1.診察
(1) バイタルチェック
バイタルチェックは当然であるが,救急外来にしても一般病棟にしても,RR(呼吸数)は計られないことがほとんどである.呼吸器疾患においてRRは極めて有用かつ鋭敏な指標であることはもはや呼吸器科医では常識であり,必ずRRをチェックをする.
(2) 診察評価項目
・咳嗽(湿性,乾性,頻度)
・喀痰(粘稠か,何色か)
・口唇(チアノーゼ有無)
・指(ばち指有無)
・胸郭(呼吸の深さ,左右差)
・聴診(coarse/fine crackles,wheezing,whooping,rhonchus,strider,左右差)
・打診(胸水量評価)
(3) 問診
①基本的問診事項:5W1H,呼吸症状,悪寒戦慄有無など
②DM等の免疫低下疾患,COPD等の慢性気道疾患の有無は必ず聴取する.
③服用歴では抗菌薬と相互作用をきたしやすい薬剤に注意する:マクロライド系は相互作用をきたしやすい薬剤が多い.
④HIV感染を疑う患者では性交歴,同性愛者か否かを聴取する.
⑤日常ADL,嚥下能力:誤嚥性肺炎の場合,治療後の摂食レベル変更を行う際の指標になる.
⑥前医にて抗菌薬の注射,処方があったか確認:投与する抗菌薬,血液培養ボトルなどが変わる.ニューキノロン(TFLXを除く)が入っていた場合は結核にやや効果があるため,結核がマスクされてしまうことがあるので注意が必要.
(4) 症状
発熱,咳嗽,喀痰,悪寒または悪寒戦慄(1回vs複数回),時に胸痛,血痰,喘鳴,呼吸困難などが含まれる.
①悪寒戦慄
悪寒戦慄を伴えば菌血症または敗血症の可能性が高く,血液培養で検出できる率は高くなる(血液培養の絶対適応とする成書もある).発症後1回のみの悪寒戦慄は肺炎球菌感染が強く疑われ,患者は発症時刻まで正確に覚えていることがある.反復する悪寒戦慄は膿胸あるいは膿瘍の合併を疑うか,その他の細菌感染の可能性が高い.なお,マラリアも悪寒戦慄を伴う.
②咳嗽
咳には乾性と湿性があり,多くの細菌性肺炎患者は着色痰を喀出するが,高齢者の脱水状態では乾性咳にとどまり,補液後に大量の膿性痰が喀出されることがあるので注意が肝要である.
③喀痰
痰の着色は種々で,鉄錆色(肺炎球菌?),緑色(緑膿菌?),オレンジーゼリー(肺炎桿菌?),薄黄色など多様であるがそれが起炎菌の想定に直接的に役立つことはあまりない.喀痰の悪臭は嫌気性菌感染を意味するが,実際には嫌気性菌肺炎患者の40-70%しか悪臭痰を喀出しないので注意を要する.
④胸痛
肺炎が胸膜に達している場合,呼吸性に変化する胸膜炎痛で胸痛を訴えることが多い.
⑤呼吸困難
肺炎における呼吸困難は3パターンあり,BAやCOPDに感染を伴っての気道炎症による気管狭窄,肺炎の拡大によるガス交換領域の減少,喀痰による気道閉塞である.
⑥ニューモシスチス肺炎(PCP)
PCPは発熱をはじめとして理学所見に乏しく見逃されやすいため,呼吸困難がかなり進行してから発見されることが多い.その際,胸部X線でのGGOを見逃さないようにする必要がある.
⑦発熱
高齢者では発熱がない場合もあるが,基本的には感染の重要な指標となる.発熱がないならばUTIや悪性腫瘍の可能性も考慮しなければならない.特に陰影はあるが発熱がないときは陳旧性肺炎か,BACも含めた肺癌の可能性を考慮する必要がある.
(5) 鑑別疾患
・他の呼吸器疾患,インフルエンザ
・心不全
・尿路感染症:高齢者の発熱は肺炎だけではないので安易に肺炎と決め付けない
2.検査
(1) 採血
一般生化学,血算(血液像含む),さらに以下の追加を検討.
①喘息合併疑い:IgE RIST,アトピー鑑別試験
②心不全疑い:BNPを追加.
③ACS除外必要:CK-MB,Tn-Tを追加.
④間質性肺炎疑い:KL-6,抗核抗体,P-ANCA,RAPAなどを追加.
⑤非定型肺炎疑い:クラミジア抗体,マイコプラズマ抗体,寒冷凝集素
⑥真菌感染疑い:BDG(β-Dグルカン)
(2) 迅速キット
尿中肺炎球菌抗原を計測する(迅速キットの詳細は後述).その他,状況にあわせて以下の検査項目を追加.
