不整脈や絶対的/相対的徐脈のリスクが低い患者など)においてのみ,ノルエピネフリンの代替薬としてのドパミンを使用してもよい(Grade 2C)
 上述の通り,ノルアドレナリンが第一選択となり,ドパミンの推奨度は下げられた.Levyらのメタ解析(Crit Care Med 2012; 40: 725-30)においては,ドパミンはノルアドレナリンに比して死亡リスク増大に加え,不整脈リスク増大も示されていることから,特に不整脈リスクの低い患者への限定記載を記したものと思われる.
7.フェニレフリンは敗血症性ショックにおいて以下の場合以外には推奨されない.(a) ノルエピネフリンによる重症不整脈がある場合,(b) 心拍出量が高いにもかかわらず血圧が低い状態が遷延している場合,(c) 強心薬/昇圧薬と低用量バソプレシンを併用しても平均動脈圧(MAP)が目標値を達成できない場合の代替療法(Grade 1C)
8.腎保護目的での低用量ドパミンは使用しないことを推奨する(Grade 1A)
 低用量ドパミンは腎保護作用のあるカテコラミンというドパミン神話が言われ,昔は汎用されてきた経緯があった.しかし,その有効性を示す研究の多くはケースシリーズであり,EBMが確立してきた1990年代に入って1991年のSzerlipの報告から始まり,多くのドパミンの腎保護作用に関するRCTが行われているが,有効であるとのエビデンスは存在しない.敗血症における低用量ドパミンの結果をまとめたレビュー(Clin Exp Pharmacol Physiol Suppl 1999; 26: 23-8)では,腎保護目的にルーティンでドパミンを使用すべきでないとしている.

 2000年に多施設無作為二重盲検比較試験であるANZICS trial(Lancet 2000; 356: 2139-43)が発表され,SIRS患者におけるAKIでは低用量ドパミン群とプラセボ群では同等の効果しか示さず,有意な腎保護作用・利尿作用はないと結論づけられている.その後に発表されたレビューでも低用量ドパミンの腎保護作用はなく,その副作用を考慮に入れると,腎保護目的に使用すべきではないとしている.
9.昇圧薬を必要とするすべての患者において,可能であれば動脈カテーテルを速やかに挿入することを推奨する(Ungraded)
 本ガイドラインの根拠では,敗血症性ショックでのカフを用いた非観血的血圧測定(NIBP)は不正確になりやすいと述べており,実際,NIBP測定器は本来は高血圧の検知を目的にしているよう精度が設計されており,それゆえに特に低血圧時には正確性に欠けると指摘する論文がいくつか存在する.またショック動態における動脈カテーテルでのモニタリングは,頻回の採血が必要な状態では有用であることに加え,血圧のみならず連続的な血圧変化がとらえられ,呼吸性変動などの波形変化から得られる情報も非常に有用である.

 しかしながら,根拠で触れられていないが,動脈カテーテル測定圧の過信も禁物である.なぜなら敗血症性ショック病態では動脈カテーテルの計測圧も正確でなくなりうるからである.心臓近くの血圧波形は末梢からの反射の影響はないが,末梢の動脈圧は末梢からの反射の影響を大きく受ける.基本的に心臓からの圧に末梢からの反射波が少し遅れて加わるため波形の幅は広くなる.逆に反射の影響が少ないと細い波形になりやすい.末梢血管が拡張していると反射の影響が少なくなり,静脈圧に近くなり,末梢動脈での血圧上昇は抑えられる.敗血症性ショックなどで末梢血管抵抗が極端に低い場合は動脈カテーテルでの圧がむしろ異常に低くなることがあるため,動脈カテーテル測定圧を根拠とした昇圧薬や輸液は過剰投与のリスクが生じるため注意が必要である.また,平均動脈圧<65mmHgの患者群に対してNIBPと動脈カテーテル圧を比較した報告では,NIBPが十分な代用となる可能性も報告れている(Anesth Analg 2009; 109: 494-501)

 このように,動脈カテーテル圧は共振だけでなく末梢血管抵抗にも左右されるが,NIBPは末梢血管抵抗の影響をほとんど受けず,上腕よりも心臓側の圧をよく反映しているので,NIBPは末梢血管抵抗の変化や圧測定回路による圧変化に左右される撓骨動脈カテーテル圧よりも信頼度は高くなる可能性もある.一方で,中心部の大動脈圧をより正確に反映するのは鼠径動脈であり,血圧の正確さで見れば撓骨動脈よりも鼠径から動脈カテーテルを挿入する方がよい.ただし,感染リスク上昇を加味する必要がある.内頸と大腿での静脈カテーテルでの感染率に有意差がないという報告が最近多いが,動脈カテーテルでそのままあてはまるわけではない.実際に中心静脈カテーテルでの感染確率は一定であるのに対し,動脈カテーテルの感染確率は留置日数に比例するとの報告もある(Crit Care Med 2010; 38: 1030-5).動脈カテーテルの適応やその活用方法はこれらを勘案した上で行うべきであろう. 
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# by DrMagicianEARL | 2013-02-04 16:55 | 敗血症
D.抗菌薬治療(Antimicrobial Therapy)
1.敗血症性ショック(Grade 1B),敗血症性ショックでない重症敗血症(Grade 1C)と認識してから最初の1時間以内の有効な経静脈的抗菌薬投与を治療目標とすべきである.
 抗菌薬投与の遅れが死亡率増加につながることはこれまでの複数の報告が示す通りである.

 1時間以内という時間の根拠は,Kumarらの報告(Crit Care Med 2006; 34: 1589-96)をはじめとする,抗菌薬開始までの時間と死亡率の間に強い相関を認めたという報告に基づくが,1時間という時間をカットオフとする強力なエビデンスが存在するわけではない.ただし,これを検証するのは倫理的問題を考慮すると困難であることが予想され,1時間以内をスタンダードとする流れは今後も変わらないものと推察される.