①流行期はインフルエンザ迅速検査追加.
②超重症肺炎や,低Na,肝障害,CPK上昇,LDH上昇,下痢症状などを併発している場合は尿中レジオネラ抗原を追加.
③感度が非常に低いため推奨しないが,非定型肺炎が強く疑われる場合は,マイコムラズマイムノIgM抗体を追加.
④AIDSが疑われる場合は,患者同意のもとHIV抗体検査を行う.
(3) 動脈血ガス分析
低酸素血症,呼吸数増加,敗血症疑い,SpO2計測不可などの状況で施行する.コメント欄に酸素投与量と呼吸数を入力すること.数値は以下を重点的に見ること.
①pH
acidemia,acidosis,normal,alkalosis,alkalemiaの5種類を判別する.代謝性,呼吸性,代償有無を下記項目と合わせて解釈する.重炭酸Na製剤(メイロン®)の適応はpH<7.15である.
②PaCO2
高値だけが異常ではないことに注意.敗血症で代謝性アシドーシスが進行している場合は低値をとり,重症度指標となることがある.代謝性の変動があるときの呼吸代償の指標になる.
③PaO2
年齢で正常値が変化することを考慮する.
PaO2=109-0.43×age
正常値でも呼吸数で代償されている可能性があることを留意する.極端に低い場合,静脈をついた可能性があることを考慮し,データから動脈か静脈かを判断する.
④HCO3,BE
代謝性か呼吸性か,代償しているかを判別する項目.BEは見やすいが,あくまでも計算値であり,HCO3を重視すること.
⑤静脈血ガス分析
どうしても動脈から採血できないとき,静脈血でも以下を指標にある程度は動脈血ガスの推測が可能である.
A-pH=V-pH+0.01~0.05
PaCO2=PvCO2-6
A-HCO3=V-HCO3-2
(4) 画像検査
胸部X線は入院後の経過followで比較対象となるため,CTを行う場合も必要.心陰影の裏の陰影はネガ反転することで分かりやすくなることがある.肺野の浸潤陰影を認めれば明らかであるが,胸水の影に隠れていたり,肺癌などと紛らわしいケースもあり,過去の画像との比較などで慎重に見極める必要がある.ただ陰影を見つけるだけでなく,画像を読む上で以下の項目について検討しておくこと.また,決まった陰影パターンにとらわれすぎないことが重要である.特に,進行した免疫不全患者では通常の陰影パターンをとらないことはしばしば遭遇することであり,空洞陰影があるのに結核でなかったり,空洞陰影がないのに結核があったり,といったように,教科書通りのパターンを示さないことはよくある.また,気管支結核は通常の肺炎に酷似した画像所見となる.
①気管支肺炎
気管支の支配する区域に一致して広がる肺炎.小葉単位での浸潤陰影を見ることができる.また,細気管支の拡張を伴うびまん性汎細気管支炎様の形態をとることも誤嚥性肺炎ではよくあり,しばしば粒状陰影として結核と誤診される.
②大葉性肺炎
肺の一葉を占める肺炎であり,肺炎球菌,Legionella,Klebsiellaに多い.なお,BACもこの形態をとることがある.なお,気管支肺炎も進行すれば大葉性肺炎に進展する.
③NTP(非定型肺炎)
市中肺炎においてNTPを診る機会は非常に多く,画像のみでの判断は難しいが,間質性肺炎様のパターンをとりやすい.とりわけ,マイコプラズマやクラミジアは肺を直接傷害することはほとんどない.すなわち,NTPの陰影は反応性のサイトカインによる間質傷害を見ているのである.
④びまん性肺疾患の存在
肺気腫,気管支拡張症,間質性肺炎の存在があると起炎菌も変わってくる.背景疾患の見落とし,誤診がないように.また,浸潤陰影でも両側や全肺野に広がる場合,細菌性肺炎とは考えにくく,EPやHPなどを鑑別に挙げるべきである.
⑤肺結核
上肺野の壁のやや厚い空洞性陰影には要注意である.また粒状陰影散布像なども注意が必要.ただし,これらの所見は非常に分かり易いケースに過ぎず,実際には細菌性肺炎と区別がつかないこともしばしばある.近年,結核が増加していることをふまえると鑑別を必ず行う必要がある.
⑥NTM(非定型抗酸菌症)
教科書的には免疫力低下患者に感染とされているが,意外に市中でも多く,嚢胞性気管支拡張を伴うことが多い.抗酸菌塗沫が陽性だからと言って,結核とは限らないことに注意.
⑦ウイルス性肺炎,真菌肺炎
免疫力が低下した患者でよく見られるが,AIDS患者の場合,発症していることが分からず,背景に免疫力低下要素があることが知られないまま難治性肺炎で病院を転々とすることがある.患者背景と合わせて評価する.
⑧インフルエンザ関連肺炎
インフルエンザ罹患時,気道粘膜が損傷し,細菌感染が起こりやすくなる.インフルエンザは診断してもこの肺炎を見逃されると症状が一向によくならないことがあるので,症状次第では胸部X線をとることも忘れずに.
⑨無気肺
無気肺は比較的分かりやすいが,ときに円形無気肺などは肺炎と見間違えることがある.
⑩陳旧性肺炎
肺炎治癒後に瘢痕化することがしばしばあり,これを急性肺炎と診断して入院させてしまうケースがある.必ず過去の画像と比較し,同じ陰影でないかの確認をする.
⑪肺癌
肺癌と肺炎の画像鑑別が難しいケースがあり,悩んだときは過去の画像との比較は必ず必要.また,BAC(肺胞上皮癌)は気管支に沿って進展するため気管支肺炎に酷似した像を呈する.さらに進行すると今度は大葉性肺炎像をとるため,画像上は肺炎との鑑別が非常に困難であり,臨床症状と併せての評価が重要となる.また,BACと肺炎が合併するケースも珍しくないため,BACが見落とされやすい.
基本的には反復して同一部位に感染を繰り返す場合には,局所の感染防御能の低下が疑われ,気管支内異物,良性または悪性気道内腫瘍,瘢痕性気道狭窄,食道気管支瘻が原因となりうる.
⑫胸水
誤嚥性肺炎と心不全が合併することはよくあり,胸水の存在で肺炎像が見えづらいこともしばしばある.また,胸水が片側だけなら心不全と決めつけないこと.膿胸や結核,肺癌の可能性もあるからである.
(5) 喀痰塗沫培養検査
喀痰検査を出さずに肺炎患者を入院させて,抗菌薬を開始する医師がいるが,当然ながら入院レベルの肺炎で喀痰検査を出さないのは論外である.明らかに誤嚥性肺炎であってもルーティンで出しておかないと,適切な抗菌薬治療ができない.抗菌薬を開始した後の喀痰検査は感度が落ちてしまう.MRSAやPA,結核が検出される可能性を考えれば喀痰検査を出さずに入院させて抗菌薬を開始するなど無責任極まりない.
喀痰塗沫培養検査では
① 一般塗沫鏡検(グラム染色)
② 一般培養・同定
③ 一般:薬剤感受性2菌種
④ 抗酸菌塗沫(チールネルゼン)
⑤ 半定量培養(当院では一般培養に含まれる)
⑥ 定量培養(ほとんどの施設は不可)
を提出する.これに,結核が疑わしければ,抗酸菌培養(MGIT),結核TaqManPCRを追加する.PCPが極めて疑わしい症例では喀痰カリニDNAを追加する(保険適応外).喀痰検査について詳細は後述.
(6) その他塗沫培養検査
①血液塗沫培養
全例で施行する必要はない.症例を選んで行うべきであるが,現時点で明確な基準はない(髄膜炎では必須).敗血症を疑う症状(悪寒戦慄などの全身症状),SIRS状態等で判断する.行う場合は,抗菌薬が既に使用されているかの確認をしておく(抗菌薬吸着ボトル使用の有無を決定するため).
②尿塗沫培養
呼吸器感染とならんで高齢者で多いのが尿路感染症であり,合併もしばしば認める.尿検査で疑わしければ施行しておくべきである.
(7) 初期治療
①喀痰吸引
肺炎における低酸素血症の原因は,炎症による肺胞ガス交換領域の減少,気道炎症による気道狭窄,発熱による酸素需要量増大,そして喀痰による気道閉塞である.低酸素血症が喀痰吸引で解除されるケースはよくある.また,ERで突如急激にSpO2低下した場合も喀痰吸引で回復することはしばしば遭遇する.