 基礎的研究については,ヒト血液およびマウスモデルの検討(Franks Z, et al. Thromb Haemost 2013 Jan. 24)において,MRSA感染に対し早期の抗菌薬投与により凝固炎症反応を有意に抑制した一方,投与が遅れると抑制効果が見られなかったことが報告されており,抗菌薬投与そのものが細菌学的効果のみならず敗血症関連メディエータに関与しうることが示唆されている.
2a.初期経験的抗菌薬治療は,原因と考えられる病原体全て(細菌,真菌,ウイルス)に活性を有し,敗血症の原因と推定される組織内に適切な濃度で移行する1つ以上の薬剤で行うことを推奨する(Grade 1B)
 重症感染症の基本事項である.経験的抗菌薬選択の指標として,患者既往歴,薬剤副作用歴,最近3ヶ月以内の抗菌薬使用歴,基礎疾患,その地域のアンチバイオグラム,以前の定着または感染の原因菌などが挙げられる.院内発症例ではグラム陽性菌が原因として最も多く,次いでグラム陰性菌,雑菌混合感染となっており,カンジダ,TSS(toxic shock syndrome),稀な病原体のカバーについては患者を選んで行う.広域カバーについては特に好中球減少患者で考慮する.

 おそらく,多くのケースではカルバペネム系が主軸になる.その際,必ずカルバペネム系が無効な病原体を把握しておく必要がある.基本的に無効,もしくは無効なことがありうる代表的なものは以下の通りである.
Mycobacterium spp,MRSA,MRCNS,Legionella pneumophilaCorynebacterium jeikeiumClostridium difficileRhodococcus equiStenotrophomonas maltophiliaBarkholderia cepacia,Carbapenem Resistant Pseudomonas aeruginosa,Multiple Drug Resistant Pseudomonas aeruginosa (MDRP),Multiple Drug Resistant Acinetobacter baumanii (MDRAB),Enterococcus spp,New Delhi Metallo-beta-lactamase (NDM-1),True Funges,Virus

 カンジダ血症を考慮する場合は経験的抗菌薬としてFLCZかエキノキャンディンをIDSAは推奨していると記載されている.これに対し,近年改訂された欧州のESCMIDガイドラインではエキノキャンディンが推奨度Aであるのに対し,FLCZは推奨度Cである.これは欧州でFLCZ耐性のカンジダが多いことに起因する.このため本邦の状況には必ずしも当てはまるものではない.本邦では真菌症フォーラムからのACTIONs BUNDLEが発表され,非常に良好な治療成績を残しており,本バンドルにおいてはエキノキャンディンとFLCZのいずれかを経験的治療の第一選択に位置づけている.その際参考となるのは各施設のlocal factorであり,FLCZが効きにくいC. glabrataとエキノキャンディンが効きにくいC. parapsilosisのいずれが頻度が高いかによる.一般的にはICUではC. parapsilosisが多いとされるが,高齢者や血液内科領域ではC. glabrataの方が多い.
2b.抗菌薬のレジメンは,耐性菌増殖を防ぎ,薬剤毒性を減らし,コストを減らすためのde-escalaionが可能であるか,毎日評価を行うべきである(Grade 1B)
 de-escalationは理論上強く推奨されるべき項目とはいえるが,エビデンス自体はいまだにそれほどあるわけではないのが現状であり,エビデンスの質がBというのはやや高い印象がある.培養された菌を初期投与した広域抗菌薬がカバーしているにもかかわらず治療奏功・臨床症状改善がなければempiric治療の再考と感染巣・原因菌再検索が必要であり,この場合は最初に培養された菌に対するde-escalationは行ってはならない.
3.敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)
 本推奨項目の根拠として2報(Lancet Infect Dis 2007; 7: 210-7,Crit Care Med 2011; 39: 1792-9)が引用されているが,同時に限界と潜在的有害性の懸念が残るとしている.さらに,この抗菌薬中止戦略が耐性菌リスクやClostridium difficileによる抗菌薬関連下痢症のリスクを減じるとしたエビデンスはない.JensenらのProcalcitonin And Survival Study (PASS) Groupによるプロカルシトニンガイド下の抗菌薬アルゴリズムを使用したRCT(Crit Care Med 2011; 39: 2048-58)では,プロカルシトニン群は生存率を改善せず,臓器関連の有害性を示し,入院期間が延長したとしており,必ずしもプロカルシトニンガイドの抗菌薬治療が安全とは限らないことを示している.

 根拠に示されているもの以外の報告としては,重症敗血症・敗血症性ショック(Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 498-505),細菌感染症疑いのICU患者(Lancet 2010; 375: 463-74)を対象としたRCTにおいてプロカルシトニンが安全に抗菌薬投与期間短縮に寄与したと報告している.また,Shuetzらの14報RCTのシステマティックレビュー(Arch Intern Med 2011; 171: 1322-31)では,緊急度の高い患者やICU患者での抗菌薬投与期間の短縮にプロカルシトニンが寄与したとの結果となった.

 ただし,プロカルシトニンといえども万能ではなく,局所炎症やグラム陽性菌感染症では偽陰性となることもある.カットオフ値によるが,過去の報告ではプロカルシトニンは感度73-92%,特異度70-81%とそれほど高くはない.その他,神経内分泌腫瘍,膵炎,外傷,熱傷,手術などでも上昇することは知っておく必要がある(Crit Care Med 2008; 36: 941-52)
4a.各患者の疾患とローカルパターンに基づいた最も可能性の高い病原体に活性を有する抗菌薬で経験的治療はなされるべきである.重症敗血症を伴う好中球減少患者(Grade 2B)Acinetobacter属やPseudomonas属といった難治性多剤耐性菌による感染症(Grade 2B)においては,抗菌薬を併用した経験的治療を行ってもよい.呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症患者では,緑膿菌菌血症では,広域スペクトラムのβラクタム系抗菌薬にアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系を併用してもよい(Grade 2B).同様に,肺炎球菌菌血症による敗血症性ショック患者ではβラクタム系にマクロライドを併用してもよい(Grade 2B)
 高度の抗菌薬耐性菌が一般的な地域では,カルバペネム系,コリスチン,リファンピン,その他抗菌薬を取り入れたレジメンが必要かもしれない.最近のRCTの報告では,耐性菌群のリスクが低い集団においては,経験的治療にカルバペネム系にフルオロキノロンを加えても予後を改善しないことが報告されている(JAMA 2012; 307: 2390-9)

 MRSAや高度耐性グラム陽性菌においては抗MRSA薬とその他薬剤の併用が行われることが多いが,抗MRSA薬や上記推奨項目で取り上げられているRFPなどでは注意が必要である.TEICは十分な初期ローディングを行わなければ効果が得られるまでのタイムラグが生じる上,タンパク結合率が非常に高いため,低アルブミン血症では十分な血液濃度が得られないことが多い.また,菌血症状態においては静菌性抗菌薬は治療失敗につながる可能性もあり,特にLZD,TGC,RFPを菌血症に対して使うべきではない.菌血症状態では,LZDがVCMに劣ること,初期からのRFP投与で治療失敗が生じること,TGCは菌血症などの重症例ではよい成績が出ていないことから,これらの薬剤はABKやDAPで菌血症を解除してからの投与が望ましいと思われる.また,DAPは肺サーファクタントにより失活されてしまうため肺炎には使用できない(ただし敗血症性肺塞栓や膿胸では有効).

 マクロライド併用については,近年,特に市中肺炎において,βラクタム系とマクロライド系の併用がフルオロキノロン単剤治療より有意に予後を改善したとする報告が多数あり,新作用もあいまってマクロライド神話ができつつあるが,2012年に報告されたメタ解析(Clin Infect Dis 2012; 55: 371-80)においては,RCTやガイドラインによる治療を受けた患者に絞って解析を行うと死亡率に有意差はみられなかった.本邦ではマクロライド注射製剤として主にアジスロマイシンが使用されることになるが,他のマクロライド系より安全とされていたアジスロマイシンにおいても心血管死リスクが増大する可能性がある(N Engl J Med 2012; 366: 1881-90)ことは注意が必要である.
4b.重症敗血症患者に経験的に抗菌薬併用療法を行う場合,3-5日間よりも長く行うべきではない.感受性が判明すれば直ちに最も適切な単剤治療にde-escalationされるべきである(Grade 2B).例外として,特に緑膿菌敗血症や心内膜炎においてはアミノグリコシド系単剤治療は一般的に避けるべきであり,このような場合の抗菌薬併用療法は許容される.
 傾向マッチ解析,メタ解析,多変量解析,観察研究など多くの報告が高い死亡リスクを有する敗血症患者において併用療法の予後改善効果を示している(2008年以降ではCrit Care Med 2010; 38: 1651-64,Crit Care Med 2010; 38: 1742-8,Antimicrob Agents Chemother 2010; 54: 1742-8,Antimicrob Agents Chemother 2009; 53: 1386-94が引用).その一方で耐性菌群のリスクが低い集団においては,経験的治療にカルバペネム系にフルオロキノロンを加えても予後を改善しないことがRCTで報告されている(JAMA 2012; 307: 2390-9).また,高い死亡リスクを有する敗血症患者において単剤療法よりも併用療法を指示するRCTは存在しない.
5.臨床的に抗菌薬の治療期間は典型例では7-10日間でよい.ただし,治療反応性が遅い,ドレナージ不能の感染巣,黄色ブドウ球菌菌血症,真菌感染症やウイルス感染症,好中球減少症を含む免疫障害のある患者ではより長期間の治療が必要となるかもしれない(Grade 2C)
 7-10日は一般的な感染症の目安であり,実際には臨床効果,患者の状態を見ての主治医の判断により,継続,de-escalation/escalation,中止が決まる.血液培養陽性患者であれば陰性確認が望ましい.ただし,上記項目に挙げられているような病態や,骨髄炎,関節炎等では長期の治療が必要となりうる.黄色ブドウ球菌菌血症では感染性心内膜炎のリスクもあり,最低2週間の治療は必要である.また,カンジダ菌血症であれば,血液培養陰性化確認から2週間の投与は必要であることでコンセンサスが得られている.
6.重症敗血症,敗血症性ショックの原因がウイルスであれば,できるだけ速やかに抗ウイルス薬を開始する(Grade 2C)
 推奨根拠ではインフルエンザとサイトメガロウイルス,その他ヘルペスウイルスが挙げられている.とりわけ,インフルエンザではH1N1pdm2009の文献が引用され,ノイラミニダーゼ阻害薬での治療することが明記されている.これは,H1N1pdm2009の世界的パンデミックにおいて,初期から早期の病院受診とノイラミニダーゼ阻害薬投与を積極的に行うことで日本が最も死亡率が低かったことも関連しているかもしれない.

 また,一般的にはノイラミニダーゼ阻害薬は発症から48時間以内でなければ効果は得られにくいとされているが,ICUに入室したインフルエンザ患者1859名の後ろ向き解析では,発症後48時間を越えていても,5日以内であればノイラミニダーゼ阻害薬投与群が非投与群よりも有意に予後を改善していたと報告している(Clin Infect Dis 2012; 55: 1198-204)
7.高度炎症の状態にある患者で感染症が原因でないと判断した場合は抗菌薬を使用しないことを推奨する(Ungraded)
 感染症が否定的であるならば,耐性菌や抗菌薬関連有害事象のリスクを最小限とするため,抗菌薬治療は直ちに中止すべきである.ただし,抗菌薬は必ずしも早期に中止する必要はなく,見落としがないかを見極めて判断する必要がある.