②酸素投与
低酸素血症の程度によって導入する.当然ながら動脈血ガス分析が行われていることを前提とすべきである.その際,適切にマスクを使い分けることが必要である.
a) 鼻カヌラ
低流量酸素投与時に使用可能.ただし,鼻呼吸していなければ投与した酸素が反映されない.また,鼻腔乾燥をきたすため,6L/min以上では使用できない.
b) マスク
中等量で使用.目安としては4-6L/minで使用する.1-3L/minではマスク内に呼気がこもり,ガス効率が悪くなってしまう.
c) リザーバーマスク
高流量酸素,すなわち6L/min以上で使用する.この量の酸素を投与する場合,慢性閉塞性呼吸器疾患が基礎疾患にある場合はCO2 narcosisに注意する必要がある.
d) NPPV
主に,肺炎で誘発されたCOPD急性増悪,心原性肺水腫で使用する非挿管下での人工呼吸器であり,使用方法を知っておく必要がある.分からなければ呼吸器内科医にコンサルトする.普通の肺炎による呼吸不全では適応がない.また,喀痰量が多いときの使用は相対禁忌である.認知症が強すぎたり意識レベルが悪い患者でも使用はできない.
e) BVM
Bag-Valve-Maskであり,呼吸停止時などのCPRの際にのみ使用されると思われがちだが,徒手的に二酸化炭素を排出させる方法としてもある程度有効である.注意すべきは気胸,肺気道損傷をきたしうる可能性があることであり,気胸・肺気道損傷を防ぐには胸郭容量をふまえたバッグ圧迫が必要である.また,呑気も起こしやすいため,呼吸停止時には有効にガス交換を行うために挿管することもある.
③補液
肺炎では脱水を伴っていることが多い.また,抗菌薬を投与することも考えると,入院が必要な症例ではルート確保が必要であり,脱水がなくとも輸液製剤をつなげる.1号液か生食で開始するのが一般的.心不全が疑われる状況であるならば5%ブドウ糖液でもよい.
④抗菌薬
外来でみれる一般市中肺炎であれば第一選択でAZM SR 2g(ジスロマックSR 2g)を処方すればよい.入院で抗菌薬点滴治療が必要であれば,病棟にあがってから開始してもよい.ただし,来院後4時間以内に抗菌薬を開始することが原則である.なお,敗血症が疑われたり,髄膜炎であったりする場合は1時間以内に投与する必要がある.
⑤解熱薬
38.5℃以上の高熱時には使用を推奨し得る.第一選択の解熱薬が決まっているわけではないが,アセトアミノフェン(カロナール®,アンヒバ®)が望ましいかもれしれない.市中肺炎早期のNSAIDs曝露は臨床的に肺胸膜炎の合併症の頻度を上昇させ,診断の遅れにつながると報告されている[1].この報告は大規模スタディーではないが,オッズ比8.1という結果を残しており,注意すべき数値であろう.
⑥合併疾患治療
気管支喘息,心不全,急性重症腎不全などの合併があるのであれば,速やかに治療が必要である.なお,嘔吐による誤嚥性肺炎の場合,嘔吐原因を精査するのを忘れないこと.イレウス等が原因であることがあり,胸部CTのみだと写らず見逃してしまう.また,頭蓋内疾患の可能性も考慮しておく.
⑦胸水ドレナージ
肺炎における胸水では膿胸と肺炎随伴性胸水の2種類があり,胸水穿刺で容易に判定可能である.肺炎随伴性胸水は,呼吸状態を著しく悪化させていない限りドレナージせずに抗菌薬のみで改善することが多い.一方,膿胸ではドレナージが著効するとされる.なお,人工呼吸器装着患者においては,漏出性胸水の場合でも,胸腔ドレーンによりドレナージをはかる方が,呼吸仕事量が減少し[2],人工呼吸器装着期間は2.7日短縮できると報告されている[3].
●メモ 疼痛
肺炎の鑑別診断で最も見逃してはならないのはPE(肺塞栓)である.実はPEでも15%に発熱がおこりうるため,発熱を理由にPEを除外してはならない[4].また,肺炎像において,疼痛を訴えており,浸潤陰影が胸膜に達していないときはPEを考えるべきである.PEは外来のみならず入院中にも起こりうる.
[1]
Voiriot G, et al. Nonsteroidal antiinflammatory drugs may affect the presentation and course of community-acquired pneumonia. Chest 2011; 139: 387-94
[2]
Doelken P, at al. Effect of thoracentesis on respiratory mechanics and gas exchange in the patient receiving mechanical ventilation. Chest 2006; 130: 1354-61
[3]
Kupfer Y, at al. Chest tube drainage of transudative pleural effusions hastens liberation from mechanical ventilation. Chest 2011; 139: 519-23
[4]
Stein PD, et al. Clinical, laboratory, roentgenographic, and electrocardiographic findings in patients with acute pulmonary embolism and no pre-existing cardiac or pulmonary disease. Chest 1991; 100: 598-603