E.感染巣コントロール(Source Control)
1.緊急で感染巣コントロールが必要な解剖学的に特異な感染巣(例えば壊死性軟部組織感染症,腹膜炎,胆管炎,腸管壊死)を検索し,その診断と除外をできる限り速やかに行い,可能ならば診断から12時間以内に感染巣コントロールを行うことを推奨する(Grade 1C)
 抗菌薬治療には限界があり,膿瘍ドレナージ,感染壊死組織のデブリドマン,感染した人工デバイス除去といった感染巣コントロールは敗血症管理においては基本原則である.そのためにもできる限り感染巣検索を行い,コントロールの必要性有無を早期に判断し,しかるべき専門科にコンサルテーションを行う必要がある.推奨項目では12時間以内となっているが,より早くにEarly Infectious Sorce Controlを行うべきであろう.
2.感染性膵壊死が感染巣であると判明した場合は,組織壊死の範囲が判明するまで待機してから外科的介入を行ってよい(Grade 2B)
 重症急性膵炎における感染性膵壊死では待機的なデブリドマンが行われる.これは,Marshallら(Crit Care Med 2004; 32: S513-26)によると.時間が経過することで壊死部位と正常部位の識別が容易になるためである.実際,2-3週間待ってからデブリドマンを行った方が治療成績がよいことがMierらのRCT(Am J Surg 1997; 173: 71-5)と2報の症例集積研究(J Gastrointest Surg 2002; 6: 481-7,Ann Surg 2001; 234: 572-9)で示されている.
3.重症敗血症患者で感染巣コントロールが必要である場合は,最も侵襲が少ない処置で効果的な介入(例えば膿瘍に対しては外科的ドレナージよりも経皮的ドレナージを選択する)を行うべきである(Ungraded)
 外科的介入を行う場合,当然ながら出血,正常組織傷害を始めとする合併症リスクを伴う.できる限り侵襲を少なくし効果的に感染巣コントロールを行う必要がある.
4.血管内カテーテルが重症敗血症,敗血症性ショックの感染巣であるならば,他の血管ルートを確保した後,直ちに感染カテーテルを抜去べきである(Ungraded)
 Ungradedとなっているが,重症敗血症,敗血症性ショックまで状態が悪化しているならば,感染した血管内カテーテルを決して残してはならず,これを支持する報告は多い.とりわけ,黄色ブドウ球菌,カンジダ,グラム陰性菌による感染であれば致命的になりうる.一方で,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が原因の場合は比較的予後がよいため,(やむを得ず)カテーテルを残したままの治療も許容されうるが,抜去可能であれば原則として抜去すべきである(Lancet Infect Dis 2007; 7: 645-57).実際,CNSでもカテーテルを残したままの再発率は20%ある(Infect Control Hosp Epidemiol 1992; 13: 215-21)

 どうしてもカテーテルを残して治療を継続する場合は,バイオフィルム移行性のよい薬剤を選択すべきかもしれない.具体的には,抗菌薬ではDAP,RFP,MINO,CLDM,TGCなど,抗真菌薬ではエキノキャンディン系かL-AMBを選択する.

F.感染防止(Infection Prevention)
1.選択的口腔除菌(SOD)と選択的消化管除菌(SDD)は人工呼吸器関連肺炎(VAP)を減らす方法として導入・調査されるべきである.この予防策は,当該方法が有効と考えられる医療施設や地域で行ってもよい(Grade 2B)
 SOD,SDDは推奨項目として掲載するかおおいに議論となった項目であり,SSCG 2008では記述はあるも推奨度は付されていなかった.今回は2Bというグレードがついている.ただし,本予防策は地域性の考慮も必要である他,コリスチンなど本邦では使用できない抗菌薬レジメンのエビデンスとなっていることが多く,本邦においては適応とはならないと推察される.
2.ICUの重症敗血症患者の人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクを減少させるため,口腔咽頭除菌目的でグルコン酸クロルヘキシジンの口腔内塗布を行ってもよい(Grade 2B)
 口腔ケアにおけるクロルヘキシジンの有効性は現在揺らいできている状況にある.2013年に報告されたAlhazzaniらによるメタ解析(Crit Care Med. 2013; 41: 646-55)でも,クロルヘキシジンの使用は歯磨きの効果を有意に低下させていたという結果がでている.口腔ケアで雑菌とともにクロルヘキシジンが咽喉頭に垂れ込み,逆にVAPの原因となってしまう可能性も指摘されており,ジェルタイプの製剤の方が垂れ込みがなく優れていることが示され始めている.
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# by DrMagicianEARL | 2013-01-31 17:00 | 敗血症
Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup
Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012
Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637

■国際敗血症ガイドラインSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)の改訂版であるSSCG 2012がCritical Care Medicineにpublishされた.分量,引用文献数,参加学会数の比較は以下の通り.
 SSCG 2004:16ページ,135文献,11学会
 SSCG 2008:33ページ,341文献,16学会
 SSCG 2012:58ページ,636文献,26学会
日本からは2008年版から日本集中治療医学会と日本救急医学会が参加している.また,2008年に離脱していたANZICSも2012年版では参加している.文献検索方法,GRADEシステムに大きな変更はない.

■成人敗血症管理におけるSSCG改訂での主な変更点を以下に示す.
①敗血症の定義は2001年のSCCM/ESICM/ACCP/ATS/SISの定義とする(SIRS基準は記載されず).
②乳酸値正常化を目指すことが明記.
③昇圧薬はノルアドレナリンが第一選択となり,ドパミンの推奨度はダウン.
④活性化プロテインC製剤の推奨削除.
⑤目標血糖値は180以下.
⑥人工呼吸器関連肺炎の予防を明記.
⑦ストレス潰瘍予防はH2受容体拮抗薬よりもプロトンポンプ阻害薬を優先する.
⑧免疫グロブリン製剤は使用しない.
⑨栄養管理追加.

なお,播種性血管内凝固(DIC),エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP),リハビリテーションに関しては今回の改訂では触れられていない.全体として改善されたという印象がある.2012年の日本版敗血症診療ガイドラインに比してニュートラルな見解となっており,とりわけ免疫グロブリン製剤の評価が真逆であることは注目すべき点であろう.

■以下に成人敗血症におけるSSCG 2012の推奨項目と小生の個人的見解を示す.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
推奨グレード(Grading of Recommendations)
エビデンスの質の定義
A:高い/無作為化比較試験
B:中等度/低い質の無作為化比較試験,または高い質の観察研究
C:低い/十分に検討された観察研究
D:非常に低い/質の低い症例集積研究またはエビデンスに基づいた専門家の意見
UG(Ungraded):エビデンスはなくグレード分類できないが推奨されうる
推奨度
1:強い推奨/"We recommend"(推奨する,すべきである)
 転帰や負担,コストなどにおいて利益が不利益を明らかに上回っており,多くの臨床現場で採用されているもの
2:弱い推奨/"We suggest"(提案する,してもよい)
 利益が不利益を上回ることは予想されるが,十分な根拠に乏しいもの

敗血症の定義
敗血症は感染による全身症状を伴った感染症による症候であり,重症敗血症は敗血症に加えて敗血症に起因した臓器機能障害または組織低灌流と定義される.

●敗血症の診断基準
感染症の存在が確定もしくは疑いであり,かつ下記のいくつかを満たす(項目数規定なし)
(1) 全身所見
・発熱:深部体温>38.3℃
・低体温:深部体温<36℃
・頻脈:心拍数>90回/分,もしくは>年齢平均の2SD
・頻呼吸
・精神状態の変化
・明らかな浮腫または体液過剰:24時間以内でのプラスバランス20mL/kg
・高血糖:糖尿病の既往が無い症例で血糖値>120mg/dL
(2) 炎症所見
・白血球上昇>12000/μL
・白血球低下<4000/μL
・白血球正常で>10%の幼若白血球を認める
・CRP>基準値の2SD
・プロカルシトニン>基準値の2SD
(3) 循環所見
・血圧低下:収縮期血圧<90mmHg,平均血圧<70mmHg,もしくは成人で正常値より>40mmHgの低下,小児で正常値より>2SDの低下
・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)<70%
・心係数(CI)>3.5L/min/m^2
(4) 臓器障害所見
・低酸素血症:P/F(PaO2/FiO2)<300
・急性の乏尿:尿量<0.5mL/kg/hrが少なくとも2時間持続
・クレアチニンの増加:>0.5mg/dL
・凝固異常:PT-INR>1.5,もしくはAPTT>60秒
・イレウス:腸蠕動音の消失
・血小板減少<10万/μL
・総ビリルビン上昇>4mg/dL
(5) 組織灌流所見
・高乳酸血症>1mmol/L
・毛細血管の再灌流減少,もしくはmottled skin(斑状皮膚)

●重症敗血症の定義
以下のいずれかが該当
(1) 敗血症に起因する低血圧
(2) 乳酸レベル高値
(3) 2時間以上の適切な輸液蘇生を行っても尿量が0.5 mL/kg/hr未満
(4) 感染巣が肺炎でない場合のPaO2/FiO2<250の急性肺傷害
(5) 感染巣が肺炎である場合のPaO2/FiO2<200の急性肺傷害
(6) クレアチニン>2.0 mg/dL
(7) ビリルビン>2 mg/dL
(8) 血小板数<100000 /μL
(9) 凝固障害(PT INR>1.5)
※敗血症に起因する低血圧は以下のように定義
「収縮期血圧<90 mmHg」または「平均動脈圧<70 mmHg」または「収縮期血圧の40 mmHgを越える低下」または「他の低血圧要因がなく,その年齢における血圧より2SD以上の低下」

●敗血症性ショックの定義
敗血症性ショックは,敗血症に起因する低血圧が適切な初期輸液蘇生を行っても持続する状態と定義する.
 1991年のACCP/SCCMによるSIRS基準が姿を消す形となった.これは,SIRS基準が特異度が低いと言われてきたことに起因するものと思われる.2001年のSCCM/ACCP/ESICM/ATS/SISによる定義がメインとなったが,22項目にわたる基準と「下記のいくつかを満たす」という曖昧な基準は変わっておらず,臨床現場で使用するには煩雑であり,かなり主観的な診断となってしまう可能性がある.とりわけ,集中治療医以外が敗血症診療にあたるであろう二次救急病院においてはこの定義を現場で用いるのは非現実的であると思われる.

 Weiss らはこの新旧2つの診断基準を用いて同一の患者群を比較した結果を報告しているが,敗血症全体では罹患率,死亡率に差を認めていない(BMC Med Inform Decis Mak 2009; 9: 25).また,ICU患者960名の観察研究であるZhaoらの報告では,1991年診断基準(SIRS基準)の精度は感度94.6%,特異度61.0%,2001年診断基準の精度は感度96.9%,特異度58.3%であり,AUCはそれぞれ0.778,0.776と有意差がなかった(Crit Care Med 2012; 40: 1700-6)

 SIRS基準は敗血症患者に対する治療などの研究を行いやすくするためのentry criteriaとして作られたものである.しかし実際には,簡便かつ高い感度をもって敗血症をスクリーニングできるSIRS基準は現在でも使用されており,本邦の急性期DIC診断基準にも組み込まれており,Weissら,Zhaoらの報告を見ても,実臨床において有用かつ実践的であることが分かる.

A.初期蘇生(Initial Resuscitation)
1.敗血症性組織低灌流(初期輸液チャレンジ後も持続する低血圧,または血清乳酸値≧4mmo/L)の患者のプロトコル化された定量的蘇生を推奨する.このプロトコルは組織低灌流が認識された時点で直ちに開始されるべきであり,ICU入室まで治療を遅らせてはならない.最初の6時間の蘇生の間,敗血症性組織低灌流の初期蘇生の目標は治療プロトコルの以下の全項目を含む(Grade 1C)
a) 中心静脈圧(CVP) 8-12 mmHg(人工呼吸器管理下や心室コンプライアンス低下例では12-15 mmHg)
b) 平均動脈圧(MAP)≧65 mmHg
c) 尿量≧0.5 mL/kg/hr
d) 中心静脈血(上大静脈血)酸素飽和度(ScvO2)≧70%または混合静脈血酸素飽和度(SvO2)≧65%
 EGDT(Early Goal-Directed Therapy)の目標として掲げられる項目であるが,この項目に大きな変更はない.EGDTの根拠として,新たに中国からの報告(Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue 2010; 6: 331-4),Levyらの報告(Crit Care Med 2010; 38: 367-74)が提示された.

 根拠では触れられていないが,乳酸値2-4mmol/Lおよび<2mmol/Lの患者のリスクも注意が必要である.Songらは,中等度(2-4mmol/L)乳酸レベルの成人敗血症患者474名の後顧的多変量解析を行い,SOFA score≧5においては敗血症性ショック予測率は38.9%であったと報告している(Shock 2012; 38: 249-54).また,WacharasintらによるVASSTの665例とSPHの469例のコホート研究では,敗血症性ショックにおいて正常範囲内の乳酸濃度は予後指標としてAPACHE-Ⅱscoreと同等に有用であるとしている(Shock 2012; 38: 4-10).この報告では,乳酸値1.4-2.3mmol/Lの患者は≦1.4mmol/Lの患者より有意に死亡率,臓器不全が増加しており,1.4-2.3mmol/L群は2.3-4.4mmol/L群と予後は同等であった.

 CVPとScvO2はいずれも近年有用性が疑問視されてきているが,SSCG 2012ではこれらの使用を「まだプラクティスデータで確認された標準ケアではないが」とlimitationを述べつつも強く推奨している.CVPを有効に使用する上で,その数値のみならず,呼吸変動を取り入れた評価が精度を挙げることを利用することも有用であり,小規模ながら多数の報告がある.ScvO2は,低値は緊急性を示唆するが,正常値や高値であっても末梢循環不全を解除したことにはならないということに注意が必要である.
2.組織低灌流のマーカーとしての乳酸値上昇を伴う患者では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生を提案する(Grade 2C)
 近年乳酸クリアランスに関する報告も増加していることから組み込まれたものと思われ,実際に2つの多施設RCTをエビデンスとして提示しており(JAMA 2010; 303: 739-46,Am J Respir Crit Care Med 2010; 182: 752-61),特に後者の報告では死亡リスクを39%有意に減じている.この報告LACTATE studyで用いられたEGDTはELGT(Early Lactate-Guided Therapy)とも呼ばれる.

B.敗血症のスクリーニングとパフォーマンス向上(Screening for Sepsis and Performance Improvement)
1.敗血症の早期発見を増やし,敗血症治療の早期実行を遂行するため,潜在的な感染をきたした重症疾患患者において重症敗血症のルーティンのスクリーニングを推奨する(Grade 1C)
 これは2012年のWrold Sepsis Dayの世界敗血症宣言においても強調されていたことであり,できる限り早期に敗血症を認識し,治療を行うことは当然の流れであり,それにより死亡率が減少することもLevyらの報告(Crit Care Med 2010; 38: 367-74)で示されている.
2.重症敗血症におけるパフォーマンス改善の努力は患者の予後改善のために行われるべきである(Ungraded)
 パフォーマンス改善の努力と患者の予後改善に関連があることは多くの報告で示されている.具体的には他職種で構成されるチームによる集学的治療,各専門科の協力,プロトコル見直し,現場からのフィードバック,教育などである.

C.診断(Diagnosis)
1.抗菌薬の投与開始が45分を越えて有意に遅延するようなことがなければ,抗菌薬投与前に適切な培養検体採取を推奨する(Grade 1C).原因病原体を適切に同定するため,少なくとも2セット(好気性・嫌気性ボトル両方)の血液培養検体を採取する.少なくとも1セットは経皮的に,もう1セットは挿入後48時間未満であれば血管内カテーテルから採取してもよい.これらの血液培養検体は,異なる箇所から採取しているならば,同時に注入する.感染巣が疑われる尿,髄液,創部,気道分泌物,その他体液といった他部位の培養(必要に応じて定量的が望ましい)も,抗菌薬投与開始の有意な遅延がなければ,抗菌薬投与前に採取すべきである(Grade 1C)
 この推奨項目に大きな変更はない.VAPにおいては喀痰の定量(または半定量)培養がしばしば推奨されているが,診断価値は不明なまま(J Crit Care 2008; 23: 138-47)と述べている.また,推奨項目に記載はないものの,根拠にはグラム染色の重要性も強調されている.そのコミュニティーで流行しているならばインフルエンザ迅速検査を行うことが推奨される.プロカルシトニンやCRPなどのマーカーを重症感染症と他の急性炎症性疾患の鑑別に用いることは推奨しない.
2.感染症の鑑別として侵襲性カンジダ症を考慮する場合は,1,3 β-D-グルカン(Grade 2B)とマンナン抗原およびマンナン抗体を測定してもよい(Grade 2C)
 真菌感染症はついつい見逃されがちであるが,カンジダ血症の予後の悪さは無視できない.Wisplinghoffらの報告(Clin Infect Dis 2004; 39: 309-17)では,血流感染症ではCNS,黄色ブドウ球菌,腸球菌に次いでカンジダは4番目の頻度であり,死亡率は全体・ICUのみのいずれにおいてもカンジダが最も高かった(全体39.2%,ICU 47.1%).

 β-D-グルカンは日本で開発されたマーカーで,近年になってようやく海外でもその有用性が認められるようになり,治療有効性指標としても注目されている.推奨項目では2Bでの推奨となっているが,根拠ではβ-D-グルカンに関する報告がどういうわけか引用されていない.

補足しておくと,β-D-グルカンの有用性を示す代表的な文献は2012年だけでも多数報告がある(Clin Infect Dis 2012; 55: 521-6,Pulmonary Review 2012; 17: 15,Clin Microbiol Infect 2012; 18: E122-7,Clin Infect Dis 2012; 54: 1240-8).カンジダだけでなく,ニューモシスチス肺炎でもβ-D-グルカンは非常に有用である.アスペルギルスでは感度がかなり落ち,ガラクトマンナン抗原の方が優れているとの報告もある(J Clin Microbiol 2004; 42: 2733-41).なお,クリプトコッカスはβ-D-グルカンが1,3でないため検出はほとんどできない.本邦ではβ-D-グルカン計測はワコー法とMK法があり,院内で計測できるタイプのものはほとんどがワコー法であるが,MK法に比して感度が落ちることに注意が必要である.また,抗菌薬TAZ/PIPC,CVA/AMPC使用でβ-D-グルカンが上昇することが報告されているが,本邦での検査キットではその心配はほとんどないとのことである.
3.潜在的な感染源の検索のため,画像検査を迅速に行うことを推奨する.潜在的感染巣検索は,移送や侵襲的手法の患者リスクを考慮(例えば,CTガイド下針生検のための移送の決定したのであれば,注意深い調整と積極的モニタリングを行う)の上で行なわれるべきである.超音波検査のようなベッドサイドの検査は患者移送を回避できるかもしれない(Ungraded)
 特に推奨根拠となる論文は示されておらず,Ungradedとなっているが,日常診療上で言うまでもなく行うべきことである.

→SSCG 2012(2)はこちら
# by DrMagicianEARL | 2013-01-30 00:00 | 敗血症
2.抗菌薬適正使用,VAP予防,CRBSI予防
ICU関連感染症が疑われた重症外科患者において,初期抗菌薬を感染を疑った時点で積極的に投与するか細菌学的根拠が認められた場合のみに投与するかのbefore-after研究
Hranjec T, Rosenberger LH, Swenson B, et al. Aggressive versus conservative initiation of antimicrobial treatment in critically ill surgical patients with suspected intensive-care-unit-acquired infection: a quasi-experimental, before and after observational cohort study. Lancet Infect Dis 2012; 12: 774-80
PMID:22951600
ポイント:米国単施設外科ICUのbefore-after研究(762例 vs 721例).感染を疑ったら抗菌薬投与の積極群と細菌学的根拠が認められた場合のみ抗菌薬投与の保存群の比較で,保存群は積極群より全死亡率が有意に低く(13% vs 27%),抗菌薬治療が有意に適切であり(74% vs 62%),投与期間が有意に短かかった(12.5日間 vs 17.7日間).背景因子で調整すると,積極群の死亡リスクは保存群の2.5倍であった.

抗菌薬使用制限医師向け多面的柔軟教育プログラムの有効性
Butler CC, Simpson SA, Dunstan F, et al. Effectiveness of multifaceted educational programme to reduce antibiotic dispensing in primary care: practice based randomised controlled trial. BMJ 2012; 344: d8173
PMID:22302780,Free Full Text
ポイント:抗菌薬使用制限医師向け多面的柔軟教育プログラムの有効性の報告.年あたり経口抗菌薬使用は介入群で対照群比較において,総数で42%減少.コンサルテーション数日において入院数,7日以内の再診数は介入群と対照群の有意差認めず.

腸球菌による細菌尿の過剰治療
Lin E, Bhusal Y, Horwitz D, et al. Overtreatment of enterococcal bacteriuria. Arch Intern Med 2012; 172: 33-8
PMID:22232145
ポイント:375の培養陽性例の後ろ向き解析.腸球菌による無症候性細菌尿に対してしばしば過剰治療がなされており,32.8%が不適切に抗菌薬を投与されていた.膿尿のみは抗菌薬不適切使用リスクが3.27倍有意に増加した.

急性呼吸器感染症患者に対する外来での抗菌薬治療への介入
Rattinger GB, Mullins CD, Zuckerman IH, et al. A sustainable strategy to prevent misuse of antibiotics for acute respiratory infections. PLoS One 2012; 7: e51147
PMID:23251440
ポイント:3831例before-after比較研究.急性呼吸器感染症患者に対する外来での抗菌薬治療への介入により不適切な抗菌薬処方は減少したという報告.基本的には気管支炎であっても抗菌薬は不要であることがほとんどであり,また,細菌性感染症であっても必ずしも抗菌薬が必要というわけではない.また,経口第3世代セフェムはほぼ効果がほとんど得られないと考えもよい.

抗菌薬投与法を参照できるスマートフォンアプリの導入とその解析
Charani E, Kyratsis Y, Lawson W, et al. An analysis of the development and implementation of a smartphone application for the delivery of antimicrobial prescribing policy: lessons learnt. J Antimicrob Chemother. 2012 Dec.19
PMID:23258314,Free Full Text
ポイント:抗菌薬投与法を参照できるスマートフォンアプリを導入したところ,最初の1ヶ月で40%のジュニアドクターがダウンロードし,1年以内に100%に達した.71%の臨床医が抗菌薬に関する知識を改善できたと回答した.

プロカルシトニンは重症急性膵炎患者において抗菌薬治療期間を補助する有用なツール
Qu R, Ji Y, Ling Y, et al. Procalcitonin is a good tool to guide duration of antibiotic therapy in patients with severe acute pancreatitis. A randomized prospective single-center controlled trial. Saudi Med J 2012; 33: 382-7
PMID:22485232
ポイント:71例RCT.重症急性膵炎患者において,感染の臨床徴候・症状とプロカルシトニンにより抗菌薬投与開始・終了を決定する方法は,予防的抗菌薬を2週間投与する方法に比して有意に抗菌薬投与期間と入院期間を短縮し,コストを減少させた.

血液培養のコンタミ率の減少させる戦略の効果
Youssef D, Shams W, Bailey B, et al. Effective strategy for decreasing blood culture contamination rates: the experience of a Veterans Affairs Medical Centre. J Hosp Infect 2012; 81: 288-91
PMID:22749066
ポイント:血液培養の採血を担当した医療従事者のイニシャルをボトルに記載することをルーチン化し,その後個人にフィードバックすることでコンタミ率は2.6%から1年後には1.5%へ有意に(p<0.001)低下した.

短期間の抗菌尿道カテーテルは尿路感染症発症率を減少させない:多施設共同RCT
Pickard R, Lam T, MacLennan G, et al. Antimicrobial catheters for reduction of symptomatic urinary tract infection in adults requiring short-term catheterisation in hospital: a multicentre randomised controlled trial. Lancet 2012; 380: 1927-35
PMID:23134837
ポイント:14日間以内の抗菌尿道カテーテル(塗銀性,ニトロフラール)と通常尿道カテーテル(対照群)の3群を比較した英国24施設RCT:尿路感染症発症率に有意差なし.抗菌尿道カテーテルのルーティン使用は支持しない.

口腔ケアにおける歯磨きの人工呼吸器関連肺炎の予防効果:システマティック・レビュー&メタ解析
Gu WJ, Gong YZ, Pan L, et al. Impact of oral care with versus without toothbrushing on the prevention of ventilator-associated pneumonia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Care 2012; 16: R190
PMID:23062250
ポイント:4報RCT,828名のメタ解析.人工呼吸患者で,歯磨きなしの口腔ケアに比べて歯磨きありの口腔ケアは,有意にVAP発生率を減少させず,他の重要な臨床転帰も有意差なし.

人工呼吸器を装着した重症患者の口腔ケアにおける歯磨きの有効性:システマティックレビュー&メタ解析
Alhazzani W, Smith O, Muscedere J, et al. Toothbrushing for Critically Ill Mechanically Ventilated Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Trials Evaluating Ventilator-Associated Pneumonia. Crit Care Med 2012 Dec.19
PMID:23263588
ポイント:人工呼吸器を装着した重症患者の口腔ケアにおける歯磨きの有効性を検証した6報のRCT,計1408例のメタ解析.4報で歯磨き群は有意差ないがVAPリスクが低い傾向(RR 0.77, 95%CI 0.50-1.21, p=0.26)であった.バイアスリスクが低い報告に限定すると歯磨き群のVAPリスクは有意に低下した(RR 0.26, 95%CI 0.10-0.67, p=0.006).クロルヘキシジン消毒薬の使用はVAP予防における歯磨きの効果を有意に低下させていた.電動歯磨きと手動歯磨きでは有意差なし.歯磨きはICU滞在期間,ICU死亡率,院内死亡率には影響を与えなかった.

小児における口腔ケアとグラム陰性桿菌の咽頭・気道定着
Kusahara DM, Friedlander LT, Peterlini MA, Pedreira ML. Oral care and oropharyngeal and tracheal colonization by Gram-negative pathogens in children. Nurs Crit Care 2012; 17: 115-22
PMID:22497915
ポイント:PICUに入室した小児74名を0.12%クロルヘキシジン口腔ケア群とプラセボ群で比較した二重盲検RCT.咽頭・気道でのグラム陰性菌定着率に有意差はみられなかった.

ICU入院患者における口腔洗浄においてクロルヘキシジンとハーブ洗口液を比較したRCT
Baradari AG, Khezri HD, Arabi S. Comparison of antibacterial effects of oral rinses chlorhexidine and herbal mouth wash in patients admitted to intensive care unit. Bratisl Lek Listy 2012; 113: 556
PMID:22979913
ポイント:ICU患者60名におけるハーブ洗口液と2%クロルヘキシジンの口腔ケア効果を比較した二重盲検RCT:両製剤とも黄ブ菌と肺炎球菌に対して有意に抗菌効果があったが,製剤間比較ではクロルヘキシジンの方がより有意に効果的であった.

人工呼吸器関連肺炎(VAP)ガイドラインの実施:多施設共同前向き研究
Sinuff T, Muscedere J, Cook DJ, et al; Canadian Critical Care Trials Group. Implementation of Clinical Practice Guidelines for Ventilator-Associated Pneumonia: A Multicenter Prospective Study. Crit Care Med 2013; 41: 15-23
PMID:23222254
ポイント:VAPガイドラインの実行による成果:カナダ10施設,米国1施設の48時間以上人工呼吸器を装着している患者を4期に分けて評価(各330名).実行率上昇とともにVAP発生率は14.2%から8.8%まで有意に低下した.

ICUにおける人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防改善を維持するプログラムの実践
Caserta RA, Marra AR, Durão MS, et al. A program for sustained improvement in preventing ventilator associated pneumonia in an intensive care setting. BMC infect dis 2012; 12: 234
PMID:23020101,Free Full Text
ポイント:ICUにおける人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防改善を維持するプログラムの実践を行い,21894患者日数を解析.VAP予防バンドルの遵守率が90%以上をキープすることにより観察期間の間に数回発生率ゼロを達成しえた.

人手不足,過密状態,不適切な看護師/人工呼吸器患者比と院内感染
Schwab F, Meyer E, Geffers C, Gastmeier P. Understaffing, overcrowding, inappropriate nurse:ventilated patient ratio and nosocomial infections: which parameter is the best reflection of deficits? J Hosp Infect 2012; 80: 133-9
PMID:22188631
ポイント:182のICUにおける肺炎1313例,血流感染症513例の解析.看護師/人工呼吸器装着患者比の高さなどのスタッフ配置の良好性は院内感染を減少させる可能性がある.

カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の多施設解析
Timsit JF, L'Hériteau F, Lepape A, et al. A multicentre analysis of catheter-related infection based on a hierarchical model. Intensive Care Med 2012; 38: 1662-72
PMID:22797354
ポイント:51施設ICUの患者7188例(中心静脈カテーテル8626本)の後ろ向き観察研究.中心静脈カテーテルにおけるCRBSI・菌定着のリスク因子:免疫不全1.42倍,内科患者1.64倍,外傷患者2.54倍,鎖骨下静脈以外からの挿入2.1倍,カテーテル先端定量培養2.55倍,ポビドンヨードと比較したアルコール含有消毒0.68-0.69倍であった.

皮下埋め込み型CVポート造設術に予防的抗菌薬投与は必要か?
Covey AM, Toro-Pape FW, Thornton RH, et al. Totally implantable venous access device placement by interventional radiologists: are prophylactic antibiotics necessary? J Vasc Interv Radiol 2012; 23: 358-62
PMID:22365295
1183名の皮下埋め込み型CVポート造設術の後ろ向き解析で,93%の患者は予防的抗菌薬投与を受けていないが,全体のカテーテル関連血流感染症合併率は0.6%であった.CVポート造設術に予防的抗菌薬は推奨しない.

成人重症患者におけるカテーテル関連血流感染症(CRBSI)の予防におけるクロルヘキシジン含有スポンジの経済学的効果
Schwebel C, Lucet JC, Vesin A, et al. Economic evaluation of chlorhexidine-impregnated sponges for preventing catheter-related infections in critically ill adults in the Dressing Study. Crit Care Med 2012; 40: 11-7
PMID:21926570
ポイント:フランス7施設のDressing Studyのデータ解析.たとえCRBSIの発症率が低いICUであっても,クロルヘキシジン含有スポンジを動脈およびCVカテーテルのドレッシング剤として用いてその発症を予防することによりコスト削減につながっていた.

ドレッシング破綻はカテーテル関連感染症の主要な危険因子
Timsit JF, Bouadma L, Ruckly S, et al. Dressing disruption is a major risk factor for catheter-related infections. Crit Care Med 2012; 40: 1707-14
PMID:22488003
ポイント:1419患者(3275の動脈もしくは中心静脈カテーテル)で,296のカテーテルコロニぜーションを認め,29のカテーテル感染症(CRBSI)を認めた.カテーテルのドレッシング破綻はCRBSIの独立危険因子であり,2回目のドレッシング破綻後では3倍以上,最後のドレッシングが破綻すれば10倍以上に増加する.ドレッシング破綻件数とカテーテル周囲の皮膚のコロニー形成リスク増加が関連していた.
# by DrMagicianEARL | 2013-01-29 00:00 | 感染対策

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